011 命を捨てる覚悟
星川と小林、ヒロインになるのかならないのか・・・・・
黒く禍々しいオーラを放つ魔王城。四ヵ月の時を経て、遂に俺たちは魔王城まで辿り着くことが出来た。魔王城は視界に入れるだけでも体中に鳥肌が立ち、本能が魔王城に近付くことすら拒む。
だが、俺たちは魔王に挑まないといけない。国家レトロの為にも、元の世界に帰るためにも。
「「「「・・・・・・」」」」
俺たちは魔王城から少し離れた場所の洞窟で野営をしていた。明日の事で後藤たちも緊張しているらしく、さっきから一言も話さない。
(うーん、この辛気臭い雰囲気、好きじゃないなぁ・・・・・)
明日には魔王と戦うんだ。もしかしたらこれが最後の思い出になるかもしれない。誰もこんな辛気臭い雰囲気は望んでいないだろう。
ここはいっちょ、最年長であるこの俺が場を盛り上げてやるか!!
「明日には魔王との戦いが控えている。だから、今やる事は一つしかないだろ。そんな辛気臭い顔してないで、肩の力抜いて、上手い飯食って英気を養おう!!!」
実に見事な盛り上げの言葉だったな。だが何故か、後藤たちは無言で俺を見つめてくる。だが姫川がプッと笑いを零したと同時に、他の皆も思い切り笑い出す。
「な、なんで皆笑うんだよ!! これでも結構恥ずかしかったんだぞ!?」
「やっぱり庄司君はおもしろいねっ」
「記憶喪失になっても、性格は全く変わらないよ・・・・」
「相変わらずね・・・・」
「あたいはそんな犬間っちが大好きっすよ! もちろん友達という意味ですっす!」
姫川は満面の笑みを浮かべて、後藤はやれやれと、星川は呆れながら、小林は元気一杯に。
全員が違った反応をするが、最後には全員が決意を固め、笑い合っている。
「と、とにかく!! 皆で思い出作りしよう!!」
こうして、決戦前の勇者たちの小さな宴が始まった。
☆☆☆
「ワイバーンの攻撃で犬間っちが吹っ飛ばされた時、あたい犬間っち死んだなって思ってたっす!」
「お前薄情だな!? あれ姫川の治癒スキルなかったら死んでたからな!?」
「菜音はいつもお肉食べてばっかりだね。太るよ?」
「死ね」
「な、菜音ちゃん! そんな言葉使っちゃだめだよぉ~っ」
皆が冒険中にあった思い出話や、他愛もない話で盛り上がる。笑い合って、美味しいご飯を食べて、旅の話しをする。今だけは、年頃の高校生や中学生がはしゃいで仲良く話しているように見えた。
(はぁ・・・・この楽しそうな光景も、今日で最後か・・・・・)
思いにふけっている俺をよそに、宴はまだまだ続いていく。
「そういえば、杏子っちと晴馬っち。今日が最後の夜になるかもしれないし、イチャイチャしたりしないんっすか?」
ニヤニヤしながら小林が後藤と姫川を揶揄うように話し出す。
「そ、そんな事しないよっ!!」
「杏子は恥ずかし屋がりやさんだね」
姫川は顔を真っ赤にして、後藤は姫川を揶揄って。両者恥ずかしそうに、でも幸せそうに微笑んでいる。一体皆は何の話をしているのだろうか。
「どうゆう事だ?」
「あ、犬間っちは覚えてないっすか。杏子っちと晴馬っちは付き合ってるんっすよ!」
「え、そうなの!?」
初耳なんですけど。というか、俺はてっきり後藤と星川が付き合ってるのかと思っていた。まさか姫川と後藤が付き合っていたなんて。
心の中がモヤモヤするが何故だろうか。何か、大切な事を忘れている気がする。
「まさか庄司。杏子を狙ってるわけじゃないでしょうね?」
星川が尋問かのように俺に詰め寄って来る。
「まさかまさか! すまんが俺は年上のお姉さんしか受け付けない!」
きっぱりそう言うと、何故か冷めた視線を向けてくる姫川と星川と小林。
・・・・・いいじゃん、夢ぐらい見たって。
「ま、まあ! いつか庄司には凄く素敵な女性が寄り添ってくれると思うし、庄司もそんなに落ち込まないでよ」
後藤が俺を庇うように、慰めるように言葉を掛けてくる。
「ありがとよ後藤。でも彼女持ちのリア充にんな事言われたってより悲しくなるだけだ」
「あ、あぁ。ご、ごめんね?」
うん、気まずいし外の空気でも吸ってこよ。
☆☆☆
見晴らしのいい崖に登った。魔王城を見渡せる崖の上で、俺は地面に座りながら大きくため息を吐く。
「はぁ・・・・」
魔王との決戦。正直言うと、俺の生存率はかなり低いだろう。二ヵ月前までは魔物の攻撃を耐えるなど余裕だったが、魔王城付近の魔物の攻撃なんて耐えられる気がしない。
ハッキリ言ってここの魔物共は異常だ。星川や小林の攻撃を喰らってもピンピンしているし、魔物のレベルだって100以上の個体ばっかだ。
スキルが全ての異世界・・・・・言葉通り、スキルで全てが決まる。レベルをいくら上げようと、自分よりもレベルの高い人や魔物なんてうじゃうじゃいる。じゃあどうやってそのレベルの差を埋めるのか。
「いい加減使えたっていいじゃねぇか・・・・・・」
レベルとの差を埋めるのはスキルだ。スキルが強ければ、レベルの差なんて関係ない。現に後藤はスキルの力で魔王城付近の魔物相手にも無双している。
(はぁ・・・・・なぁ~んで俺のスキルは未だに解放条件すら見つからねぇんだよ)
記憶喪失、レベルが上がらない、スキルも使えない。
よくここまで生き残ったもんだ。後藤たちがいなかったらとっくに死んでたと思う。本当に後藤たちには感謝しかない。
「ま、明日が俺の命日になると思うけど・・・・・」
結局、俺がいくら努力しようとスキルが全てのこの異世界では、スキルが使えない凡人から死んでいく。
何故俺はスキルが使えないのか。何故レベルが上がらないのか。何故記憶喪失になったのか。考えれば考えるほど惨めになる。
だけど、そんな惨めな俺を後藤たちはここまで引っ張ってきてくれた。助けてくれた。仲良くしてくれた。仲間として・・・・見捨てないでくれた。
だから。
俺は死んでもいいから。
頼むから後藤たちには生き残って。
元の世界に帰ってほしい。
俺は防具のポケットに入っている小さな魔石を取り出す。
この魔石には膨大な魔力が溜まっている。しかもあと少しでも魔力を注げば、辺り一面更地になるほどの爆発を起こす。
いざとなればあいつらを逃がし、この魔石に魔力を注ぐ。
皮肉にも、使う用途のない魔力が俺には沢山あるからな。まさか自爆するために魔力を使うとは思ってもいなかったが。
「大金叩いて買った最高品質の魔石だ。せっかくなら最後にドカンと使いたい」
魔王城ぐらいのサイズなら半分以上が吹き飛ぶ威力。旅の道中にわざわざ要塞都市に寄って買ったんだ。それくらいの威力は出してもらわないと。
だが、おそらくこの魔石を使っても魔王は倒せない。
今まで、この異世界での厳しい現実を見てきたからこそ、俺はそう思ってしまう。
だから・・・・・
「頼むぜ、魔石さんよぉ・・・・・少しでもいいから、魔王の体力削ってくれ・・・・・」
魔王を倒すための道は俺が作る。
命を捨てでも、俺はその道を舗装してやるよ。
そんな都合のいい、矛盾した思案をしながらも、俺は目に浮かぶ涙を必死に堪えるのだった。
☆☆☆
運命。
【我は同じ運命を辿る者】
永遠。
【数百年に渡り、力で全てを支配してきた】
恐れ。
【勇者よ、其方達は何故その運命を担う】
怯え。
【醜く足掻いても、結果は変わらぬ】
怖気。
【何時だって我が勝利の栄光を掴む】
【勇者の力など、所詮マガイモノ】
戦慄。
【来い、勇者よ】
混沌。
【我に恐れ、怯え、怖気、畏怖し、驚愕し、戦慄し、混沌と化せ】
娯楽。
【我は娯楽を待っている】
暇を持て余した魔王は、勇者が立ち向かって来るのを待っている。
今か、今かと・・・・・
魔王にとって、勇者の絶望する表情は娯楽の一つなのだ。
最強最悪の魔王・・・・
ボタン・カミザト
魔王もまた、過去に召喚された勇者の一人だ。
地獄の時間がここから始まります。
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