007 スキルの解放
「お、おい・・・・これってまさか・・・・」
「う、うん、私のスキルが解放されたみたい・・・・」
俺は目の前に表示されたウィンドウを見て思い出した。
(そうか、姫川のスキル達成条件は治癒のポーションを使う事。俺に使ったことでその条件が達成されたのか)
俺は姫川のスキルについて思案しながらも、周りの警戒をする。
「俺が周りを警戒しておくから、その間に姫川はスキルの性能とか調べておいて」
「うん・・・・あ、ありがとね、しょ、庄司くん・・・・」
姫川が俺の事を名前で呼んでくれた! そんな事を嬉しく思いながらも、俺は辺りを見渡して魔物の警戒をする。
星川を除いて、今の女子メンツはレベルが上がっていない。なので戦力としては期待できない。今の小林と姫川を魔物と戦わせるなんてはっきり言って自殺行為だ。
それに比べ俺はレベルは上がっていないが、前の世界では筋トレを毎日欠かさずこなしていたので、運動神経と筋力に関しては自信がある。だから今は俺が前に出て攻撃を受け持つ。これが姫川や小林を守れる手段の一つだ。
欲を言えば、星川や後藤とも連携を取りたいが、今日の後藤を見て連携は無理だなと確信した。多分後藤は視野が狭い。それに気も遣えない。
まあ姫川みたいな可愛い彼女がいても浮気する駄目男だしな。
さっきも、俺たちを置いて先にダンジョンの奥に潜って行ったし。もし、あの時俺がいなかったら姫川や小林、星川さえも重傷を負ってしまっていたかもしれない。
「やっぱり一度、皆と話し合うべきかもな・・・・・」
余裕だと思っていた魔王討伐の旅。実際は厳しい旅だ。
今後、全員が無事に現世へ戻るためにも、俺たちはもう一度異世界への認識を変えなければならない。正直言うと、俺は異世界を甘く見ていた。だが今日、ダンジョンへ来てみてはっきりと理解した。
ここは現世と同じ、現実の世界だ。世界の仕組みがゲームと似ていても、ここは現実だ。
全てに本気で向き合わないと死ぬ。だから・・・
「俺はレベルを上げて、魔王を倒して、必ず皆を現世へと送る・・・・・」
そう独り言を呟き、俺は今後の決意を固めた。
☆☆☆
「しょ、庄司くん! 治癒のスキルの性能が分かりました!」
改めてこれからの決意を固めた俺に、姫川が興奮気味に声を掛けてきた。
「おお、姫川。スキルの性能はどんな感じだったんだ?」
「えっとですね、仲間をたくさん回復させることが出来るらしいですっ!!」
小さい胸を張り、ドヤ顔を披露する姫川は自信満々に答える。
「あ、あぁ。それは分かっている。詳しい性能とかはどんな感じなんだ?」
俺が改めてもう一度聞き返すと、自分の言動に今更羞恥心が込み上げてきたのか、恥ずかしそうに俯いた姫川が、ボソボソ声でスキル性能の詳細について話す。
「え、えっと・・・・全体で回復できるスキルと、単体で回復できるスキルが取得できました。それ以外にも、色々とあるんですけど・・・・もっとレベルを上げないと解放できないみたいです」
姫川の話をまとめるとこうだ。
まず解放されたスキルだが、全体回復できるスキルと、単体回復ができるスキルが解放されたらしい。他にもスキルはあるらしいが、それはレベルが上がるごとに解放されていき、レベルが上がるごとに回復量も多くなるらしい。
そして、ここで驚きの情報だ。スキル発動にはどうやら魔力を使わないが、スキルを使った後のクールタイムがあるらしい。クールタイムにだけ目を瞑れば、破格の性能だろう。
スキルの発動方法は至って簡単。スキル名を唱えるだけ。単体回復だったらヒール、全体回復ならキュアだそうだ。
つくづく思うが、やはりこの異世界はゲームの設定に似ているところが多い。
「あとは・・・・」
「他にも何かあるのか?」
俺が聞くと姫川はコクコクと頷きながら、ウィンドウに表示されている事を説明する。
「スキルの中にも常時発動スキルと、手動発動スキルがあるらしくて・・・・・私は手動発動スキルみたいです」
常時発動スキル・・・・つまり、スキル名を唱えなくても勝手に発動されるスキル。
「なるほどね・・・・これで大まかなスキルの仕様については理解できたな」
「あたいも早くスキル解放したいっす!」
「私も、戦力になれるようにスキルを解放しないと・・・・」
三人ともスキルの性能や仕様を理解した事でやる気が上がっているらしい。武器を片手に戦闘態勢に入っている。
俺も俄然やる気湧いてきた。早くスキルを解放して魔王を討伐したい。そのためにもまずは・・・・・
「後藤を探すか・・・・」
「晴馬っち、一体どこまでダンジョンに潜って行ったんすか・・・・」
「晴馬は視野が狭い。だから毎回面倒くさい」
「な、菜音さん、そんな事言ったら晴馬さんが可哀そうですよっ」
呆れながらも、三人とも晴馬を心配している。レベル上げも兼ねて、俺たちもダンジョンの深くまで潜って行くか。
俺がそう思ったのも束の間。目の前に姫川の時と同じようにウィンドウが表示される。
『スキル解放条件達成を確認。後藤晴馬のスキル、覇者が解放されました』
どうやら、俺たちがスキルの性能について話し合っていた間に、晴馬もスキル解放条件を達成したらしい。
「晴馬っちもスキルが解放されたんっすか!?」
「私も急がないと・・・・出遅れるのは嫌」
「晴馬さん、一人で先に行っちゃったけど大丈夫かな・・・・」
三人とも全然違う反応をするので、返答に困る俺だったのだが、とりあえず晴馬がいるであろうダンジョンの奥に進むことにした。
☆☆☆
「くっ・・・・!」
ダンジョンの奥に進むにつれ、やはり魔物の数やレベルが上がっていく。
必然的に戦闘が多くなるのだが、今のところは誰も怪我をせずにダンジョンの奥へと潜っていけている。自惚れではないが、皆が怪我をしていないのも俺のおかげだ。
俺は姫川のスキルが解放された後も、ずっと魔物の攻撃を全て請け負ってきた。余裕があれば魔物の足をメイスで潰して、止めは姫川や小林、星川などのレベルアップのために残した。
残したのにも理由があるのだが・・・・・今は考える余裕もない。目の前の魔物相手に手一杯だ。
凶暴性が増したドーベルマンのような姿をしている下級の魔物ガルム。鋭く見るだけでも恐ろしいような牙を俺に向けて突撃してくる。
俺は盾を構え攻撃に備えるが、ガルムはその俊敏性で俺の後ろに周り、俺の背中を思い切り噛みつく。
俺の背中が痛みで熱く燃え上がるような感覚に陥った。
「うッ!!」
「犬間っち!!!」
「しょ、庄司くんッ!!!」
痛みを我慢しながらも、後ろに振り向き、ガルムに向かってメイスを振るう。
だが俺のメイスはガルムが躱した事で空を切り、ガルムはその鋭利な爪を俺の右目に突き刺す。右目から大量の血が流れ、俺の意識は痛みのせいで消えかける。
・・・・が、俺は最後の力を振り絞って姫川の名前を呼ぶ。
「姫川ッ・・・・!! 治癒スキルをッ!!!!」
「は、はいっ!・・・・【ヒール】!!」
スキル名を唱えた瞬間、俺は全身の力を使いガルムの頭目掛けてメイスを振るう。
ダンジョンの洞窟に鈍い音が響き、俺の体にもガルムの血しぶきが飛ぶ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
俺はその場で力尽き、倒れる勢いで地面に座った。
飛び散った血しぶきが灰になって散っていく。
俺は腕に埋め込まれている黒の宝石に手をかざす。
止めを早川たちに任せていた理由、それは・・・・・
犬間 庄司
レベル 1
スキル 屍蘇
魔法 無し
武器 鋼のメイス・鉄の盾
装備 チェーンの鎧
見ての通り、俺のレベルが一向に上がらないからだ。
このダンジョンに入ってから、俺は大体五十体ぐらいの魔物を殺してきた。だが、何故かレベルが上がらないのだ。
まあ理由が分からない以上、俺が魔物を殺しても意味がない。そういう理由で星川たちに止めを任せていたのだが、下級レベルの魔物ガルムでこれだけ苦戦してれば、流石にこれ以上進むと星川たち全員を守るのは不可能だろう。
後藤がどこまで行ったのか気になるが、今は自分たちの命を優先だ。
「ここで一旦引き返そう」
「う、うん・・・で、でも庄司くんさっきの怪我は大丈夫だった?」
先程受けた俺の怪我がどうなったかと言うと、姫川のスキルのおかげで瞬時に背中と顔の傷が塞がった。だが、右目は流石に治らないらしい。痛みは無くなり傷が塞がっても、先ほどから目を開けようとしても視界が暗いまんまだ。
「姫川のお陰で直ぐに治ったよ、だけど失明までは直せないみたいだ」
「え!? 犬間っち失明したんすっか?」
小林が心配そうに俺の顔を覗く。痛みは無いが多分もう右目を使える日は来ないだろう。
ああ、分かっていた。異世界がどんなに辛い場所か。だが、理解していたとしても、精神的ダメージが半端じゃない。星川たちの前じゃ平静を装っているが、本当はもう、だいぶキツイ。
「犬間さんの言う通り、晴馬も心配だけど、これ以上先に進むと私たちが危険になる」
星川がそうまとめ、引き返すことを推奨してくる。
はぁ・・・・結局、後藤は消えるわ星川のスキル解放も出来ないわ失明するわで、散々の結果だ。
成果と言えば、姫川のスキルと後藤のスキルが解放されたぐらいだろう。
「う、うん。庄司くんも、無理はしないでね・・・・・」
無理はしないでねって・・・・・お前たちを守るために俺が戦ってんだろうが。
内心姫川に毒を吐きながらも、出口を目指して足を進めた。
異世界って普通に過酷だからね?
モチベに繋がるのでブクマとか反応とかしてもらえると嬉しいです。
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