三度目の白淵
出発したのは、冬が終わる少し前の朝だった。
修練の成果として、左目の感知距離は七百五十メートルに達していた。ノアが「十分だ」と言った日の翌朝、全員に告げた。
「行きます」
セイラが「やっと」と言った。アシュが頷いた。カインが装備を確認した。
今回は四人と一匹だった。レナ、アシュ、セイラ、カイン、そしてノア。
ガルーンは見送りの時、島の端まで一緒に来た。ゆっくりと、でも来た。
「帰ってこい」
「帰ってきます」
「約束だ」
「約束です」
爺さんは霧を見た。灰色から少しずつ白に変わり始めた、冬の終わりの霧を。
「師匠に会ったら——伝えろ。お前の弟子が、お前の代わりに行った弟子の弟子を育てた、と。そして——白淵の傷を、治しに行った、と」
レナは少し間を置いた。
「……伝えます」
縄を蹴った。
四人と一匹。
白い霧の中に、沈んでいく。
浮遊層は滑らかに通過した。
カインが加わって四人と一匹——動きが変わった。カインの左腕は戦闘向きではないが、方位の精度がアシュより高い。二人の腕が同時に反応すると、互いの誤差を補正し合う。
「アシュ」とカインが言った。降下中、静かに。
「なんですか」
「お前が上に戻ることを拒否した時——私は役目だから来た、と言った」
「覚えています」
「あれは——半分は本当で、半分は嘘だ」
アシュが少し、カインを見た。
「どういう意味ですか」
「役目だから来た、それは本当だ。でも——」
カインが少し間を置いた。
「お前が生きているかどうかを、確かめたかった」
「……」
「起動してから、お前が上に帰ってくるまでの間、私は——」
「待っていたんですか」
「そうだ」
短い沈黙があった。
「ガルトランは私に言っていた。アシュは私の片割れだ、と。左右の腕のどちらが欠けても機能しない。でも——それだけではなかった。お前が白淵の中でどんな経験をしているか、何を見たか、何を感じたか——それを聞きたかった。上から観測するだけでは、見えないものがある」
「それは——感傷ですか」
カインが少し間を置いた。
「そうかもしれない」
「嫌いじゃないですよ」とセイラが後ろから言った。「感傷は」
カインが振り返った。
「聞こえていたか」
「聞こえていました。縄の長さが三メートルしかないので」
カインはそれ以上何も言わなかった。でも——背中が、少し、柔らかくなった気がした。
レナはそれを見ながら、縄を蹴った。先頭で降下を続けた。
五百メートル。廃墟都市の入口。
幻影霧が、今回は最初から濃かった。
「全員、名前を確認する」とノアが言った。「私が聞いたら答えろ。これが習慣になるまで繰り返す」
「レナ・フォグウォーカー、ここにいます」
「アシュ、ここにいます」
「セイラ・デプスウォーカー、います」
カインが少し間を置いた。
「……カイン・スカイリーフ。ここにいる」
「よし」
四人と一匹は廃墟都市に入った。
幻影霧は前回より明らかに濃かった。でも今回は——レナの左目の感知が格段に上がっていたので、幻と現実の境目がはっきり分かった。幻が来たら即座に払う。引きずられない。
セイラが一度、完全に止まった。
「リン」と呟いた。それだけで戻ってきた。
カインが一度、立ち止まった。
何を見ているのか——レナには分からなかった。でも、アシュが無言でカインの隣に立った。それだけで、カインが動き出した。
「ありがとう」とカインが小さく言った。
「私たちは対ですから」とアシュが言った。
広場に着いた。
根の入口の渦が——霧を吸い込む音が、今回は聞こえた。低い、連続した音。前回は無音だったのに。渦の中心から溢れているのは白い光ではなく、薄いオレンジ色の光だった。
「アシュの腕の光と——同じ色ですね」とレナが言った。
「そうだ」とノアが言った。「白淵が——お前たちを待っていた」
四人と一匹は、根の入口に入った。




