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いつも君がいた  作者: 遙香
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020:帰り道

今回はあんまり甘くないですー。

ホームルームが終わると、零の周囲に人だかりができ、身体の小さな零は完全に埋もれてしまう。

クラスメイトは皆、《転校生》に興味津々で次々と自己紹介をしてみたり、質問をしてみたり、零が言葉を発する隙がないほどだった。

「はいはいはいはい、それくらいにして、皆さん今日は帰りましょう。」

クラスメイトの人垣をかきわけて姿を現したかおるは、壁際に小さくなっていた零に手を差し伸べる。

「帰ろうか?零ちゃん。」

「何だよ、かおる!ちょっとくらいいいじゃねーか」

「そうだよ、佐倉さん、この後ヒマ?」

「ケーキがおいしい喫茶店知ってるんだけどさ、」

「あ・・・あの・・」

皆が一斉に口を開くため零は誰に対して返事をすればいいのかわからずおろおろする。

「零ちゃんはこの後、僕との約束があるから忙しいの。はい、だからみんな解散!」

かおるは強制的にクラスメイトを追い払い、フゥ、と息を吐き出した。

「お前がいると騒がしくて仕方ないな、」

隣の席で、クラスメイトの人垣に飲み込まれていた駿は不機嫌にそう言い、ガタリと席を立つ。

「ご・・ごめんなさい、」

一瞬だが駿の不機嫌な視線と目が合った零はまた駿の機嫌を損ねてしまった事に胸が痛んだ。

「零ちゃん、教科書持って帰るよね?・・・駿、ちょっと待って、」

帰りかけていた駿をかおるは呼び止め、零の大量の教科書を指す。

「コレ、運ぶの手伝って。零ちゃんの教科書なんだけどさ。」

「あっ、私、自分で運ぶから大丈夫!ごめんね、久遠君呼び止めて、」

ただでさえ不機嫌な駿をこれ以上不機嫌にしたくなくて零は慌ててそう言い、大量の教科書を抱えようとしたところで駿に手首をつかまれた。

「・・え、」

「お前みたいなチビがこんなにたくさん運べるわけないだろう。」

「そうそう、零ちゃんが重い荷物を運ぶ必要なんてないんだよ。そうだな・・・零ちゃんはこれを運んでくれる?」

かおるは駿の言葉とは裏腹な優しさを見て小さく笑い、手ぶらで帰る事を気にするであろう零に一枚のプリントを渡す。

「?」

「3年生の時間割表。さっき竹川先生にもらったんだ、壁に張り付いて書くの、大変でしょ?」

と人だかりの出来ている壁際を指してにっこりと笑うと、さぁ行こう、と零を促した。



まだ午前中の、春の穏やかな陽の光が木々の間を通り抜けて降り注ぐ路を3人で歩きながら、零はたくさんの教科書を運んでくれているかおると駿を振り向く。

「・・・ごめんね、助けてもらって・・・。ありがとう。」

いえいえどう致しまして、とにっこり微笑むかおると、無表情のまま歩く駿。本当に対称的だな、と思っていると、遠くから自分を呼ぶ声がする。声のした方を振り向くと、手を振りながら走ってくる健の姿があった。

「ハァ、追いついた。」

全速力で走ってきた健は呼吸を整え、今日はどうだった、と零に問いかける。

「えっとね、竹川先生にいろいろ説明してもらって・・・」

零が言いかけたところでかおるが微笑みながら口を挟む。

「零ちゃんは僕達と同じキングクラスで、今日は僕と一緒にクラスリーダーになったんだよ。」

僕がリーダーで、零ちゃんがサブ、とかおるは続ける。

「初日からみんなに大人気で連れて帰ってくるの、大変だったんだから。」

「へぇ、リーダーやるんだ。大変だけど頑張れよ!リーダーやってたら早くみんなと仲良くなれると思うぜ。」

健はいつもながらの全開の笑顔でそう言うと、かおるに向き直って口を開く。

「寮でさ、零ちゃんの歓迎会やろうと思うんだけど、」

「あぁ、それはいいね。この週末にでもみんなでやろう。」

かおるが微笑むと、俺幹事やるから、と健は勢いよくそう言って寮の方へと走っていく。

「健君って、いつも元気だね。」

零がそう言って笑うと、かおるがふと真顔になる。

「零ちゃんは健がいるといつも楽しそうに笑うんだね、」

「え?」

「健といると、楽しい?」

「た・・楽しいって言うか、元気になるって言うか・・・」

突然の問いかけに、零は戸惑う。自分では意識していなかったが、かおるが言うのだからきっとそうなのだろうと思う。

「僕と居ても楽しくない?」

問いかけるかおるの瞳に影が差したのを見て、レイはさらに戸惑った。

「楽しいとか、楽しくないとかそう言うんじゃなくて・・・」

「えっと、

「かおる君が居てくれると、とっても安心する・・・って言うか・・・」

思わず本音を口にした、零は恥かしさに頬を染める。言ってしまってから一緒に居て安心する、なんて取り方次第で告白にも聞こえる言葉だ、と思う。

「そう?本当にそう思ってくれているなら嬉しいんだけど、」

かおるは少し笑ってそう言うと、黙って隣を歩く駿を見た。相変わらず不機嫌そうな顔で、零の方を見る事もない。そのくせ伊織の行動に真剣に腹を立てたり、寮生達からさりげなく守ったりするのはやっぱり零の事を気にしているからなのだろうと思う。

「何だよ、」

かおるの視線を感じたのか、駿が不機嫌そうに問いかける。

「いや、何も。ごめんね、手伝ってもらって、」

かおるがいつも通りに微笑んでそう言うと、駿は面白くなさそうな顔で別に、と呟いた。彼を硬派と言って騒ぐ女生徒達は笑わない彼が好きなのか、それとも彼の笑顔を見たいと願っているのかどちらなのだろうと思う。2年間一緒に過ごしているかおるだったが、それでも駿の心からの笑顔を見たのは数えるほどだ。

「ねぇ、今日寮に帰った後って、何かある?」

不意に、一歩前を歩いていた零は振り向いて尋ねる。

「特に、何も?」

「じゃあ私、街へお買い物に行ってくるね。今日説明受けてたらいろいろ必要な物を買い忘れてたから。」

ジャージとか運動靴とか、家庭科で使うエプロンとか、と指を折る零を見てかおるは微笑む。

「それなら荷物持ちが必要だね、零ちゃん。前は健に取られちゃったけど、今回は僕がお供するよ。」

「あ、大丈夫だよ?道も多分覚えてるし、一人で平気。」

「僕も買いたい物があるしね。それに、もしもの事があったら大変だから。」

 もしもの事って、何なんだろう・・・?一人でお買物くらい、今までだってずっと行ってるし、別にこの街が特別危険だってわけでもないよね・・・?

 零は内心思うが、正直まだ不慣れな街でもあり、一緒に行ってくれるのは心強いと思う。

「じゃあ、宜しくお願いします。」

ぺこり、と頭を下げると、かおるは小さく笑ってお供します、と答え、ちらりと隣を歩く駿に視線を送る。相変わらず無表情で彼の思いを知る事はできなかった。

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