018:初登校
今回少し長めです。
「零ちゃん、学校行こうか、」
朝食を終え、部屋で身支度を整えていた零の部屋をかおるがノックする。
「あ、ハイッ!」
思わず背筋を伸ばし、真新しい通学かばんを手にする。肩から斜めにかける、どちらかと言うとラフなイメージの萌葱色のかばんは男子生徒が持っていても違和感のないものだ。
まだ教科書のない零はとりあえず数冊のノートとペンケースをかばんに入れて部屋を出る。
「今日は忙しいよ?零ちゃんは職員室へ行って、教科書を買って、生徒手帳もらったり、校章もらったり、校則とかの説明を受けたり・・・。クラスは何組になるんだろうね?僕と同じクラスならいいんだけど、」
そういってかおるは微笑む。
「海外進学科には3クラスあるんだよ。僕はキングクラスなんだ。」
「キング?」
「そう、ジャック、クイーン、キングの3クラス。変わってるよね、この学校って。」
・・・そういえば、寮の名前も剣とか盾とか、そんなだったよね。確かに変わってるかも。
寮の名前を思い出した零は内心思う。
「キングって強そう。」
零がそう呟くと、かおるは声を立てて笑う。
「駿もキングで、伊織はクイーンで、あと同じ寮で言うと・・・」
学校までの路を歩きながらかおるが説明を続ける。
「後ね、お昼は学食で、海外進学科は棟の中に学食があるから、お昼は一緒に食べようね。」
そう言って、かおるは微笑む。
木漏れ日の下で見るかおるの微笑みは、本当に王子のようだ、と零は思う。かっこよくて、優しくて、強くて完璧な王子だ、と。
「職員室は一般教養棟にあるんだよ。少し離れているから、案内するね。」
「一般教養棟では、美術とか、書道とか、音楽とか、家庭科とか、後・・・保健体育とか?そう言う講義があるんだ。その時だけ、他の科の人たちと合同での講義があるんだけど、
そう言ってかおるは少し溜息を付く。
「正直、僕は少し苦手。」
「苦手って、何が?」
「うーん、何がって聞かれると答えに困るけど・・・この学校には通常進学科って科があってさ。
「うん。」
「いわゆるバカの集まりってこと。」
少し後ろを歩いていた駿が口を挟む。
「駿、そう言う言い方はよくないよ、」
困ったようにかおるは駿を諌めたが、否定はしない。
「僕は音楽を選択してるから、零ちゃんも音楽を選択してくれたらうれしいな。」
話題を変えてかおるはそう言って微笑む。
「講義の時以外、僕等はあまり一般教養棟へは行かないんだ。・・・その、あまり騒ぎに巻き込まれたくないからね、」
「騒ぎ?」
「だから、バカどもが寄ってたかって騒ぎたてるんだよ、王子だの、硬派だのってな。」
あぁ、かっこいいからみんな集まっちゃうってこと?納得・・・。
「かおる君が王子で久遠君が硬派?なんか、わかる気がするな。」
零が笑うと、かおるも微笑む。
「ちなみに、健が一番人気なんだよ。もう大騒ぎになるんだ。伊織のファンも多いけど伊織は自分が気に入らない相手にはすごく冷たいから怖れつつ慕われてるというかね。」
「へぇ・・・。一般教養棟の方には女の子もたくさんいるんだ?」
「いるよ。・・・でも、零ちゃん気をつけてね?一般教養棟の男子はある意味伊織よりタチが悪かったりするから。」
「私は大丈夫。みんなみたいに騒がれたりしないから。」
「・・・お前、いい加減に学習しろよ、バカ」
「・・え・・?
「駿、またそう言う言い方をする。心配なら心配って、そう言えないの?・・・だけどね零ちゃん、零ちゃんはもう少し、自分を大切にしなきゃダメだよ?零ちゃんは自分で思っているよりもずっと可愛いんだよ?なのにすごく無防備で、だから心配なんだ。」
「・・・はい・・・」
返事はしたものの、零にはまだ無防備、と言われる理由がよくわからず、風にもてあそばれる髪を手で押さえて空を仰いだ。
海外進学棟の前で駿と別れ、かおるに連れられて零は職員室があるという一般教養棟へ向かっていた。大きな木がたくさん植えられている中庭は歩いていても心地よく、少し離れた距離でもあまり気にならない。
「・・・ホラ、あれが一般進学科の生徒達。制服の色が違うでしょ?」
少し離れたところで、こちらを見てなにやら騒いでいる女生徒が数人。零たちがワイン色の制服を着ているのに対し、深いグリーンの制服を着ている。
「零ちゃん、あまり深入りしない方がいいから、零ちゃんは黙っててね。僕が相手するから、」
女生徒達に近づくと、お決まりの「この女誰」的視線をなげられる。
「おはよう、みんな。」
通り過ぎながら、かおるがにっこりと微笑むと、黄色い声が上がる。
・・・まるで芸能人扱い・・・。
零は内心そう思いながらも、かおるに言われた通り黙って会釈をしてかおるに続いた。
「ね、うるさいでしょ?だからあまり来たくないんだ。」
「ご、ごめんね?私一人で来たらよかった・・・」
「あっ、そう言う意味じゃないんだ。零ちゃんのためなら平気。それに一般教養棟を零ちゃんを一人で歩かせるなんて絶対にできないから。」
じゃあ行こうか、とかおるに促され、一般教養棟の中に入る。
「職員室は2階、音楽室は5階、美術室と書道室は1階、後、講義ホールが3つ。」
かおるが構内の説明をしながら一歩前を歩く。
「エレベーターもあるけど、ややこしいから僕は使わないんだ。」
「ややこしい?」
「そう、いろいろとね。」
かおるは困ったような笑顔を浮かべ、2階の職員室へと零をいざなう。
「おっ、何?あの可愛い子、」
「でも王子が一緒だぜ?」
「あの制服、海外進学科ってこと?」
「なんだよ、コッチの子じゃないのか、」
ざわざわ、と廊下にいた数人の男子生徒が話す声がする。
「無視していいよ、行こう。」
かおるはそっと零の肩を押して職員室のドアをノックする。
「失礼します、」
かおると共に職員室に入ると、数人いる教師の内の一人がこちらに近づいてきた。
「佐倉零さん?」
「あ、ハイ、佐倉零です。はじめまして。宜しくお願い致します。」
ぺこり、と頭を下げると、まだ年若いその教師はニヤリ、とおよそ教師には不釣合いな笑みを浮かべる。
「やっと、あの男臭い棟に目の保養ができるコが来たな!おい、かおる!お前もそう思うだろ?」
・・・え?この人、センセイ、だよね?
無精ひげがやたらと似合う、ワイルドな印象の男性。
「そうですね。」
「かおる、ご苦労だったな。後は俺に任せろ。」
がしっ、と肩を抱かれ、零は固まる。
こ、こ、この学校って、先生もこのノリ?!
「先生、たとえ先生でも、零ちゃんに手を出すと許しませんよ?」
かおるは穏やかに微笑みながら、先生、と呼んだ男性の手から零を奪い返す。
「珍しいな、お前が女に優しくするなんてよ?鋼鉄笑顔の王子様が。」
「人聞きの悪い事言うのはやめてください。僕が女性に冷たいとでも?少なくとも貴方の様に無節操に手を出すよりよっぽどいいと思いますけど、」
「お前は愛想はいいがお世辞にも優しくはないだろ。にっこり笑ってハイさようなら、ってヤツが?」
「笑いもしない駿よりマシでしょう。」
「あ・・・あの・・・」
先生と対等にやりあうかおる君って一体・・・
そう思いながらも、間に挟まれた零はどうしていいかわからずに戸惑う。
「・・・あぁ、ごめんね、零ちゃん。どうやら彼・・・竹川先生が零ちゃんの担任みたい。」
「竹川、先生・・・」
「そう、僕と同じ、キングクラス、だね。」
うれしそうにかおるは微笑み、不信感満載の瞳を竹川先生に向ける。
「後、お任せしても大丈夫なんでしょうね?」
「おぉ、任せとけ!ゼロからヒャクまで教えてやるからよ、」
「零ちゃん、身の危険を感じたら大きな声、出していいからね。僕はここで待ってるから。」
「・・・んだよ、信用ねーな、俺。ま、行こうか、零ちゃん。」
れ、零ちゃん・・・って。先生が・・・
しっかりと肩を抱かれ、なんだかもう、ここに来てから抱きしめられたり抱き上げられたり、そう言う事が重なりすぎて完全に感覚が麻痺している、と思う。
普通、先生って生徒の肩抱かないよね?普通、階段下りるときって手をつながないよね?普通、足挫いたからってお姫様抱っこなんてしないよね???もう普通がなんだかわかんなくなっちゃったよ・・・。




