悪が居なければ勇者は輝けない
さぁさぁ、みなさん。やってきました、交流戦当日!
「アルト、俺昨日楽しすぎて寝れなかったわ!」
「遠足じゃないぞ、神下」
「あ、アザゼル先生……。バスでちゃんと寝ます」
「そういうことじゃないと思う」
コイツバカなのか。ジークから目を逸らせば、そこにはチラホラと集まりだすクラスメイトがいた。まだ朝だというのに、俺たちのせいで終焉学園は妙な熱気に包まれている。
「眠たい……」
「ゼロちゃん、バスの席どうする〜?」
「ヴァイスの隣に決まってるだろ。一々言わせんな」
「ゼロちゃん……!」
相当嬉しかったのか、ヴァイスがゼロを担いだ。何か歩かなくていいからゼロも嬉しそうだし……。
「リリカ! 今日さ気合い入れてリボン赤にしてきたの、どう?」
「フィアちゃんは、いつもの茶色のリボンの方が私は好きだなぁ」
「え」
「……茶色は可愛い感じだけど、赤は格好良い感じで良いんじゃない」
「セレナちゃん……!」
「確かに、フィアちゃん強そう……」
「リリカ……!」
あ、ちゃんと空気読んだ、えらいリリカさん。あの子、たまに素直すぎるところあるからねぇ。
「シキ、席私の隣だからね?」
「琉璃さん、近いから」
「だって離したら逃げちゃうじゃーん」
お前らだけ今からデート行くの?? 士気が下がるので公共の場でやめてもらえますか!! シキくんの士気も下がっちゃうよ!
「お前らは一号車に乗れ」
アザゼル先生に指示されて視界に入ったのは、三台並ぶ大型バスだった。何で三台あるのに……と思ったけど、校舎から出てきた先輩っぽい人たちを見て納得した。
「あれ、アザゼル! そっか、今年から全学年同じ日だけど別会場だっけ?」
友達のように駆け寄ってきたアイゼン先生、何か今日格好いいんですけど……。
「あぁ、全員見れないのは残念だな。俺たちはもう出発する。お前らも頑張れよ」
恐らく三年生にそう声をかけて俺たちを先導するようにバスは乗り込む。
バスが動き出して、少しずつ緊張が高まってきた。窓際の席、流れていく景色を眺めながら俺はため息を吐く。
「緊張してんの?」
隣でイヤホンを片耳だけ外したアデルがこちらを見ていた。
「まぁな」
「珍しい。お前だったらデカい敵来た方が燃えそうなのに」
「どんな印象だよ」
「だってお前って、マゾヒストでしょ」
「先生、勇者より先にコイツと戦うことになりそうです」
「怪我するなよ」
「止めてくださいよ」
何か見放されてしまったじゃないか。
「まぁ……別に俺たち全員でやろうよ。力は貸してあげる、リーダー」
演習の時、何も考えてなさそうだったアデルから改めてそう言われると、それだけで安心材料になった。
アデルから貸してもらったアイマスクがかなり良くて、気が付けば寝てしまっていた。
「おーい、起きろ」
「アデル……まだ寝かせて……」
「紫泉、到着したぞ」
アデルの横に立っていたアイゼン先生の声に背筋が伸びた。ちなみに、バスから降りて最初の感想はデカい建物だなぁ……です。
あとはとにかく白かった。巨大な城のような校舎と磨き上げられた石畳は高級感を醸し出していて、噴水に庭園まである。
「すげぇな……」
「金持ってんなぁ!!」
「ジークちゃんは何で怒ってんのか分かんないけど……まぁ、勇者様御用達だからねぇ」
「正門前で合流だ。着いてこい」
アザゼル先生に案内された正門前には、すでに別の集団が整列していた。
俺たちの黒ベースの体操着とは異なり、白と金を基調とした制服を着こなす彼らは堂々とした足取りで俺たちに歩み寄った。近づく度にその風格で殴られる気分。眩しい……まるで本当に主人公たちみたいだった。
その集団の真ん中、一人の少年が口を開く。
「遥々足を運んでいただき感謝する。本日はよろしく頼む……悪人ども」
最後に付け足された言葉だけ小さかった。まるで俺たちにしか聞こえないように言っているようで、綺麗な顔と丁寧な口調から出たその言葉に俺たちは一瞬戸惑った。
「……まぁ、あとはお前らでやれ。俺たち教師陣は手を出せないことになってるんでな」
アザゼル先生は俺たちを残して校舎へ入って行った。
「アルト、どうする?」
「え、何で俺……」
「お前がリーダーだろ」
あたかも当たり前のようにそう言っているガレスは全員の意見を代表しているようだった。ため息をつきながらも、みんなに向き直る。
「——俺たちは悪人じゃない、悪役だ。舐められないように……徹底した悪役を演じてやろう」
笑いかけてくれた正面とは反対に、背中からは鋭い視線が突き刺さっていた。勇者側へ目を向ければ、真ん中の金髪と目が合う。
「……悪は存在するだけで邪魔だ」
「その悪がいなければお前らは勇者になれない」
俺の言葉にアリアは僅かに眉をひそめた。
「名前は」
「紫泉アルト」
「紫泉、そうか。お前は……俺が倒してやる」
「頑張ってくれよ、特待生」
少し見つめ合って、俺たちはお互い背を向けた。
「さっきのアルトくんかっこよかったね」
「リリカさん……」
「凄いなって思ってて……」
「あぁ、どうしよう……。特待生に喧嘩売ってしまった、ヤバい……。俺、生きて帰れるかなぁ?」
「何でそんなに自己肯定感低いの、お前」
「ジーク、だって……」
「俺たちがいるじゃんか。全員で倒そうぜ、勇者!」
「ジーク……!!」
コイツ、良いやつだな。でも、見た目含めて多分特待生の次に勇者っぽいよ君。
「これより、勇者学園交流戦を開始します。進行は私、終焉学園保健師の天杜ルシエルが行わせていただきます!」
え、あの先生がやんの? 俺たちに手を振っているルシエル先生は見たことない紫色の髪の女性に頭を叩かれていた。
「それでは第一競技……リレーです! 黎明学園側は五名が二周ずつ、終焉学園側は十名が一周ずつ走ります!」
勇者側は一人二回も走るのか、大変だな。俺たちは十人を選出する必要があるが……どうするべきか。
「とりあえず出たくない奴手上げろー」
「はい」
「はい」
「……」
だろうな!! 俺の問いかけに手を上げたのは、ハクとアデルとゼロだった。共通点、よく背負われてる三人だ。
「コイツらだけで待機は怖いから、保護者一人置いとこう。ヴァイスかユウトかガレス頼む」
「この二人より俺の方が遅いから、俺が残る。それでいいか、ヴァイス、ガレス」
「ユウトちゃん逆にいいの?」
「あぁ、俺は別に」
「ごめんな、今度飯奢るわ」
いや、別にガレスが悪いわけじゃないんだけどね。あと一人は、転んで部品が外れる恐れがある深彩さんが待機となった。
真ん中に集まると特待生が最後に並んでいる。俺も最後なので必然と隣になってしまう。
「どうやって負けるのか、見ものだな」
「お前の価値観、一旦ぶっ壊してやるよ」
俺たちが簡単に勝たせると思うなよ。スタートの音が鳴るその間を、誰もが開始前の沈黙として感じていた。
俺たちの戦いが始まる。忘れられない敗北を作る、悪役らしい戦いでコイツらを裏切る。
「ちなみにな、特待生……俺たちは走ることが得意なんだ」
急になんだコイツとでもいう目で見られた。特待生にこんな表情させられるの、俺だけでしょ。
「まぁ、見てろって」
俺たちが得意なのは逃げることなんだけどな!!
「言い忘れてたけど、コース内には障害物を配置してあります! 避けても良し、突破しても良し。とにかくゴールした方の勝ちです!」
それは聞いてない。
「それじゃあ、よーいドン!」
ルシエル先生の合図で、第一走者のジークが思いっきり走り出した。あれ、アイツガチだ。
「うおおおおおおおおお!!」
もう雄叫びあげてるもん。隣の特待生がまん丸お目目になってます。大爆走ジークから、レンにバトンが渡された。
「うおおおおおおおおお!!」
ごめん、みんな。再放送になっちゃった。大爆走から大爆走へ、そして大爆走のガレスへ。
「おい」
声かけられたけど、気まずくて隣見れないわ。肩叩かないで特待生。気づいた上で無視してるの。
「性格悪いな、流石悪役だ」
「それ貶してるよな? 喧嘩なら買うけど、特待生?」
「特待生やめろ」
「じゃあ何て呼べば良いんですか」
「……名前でいい」
「アリア」
「馴れ馴れしい」
よし、絶対勝つ。
そして俺たちは敗走学で学んだ、障害から逃げる方法を駆使してほぼ長距離走で差をどんどん広げていた。俺たちがこの交流戦までに一番やってきたこと、それが迫り来るモノから逃げきることだから、本当にこれだけは負けなかった。
「なんと! 第一種目は、終焉学園の勝利です!」
そして、大変なことに圧勝してしまった。
「勝ったな」
「勝ってしまった」
「挑発に乗ってしまった」
ガレスとジークと俺は一列に並んで空を見上げていた。あぁ……アザゼル先生に怒られるかなぁ。あ、あの雲アザゼル先生に見えてきた。
隣から真顔で見てくるアリアをスルーして、俺たちはそそくさと終焉学園側ベンチへ戻った。




