099:バランスは?
秋休みが終わり、また以前と同じ高校生活が戻ってきた。自分の憧れの場所を目の当たりにした面々は前よりも一層近くなった目標に向けて前向きになる。
そんな中、以前伊織から誘われていたパーティーの日が近づいている事に内心不安を抱いていた。
あの日一度言われて依頼、伊織は何も言わなくなった。もしパーティーに行くとしたらかおるの時と同じようにドレスを着て、高いヒールの靴を履いて正装をして行かなければならないだろうに、正装出来るものなど持っていない。
「零、どうかしたのか?」
授業が終わり、教科書を片付ける手を止めて考え事をしていた零は、ふわりと身体を包んだ伊織の香りに我に返った。
「ううん、なんでもないよ。ちょっと考え事してたの。」
「考え事って?」
椅子に座ったまま背中から抱きしめられた零は、すでに見慣れた光景になってあまり気に留めなくなったクラスメイトを気にしつつ肩越しに振り向く。
「お買いものいかなきゃな、って思ってただけだよ?」
「そうか。それならこの後、街へ行こうか。」
伊織の提案に零は頷く。買い物をしながら、それとなくパーティーの事を聞いてみよう、と思いつつ、教科書を片付けて席を立った。
寮に戻った零は11月初旬の少し寒くなり始めた気候に合う服に頭を悩ませつつ、街に出かける準備をする。そしてふと、大人びた伊織の隣を歩くのに釣り合わない自分の容姿にため息をつく。
背伸びをした服装は似合わないし、かといっていつも自分が好んで着るような服装では伊織に釣り合わない事も分かっていた。
「零、入るぞ?」
何を着て行こうか悩んでいると、ドアの外から伊織の声。慌ててドアを開けると、濃い色のデニムに差し色のシャツにジャケットを羽織った伊織が部屋に入ってきた。
「・・・なんだ、まだ着替えてないの?」
制服姿の零と、ソファーの上に並んだ服を見て、伊織はそう言う事か、と小さく笑う。
「俺と出かけるのに、どの服を着ようか、って悩んでたってとこ?」
図星だった零は恥ずかしくなってうつむいた。
「・・・だって、伊織君と私じゃ、全然釣り合わないんだもん・・・ッ痛!」
ピシッと額を指先ではじかれて、零は痛いよ、と額をおさえる。
「ばーか、釣り合わないとか勝手に決めてんなよ。零はこの世で一番可愛いんだぜ?そんな事あるわけないだろ?」
「でも・・・」
背も低いし、大人っぽい服装似合わないし、としゅんとなる零を伊織はふわりと抱きしめる。
「俺が大人っぽい服装が好きだと思ってんの?」
黙って頷く零に、伊織は可愛い事言ってんじゃねーよ、と微笑む。
「俺はいつもの零が好きなんだ。前言わなかったか?天真爛漫な妖精みたいだって。」
いいながら、ああそうか、と伊織は呟く。
「俺がこういう格好するからか。」
「せっかくだから言っとくけど、俺は零のふわふわした可愛い空気にいつもやられてるんだぜ。だから、大人っぽい服装をされるより可愛くいてくれた方が嬉しい。」
恥ずかしい事言わせんな、と珍しく赤くなった伊織の腕の中で、零はぎゅっと伊織に抱きついた。
寮から街へ続く道を歩きながら、街に行くのは久しぶりだな、と零は思う。前に一人で出かけて怖い思いをしてからは街へ行く事はほとんどなかったように思う。
伊織と一緒だと思うと街に行くのも楽しみで、自然と足取りが軽くなった。
「・・で、今日は何を見に行くんだ?」
伊織と手を繋いで歩いているだけなのにこんなにも幸せに感じるんだな、と零は思いながら、隣を歩く伊織を見上げる。
「あ・・・あのね、前、伊織君パーティーの話、してくれたでしょ?それで・・」
「パーティー用のドレスを見に行くってこと?」
頷く零に、伊織は少し驚いた顔をして、ホッとしたような笑顔を浮かべた。
「零はパーティーには行きたくないと思ってると思ってたんだけど・・・行ってくれるのか?」
「うん・・・怖いし、伊織君に迷惑かけちゃうと思うけど、でも・・・」
他の人がパートナーになるのはもっと嫌だもん、と恥ずかしそうに言う零を伊織は思わず抱きしめる。
「・・・零、そんな可愛い事ばっかり言ってると襲うぞ?」
「えっ?!な、なんで?!」
驚く零を腕の中に閉じ込めた伊織は、可愛い事を言った罰だ、と零の首筋に口づけて痕を残す。
「伊織く・・っ!」
「もう、ホントにお前は・・・可愛すぎてたまんねーよ。零といるとどんどん骨抜きにされる気がする。」
ここ、髪で隠せないよ、と困った顔をする零に、伊織は意地悪な笑顔を向ける。
「じゃあ、しばらく消えないようにもっときつく付けるか?俺は零が俺のものだって、みんなに見せつけるためなら何でもするぜ?」
意地悪な事いわないで、と拗ねて見せた零だったが、伊織のその言葉が嬉しくて抱き寄せられた胸に頬を寄せる。
「どうした?零、」
「そんな事しなくっても、私は伊織君のものなのに・・・」
恥ずかしそうに顔を伏せたまま小さな声で言う零に伊織の心音がはねる。愛おしさが膨らみすぎて胸の奥が痛いほど締めつけられた。
「零は俺を殺す気か?・・・お前、可愛いすぎるだろ・・・。」
「それに、伊織君ばっかりずるいよ・・・」
バラ色に染まった頬で、零は伊織を見上げる。
「ずるいって、何が?」
「私だって、伊織君の事、独り占めしたいのに・・・」
零のその言葉で、伊織の中の冷静さがかき消され、今までずっと抑えていた想いが抑えきれずに暴走しそうだった。
新しいお話を書きはじめたので少しこちらの更新が遅くなってしまいました・・・。
新しいお話もぜひ一度読んでみて下さいね☆(宣伝してすみません)
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次も頑張ります!!