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五十六、兄と弟




 がくん、と、階段を踏み外したような感覚の後に、辺りを覆っていた白い霧がざあっと晴れた。

 広隆は真っ暗な山の中に立っていた。戻って来た。

 子供の泣き声が聞こえた。広也の声だ。自分を呼んでいる。

 広隆は声のするほうに駆け出した。

 笹薮をかき分けて進むと、広也の声に混じって、祖父母と光子の声も聞こえて来た。

 薮の中から姿を現した広隆に、四人は安堵の表情で駆け寄って来た。広也は大泣きしながら広隆の膝にかじりついてきた。


「なんで………」


 広也はとっくに家に帰っていると思っていたのに。広隆は呟いた。茂蔵が言った。


「連れて帰ろうとしたんじゃが、「お兄ちゃんがいない」って泣いて泣いて、お兄ちゃんを待ってるってきかんもんでな」


 広隆はしがみついて泣きじゃくる弟の頭をぎゅっと抱きしめた。


「………広也が待っていてくれたから、お兄ちゃん帰ってこれたんだよ」


 広隆の脳裏に、十三才になった広也の姿が焼き付いている。

 いつか、広也も同じ道を辿るのだ。そして、必ず帰ってくるのだ。


(その時は、俺が待つ番だ)


 広隆は元の世界に戻った十三才の広也を、そして、それを出迎えている自分の姿を想像した。


「………ただいま」


 小さな広也を抱きしめて、広隆は言った。






 がくん、と、階段を踏み外したような感覚の後に、辺りを覆っていた白い霧がざあっと晴れた。

 広也は真っ暗な山の中に立っていた。戻って来た。  

 辺りはしんと静まりかえっていた。辺りを見回した広也は、ふと木々の間に小さなあかりがちらちらしているのをみつけた。

 薮をかき分け、木々の間を通り抜けた広也は、懐中電灯を手にこちらを見ている広隆と、その広隆にすがりつくようにして立っている光子をみつけた。


 懐かしさで胸があふれた。広隆は広也を見ると全てをわかっている顔でやさしく笑った。広隆の腕にすがりついている光子は、心細さを隠しもせずに、まるで小さな女の子のように見えた。突然現れた広也に、事情がわからない光子は戸惑っているようだった。


 広隆は広也に向かってほほえみながら、力づけるように光子の肩を抱いた。

 そして、こう言った。


「おかえり」


 広也はあふれてくる涙を抑えて言った。


「ただいま」









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