カインの告白
十一月の末、カインが降りてきた。
前回より軽装だった。剣を持っていない。左腕の袖が少し長い——前回セイラが指摘した通り、左腕が機械だ。
「約束通り来た」とカインは言った。
「そう」とレナは言った。「話があると言ってたから」
「全員揃えてから話す。今日は——全部、話す」
全員が仕事小屋に集まった。
ガルーンは座ったまま、カインを見た。一度だけ目を細めた。それから「座れ」と言った。カインは素直に座った。
「上の層の話をする」とカインが言った。「白淵の真実の話を。ガルトランが生涯かけて辿り着いた答えを」
全員が静かになった。
「千年前——白淵の深層に、都市があった」
「廃墟都市のこと」とレナが聞いた。
「そうだ。でも、あの都市は単なる都市ではなかった。白淵を研究する、観測施設だった」
「観測施設?」
「白淵は——巨大な生き物だ。根はその神経の集まりだ。あの都市の人間たちは、それを知っていた。千年以上前から、白淵という生き物を観測して、研究していた」
レナはカルロの手記のことを思った。
白淵は傷ついた体が自分の一部を呼び寄せようとしている——。
「その都市が、滅んだんですか」とアシュが聞いた。
「滅んだのではない。事故が起きた」
カインの声が、少し低くなった。
「神経接続実験、とガルトランの記録には書いてある。白淵の神経に直接接続して、白淵の意志を読もうとする実験。それが——失敗した」
「失敗して、どうなったんですか」
「白淵が、重傷を負った」
全員が息を飲んだ。
「神経に直接接続されて、予期しない方法で電気信号が流れ込んだ。白淵の神経が——部分的に壊死した。それが霧の爆発的な増加を引き起こした。霧は白淵の防御反応だ。傷を守るために、白淵は霧を一気に増やした。それが都市を飲み込んで、時間を止めた」
「じゃあ——白淵の霧は、最初からあったわけじゃない?」レナが聞く。
「そうだ。霧が増える前は、白淵の根は地面の下に静かにあった。人々は地上に住んでいた。霧が爆発的に増えてから、都市が沈んで、人々は上へ逃げた」
「子供たちを島へ」
「その通りだ」
レナは守り神のことを思った。壊れた骨格が、丘の上に立っている。
「子供たちを育てた機械が——島にありました。東端の丘に」
カインが、少し目を細めた。
「見つけたか」
「カルロの手記に書いてあって。ガルトランは知ってましたか」
「知っていた。あれは育成装置だ。子供たちを島まで連れてきて、生き延びられるようにするための機械。都市が沈む前に作られた。千年前の子供たちがあの機械に育てられて——それが今の島民の祖先になった」
セイラが低い声で言った。
「……じゃあ、私たちの先祖は全員、白淵の底から逃げてきた子供たちだってこと」レナが聞いた。
「そうだ」
沈黙があった。
ガルーンが口を開いた。
「空の世界は——そのことを千年間、知っていたのか」
「知っていた」
「なぜ教えなかった」
カインが少しの間、黙った。
「教えられなかったんだ。白淵の霧は——電波を拡散する。光信号も消す。どんな通信手段を使っても、霧が吸収して届かない。物理的に降りようとすれば、白淵の防御反応で霧の中に落とされる。千年間、上の世界はここを観測することはできても——連絡することができなかった」
「千年間、見ていただけか」とガルーンが言った。
「そうだ」
「それは……」
ガルーンが言葉を選んでいる。怒りとも、悲しみとも取れる間があった。
「……それは、つらかっただろうな。上の人間たちも」
カインが、わずかに目を伏せた。
「そうだ」とだけ言った。
レナはカインを見た。感情が出にくい顔で、でもその一言に——確かに何かが滲んでいた。
「アシュとカインが作られたのは」とレナが聞いた。「白淵を修復するためですか」
カインがレナを見た。
「……ガルトランの記録にはそう書いてある。白淵の神経修復のために、二つの装置が必要だ、と。アシュが修復装置で、私が制御装置だ」
「二人で対になっている」
「そうだ。アシュの右腕と私の左腕は——対になるように設計されている。二つが揃って、根の中心で起動した時に——白淵の修復プロセスが始まる」
アシュが右腕を見た。
静かに、一度指を折り曲げた。
「……私が作られた目的は、根を見つけることだと思っていました。でも——本当の目的は、根の中心で白淵を修復することだったんですね」
「そうだ」
「なぜ最初から教えなかったんですか」
カインが少し間を置いた。
「ガルトランがそう決めた。修復装置に目的を最初から植え付けると——白淵と本当に繋がれなくなる可能性があると言っていた。自分で感じて、自分で歩いて辿り着かなければ、修復は成立しない、と」
「……白淵は生き物だから」とレナが言った。「機械的に接続するだけでは修復できない」
「そうだ。白淵の神経は——意志に反応する。押しつけられた目的ではなく、本当に白淵と繋がりたいという意志が必要だ」
アシュはしばらく、右腕を見ていた。
「……私は、白淵のことが好きだと思っています」
全員がアシュを見た。
「根の中に入った時から、ずっと。霧が綺麗だと思う。廃墟の光が綺麗だと思う。白淵が記録を覚えているということが、不思議で好きだと思う。それは——目的ではなく、私が感じたことです」
「そうだ」とカインが言った。「それが——必要なものだ」
少し間を置いて、カインは言った。
「アシュ。今なら聞ける。根の中心に、一緒に行くか」
アシュがカインを見た。
「一緒に、ですか」
「私一人では制御装置として機能しない。お前がいなければ修復装置も動かない。二つが揃って初めて、動く。根の中心まで、一緒に行く必要がある」
アシュは少しの間、黙っていた。
「……分かりました」とアシュは言った。「行きます。でも——」
「でも?」
「レナも連れていきます。霧眼がなければ、根の中心への道は開かない」
「分かっている」
「セイラも来ます」
「それはお前たちが決めることだ」
「では、全員で行きます」
カインはアシュを見た。それから、小さく頷いた。
「……そうしよう」




