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逃げるんだよおおおぉぉぉお!!


「うぅっ……やっぱりこっちのほうは寒いのか……」


もうすっかり慣れたはずの寒さだが、雪の積もっている地面を這う時には、やっぱり寒くて震えてしまう。


この辺りに来てから早一週間。ママの言う通り、俺達兄弟に毒は効かないようで、滞在場所の毒沼は簡単に適応してしまった。初めのうちの狩りの練習はその毒沼でやっていたのだが、その周りに生息しているモンスターの戦い方というのも、毒を中心に立ち回るもので、俺達兄弟は前に滞在していた場所よりも楽に狩りが出来てしまった。

新しいモンスターとの戦い方を知るのもいいけど、これでは強くなれない。とママが言ったので、今は散り散りになって雪山の方へ狩りをしにきている。


「オオカミに鳥にゴブリンか……どれも歯ごたえはない。か」


場所が違うのでオオカミも鳥も種類が違うのだろうが、立ち回り方は大体一緒だ。素早さで撹乱し、首に絡みついて殺す。餌は手に入るが、ママの言う通りこれでは身にならない。


「ゴブリンに至っては布が増えただけであとは一緒だしなぁ。ってか寒さで凍えてて楽勝すぎるんだよなぁ」


俺はぶつぶつと独り言を言いながらも、銀世界の森の中を進んでいく。

腹から伝わってくる冷たさに身を震わせながらも、生前ではみることのできなかった美しい光景にうっとりとしてしまう。


「ん?なんだあれ」


目の前で、何かが動いた気がした。


(そのための……)


ピット器官。俺の身体は中々便利で、左目で普通の風景、右目でサーモグラフィーのような光景を見れる。

何か動いた気のする方をマジマジと見ていると、深い青色の風景に、ほんのりとオレンジ色をしたものを見つけた。体温だろう。


(猿……?いや、ゴリラか?)


ただでさえ鱗が真っ黒なのだ。雪の降り積もるこの場所では嫌でも目立ってしまう。俺は地上ではなく木の上にのぼり、そのゴリラを観察してみた。


「真っ白い体毛のゴリラ……雪男イエティってやつか」


この世界で初めて見る人間らしい身体つき。ゴブリンと比べれば赤子と大の大人だ。雪男はどうやら食事をしているらしく、口元を赤く染めながらムシャムシャと食べていた。


「うぇ……いつも丸呑みだから大丈夫だったけど、グロいな……」


初めて見る他のモンスターの食事風景。生きることに必要なことだというのは重々承知だが、いざ生で見ると中々に気分が悪い。


(待てよ?食事中の今がチャンスじゃねぇか……)


俺は音をたてないように静かに木の上から降り、これまた静かに背後から忍び寄る。


(もらった!!)


俺は身体を器用にくねらせ、雪男の足から腹へ、腹から肩へ這い上っていき、首元に絡みつき、締め上げる。


「手応えはなかったけど、初のちゃんとした人型戦は俺の勝利だな~」


俺は悠長にそんなことを考えていた。というのも、これが俺の必殺。気づかれぬように忍び寄り、首を絞めて落とす。咄嗟の反撃もできなければ、首を絞められる苦しみでもがき、何が起きたのかもわからぬまま意識を無くす。

そうなるはずだった。


「ん?」


雪男は苦しんでいる様子もなく、真っ直ぐに俺が絡みついている首元に手を伸ばし、俺の身体を掴んだ。


「おぉっ!?」


固く結びついていたはずの俺を力任せに引っ張る雪男。俺は身体が千切れる痛みに耐えられず、力を緩めてしまう。


「っ!って!」


そのまま地面に投げつけられてしまった。地面の冷たさと、投げつけられた痛みを我慢しながらも雪男を見る。どうやら、首が太すぎて絡みつきが効果をなさなかったらしい。俺がそんなことを考えているうちに、雪男は既に次の攻撃にうつっていた。


「っぶねぇ!」


雪男は真っ直ぐにこちらに走り込み、手のひらよりも巨大な足を思い切り踏み下ろしていた。


「俺を踏み潰そうだなんて……軽くトラウマなんだよ……」


俺は前世の自分の死因を思い出しながらも、持ち前の素早さを活かしてそれを躱す。雪男はそれがダメだと確認した後、ゆっくりと元居た場所に戻り、何かを手に取った。

それは、長細い棒の先に、鋭利に削られた石をくくりつけられただけのもの。槍だった。


「類人猿ってことですかぁ……?道具を使うだなんて頭がいいんだろうなっ!っと!」


雪男は振りかぶって槍を投擲した。コントロールは中々いいようで、俺の頭があった場所に槍が突き刺さっていた。俺はそれをなんなく避け、雪男に向かって突進する。

それと同じように雪男も突進。先ほどのように足を踏み抜かれたが、俺はそれを華麗に避け、雪男の背後へと回る。


「おらよっと!」


そして足元に絡みつき、太いふくらはぎへと牙をたてた。


(毒は持ってねぇけど、それでもダメージは通る!まずは動きを封じて……)


と考えたのも束の間。俺はそれが無理だということに気づかされる。


(っ!か、硬ぇ)


牙が肉に食い込む感触がしない。体毛が分厚すぎて、牙がとめられてしまっている。雪男は両手を組んで自分の足に腕を振り下ろしていた。


「っがぁ!」


俺は足から逃げることが出来ず、それをモロに食らってしまった。背中全体をハンマーで殴られたかのような痛み。俺はその衝撃に耐えきれずにのた打ち回ってしまった。


(死んでねぇ、死んでねぇ!よしよしよしよし)


痛みを紛らわせるためにそう考えるが、痛いものは痛い。というか、そんなことをしている場合ではなかった。雪男はまた足を持ち上げ、踏み抜こうとしていた。


「おらぁ!!」


俺は這うのではなく、横に転がることでそれを回避した。先ほどまで俺がいた地面には、雪男の足の大きさがはっきりわかるほどに跡がついていた。


「グオオオオォォォォ!!!」


唐突に叫びだす雪男。恐らく、中々俺を仕留められずに怒ってしまったのだろう。冷静さを失った今なら雪男を倒すチャンスなのかもしれない。

だが、首を絞めることも出来ず、噛みついても牙が通らないことを考えると打つ手が完全にない。最終手段としては、ジャイアントボアを倒した時のように相手の口の中に飛び込み窒息させることなのだが、雪男の口は小さく、俺の身体が雪男の身体の中に入る前に身体を噛みちぎられてしまう。


(それに、ママにもうやらないって約束したしな)


完全に勝てる見込みのなくなった俺のとった行動は……。


「うおおおぉぉぉ!!逃げろおおぉぉぉぉ!!」


敗走。

我ながら清々しいほどの逃げっぷり。身体は痛いし冷たいしで最悪だが、死ななければどうとでもなる。俺にはどうやっても勝てない相手がいる。それを知れただけでも、今日は満足だ。

満足したから、帰ります。


「ぬおっ?!」


「グルルル……」


目の前には先ほどの雪男。片手で木の枝にぶら下がってこちらを見ている。後ろを振り返ると、先ほど雪男の場所には大きな足の跡。ジャンプで木に乗り、そこから木から木へと飛び移ってきたようだ。


「やっぱりゴリラじゃねぇか……」


雪男は俺を逃がす気はないらしく、俺もこの真っ黒な身体で逃げ切れる気がせず、とうとう詰んでしまった。


(はぁ~長いようで短い人生……蛇生だったなぁ)


諦めモードに入ってしまったが、俺は雪男を見つけた時から戻していない、右目のピット器官に気になるところを見つけた。


(お?……もしかしたら、いけるかもしれねぇか?)


木の枝に掴まりながら唸っている雪男。俺はその可能性にかけて、気合を入れなおした。

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