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止まった時の街

 根の中は——前回と違った。

 白い光の空間は同じだ。記録の映像が浮かんでいるのも同じ。でも——前回触れただけで引き返した時とは、奥行きが全然違う。どこまでも続く感じ、無限の感じ——前回の数倍あった。

 そして、音がない。

 ガルーンが言っていた通り。音が止まっている。足音も、衣擦れも——発しているはずなのに、聞こえない。

 セイラが口を動かした。アシュに何かを言っているが、聞こえない。アシュが首を振った。セイラが頷いた。

 ノアが前に出て、レナの横を歩いた。

 ノアの声は——聞こえた。

「ここでは声が届かない。ただ私の声は白淵の声と同じ性質なので届く。急ぎの伝言は私を通せ」

「分かった。それで——深層は?」

「根の空間の中心を抜けると、深層の入口がある。急ぐな。ここの幻影霧は廃墟都市より遥かに濃い。根の記録に深く入り込みすぎると、出られなくなる」

「どうすれば防げますか」

「名前だ。幻に引き込まれたと感じたら、自分の名前を内側で呼べ。根の中心ではそれが唯一の錨になる」

 レナは周囲の映像を見渡した。

 そして——一つの映像が、特に強く光っていた。

 工房の映像だった。前回アシュが見たのと同じ工房——だが今回は、老人が正面を向いていた。


 アシュが先に気づいた。

 右腕が強く震えて、足が止まった。映像の前で硬直している。

 レナはアシュの腕に触れた。視線で「見る?」と問いかけた。

 アシュが頷いた。

 二人で映像に近づく。

 老人の顔が見えた。白髪。深い皺。でも目だけが若い——先を見ている目。机の上の設計図を前にして、口の形が繰り返し同じことを言っている。

 レナは口の形を読もうとした。懇願するような形で、誰かに向けて。

 映像が揺れた。

 老人の顔が——こちらを向いた。

 映像の人物が、直接こちらを見た。

 老人の目が——アシュを見て、それからレナを見て——その目に、確かに認識の光が宿った。

 口が動いた。

 音のない空間に、白淵の記録の声が直接、頭の中に届いた。

「……探してくれた、のか」

 映像が消えた。

 アシュが膝をついた。レナが支えた。アシュの顔は、いつも通りの表情が薄い顔だったが——左手が震えていた。機械ではない、人間の左手が。

 セイラが近づいてきて、アシュの背中に手を置いた。声は届かない。でも伝わった。

 ノアが静かに言った。

「奥に行け。あの老人の残したもう一つの仕事が、深層にある」



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