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いつも君がいた  作者: 遙香
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019:教室へ

今回も少し長めです。



 竹川先生から、一年間で使用する大量の教科書や参考書の山をもらい、選択コースの登録をした零は簡単に学校のルールの説明をされ、校章と生徒手帳を受け取る。

「校章はその襟のトコにつけとけばいい。後これがキングのクラス章。これも校章の隣くらいにつけといて。」

とトランプのキングを思わせるデザインのピンを渡される。

「お前、ホントよく見るとこんなちっこいのに綺麗にできてんなぁ。」

一通りの説明を終えると、竹川は顔を近づけてじっと零の顔を見る。

「・・な、何ですか、先生ッ」

「いや、かわいいなぁと思ってさ。かおるがご執心なのも頷けるな。」

「ご執心、ってそんなこと・・・。」

「お前は今までのアイツを知らないからわからねーだけさ。ホント、冷たいんだぜ?何人女を泣かせてる事か。」

「そ、そうなんですか・・・」

「誰に対しても、同じ笑顔ってのは、罪だと思わねーか?」

「や、優しいですよ?とっても親切にしてくれるし・・・」

「ま、そのうちわかるさ。一年間、宜しくな。」

ガシガシ、と頭を乱暴に撫でられ、零は言葉に詰まる。今までの先生とは全くタイプの異なる、いい意味でフランクな、悪い意味では適当な、零はそんな印象を持った。



「・・・零ちゃん、おかえり。何もされなかった?」

「う、うん、大丈夫。」

零がたくさんの教科書を抱えて職員室を出ると、かおるは大勢の女生徒に囲まれていたが、零の姿を認めると優雅に微笑んで女生徒達に道を開けさせて近づいてくる。

「髪、乱れてる、」

「えっ?!あ、」さっき頭、撫でられた時だ、と思った瞬間かおるの手が伸び、優しく整えてくれる。途端、周囲の女生徒達から悲鳴のような非難のような声が上がった。

「か、かおる君、ちょっ・・・」

「無視すればいい。さ、零ちゃん、行こう。」

周りの声を完全に無視し、零が手にしていた大量の教科書を当然の様に奪い取るとかおるは零を守るように壁側を歩かせる。

 無視するったって、皆さんの視線が怖いよっ

「大丈夫、ここへ零ちゃんを一人で来させるようなことはしないから安心して?」

零の心中を察してか、かおるはそう言って微笑み、足早に一般教養棟を後にする。

「もう始業式も終わってる頃だろうし、教室へ行こうか。」

木漏れ日の心地良い路を並んで歩きながら、竹川先生の行った言葉を思い出す。

「冷たい、かなぁ・・・」

「どうしたの?」

思わず呟いてしまった零の言葉にかおるが振り向く。

「えっ、あ、別に・・・」

零が慌てるとかおるは小さく笑う。

「それ、竹川先生が言ったの?多分、正しいと思うよ。僕が優しくするのは今のところ零ちゃんだけだから、」

にっこり、と100%スマイルを向けられると今更ながらに恥かしくなって目をそらせてしまう。

「おいおい、こんなところで女を口説くのはやめてくれよ。」

その時、後ろから追いついてきた竹川先生が二人の間に割って入る。

「口説いているように見えましたか?」

「どう見ても口説いてたぜ。」

「先生、そうやって零ちゃんに触るのはやめてください、」

登場と同時に零の肩を抱いて歩き出した竹川にかおるはすかさず突っ込み、竹川から零を引き離す。

「あの後、女子が大変だったんだぞ、あの女は誰だ、とか大騒ぎ。」

「放っておけばいいんです。勝手に騒いでいるだけですから。僕には関係ない。」

「相変わらず、冷たいこった。」

「全員の相手ができないなら、誰の相手もしないと言うのも優しさではないですか。」

「言ってくれるねぇ。そんならこのお姫さんはどうなんだ?」

「・・・零ちゃんは特別です。僕が守るべきお姫様ですから。」

お前、よくそんな事サラっと言えるな、と先生に突っ込まれてもかおるは顔色一つ変えずに零に微笑みかける。

「ね、零ちゃん?」

「えっ?!あ、そ・・うなの?」

《僕が守るべきお姫様》について、一体どう答えるのが正解なのか、零にはわからず、肯定も否定もせずに問いを返すと、かおるはクスリと笑ってみせた。




「かおるは先に教室に入ってろ。」

竹川先生に言われ、かおるは零の教科書を抱えて先に校舎の中へ入って行き、零は竹川と共に海外進学科の棟の前に残る。

「まだ説明してなかったかもしれんが、この棟と、隣の国内理工系進学科は構内でも特別扱いでな、」

「一般の生徒が立ち入りできないようになっている。」

「へぇ・・・」

「一人一人指紋認証で中に入るんだ。お前の分も登録するから手、出せ。」

言われるままに右手を差し出すと竹川は零の手首を掴み、細ッと声を上げた。

「お前ほっそいなぁ・・・。ここに手のひらを乗せて・・・そうじゃない、手を開いてこうやって・・・」

「えっ、こう、ですか?

「そう、そう、

手を開いて液晶の上に乗せると、よしよし、と竹川は零の頭を撫でる。

しばらく待つと、ピッと電子音がして、登録完了、と言う文字が現れた。

「次からは、

と竹川は言い、液晶に表示されている『入館』の文字を押して手のひらをかざせばドアが開くから、と説明して実演する。

「お前も入って来い」

ドアの内側から声をかけられて言われた通り操作すると、音もなく扉が開いた。

「なんだか、すごいですね。」

零が呟くと、竹川は当たり前だ、と胸を張る。

「ここのやつらは余計な事に振り回されないで、自分の道を歩くためにここに居るんだからな。お前も、安心していい。」

「はい、ありがとうございます。」

零が頭を下げると、竹川はよしよし、とまた頭を撫でる。

「先生っ、髪をぐちゃぐちゃにするのはやめてください、」

両手で乱れた髪を戻しながら抗議すると、竹川はニヤリと笑い、お前がチビだから撫でたくなるんだ、と悪びれもせずに答えて教室に向かって歩き出した。

「フツーに自己紹介すればいい。名前と・・・目標とか。」

「はい。」

竹川に連れられて教室がある2階にあがると、ジャック、クイーン、キング、と見て明らかにわかる部屋が3つ。教室のドアがトランプのカードそのままのデザインになっている。

「この学校って、変わってますね、」

「何が?」

「ネーミングとか・・・デザインとか?」

「あぁ、そうだな。これは理事長の趣味だからな。」

あの人のセンスにはついていけない、と竹川は言い、教室のドアを開けて、零もそれに続いた。

春休み明けで、皆休みの間の話をしていたのだろう、ざわついていた教室がシン、と静まり返り、零は急に胸が苦しくなるのを感じる。《転校生》。まさに全員の好奇の瞳が自分の上に注がれ、痛いほど注目される。

「お前ら・・・全員そろってんな?コイツ、今日から一年間このクラスの一員になる佐倉零。」

視線で促され、零は教壇の上でペコリと頭を下げる。

「佐倉、零です。よろしくお願いします。」

一瞬、目指す大学の事を言おうかと思ったが、壇上の居心地の悪さもあり名乗るだけで口を噤む。教室の中のどこを見ても自分を見つめる瞳にぶつかり、心臓がドキドキと暴れだす。

「見ての通り、

と竹川が言葉を継ぐ。

「コイツは女だ。わかってると思うが、間違いは起こさないように。」

そう言って、ニヤリと笑う。

「俺から簡単に紹介すると、佐倉は寮生で、シュヴェールトに居る。選択コースは音楽とドイツ語。アメリカ育ちで英語は授業の必要なし。得意科目は・・・

竹川が零の紹介をしている間、零はどこを見ていいかわからず、視線をさまよわせていると、窓際の後ろの席に座っているかおると目が合い、思わず笑顔になる。

「と、言うわけで、よろしく頼むぞ。」

竹川はそう言うと、席に着け、と空いている席を指した。

「あ、ハイ。」

廊下側壁際の後ろから二番目の席。零が自席へ向かおうと壇上から降りると、通路脇の生徒達が次々と声をかける。

「よろしくなっ!」

「よろしく!

両側から同時に声をかけられ、零は一瞬戸惑い、笑顔でよろしく、と頭を下げる。席に着き、一息ついたところで隣の席から声がかかる。

「・・・よろしく。」

「よろしく・・・あ、久遠君、」

教室でもお隣なんて、すごい偶然、と思っていると、フッと駿が笑う。

「お前、ホントわかりやすいヤツだな。」

「え・・?」

 今、笑った?!

初めて見た駿の笑顔に零は驚いたが、駿が笑ったのは一瞬で、すぐにまたいつもの無表情に戻って視線を前方へ戻す。

「今日はホームルームが終わったら解散、明日から通常授業だからな!」

竹川先生はそう言い、《高校3年生の心構えたるもの》についてを話し始める。

「受験ももちろん大切だが、高校生として、できる事を精一杯やることも大切だ。来月には修学旅行もあるからな、勉強だけじゃなく、思い出作りも一生懸命、やってくれよ。」

  ・・・何か、チャラいけどいい事も言うんだ、先生。

零は話を聞きながら思う。前の高校では、思い出したい思い出、なんて一つもない。

「今年の時間割は後で張り出すから各自で控える事。後は・・・今からクラスリーダーを決めてくれ。リーダーとサブと二人、誰か立候補あるか?」

「僕、やりますよ。」

スッとかおるが立ち上がり、教室を見回す。異議が出る理由わけもなく、竹川も小さく頷く。

「リーダーの独断と偏見で、サブは佐倉サンにお願いしたいんだけど?」

かおるはにっこりと微笑んで、まっすぐに零を見る。

「え・・・えっ私ッ?!」

突然名前を呼ばれて思わずガタリ、と席を立つと、その慌てぶりに教室からクスリ、と笑いが漏れる。

「大丈夫、僕がちゃんとエスコートするから。その方が早くクラスに溶け込めるし、一石二鳥だと思うよ。」

「かおるの言う事も一理あるな。どうする、佐倉?」

竹川に言われ、断る理由もない零が頷くと教室から拍手が起こった。

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