魔王様、そんな事聞いて無いですよ?
招かれるまま魔王を名乗るヒトの後をついて行くと、少しの廊下を進んだ先にある部屋に案内される。
「ここね、居間なんだけど。君に色々説明するならここが一番だって余は思うから通すね」
へらりと笑うと、軽くドアを開く。
「ヘルマ、君の後輩君来てくれたよ!」
若干引っかかるそんな声と共に目の前に広がる部屋は、幸せな家族の具現のようだった。
全体的に手作りらしい小物などが並ぶ温かみのある調度、王と呼ばれるには限りなく遠いがある意味人生の理想形に限りなく近い空間。
俺の知らない幸せ。
それにふと寂寥を覚えていると、台所の方からかふわふわとした笑みを浮かべた絶世の美女と言っても差し支えない女性が現れた。
「あら、あなたが今代の勇者かしら?」
思わず気が抜けるほどに柔らかな声色で言う彼女は、自分とそっくりの色の金の髪を滝の様に緩く流し、酷く冷たいと称される灰色の瞳を持つ人。
そんな彼女の持つ髪の色と瞳の色に背にぞくりとしたものが走る。
この色合いは、まさか。勇者の証とされると色では無いか?
いや、歴代の勇者が全員その色合いを持っていた上、元いた国の中ではいないわけでは無い色ではあるので、ただの偶然であるかもしれないが。
うん、そうに違い無い。仮に魔王の発言や外見特徴が明らかに勇者でも、先代が生きていたと言われるのは、今から三百年ほど前なのだから生きているはずが無い。
自身に言い聞かせながらぎこちなくはあるが無難に挨拶を返すと、魔王様から紹介が入る。
「このひとはヴィルヘルミーナ。余の世界に一人の愛すべき妻で……」
「あなたの先代に当たる勇者です」
にこにこと笑いながら甘い空気と共に投下された爆弾。否定しようとした可能性の肯定。
それはさて置き、先代と言えば教材となっていた分厚い本に相当な紙幅を取って書かれていた人では無いか。
最強にして最悪の、傾国の厄災と呼ばれた勇者。
歴代女性勇者最高峰と言われる美貌と、最大の火力に、消息を絶つ前に残した一言が未だ有名な。
「先代!?まさかあの魔王喰いって……」
「そうね、魔王どうした〜って聞かれたから食らった(暗喩)って答えたからかしら?」
「……ソーイウコトデスカ」
「モノ以外はベットの上のあの人本当に可愛いのよ?」
「あ、夫婦の床事情は結構ですので」
とんでも無いことを語り出そうとする彼女を制止しつつ、じわりと痛み始める頭を抑える。
話の流れからの推論が当たってしまったことにある種絶望しながら天を仰いでいると、もー、ヘルマ恥ずかしいってなんて呑気な魔王の声がする。
「まあ彼女の異名は置いといてさ、そろそろ余、お話していい?」
魔王様は合法ショタ(理由は次の次くらい)
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