10頁目 鉄火竜と雷魔法
前回のあらすじ。
森を抜けたら村だった。そしてデカイのが登場。
今回、初めて主人公が魔法を使った戦闘をします。
深夜のテンションで書くと、余計千鳥足に……まぁいいかで済ませるいい加減な作者。
この話で累計一〇万文字達成。やったね。
文字数はあっても全然話が進まない不思議。
私達の目の前で威嚇しているのは鉄火竜ジャンドラナ。大型怪物で飛竜種に分類される。鉱石を餌とすることから火山などの山岳地帯に住むことが多い怪物で、こんな丘陵地帯で現れるような飛竜ではない。
「何でコイツがここにいるんだよ! コイツの住処は山じゃねぇのかよ!」
「いるのだから仕方ありません。で? 私を雇いますか?」
護衛の一人が取り乱しているのを軽くいなし、商隊のリーダーへ振り返らずにもう一度聞く。その視線の先には、一歩一歩と地鳴りを響かせながら近付いてくる。こちらを警戒しているのか、すぐに馬車を襲う様子はなく、臨戦態勢を整えている状態だ。
「わ、分かった! い、いち、キユ……だな? 雇う! だ、だから、助けてくれ」
「大丈夫ですよ。鉄火竜の狙いは馬車の積み荷です。アレにはルックカからの鉱石が積んであるんですよね?」
「あ、あぁ、そうだ」
「分かりました。では、これ持っていて下さい……持ち逃げしないで下さないね」
リュックサックを降ろし戦闘開始。私の雰囲気が変わったのを感じ取ったのか、鉄火竜は咆哮を上げながらドシンドシンと一気に近付いてきた。
私はまず牽制すべく雷魔法を撃ち、足下の地面に含まれている水分を電気分解する。そこにすかさず弓を構えて矢を放つ。矢は鉄火竜の足の鱗を掠り火花が散った。その瞬間、大きな音を立てて地面が爆発する。その音と衝撃に驚いたのか、ジャンドラナはバランスを崩して転倒した。
「鉄火竜の狙いは、あくまで馬車の積み荷で、それを邪魔する者は排除しようということです。ですから最悪積み荷を捨てて逃げることを考慮して下さい。そうすれば少なくとも命は助かります。命あってこそです」
そう言葉を続けながら、次の魔法を発動する。鉄火竜の周囲に雷が格子状に編まれ、鳥籠のように囲ってしまう。
「護衛さん達は、もしもの時があれば、商人さん達を誘導して避難して下さいね」
護衛の冒険者達に指示を出しながら、矢を番え、矢の先端に雷を付与する。そして相手の頭部目掛けて放つ。矢は格子状の雷の隙間を通って、転倒から立ち上がろうと姿勢を直していた鉄火竜に命中する。
刺さることはなく、あくまで先端が接触しただけだ。しかしその瞬間、周囲を囲っていた雷の檻が一気に矢に集中して落雷する。
「それと、あなた達は別に雇われている訳ではありませんから、逃げても大丈夫ですよ。もし手伝う気があるのでしたら、邪魔にならないようにお願いします」
落雷による爆音の中、先程まで自身をナンパしてきていた男性五人組冒険者に向かって忠告するが、視線は鉄火竜に固定されたままで動く様子はない。
商隊は守るが、あなた方も守るつもりはないので自衛はして欲しい。
今の頭部集中落雷によって、一時的に意識を飛ばしたようだがそれも一瞬に過ぎなく、すぐに体勢を整えて私を睨み付けてくる。本格的に私を敵と認識したようだ。
「今更遅いよ」
雷魔法を自身に付与し、一時的に脚力を増強する。
脳から身体各部への伝達信号は、神経に乗って行われる。この信号は電気信号であるので、雷魔法を応用して、一時的に脳の伝達情報を雷魔法によって制御し、リミッターを少し外した状態にしたのだ。
地を蹴り、わずかな間に鉄火竜の左側側面へと回り込む。
同時に矢を三本、空に向かって撃ち出した。そして今度は雷魔法を地面に走らせて、鉄火竜を中心に魔法陣を描いていく。円形の陣の周りにいくつか幾何学的模様が刻まれ、更にその内側に正三角形と呪文を刻んでいった。
一瞬私の姿を見失っていた相手は、すぐにこちらに頭を向け、口を開けて炎を吐き出そうとしたその時、空から落ちてきた矢が、魔法陣の正三角形の三点の頂点へと突き刺さり魔法が発動する。
「昇雷」
本来自然で発生する雷は、空から地面へと落ちてくるもの。それを魔法陣で反転し、逆に雷を空へと撃ち出す陣を描いたのだ。その衝撃で後方へと十数ファルト飛ばされ、再び地面へと倒れる。
しかしタフだ。これだけ攻撃を仕掛けているのに、相手には傷らしい傷を負わせることが出来ていない。流石の頑丈さに呆れてしまうが、手を抜いたりはしない。
矢の数は有限だし、出来れば狙撃銃は使いたくない。短剣や投げナイフは効果が薄い。もっと威力の高い魔法をぶつける必要がある。
この世界の考え方では魔法の発展に限界があるが、前世で漫画やアニメ、ゲームを通して、様々な応用や技を見てきた私は、まだまだ魔法は伸びると確信している。
「それじゃあ、まだまだ行くよ」
細々と雷を放ちながら移動し、観察する。
大型怪物に分類されるが、その中でも一際大きい部類に入る鉄火竜。大型の更に上である超大型には届かないが、それでも見上げる程の大きさ、そして小飛竜を鉄のような硬さとするなら、コイツはまさに鉄。いや、鉄以上の頑丈さを誇る。
ただ堅いだけなら衝撃で砕くことも出来るが、鉄火竜の鎧と言える鱗は、鍛えられた鋼のように粘りがあるので、中々攻撃が通りにくくて面倒くさい。
その硬さは鱗だけじゃなく、鉱石を食べるだけあってアゴの力、そして歯の硬さも異常である。噛み付き攻撃をしてきた例は聞いたことがないが、警戒しておくに越したことはない。
そもそも接近戦の武器の悉くが通用しないのだ。もっと鍛えられた肉体と武器を持った冒険者なら可能かもしれないが、私では無理だ。だからエルフの特長である魔法で何とかしてみせる。外側がダメなら内側ということで、何度も筋肉や神経の部分部分を麻痺させるが効果が薄いのだろう。一時的に動きが止まるか、もしくは鈍くなるも、しばらくすると回復したのかまた元気に暴れ回っている。
鉱石を食べ、その成分を鎧のような鱗に反映させるので全身を鎧で覆われた騎士のような飛竜であるが、その分重く地上での移動は鈍足である。
飛び上がりと飛行の加速も鈍重であるが、最高速度は意外と速く、その硬さと重さを利用した体当たりを行った暁には、たちまちに地面にクレーターが出来上がる。
目の前の個体の全身は赤っぽい鈍色に輝いているが、これは食べる鉱石や山の環境などによって色が変わる。現に私の父の形見である鉄火竜のコートは、深緑色をしている。
このガッチガチの硬さから、どのように加工したら頑丈さを維持しつつもこんなに軽く柔らかいコートへと作り替えることが出来るのか、本当に熟練の鍛冶屋は訳が分からない。錬金術ですと言われた方が納得出来る。
鎧のような鱗は所々でトゲになっており、体当たりの際には多大な被害をもたらすことが出来る。転がった際のスパイク代わりとして用いられることもあるらしい。地面や岩などを削り発掘した鉱石を食べる為に、鼻の上にはサイのような非常に立派な角が付いている。
というかサイである。もちろんサイとは似ても似つかない。前足はなく自身の全高を超える程の大きな羽や、身体の半分はある長く大きな尻尾がそうだ。しかし特徴や部位を見ていくと、サイを連想させるような部分があるというだけだ。
首は短く全体的にずんぐりとした体格だったり、鉱石を食べる為に進化した口は岩を削り取って食べられるように平べったくなっていたり、鼻の上の角であったりと進化の過程などは全く違うが、似たような方向性で進化していることを考えれば似ていると言えば似ている……と言えるのかもしれない。
非常に高い防御力のおかげで、生半可な攻撃は通用しない。だが一方で素早さは低く、攻撃を仕掛けても反応が鈍いことがある。攻撃力は、その防御力を生かした体当たりや、長い尻尾の振り回しは、非常に脅威である。
また火山地帯で過ごすことが多いことから、熱を体内に溜め込むことが出来るように進化しており、その熱を放出する時には、口から炎を吐くが、幼い個体は失敗することがあり、口元で爆発を起こすこともあるらしい。ただ顔周りが特に頑丈なので大したダメージは受けず、そこからまともに炎を吐けるように練習をするのだという。
「雷紐」
稲妻を発生と同時に細長く紐のようにまとめ、鞭みたく振って鉄火竜の身体を巻き付ける。そして、そのまま稲妻を操って相手を引っ張って、無理矢理転ばせる。
「重いっ」
魔法で操っているだけなのだが、まるで自分で綱引きをしているような重みを感じた。
「砲電」
今度は雷を手から撃ち出して、倒れた鉄火竜の頭部へぶつける。
ずっとこの繰り返しだ。相手の行動を制限しつつ、頭部へのダメージを蓄積させていく。
狙いは、相手の脳や神経を焼き切ることだ。外傷による討伐が狙えないなら、内部から崩す。どんなに強い相手でも弱点はある。全く弱点がないというものは存在しない。生きている以上、苦手や弱点というのはあるものだ。
当然、他にも攻略の手段はある。
ただ単純に防御の上から叩ける攻撃力があれば、それを大いに振るえば良い。砕くのではなく貫通する力があれば内臓を傷付け重傷を負わせられる。斬鉄剣という剣か、もしくは実力があれば切り裂くことも可能だろう。
射撃にしても、今私が背負っているライフルを使用すれば、貫通させることは出来るかもしれない。その穴目掛けて雷魔法を放てば、確実に弱らせることが出来ると思う。それをしないのは、弾が勿体ないという、ケチ臭い部分が出ているだけだ。後は意地。
魔法も私のような雷魔法は特に攻撃力が高いはずなのだが、今回の鉄火竜にはあまり効いていない。
相手は、元々火山などに住む怪物である為、耐火性、耐熱性は抜群だが耐雷性もあるのだろうか。多少痺れはするものの、少し時間をおけば復活し、何事もないかのように動いている。仮に耐性があったとしてもこれだけ攻撃を繰り返せば、電熱により多少の火傷を負わせることが出来るはずだが……
最初に地面を爆発させた時も、あの巨体をわずかながら浮かせる程の威力を発揮したにも関わらず、足を負傷させることすらも出来ていない。実際に防具として活用しているので知ってはいるが、やはりその非常に高い物理耐性も厄介だ。
当初の目標では一刻以内としたが、この調子ではどれだけ時間を掛けても倒せない可能性がある。相手の動きは遅いので、こちらが攻撃を受けることはほぼない。そもそも攻撃する暇を与えないように、今こうして連続で魔法を撃っているのだ。
いっそのこと討伐ではなく撃退に目標を変更してみるかと考えるも、餌が目の前にあり、私という障害を排除出来れば食べ物にありつけるという状態で、果たして逃げることを選択してくれるだろうか。
となると、やはり討伐しかない。本来なら他の冒険者にも協力を仰ぐのだが、護衛の冒険者は、あくまで依頼主を守る為の行動をすることに専念させているし、仮に攻撃に回ったところで、有効な手段があるとは思えない。武器や防具などを見た限りの感想である。魔法はどのようなものがあるのか分からないが、有効手段を提案してこない辺り、ないのか、あっても相性の悪い私の魔法よりも威力が低くて期待出来ないのか。
ナンパ組は、そもそも雇われている訳じゃないので論外。というか何故まだいるのか。
「さて、考えるか」
これまでの戦闘から、遠距離による足止めと、一時的な行動不能は実現出来ている。しかし、決定打がなくズルズルと長引いている。
「ゼロ距離で高威力の魔法を撃てば、耐熱性を貫通出来るのでは」
実に脳筋的な発想であることは自覚しているが、遠距離戦で既に半刻弱経っており、このまま続けても決着は付かないと思われる。よって、多少強引にも突破口を自らの手で切り開く必要があり、その手段ことが接近戦であるという結論に至ったのだ。
「狙いは頭部。一気に決めるよ」
そう呟いてから弓をしまう。そして右手を開いた状態で突き出し、手の平の上に球状の雷を発生させる。邪魔にならないようコートは腕まくりしておく。
「圧縮、生成、圧縮、生成、圧縮、生成、圧縮……」
左手では、無詠唱による牽制の魔法を放ちつつ、右手の雷玉は、圧縮されて小さくなった上にまた玉を覆うように新たな雷が生成され、それごと圧縮されてから、また生成するをひたすら繰り返す。
「こんな感じかな」
それは、今にも爆発しそうな程、激しくバチバチと鳴る雷の塊であった。それから目標を見据え、一気に駆け出す。
先程の身体強化の真似事よりも更に無理矢理制御を行って、身体の限界の速度に達する。それと同時に、右手の雷の塊をあらゆる方向へと回転させる。かの有名な漫画に登場した、二つの技の融合である。
「十雷丸!」
鉄火竜が反応することが出来ない速度で、左から一気に距離を詰めて、その勢いを保ったまま右手を頭部に押し付けた。まるで掘削ドリルのように、表面装甲を削り、穴を開けていく。ほとんど抵抗なく行われ、右腕を深く突っ込んだ。
「解放!」
鉄火竜の頭部を貫いた状態のままで唱えた瞬間、内部で圧縮に圧縮を重ねた雷の塊が一気に膨張し、まるで爆発したかのように拡散する。
その瞬間に、私は右腕で穴を塞いで爆発エネルギーを効率良く拡散させようと試みるも、一瞬で吹き飛ばされて地面へと倒れた。右腕を見ると、どうにか指などは繋がっているが、肉が剥がれて骨が見えていたり骨折していたり、また右腕全体が大火傷を負うなど凄惨な状態であった。
私は、寝転がりながらかろうじて動く左手で魔法薬の瓶の蓋を外し、一気に飲む。そしてもう一本を開け、今度は右腕へと振り掛け、回復魔法を使用する。
見た目だけなら右腕のみの負傷であるが、接近する為に、かなり四肢に負担を強いており、それによる靱帯の損傷なども見られたことで、今回大盤振る舞いでの回復祭りである。
右腕含めて全身の傷口が塞がり、骨折なども綺麗にくっついたことを確認すると立ち上がり、身体の状態を確かめていく。
右手に付けていた革製の手袋は焼け落ちてしまい、見る影もない。鉄火竜のコートを着ていなければ、民族衣装まで被害が及んでいたかもしれない。いや、この衣装は強力な魔法耐性の術式が編み込まれているのできっと大丈夫なはずだ。しかし、腕を突っ込む際に腕まくりをしてしまったので、右手の被害はひどい物だった。
生身の状態でもエルフの血を引いているので魔法耐性はそこそこ高いはずなのだが、それでもこの大怪我とは想定外の威力である。鉄火竜も力尽きる訳だ。
脳だけでなく、おそらく頭蓋骨の中身が全てバラバラに吹っ飛び、シェイクのようになっていると予想する。うん、考えるだけでおぞましい。
そもそも私がやったことは、田舎の小学生男子がカエルの口に爆竹を突っ込んで爆発させるという、非常に道徳的にも倫理的にも問題がある遊びの規模を大きくしたようなものだ。こちらは命が掛かっていたので、許してもらえると助かる。誰に許しを請うたのかは不明だ。
立ち上がった際は、気にならなかったが、いざ歩き出すと出血の影響か、微妙にふらつくのでまた地面に腰を下ろして、回復するのを待つ。
すると、遠巻きに見ていた冒険者達が、私の所へ駆け寄ってくるのが見えた。
「おい! 大丈夫か!」
「ん、大丈夫ですよ。魔法薬と魔法で回復しましたので、今は体力が戻るのを待っているところです」
「そ、そうか」
「しかし、護衛さんはともかくとして、何であなた方は逃げなかったんですか?」
座っているだけでは暇だったので、戦っている最中に浮かんだ疑問をぶつけてみる。
「いや、本当はあんたを守ろうと思っていたんだが、情けないことに、鉄火竜の迫力で動けなくてね。その後のあんたの戦いも凄まじくて、とても俺達程度じゃ手が出せないと思って……それでも逃げるというのは、男のすることじゃねぇし……」
どうやら、根から悪い人達ではなさそうだ。ナンパ集団であるが。
「そうですか。お気遣いどうもありがとうございます」
口ではお礼を言いつつも、突き放すような態度で周りを見渡す。先程の戦闘から近付きがたくなってしまったのか、皆私の所へ集まってきているが、先程までよりも明らかに距離を開けているのが分かる。
そんな違いなど興味のない私は、体力が回復したことを確かめる為に立ち上がり、荷物を取りに商隊の元まで歩く。
「あー髪汚れちゃったなー」
母からもらった自慢の金髪が、戦闘や地面に倒れたり流血したりで汚れているだろうと思うが、毛先の方は見えるが全体を見ることが出来ないので、ちゃんと汚れを落とすことが出来ているか分からない。
ただ、手で梳く限り所々引っかかりを覚えるので、その辺りに血が固まっているのだろう。近くに川があれば、街道からそれて水浴びに行くのも良いかもしれない。
「荷物の確認を行います」
商隊に預けたリュックサックを受け取り、中身を検分していく。良かった。ちゃんと全部ある。下着とかは盗られてもまぁいいかで済ませることが出来るが、本や薬草、魔法薬作成用の道具などが盗まれてしまったら、非常に困る。
「ありがとうございます。それと護衛費として一キユ。お願いします」
「あ、あぁ、ほら一キユだ」
「確かに。では私は失礼します」
そう言って立ち去ろうとした所で、商人のおじさんから話し掛けられる。
「お、おい、あんたまた継続して護衛しないか? 依頼料なら出す。なんなら王都までだけじゃなく、正式に護衛としてウチの商会で働かないか? あんたの強さと、その……」
看板代わりかな? まぁ答えは決まっている。
「申し訳ないですが、私にはやることがあります。誰かの所でずっと仕えるつもりも所属するつもりもありません。ただ、冒険者としての活動はしていますので、今回のような緊急事態でなければ、ギルドで依頼を受注させていただくことがあるかもしれませんね」
荷物を受け取った私は剥ぎ取り用のナイフを手に、倒した鉄火竜の元へ向かう。その際に周りの冒険者にも声を掛ける。
「一緒に剥ぎ取りましょう。これだけ大きいので、私一人で取り切れませんし、そもそも運べません。商人に売ればそれなりの値段になるでしょうから、旅費にもなります」
「そうだな。よし、お前らやるぞ!」
「おおー!」
鎧のような鱗の下にも頑丈な皮膚があるので、剥ぎ取りは中々に難航した。だが頭部の中以外はほとんど傷もなく、上質な素材がいっぱいなので、皆頑張って作業をしている。頭部は誰が解体するのだろうか。私なのかな? 犯人私だし。
そうやって一刻。ようやく全ての解体が終わり、仕分けも終了する。
「さて、終わりましたが、これ馬車に乗りますかね?」
「肉や内臓を乗せなければ問題ないな。それでも全部は無理だが、良い部位を優先して乗せて、余った物を君達で分けてくれ」
商人と内訳を話し合いながら、鉄火竜の肉や骨、内臓を放置は勿体ないと思う。骨は使えそうな部位は出来るだけ回収しよう。肉はマグロのトロのような味がして美味しいと聞く。食べている物や見た目からは全く想像出来ないが、とにかく美味しいらしいので是非とも食べてみたい。
内臓を仕分けしている時に思ったが、鉄火竜は炎を吐くとはいえ火炎袋などがある訳ではないらしい。筋肉に熱を蓄え、炎を吐く時に気管に熱を集めて酸素を送り込み、燃やしてから口から発射される仕組みらしい。
熱を蓄える仕組みがあると言われていたが、火炎袋がないと分かった時、魔法で炎を出しているのかとも思った。しかし解体を進めていく内に、そのメカニズムを理解してなるほどと感心してしまった。
積み込み作業も終わり、そろそろ出発しようかという時、私はそれを引き留める。
「せっかくの鉄火竜の肉を残していくのは勿体ないので、今ここで食べていきませんか?」
「俺は良いが、あんた達はどうする?」
「そういえば、お昼まだだったな。じゃあ食べるか」
護衛冒険者のリーダーらしき男性が、パーティメンバーや依頼者の商人達に確認を取っている間にナンパ組は既に行動を開始していた。
肉の解体と、調理セットを出して手際よく料理をしていく。お、胡椒。もしかしてそこそこ稼いでいる冒険者なのだろうか。ナンパしつこかったけど、それなりに腕は立つかもしれない。
解体の際に、血抜きは既に終えているので、臭みは感じない。それを冒険者の一人が水魔法で軽く洗い、一口サイズに切っていく。
まずは刺身だ。商人さんが持っていた醤油をお借りして、皆で味わう。
「うお! うめー!」
「これは美味しいな」
「んだんだ」
「鉄火竜なんて食うの初めてだ」
「美味いとは聞いていたが、ここまで美味いとは」
それぞれ感想が飛び交う中、私は一人黙々と食べていたが、心中では皆と同じ感想であった。初めて食べる味であるが懐かしい味。
しかし、生前はインスタントか栄養食品しかまともに口にしていなかったと思うので、それよりも更に前……未成年の頃だろうか……うん、初めての味だ。ただ、元が日本人であるから懐かしい味と感じたということにしておこう。
前世はそんな生活を、そして今世もほぼ素材の味そのまま食べるという生活をしているからか、私の家事能力は壊滅的だ。特に料理は無理だ。切って火にかける程度なら出来るが、細かい味付けや、炒める煮る揚げる等々の熱を通す手段、そして包丁での切り方などもサッパリである。一方でナイフを使って解体する技術は上がっている。女子力とは。
他の人が何切れも食している中、私は一切れをジックリと味わっていた。朝食を食べてしまっているので、これで十分だ。いや、この後に炙りやステーキを作るという。ステーキは流石に入らないので、炙りを一切れ頂くことにしよう。
「エルフさんはそんだけで良いのか?」
「えぇ、私達の種族は元々小食で、朝さえ食べれば、その日は食べなくても全然問題ないので。もうこれだけでも、ちょっとお腹が……」
「ほぅ、それは羨ましいと思うが、これだけ美味いもんをいっぱい食べられないのは勿体ないとも思うな」
商隊のリーダーさんと話していたら、別の商人さんも話に加わり、名前を聞いてきた。
「ところでエルフの姉ちゃん、名前を聞いていなかったが聞いても良いか?」
「構いませんよ。フレンシアです」
「フレンシアか、良い名だな」
「ありがとうございます」
名を名乗ったら、一〇年前の黒歴史と繋がる勘の良い古株の冒険者が、ルックカには何人かいたが、流石に若い冒険者やただの商人にまではそこまで名が知られていないようで、ただ単に私の名前を知ることが出来てラッキーとか言っている人もいる。
「しかし、魔法すごいな。雷魔法……だよな?」
「えぇ、そうですよ」
「雷魔法ってあんなに種類あったのか? 何か、知らない魔法を沢山撃ってたぞ。というか無詠唱出来るのか」
「そりゃエルフだからじゃねぇのか? 魔力高い種族なんだから」
「偏見ですね。私だって努力をしたんです。ただ、寿命が長いので一〇〇年弱も修行出来たというだけです」
しかし、ただ闇雲に練習しただけでは駄目である。発想やひらめき、想像力、後は解釈の仕方を変えるのも必要な場合もあるのだ。ただ、私の場合はオリジナルで組み上げた魔法も少なくないが、その基盤には前世のサブカルチャーの存在が大きく影響していることは否定しない。
魔法陣が良い例だ。
魔法陣を用いた魔法を使用するのに、わざわざ別の魔法で陣を描くというのは中々しないことだと思う。イメージ通りに雷を操るのも、それを無詠唱で行うのも、そして正確に描くのもどれも非常に難しいことだ。しかしそれを身に付けたからと言って何が得をするかと言えば、私の場合は面倒臭い呪文の詠唱破棄をするのに使う。
本来の詠唱破棄は、あらかじめ秘薬や呪具などの道具を用いたり、簡易儀式などの行為を行ったりすることで、詠唱という手順を飛ばす物であるのだが、私の場合はそれを、直接魔法陣を描くことで省略している。
元が面倒で長い呪文なのだが、その分、強力な魔法を放てるので利点はある。地面だけでなく、空中にも描くことも出来るので結構幅があるが、身に付けるまでがすごく面倒くさくて集中力が必要なので道のりは長い。
普通に道具に頼っても良いのだが、かさばったりして荷物になるし何よりお金がかかる。貧乏ではないが、ケチ臭い性分であるので、努力で節約出来るならしておきたい。お金は、楽しんだりする時に思いっ切り使う物である。
現在は詠唱破棄や簡易詠唱に頼っている物も、いずれは無詠唱で行えるようになりたい。今後も修行が必要ということだ。先は長い。
「うへぇ、俺達人間じゃあ無理な修行だな」
「人間や獣人の方が成長は早いので、ひらめきとか努力の内容、密度の問題かと思います。私もエルフの中では早い方だとは思いますが」
「ふーん。普通のエルフだとそんくらいになるにはどれくらい修行が必要なんだ?」
「さぁ? 分かりません。そもそもエルフの数自体が少ないですし、私のような子供はここ二〇〇年産まれていないらしいですし」
「ちょっと待て、お前さんいくつだ?」
「女性に年齢を聞くのは失礼ですよ。まぁ二〇〇歳未満とだけ言っておきます。これでもまだまだ成人して少し経っただけの子供です。あ、成人してるので大人ですね」
「俺達より年上かよ……」
「年増……」
「ちょっと、それは聞き捨てなりませんね。エルフは成長が遅いのです。人間に換算すると大体二〇歳以下か未満ですよ」
「そう聞くと若いな」
「そうか? 成人超えて数年してるってことだろ? 結局年増じゃん」
「お前、幼女趣味かよ」
「なっ! んな訳ないだろ! 俺はだな……」
「あーはいはい、こっち来んじゃねぇ、そっちで一人で食ってろ」
「だから違うって」
「私は年増じゃありません」
本当に失礼な。
そんなこんなで宴会は盛り上がり、その後は、またそれぞれのペースで王都へと向かうのであった。
【名前】
カヤラナンス
【種族】
咬鳥種
【別名】
夜猛鳥
【生息地】
温暖な気候の森の水辺周辺。寒冷地でも暖季から暑季の間ならば、姿を確認することが出来る
【大きさ】
体長七ファルトから九ファルト程度の準中型から中型種。尾を含めた全長になると一五~一六ファルト程になる
【生態・特徴】
夜にのみ活動する怪物
主な餌はネズミやウサギ、川魚などの小型の動物
頭部の羽毛は、両眼の上から一ファルト程度の長さで伸びており、実際に風向きなどを確認する触角として用いられる。尾羽の長さも非常に長く、身体と同じくらいある。よって、頭頂から尾羽の先端までの長さは、準大型怪物に匹敵する
体色は黒色と紺色の斑模様
鳴き声は耳の良い獣人族やエルフ族がかろうじて聞き取れる程度に高音。遠くにいる仲間とのやり取りに使われる。超音波とは違う
音もなく静かに飛ぶ
夜間は縄張り意識が強く、うっかり踏み入れてしまうと追い払おうと執拗に襲ってくる。音もなく飛んでくる上、その見た目も夜に見ると真っ黒である為、襲われるまで存在に気付かない場合が多い
一方で、昼間は寝ていることが多い為、仮に目の前を通過したとしても襲われない
攻撃手段は、鋭いクチバシによる突きや足の爪による引っ掻き、または体当たり。風魔法により強風を放ってくることがあり、下手したら吹き飛ばされる程の威力を生み出す。
接近戦は、あまり強くないので、風魔法を使わせない距離にまで接近出来れば優位に立てるが、真っ暗闇の中で、五感を使っても捕捉が難しい怪物である為、戦闘は避けるのが得策。
逃げられない状態の時には、日の出まで粘れば、相手が戦闘を切り上げて巣まで帰るので、選択肢がなければ持久戦を選ぶのも可能
昼間に巣を襲撃すれば、楽に討伐出来る
水質の良い地域であれば、付近にはリュシオリスが自生していることが多い為、無風状態であれば、縄張りの境界線が分かりやすくなる
【素材】
食肉としては問題ないが、夜間の討伐難易度の高さと、鶏肉生産による供給の安定から、取り扱っている店は非常に少ない
装飾品として羽毛の人気は高く、防具にもワンポイントとして用いられることもある
心臓や眼球、鳴管は詠唱破棄用の呪具や魔法具の素材として用いられる。特に鳴管を素材とした道具は音魔法を用いる術者にとって重宝される




