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霧の底へー白淵探索録ー  作者: やはうぇ
エピローグ①
8/21

霧の上で

 ガルーンは仕事小屋の入口に椅子を出して、白淵を見ていた。

三日ぶりに見る霧は——少し、変わっていた。いつもより重く、深いところからゆっくりと動いている気がする。白淵の深い場所では時間の流れが違う、と師匠の師匠の記録に書いてあった。三日が三日として経ったのか、それとも——爺さんはその考えを途中で切り上げた。待つのが自分の仕事だ。

霧の向こうから、何かが近づいてくる。

縄が張ってある。引っ張られている。そして——

崖の縁から、最初に出てきたのは白い尾だった。

次に、銀色に光る左目。

次に、黒い金属の右腕。

全員が岸壁をよじ登って、島の地面に足をつけた。

レナはガルーンのほうを見て、何も言わなかった。言葉が要らなかった。爺さんも何も言わなかった。ただ立ち上がって——足元がふらついた。レナが咄嗟に腕を掴んだ。

「……帰ってきたか」

「帰ってきた」

「怪我は」

「なし」

「分かったか、自分のことが」

レナは少し考えた。

「……半分くらい」

「半分か」

「残りは——また降りて、探す。今度はもっとちゃんと準備して。地図も持ってきた。廃墟の都市の構造図と、根の入口の座標」

ガルーンは受け取った地図を広げて、目を細めた。

震える手が、紙の端をゆっくりなでた。

「……これは、すごいものだ」

「爺さんが作った地図の続きを、埋めてきた」

爺さんは長い間、地図を見ていた。

それから顔を上げて、アシュを見た。

「お前は? 分かったか、自分のことが」

「半分くらいは」

「二人揃って半分か」

「残りは、また降りて、探すつもりです。そのために、ここにいていいですか」

ガルーンは少し考えてから、頷いた。

「物置部屋でよければ」

「十分です」

ノアが仕事小屋の入口に座って、霧を見た。

白淵が、光の粒をふたつ、静かに吐き出した。

ひとつはすぐに霧の中へ消えた。もうひとつは少し長く漂って、朝の光の縁に触れてから、消えた。

レナはそれを見ながら、不思議と、泣きたい気持ちがなかった。

今日はただ——疲れていて、それでいて、どこか軽かった。

白淵がまだ呼んでいる。

でも、今日は答えなくていい。

今日は帰ってきた。それだけで、十分だった。


——第一部 おわり、まだ途中——



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