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9頁目 キダチの森とキダチ村

前回のあらすじ。

さよならバイバイまた会う日まで。


再会するかは未定。

思い付きで物語も旅路もコロコロと変わるので、作者自身、書く前はこうしようと考えていても、いつの間にか脇道に入ったまま突き進んでいます。


友人から「しょこまん」という略称をいただきました。改題しましょうかね?w


同じく友人達からの指摘↓

友人A「五分程度で読める短い小説が定番」

友人B「毎日投稿、出来れば一日二本が理想」

友人C「通勤通学で読む人もいるからね」

友人D「短くして投稿ペース上げれば読む人増えるかもね」

私「じゃあ本文長いんだから分割して投稿すれば解決するんじゃね?」

友人A「地の文しかない回が出てくるから却下」

友人B「無理じゃね?」

友人C「んなわけねー」

友人D「尻尾もふもふー」

私(´・ω・`)


私はお茶漬け好きですが、カレーライスやカツ丼も大好きです。


……感想、お待ちしております。

 夕方に町を出た私はそのまま真っ直ぐ歩き、日が完全に沈む頃に東部のキダチの森へと辿(たど)り着く。

 それ程深い森でもないので、歩き通せば一晩で抜けられるはずだ。また森を抜けた先には村があり、王都からルックカへ向かう行商人達の(いこ)いの場として使われている。

 この周辺にある集落の中でとても大きな町であるルックカは、ドワーフ族と直接の鉱石などの取引を行っていることから、鉱石やその加工品を求めて王都を中心に多くの行商人が隊をなしてやって来る。

 そして、中には商人を通すと高くなることを嫌った冒険者も、安く装備を調(ととの)えられるとルックカへと集まる。それによって、宿屋は(もう)かり食品を扱う店も繁盛(はんじょう)する。

 滞在期間中も、装備を購入したことでお金を減らした冒険者は、滞在中の宿泊費や食費、そして帰りの旅費などを(かせ)ぐべく依頼をこなす。それによって、常に多くの人が利用するギルドであることから依頼を出しても通りやすく、周辺の集落の人々はルックカへと依頼を集中させる。

 こういった良い循環(じゅんかん)から、東西を森に(はさ)まれていて北も荒野が広がるという交通の便が悪くて決して良い立地とは言えない町ながらも、ルックカの経済は発展し今のような大都市とまではいかなくとも、大きな町として成長を()げたのだ。

 そして、今向かっている村も、王都とルックカの中継地点として、多くの人々が行き来することから、村でありながらそれなりに発展している。

 王都と(つな)がる街道であるから森の中でもしっかりと整備されており、馬車が余裕ですれ違うことが出来る程度には道幅も広く、歩きやすい。また鬱蒼(うっそう)と木が()(しげ)った深い森であるエルフの森に比べ、馬車でならば半日もせずに森の反対側へと抜けることが出来、それ程広い森ではない。

 しかし森であり夜の行動は危険であるのは変わらない上、夜間はルックカの門は閉ざされて出入りが出来なくなるので、日が昇っている間に抜けられないと判断されれば、村に泊まって翌朝に森を抜けるというスケジュールが立てられる。

 つまり、夜にわざわざ森に来る物好きはいないということだ。勿体(もったい)ない。

 確かに危険はあるかもしれないが、こうして目の前に広がる光景を見られるのは夜だけだ。

 今、森の中は非常に多くのホタルが飛び回り、森全体がイルミネーションのように輝いていた。暑季の風物詩(ふうぶつし)だ。

 集落を出れば、ほとんど人の手が加えられていない自然が広がるこの世界。空気も()んでおり、水も綺麗(キレイ)。夜には(さえぎ)る光もないおかげで、星空もよく見える。

 機会があれば是非(ぜひ)とも一度は訪れることをオススメする。とはいえ、熟練冒険者であるか、またはその護衛(ごえい)が付いていなければいけないが。


「ホーホーホータル来い♪ あっちのみーずはにーがいぞ♪ こっちのみーずはあーまいぞ♪」


 ホタル飛び()う森の中を、前世の童謡(どうよう)を口ずさみながら歩く。

 夜の森の中を歌いながら歩くというのは、危険もあるが、こんな素晴らしい光景にテンションが上がった私は、上機嫌で先を行く。

 夜の森には時折、夜猛鳥(やもうちょう)が出現することがある。昼間は小飛竜(リヨバーン)闘飛虫(タカトラバッタ)が空を支配し、夜になると夜猛鳥が活動し始める。

 この三ヶ月の間に何度か依頼で、夜間にしか採取(さいしゅ)出来ない特殊な花の蜜を集める為にここキダチの森を訪れて、そのついでに夜猛鳥の生態を観察していたのだ。

 どうせ納品は翌日にならないとルックカの門は開かないし、町とは反対側に位置するキダチ村で宿泊するのも時間とお金が勿体ない。そのことから一晩森の中で過ごすことを選び、ついでに夜の生態観察へと(いそ)しんでいたのであった。

 夜猛鳥。正式名称はカヤラナンス。食性も肉食であるが、食べるのは主にネズミや魚などの小型生物で、縄張りに侵入さえしなければいきなり襲いかかられることもない。だが、間違って踏み入れてしまうと、相手を追い払おうと襲いかかってくる。

 夜の森の中を音もなく静かに飛ぶ為、視界も悪く、音での察知も難しいことから戦うのは非常に面倒くさい。準中型から中型程度の怪物(モンスター)で、(えさ)も小動物が主ということもあり攻撃力はさほどないが、風魔法による吹き飛ばしを行うなどの遠距離戦もこなすことが出来る。

 夜明けまで(ねば)れば全く怖くない相手であるので、遭遇(そうぐう)してしまっても持久戦に持ち込めば、新米でも勝機はある。そこまでスタミナが()つなら新米ではないだろうが。

 しかし、怪物としては小さめである準中型強とはいえ、普通の生物からしたら十分大型であり、餌がネズミなどとは、一体どれだけ食べてその巨体を維持しているのか。謎である。

 また、夜猛鳥という別名、そして生態からフクロウをイメージするが、その姿形はカラスである。いや、カラスとは見た目が大きく異なるのだが、まずその姿を見て連想する鳥がカラスである。

 違いとしては、まずカーカーと鳴かない。耳の良い獣人やエルフがかろうじて聞き取れる程度の高音をその口から発する。超音波とはまた違うものらしく、あくまで遠くの仲間とのやりとりで(もち)いられている。

 その他では、音の出ない羽音(はおと)であるが、もしかしたら羽の仕組みはフクロウと似た作りなのかもしれない。

 見た目も通常のカラスと違い、黒単色ではなく、黒色と紺色(こんいろ)斑模様(まだらもよう)のようになっているが、夜間では黒の一色にしか見えず、明るくなって、しかも近くで見ることでようやく識別(しきべつ)出来る程度である。

 そして大きく異なる部分と言えば、頭部の羽毛と尾羽の長さである。

 頭部の羽毛は、両眼の上からアンテナのように一ファルト程度の長さで伸びており、実際に風向きなどを確認するアンテナとして用いられる。

 尾羽の長さも非常に長く、身体と同じくらいある。よって、頭頂から尾羽の先端までの長さは、準大型怪物に匹敵(ひってき)する。あくまで長さだけだが。

 そうして、ホタルの光に照らされながら、街道を歩くこと数刻。森の出口に差し掛かると、地平線に隣接した空が、(うっす)らと明るくなってきていた。


「ん、朝みたいね」


 森を抜ける頃には太陽は地より顔を出し、熱に(さら)される。


「今日も暑くなりそうね」


 目線を下げれば、少し(くだ)った所にキダチ村があり、夜明けと共に商人が慌ただしく出発の準備をしているのが見えた。


「よし、まずは……朝ご飯ね」


 気分良く一歩目を踏み出し、村へと向かう。


「わぁ(にぎ)わってるわね」


 村に到着すると、行商人や冒険者が荷物や商品をまとめているところであり、非常に賑やかになっていた。そんな馬車の列を横目に、食堂探しをする。だが目に付いた食堂は、護衛の冒険者が急いで食べ進めており満席のようであった。


「うーん、他に食べる所ないのかな」


 キダチ村は、村だけありその規模は当然ルックカよりも非常に小さい。他の村よりもお金の回りが良くて裕福(ゆうふく)ではあるのだが、いざ食堂や宿屋を探そうとなるとどうしても数に限りが出てしまう。

 宿屋の場合は最悪、雑魚寝(ざこね)でも問題ないがおそらく周りはそういう訳にはいかないだろう。まぁその時は野宿だ。タダだし。それに、今日はこの村に泊まる予定はない。まだ早朝だ。明るい内に行ける所まで行こうと思う。

 食堂も見当たらないので、仕方なく保存食に手を出そうと思ったところで、元気そうな馬型獣人のおばちゃんに声を掛けられる。馬型といってもケンタウロスではなく、普通に人型だ。


「どうしたんだいあんた? 腹減ってんのかい? 何ならウチで食べて行きなよ!」


 話し掛けてくれたのは、先程満席で入店を(あきら)めた食堂の給仕さんだった。一人で歩く私に目が()まり、注文を放っておいて店を出て来たらしい。放っておいて良いのかな?


「え、でも良いのですか? 満席じゃ……」

「良いの良いの! ほら入った入った」

「え? あ、はい。じゃあお邪魔します」

「ほらあんた達! 別嬪(べっぴん)さんのお通りだよ! 場所開けな! そこの席、そうあんた達、さっさと行きな! もうすぐあんた達の担当の商隊、もう出発するよ!」


 そう言って、強引に冒険者達を立たせてお金をもらって店から追い出していく。


「さぁ、うるさいとこで申し訳ないけどね! 味は申し分ないよ! ささ、何でも食っていきな!」

「い、いえ、ありがとうございます」

「ちょっと、グレファ! さっきの注文はどうしたい!」

「あ、忘れてたよ! なはははは!」

「笑ってないでさっさと注文通しておくれ!」

「はいよ!」


 私を強引に店へと迎え入れてくれたおばちゃん、グレファと呼ばれた年配の女性は、厨房(ちゅうぼう)の奥からの女性の怒鳴り声に笑いながらも中断していた接客を再開する。それに、厨房の妙齢(みょうれい)の女性も、仕方ないねぇという表情を浮かべ料理へと戻った。


「賑やかな所ね」


 周りの様子を見渡すと、出発直前の朝食ということで非常に混沌(こんとん)としており、(さわ)がしくなっている。そんな中、一人二人とこちらに目を向けては驚いたかのような顔をし、目が合うと慌てて逸らされる。これはどちらの反応だろうか。恥ずかしくて目を逸らしたのか、何かやましいことがあって気まずくて目を逸らしたのか。

 後者に関しては、私はあの冒険者と関わった記憶がないので、恐らくないと思われる。

 毎回のことであるが、この整った容姿のおかげで男性から目を向けられることも多い。別にそれでちやほやされて嬉しいということもないし、逆に(わずら)わしいとも思わない。ナンパだけはちょっと困るが、大体が私よりも弱いのでしつこかったとしても護身術程度でなんとでもなる。

 前世の私はどんな容姿だったのか全く覚えていないが、ここまで注目を浴びるような顔立ちはしていなかったと思う。

 そんなことを考えていた時、グレファさんが注文を聞きに来てくれた。


「さぁ注文を聞くよ。何食べたい? そういやあんたエルフなんだね。珍しいね。あのルックカの反対側の森から来たのかい? 冒険者? 一人かい? どこかのパーティに入っていないのかい? しっかしあんた細いねぇ、ちゃんと食べてるのかい? あーでも、食べても胸に行く人もいるって言うしね。あんたまさにそれだね。こんだけ別嬪さんなら、むさい男共からのお誘いも多いだろう? あたしゃの若い頃もね、それはそれはモテたもんでね」


 注文をする隙がない。これはどうしよう。これがあのおばちゃん特有のマシンガントークという物だろうか。マシンガンがあるか分からないこちらの世界で表現するなら……雨季の雨粒のように止まらないとかだろうか。うーん、言葉を考えるのは難しい。


「グレファ! またかい! さっさと注文取りな! こっちは作りながらでも次の待ってるんだよ! 注文を(とどこお)らせるんじゃないよ!」

「おっと、忘れてた! あんた何にするね?」

「えっと……日替わり定食で」

「そんだけで良いのかい?」

「え? は、はい」

「そんだけで腹(ふく)れるのかい?」

「は、はい、一応、エルフですので……その、元々小食の種族ですので」

「かーっ(うらや)ましいね! あたしゃ、何でもかんでも食べに食べるからね! おかげでこんなに()えちまったよ!」

「グレファ!」

「はいよ! 日替わり一丁!」

「あいよ! じゃあ五番(たく)の食器片付けてきな」

「人使いが荒いねー」

「働け! ユニンもキキドキンもちゃんと働いているじゃないか!」

「あたしゃ賑やか担当なのさ!」

威張(いば)るな! それに賑やかなのはこのむさ苦しい連中だけで十分だよ! これ以上うるさくしないでおくれ!」


 給仕と厨房の言い争いはいつものことなのか、冒険者の人達も笑いながらも「むさ苦しいとはなんだー」とか「俺とか(さわ)やか美男(イケメン)っしょ」と言って抗議(こうぎ)をしてくる。


「うるさい! さっさと食べな! そして出ていきな! ほら、次はあんたんとこの商隊だよ! 美男名乗るんなら時間に遅れるんじゃない! ほらさっさと行った行った!」

「うげっ本当(マジ)か。ユニンさんお会計! おら、お前らも行くぞ」

「あ、待って下さいよ首長(リーダー)!」

「はーい、六トルマですね。そちらは七トルマになります。あ、そちらとそちらは五トルマですね。はい、確かに丁度いただきました。ありがとうございましたー。またのお越しをお待ちしてまーす」


 うん、賑やかだ。

 従業員の様子も眺めていたが、基本男性は村の外で農耕などの仕事をし、女性が村の中で仕事をしていることが多いようだ。もちろん、種族や魔法などで向き不向きがあるので一概(いちがい)には言えないが。


「はいよ三番の(じょう)ちゃんに! 日替わり一丁上がり! キキドキン頼んだ!」

「はい! お待たせー! ささ、ぐぐっとかかっと食べていきな」


 また特徴的な人だ。その擬音(ぎおん)はどういう意味だろうか。この人も、ユニンと呼ばれた人も、いかにもベテラン主婦っぽくて豪快(ごうかい)だ。その筆頭(ひっとう)はもちろんグレファさんであるのだが、厨房を一人で回している猫型獣人の女性も中々面白い人のようだ。

 日替わり定食の内容は、少し硬めの焼きたての丸いパンが二つに、目玉焼きとサラダ、そして豚肉のステーキのようだ。これが日替わりの部分かな。

 しかし、朝からステーキ……いや、ここは冒険者が多く利用する食堂だから、手っ取り早くお腹を満たし、かつエネルギーにもなるからステーキは良い……のだろうか? まぁこの豪快な従業員を抱えた食堂なら問題なさそうが気がする。それに、出来たてで美味しそうだ。早速祈りの儀を(ささ)げてナイフとフォークを手に取る。

 まずはサラダ。レタスとトマト、タマネギを塩と木の実油で混ぜた物で、厳密(げんみつ)には()(もの)な気がするが、店主がサラダと言い張るならサラダなのだろう。材料はサラダだから問題ない。うん。それに美味(おい)しい。

 次に目玉焼き。半熟ではなく、しっかりと中の黄身まで熱を通してある。私は半熟の方が好きだが、これは好みだろう。半熟だと、もしかしたら黄身が飛び散って装備を汚すなんてことをしてしまうかもしれないことからの配慮(はいりょ)だろうか。普通は考えられないが、こうして朝からバタバタしていると、思わぬ所で思わぬ失敗をしてしまうものなのだ。

 そしてパンに手を伸ばす。ルックカで食べるパンよりは固いが、それでも良い小麦を使っているのかとても香ばしくて美味しい。バターやジャムなどの何か塗る物があるとこの硬いパンも食べやすくなると思うが、バターはともかくジャム作りに必要な果物は、この地域ではまだ収穫期に入っていないはずなのでないと思われる。それに、一々パンにバターを塗るのは手間だ。

 普通の朝食なら問題ないのだが、今この時間は冒険者用の食堂だ。ならば、パン生地(きじ)にあらかじめバターを練り込んでおくとか……しかし、それでは作る方も手間だし、何より値段が上がる。少しでも節約したい冒険者にとっては、味は美味しいに越したことないが、何よりも値段が安くてお腹に()まるこれが大事なのである。

 最後に豚肉のステーキへとナイフを入れる。柔らかい。味付けは塩だけのようだ。胡椒(こしょう)は買えないこともないだろうが、食堂で出すには少々ハードルが高い。ちょっとお高めのレストランなどで出てくるイメージだ。

 しっかりと中まで焼かれているのに、柔らかく、噛み切りやすい。口の中で(はじ)ける油が何とも心地よい味わいだ。しつこくなく、かといって物足りないということもない。ステーキに振りかけられた塩と混じることで、ほどよい味付けのソースとなって口の中で広がる。

 気付けば、周りの喧噪(けんそう)は耳に入らず、夢中で食事を楽しんでいた。ただ私はそれ程食べるのが早くないので、普通の人と同じくらいのペースになる程度だ。母よりは食べるのは早いがこれは私が早いのではなく、母がただただ遅すぎるだけなのだ。

 ガラスのコップに手を伸ばし、浄水を口にする。

 この世界では、一部の大都市を(のぞ)いて水道という物は通っておらず、あったとしても蛇口(じゃぐち)(ひね)れば綺麗な水が出るような物ではない。

 近くの山や川などから水の通り道を引っ張ってくるだけの物で、当然衛生的ではない。それらは井戸に()めて不純物を下に沈殿(ちんでん)させ、それから上の綺麗な水だけを取り出し、その後、飲み水や食材を洗ったり煮たりする為に一度煮沸(しゃふつ)して使うことが一般的である。

 見た目()き通った川でも、どんな生き物の糞尿(ふんにょう)死骸(しがい)から出た出汁(だし)が流れ出ているか分かった物ではないので当然ではあるのだが、私自身はハーフエルフとなって長く生きており、そういった人間の習慣から遠ざかった生活を送っていたこともあって……その、そういったことを分かった上で、普通に川の水や雨水を飲むことが出来る。

 エルフ族と言えば高貴そうなイメージを持たれるが、やっていることは狩人で野生児のような原始的な生活なのである。見た目の美しさに(だま)されてはいけないのである。

 食事を楽しんだ私は、お金を支払い店から出た。

 食堂を出ると、到着した時にはまだ薄暗かったこの村も光で照らされていた。

 太陽はすっかり昇っており、村の大通りを占拠(せんきょ)していた長い商隊の列も残り数台の馬車が待機している状態。先程までの喧噪(けんそう)が嘘のように静かになっていた。

 しかし昼頃になると、またここは(にぎ)やかな場所となる。何故(なぜ)なら夜明けと共に出発するのは、キダチ村で待機していた行商人や冒険者だけではないのだ。ルックカからも王都へ鉱石や装備、宝石などを(おろ)すべく商隊がキダチの森を抜けてくる。

 夜のルックカは、門を閉じているので出入りが出来なくなる。また、村との間にはキダチの森もあって夜間の行動は危険。それ(ゆえ)に、中継地点として(もち)いられるこの村の経済は安定している。


「さて、行こうかな」


 この時間、この村に泊まった商隊で王都へ向けて出発する組は非常に少ない。今この時に王都へ向けて出発準備を調(ととの)えているということは、前日の昼前にルックカを出て急いで行進して夕方に村に辿り着いて一泊するという強行スケジュールを()ったということだ。

 計画性がないも言えるし、急な商談、もしくは商談そのものが長引いたなど様々な理由があるだろう。

 それに、行商人だけでなく、私のように冒険者が王都へ行く場合も当然ある。ルックカで装備を受け取り王都へ帰る。もしくは上京など、こちらも色々あるだろう。そういった列に、私も混じってのんびりと王都を目指して歩く。

 この辺りは丘陵(きゅうりょう)地帯で、若干(じゃっかん)起伏(きふく)があるので、積み荷のある馬車は必然ペースが落ちやすい。それを尻目に、(やと)われでない冒険者はスタスタと先へ進む。

 冒険者も商売なのだ。お金を払われれば手伝いはするが、基本ボランティアはしない。本当は手伝いたい気持ちもあるが、一度手を出してしまうと商人というのは厄介(やっかい)なもので、更にタダ働きをさせてくるようになることがある。

 もちろん全員が全員ではないが、それを見分けるのは非常に困難だ。何故(なぜ)なら、政治家の次に相手と腹の探り合いをする職業だ。

 私のようななんちゃって商人を演じていた薬師(くすし)と比べたらいけない。エルフの里での交渉は、私に魔法薬(ポーション)というアドバンテージがあったから成立した戦いであり、それがなくなった途端(とたん)に本でアッサリ高額な買い物をさせられる結果に終わっている。

 よって、下手(へた)に関わらない。これが冒険者の中での暗黙の了解である。

 だが、これとは別に今現在私の頭を悩ませている問題がある。


「ねぇ君、良かったら俺らとパーティ組まねぇか?」

「是非入ってくれよ。こんな男だけのパーティじゃあ(はな)がない」

「それはこっちの台詞(せりふ)でもあるが、同意だ。つまり是非(ぜひ)とも入って欲しい」


 ナンパである。

 五人の男性パーティに道を進みながら言い寄られている。目的地が同じということもあってか、一向に離れる気配がない。私は無視し続けているが、周りを囲まれてあの手この手と言葉を(かざ)っては勧誘(かんゆう)してくる。

 これには流石(さすが)に困った。囲まれてはいるが、直接手を出されている訳でもなく、ただひたすら声を掛けてくるだけ。

 以前()ったナンパは、どれも断り続けたら最終的に暴力に訴えてきたので実力行使で黙らせた。しかし、かれこれもう半刻。一応、拒否の意思をはっきりと口にしたのだが、それでも長いことこうして食い下がってくる。その情熱をもう少し別の所で生かせない物なのだろうか。

 異性に興味がない訳ではないが、私の旅の目的からして不要な存在である。まぁいずれ夫婦(めおと)になる相手が現れると良いな程度には思っているが……

 それにしても、逃げられないようにと囲んでいるのだろうが、無詠唱雷魔法が撃てる私からしたら、自身の周りに放電するだけで解決するのだから問題ない。ただ、こちらからやってしまうと正当防衛が成立しないという点で頭を悩ませているのだ。


「はぁ……」


 溜め息が出るのも仕方ないこと。しかも、それでも心を折られないのか、果敢(かかん)にも挑んでくる男達。この場合、お伽噺(とぎばなし)などなら、イケメン騎士に助けられるとかあるのだろうが今の私からしたら逆に地雷である。

 やはりここは持久戦しかないようだ。昼、夜と食事や休息を(はさ)まなければ、大体の種族は満足に活動出来ないし、夜は基本交代制で見張りを立てて寝る。私は一昨日寝たので、問題なく一切の休みなくぶっ通しで明日の夜まで歩ける。仮に昼休憩を挟まなかったとしても、夜まで抜く訳にはいかないはずだ。そうなれば私の独走状態で間違いなしである。


「はぁ……」


 後、半日は一緒なのか。長いな。

 心の中でぼやいていると、何やら嫌な気配がして、素早く腰の弓に手を伸ばして警戒の(かま)えを取る。

 突然の私の行動に、私を囲んでいた冒険者や、後ろから付いてきていた行商人とその護衛(ごえい)の冒険者達は驚き、怪訝(けげん)な表情を浮かべる。そして、私を囲んでいた五人の冒険者の内の一人が怒ったように声を荒げる。


「おい、何だよ! 俺らがせっかく優しく接していたのにその態度はよ!」

「ほ、本当だよ。こっちは声を掛けてただけだっての、それで武器出されちゃ、こっちも黙ってねぇぜ!」


 そんな男達の言葉には耳を貸さず、この嫌な気配の出所(でどころ)を探る。

 すると、(かす)かにだが何か重そうな音……羽音(はおと)と思われるものをキャッチした。目視でも確認出来ないかキョロキョロと見渡していると、遠くに(うっす)らと影のようなものが見えた。

 それは速いスピードでこちらへと接近してきている。通り過ぎるだけか、それともこちらが狙いか……いや、違う。微妙にズレる。これは……と予測進路から目的地へと目を向けようとして、驚愕(きょうがく)した。


「まさか!」

「お、おい! 一体何なんだよ!」

「おいこら、無視すんじゃねぇ!」


 周囲の怒号を無視し、囲いから飛び出して後方を少し遅れて進む商隊へ駆け寄る。


「止まって下さい! それと冒険者は協力して下さい!」

「なんじゃ突然! 危ないだろ!」

「危ないのはこれからです! 急いで準備を、出来るだけ馬車は一カ所に集めて下さい! まさか、こんな所であいつが来るなんて……」

「一体、何が起こっているんだ!」


 商人達が慌てて馬車を止め、私を怒鳴(どな)り散らしてくる。それによって護衛の冒険者も、何事かと私の周りへと集まってくる。


「今すぐ私を護衛に雇って下さい!」


 タダは駄目だ。下に見られてしまう。ここは急ぎでも契約を結んで対等の関係にならなければならない。でなければ、彼らを守ることが出来ない。別に彼らを見捨てて逃げれば、少なくとも相手の目的が商隊であると予想出来る以上、私は安全に逃げることが出来る。だが、それでは私自身を許せない。


「急いで! 契約期間は今から一刻。金額は一キユで良いです!」

「一体、どういうことなんだね?」

「早く!」


 つい声を荒げてしまうのも仕方ない。今、こちらに接近している存在はとてつもない物だ。


「早くしないと」


 言葉を切ったところで、他の冒険者も段々と近付いてくる音に気付いたのか、周囲を見渡し始めが、私が空を指差したことで、視線が一点に集中する。指し示す先の影を見た彼らは驚愕の表情を浮かべた。

 それは高度を落として、私達から少し離れた場所に着地した。そして、その巨体に違わない大きな咆哮(ほうこう)を上げてこちらを(にら)んできた。

 大型怪物、ジャンドラナ。またの名を鉄火竜(てっかりゅう)。山に住むはずの存在が今、目の前で敵意を向けてきていた。

【国】

 ジスト王国

【土地】

 キダチの森

【気候】

 暖季、暑季、乾季、寒季の四季があり、暖季と暑季の間には雨期がある

 寒季には雪が積もるが、年中葉を着けている木々が多いので、街道が雪で埋まることは少ないが、稀に大雪で通行止めになることもある

【生物】

 暖季から乾季に掛けて小飛竜(しょうひりゅう)の縄張りとなり、暑季に入ると闘飛虫(とうひちゅう)も北上してくる

 年中姿を見かける主な怪物(モンスター)は、昼間は掘削鳥(くっさくちょう)、夜は夜猛鳥(やもうちょう)くらいだろう

 大型怪物の生息は確認されていないが、年二回、足蹴鳥(あしげちょう)がキダチの森とルックカの間を繋ぐ東西に延びる街道を、南北に横断する為、その群れを狙って現れる可能性はあることから、注意すべし

 動物はクマやイノシシ、シカ、タカ、ウマといった中型から大型に分類される動物が生息し、怪物を除く動物界の生態系の上位に位置している

 その他の動物は、ウサギ、ネズミ、リス、キツネ、タヌキ、イヌ、ネコなどが。また虫は、ホタル、ハチ、チョウ、バッタ、カマキリ、ゴキブリ、クモなどの多くの種類の動物(節足動物(せっそくどうぶつ)環形動物(かんけいどうぶつ)なども含む)が生息している

【植物】

 寒季でも葉を落とさない木が多い

 魔法薬(ポーション)の素材としては並。頑張って探して低級の上位程度までの薬草やキノコの類が、数多く採取出来る

 夜にのみ開花するリュシオリスが多く自生している森として、周辺に拠点を置く素材屋からは知られている

【備考】

 いくつもの小川が流れており、その水質も良好なことから、暑季を通して、夜にはホタルの群れを見ることが出来る。特に新月の晴れた晩に見るその光景は、まさに圧巻。鑑賞の際は、是非とも腕の立つ冒険者同行の元、訪れてみてもらいたい。夜には夜猛鳥が出るので、十分注意されたし

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