021:かおると零
今回はちょい甘でーす。
もっとあまあまにしてやりたい(よだれ)。
思いがけず零と街へ出かける事になったかおるは寮の自室に戻ると、制服を脱いでクロゼットを開ける。いつもそれなりにきちんとした服装をしているかおるだが、普段はあまりつけない腕時計をつけたり、少しヒールのある革靴を選んだり、無意識にいつもより念入りにコーディネイトを考えている自分に気付いて苦笑する。
もともと、寮に女子が来る、と聞いたときはあまりいい印象は受けなかった。3年生の春から海外進学科へ編入できるくらいだからそれなりに『できる子』なのだろうとは思ったが、それでもかおるのこれまでの人生において女と関わってろくな目に合った事がなかったからだ。
・・・それに、どうせ僕には関係のない話、だから。
かおるは姿見の中の自分の姿を見て心の中で呟く。僕が誰かを好きになる事自体、意味がない、と。
せいぜい、当たり障りなく穏やかに一年が過ぎればいい、と思っていた。たった一年、上手くすれば関わらずに済むかもしれない、とさえ思っていたのに、あの日、校門で彼女を見かけた時に心の中の歯車が動き始めた。何故か、無視する事ができなかった。見た目が綺麗だと言うだけなら代わりはいくらでもいるが、彼女の纏う不安気で、繊細な、今にも風の中に溶けてしまいそうな儚さのせいだろうか?
・・・いくら想ったところで、どうにもならないんだけど、
かおるは鏡の中の自分に微笑んで見せる。どうせ叶わないのなら、せめて彼女が傷つかないように、笑っていられるようにしてやりたいと思っている自分に気付いた時、かおるは自分自身に驚いた。
一方零は、誰もが認める完璧王子と二人で街へ出かける事に大いなるプレッシャーを感じ、自室に戻った後クロゼットの中を見て溜息を付く。何を着て行ったって、かおるの隣に居てつりあわない事は目に見えていたし、どうせなら制服の方が気が楽かもしれないとさえ思う。
「春だしな・・・やっぱり、ピンクのワンピとか・・・?でもかおる君大人っぽいからなぁ・・・」
パンツスーツがビシっと着こなせる体型ならよかったのに、と零は自分の体型を恨めしく思いながら、自分の中で最も大人っぽいと思われるワンピースを選ぶ。薄手のジャケットを羽織るとそれなりにかっちりと見える。
かおるに少しでも釣り合う様にと、高めのヒールの靴を選んでいると、ドアをノックする音が響いた。
「零ちゃん、もう出かけられる?」
かおるの声。零は慌ててかばんに財布やハンカチなど必要な物を入れて部屋を出た。
「さぁ、行こうか。そのワンピース、よく似合ってるね。零ちゃんにはピンクがよく似合う、」
にっこり、微笑みながら褒められるとどうしても居心地が悪くなる。褒められ慣れていない零にとって、些細な事でも無条件に褒めてくれるかおるの言葉は嬉しくもあり、くすぐったくもあり、どう答えていいか言葉に詰まる。
「か、かおる君もすごくかっこいいね。・・・かおる君はいつもだけど・・・。」
正直言って、かおると話す時はいつも顔にばかり目が行って、どんな服を着ているか、と考えた事がなかった自分に気付いた零は今更ながらに顔が火照る。いつもかおるといて、自分は彼の顔ばかり見ていた、と言う事実はかおるにどんな印象を与えているのだろうと思うといたたまれなくなる。
「零ちゃん、どうしたの?」
「えっ、あ、あの、何も・・・」
私はいつもかおる君の顔しか見てなかったんです、なんて言える訳ないしっ!
真っ赤になって俯く零を見たかおるはふわりと微笑んで、行くよ、と零を促した。
「くらっち、行ってきます、」
寮の玄関口でかおるは革靴を履き、倉口さんに声をかけると、しゃがんで靴のストラップを留めていた零に手を差し伸べる。この一週間で、かおるのその自然なエスコートにすっかり慣らされた零も自然とその手に掴まって立ち上がった。
「零ちゃん、危ないから、こっちへおいで、」
街へ続く木漏れ日の心地よい路を歩きながら、かおるは少し前を歩く零を呼び戻す。歩道の端の縁石の上を歩く姿は見ていて危なっかしい。
「大丈夫だよー?・・・キャッ・・・」
呼ばれて振り向いた零は途端バランスを失う。
「・・・ほら、だから危ないって、言ったでしょ?」
アスファルトの固い衝撃を覚悟して目を閉じた零は、想像した衝撃の代わりに耳元で囁かれた声にハッと顔を上げ、自分が跪いて零の身体を受け止めたかおるの胸の中にいることに気付く。
「あ、あ、あ、ご、ごめんっ!ごめんなさいッ!」
声が裏返るほど慌てて立ち上がろうとする零の背中に手を回したかおるは、小さく笑い、暴れると危ないよ、と囁く。
「ほら、慌てないで・・・どこも怪我してない?大丈夫?」
「だ、大丈夫。大丈夫!全然ッ!」
かおるに抱き起こされた零は真っ赤になった顔を隠すように激しく首を横に振る。
「よかった。零ちゃんに怪我させたりしたら大変だからね。」
「ご・・・ごめんね?かおる君も・・・大丈夫だった?」
「僕は大丈夫。心配してくれてありがとう。だけど、」
「言う事を聞かなかったバツとして、今日は一日手をつないで歩く事。」
「えっ!?」
「さ、行こう。」
かおるは零の手に指を絡めてにっこりと笑い、零の歩調に合わせて歩き始める。
こ、こ、これって、これって、カップルつなぎだよね?!
かおるの形のよい綺麗な指が、掌のぬくもりが、零を慌てさせる。暴れている心臓の鼓動が掌を通じてかおるに伝わるのではないかと思うと余計に鼓動が早くなった。
「零ちゃんの手は小さくて柔らかいね。」
ギュッ、とつなぐ手に力を込められると心臓が跳ね上がる。どう答えていいかわからず、零がただ俯いていると、かおるの不安げな声が響く。
「嫌なら、嫌って言ってくれていいんだよ?」
「えっ?い、嫌じゃないよ・・・ッ!」
「嫌じゃないって、それは嬉しいってこと?」
にっこりと微笑んだかおるに問いかけられ、とっさに嫌じゃない、と答えた零は赤面する。
「零ちゃんって、本当に可愛いね。」
かおるは零のピンク色に染まった耳を見て微笑んでそう言うと、零の手を握ったまま歩いていく。零がそっとその横顔を見上げると、ほんの少し、頬が赤く染まっているような気がした。
今はまだ誰とも付き合っていないのでいろんな人と日替わりで(爆)甘くなってるけど・・・いつかどこかで誰かを選んだらその人とだけ甘くなるんですよねー。と、思うとだれともくっつかせたくなくなるダメな私・・・。
一応、決めてるんですよ、ちゃんと心の中では・・・。
かおるの心のつぶやきの詳細は物語の中の7月くらいではっきりする予定です☆




