セイラの兄
根の中に入った。
今回は前回より空間が広く感じた。記録の映像が、より鮮明に浮かんでいた。
音のない世界。ノアの声だけが届く。
「ヴェロに会いに行く前に——セイラの兄の記録を探す」
レナはセイラに向いた。ノアを通じて伝える。
セイラが頷いた。目を閉じた。
「リン・デプスウォーカー」
空間の一角が、ゆっくりと光り始めた。
男性が、霧の中を降りている映像だった。顔がセイラに似ていた。
映像の中のリンが、降りながら何かを呟いていた。口の形が読めた。
「セイラ」と言っていた。
繰り返し、繰り返し。妹の名前を呼びながら、降りていた。
セイラの顔が——音のない空間で、歪んだ。
映像の中のリンが、霧食いを必死でかわしている。一体をかわした。二体目が来た。
リンが霧の中に——消えた。
でも——その後に、別の映像が来た。
霧が、リンを包んでいた。
壊れないように。傷つかないように。
白淵が、守っていた。
「今も、深層にいる」とノアが言った。「止まっている人々の中に」
セイラが——口を大きく開けた。声は出なかった。でも確かに、何かを叫んだ。
それから顔を両手で覆った。
アシュが隣に来て、黒い金属の手をセイラの背中に置いた。
カインが——少し離れたところで、その映像を見ていた。リンが霧の中に消えた映像を。
「帰り道に、必ず寄ります」とレナが言った。ノアを通じてセイラに。「リンを目覚めさせます。必ず」
セイラが顔を上げた。
口の形が「ありがとう」と言っていた。




