11頁目 幼女とハーフエルフ
前回のあらすじ。
雷魔法登場。
ついに魔法を用いた実戦を行いました。やっぱり魔法は格好いいです。デカイ武器を振り回すのも大好きですが、魔法も同じくらい大好きです。
雷系は、他作品で数多くの技や魔法などがありますので、参考にしつつも、丸パクりにならないよう注意が必要がなのが難しいところ。
そして今回、幼女登場。
幼女の定義がよく分かりませんが、とりあえず小学生以下と見れば良いのですかね?
とりあえず特に何も考えずいつも通りにノリと勢いで書きました。
現在私は、街道から大きくそれた所にある小川へと立ち寄っていた。昨日の鉄火竜との戦いで汚れてしまった髪を洗う為だ。
あの後、しばらく同じペースで行進していた私達であったが、夕方に到着した村で別れることとなった。私は夜通し歩くことが出来る。このことを商隊の面々とその護衛の冒険者、そしてナンパ冒険者へ伝えると一様に不満そうであったが、眠る必要も食事を摂る必要もなく、何かを売買する用事もない私がわざわざ村に泊まる理由があるはずもなく、そのまま宵闇の中へと姿を消した。
そして日が顔を出し、朝を迎えた。暑季であるので日中は暑いが、まだ暑季の初期、明朝はまだ安定した気温である。商隊はそろそろ村を出発しただろうか。そんなことを考えながらも、周りに人や怪物がいないことを確認して服を脱ぐ。
一応、周りを木々で囲われる林を見繕って水浴び場所に選んだので外から見られるということはないだろうし、そもそも街道から大きく逸れている上に何も面白い物もないので、誰も来ないだろうと思われる。
そんな油断がいけなかったのだろう。
足首より少し上程度の深さの小川に、全裸で足を伸ばして座って髪を洗いつつ、ここのところあまり肌の手入れをしていなかったなと思いながらも、未だに水をはじくピチピチの肌に感動を覚えていた時に声を掛けられた。
「お姉ちゃん、何してるの?」
時が止まるとはこのことだろうか。全ての動作を止めて一回深呼吸を挟み、声のした方へ顔を向けると、ぴょこんとした長い耳を持つ、兎型獣人の女の子が川岸にしゃがみ込んで、私を見下ろしていた。
「えーと……水浴び」
「そーなんだー!」
無邪気に笑う彼女に、どんな顔をすれば良いのか分からなかったが、ここに子供がいるということは、他にも随伴者がいるのかもしれない。しかも大人の。
私は慌てて川から身体を起こして柔らかい清潔な布で身体を拭き、髪も乱暴にならない程度には急いで水気を取ってから、たたんで置いておいた服を手に取って袖を通していく。
インナーを着、相変わらずのノースリーブの上着にホットパンツのセットという謎の民族衣装。右手の革手袋は昨日焼け落ちてしまったので素手だが、左手と両足にはそれぞれ古着屋で購入した革手袋と革製のブーツを身に付けてベルトを止めていく。暑季でこれから暑くなる時間帯だが、寒暖の差の影響をあまり受けない私は、普通に父の形見のフード付きコートにも袖を通す。
最後に、弓、矢筒、短剣、布に包まれた狙撃銃。そしてリュックサックを装備して準備完了。
その間、女の子はジッと私の行動を見ていたが、私は気にすることもなくしっかりと装備を確認し、何もなくなっていないと判断したところで改めて彼女へと向き直った。
「えぇと、あなたお父さんとお母さんは?」
「お母さんは家にいるよ? お父さんはお出かけー」
「他の大人と一緒にここに来てないの?」
「うん、リン一人だよ?」
「その、リンっていうのは、あなたのお名前?」
「うん、そうだよ」
迷子だろうか。確かに、王都にはほど近いとはいえ、大人の足でも後半日は少なくともかかる。それともその手前にある村の子だろうか。しかし、その割に身なりはしっかりと整っているし、髪や肌などもしっかりと手入れが行き届いているように見える。
フワッとした銀髪のセミロングに、これまたフワッとした感じの印象を与える垂れ目の碧眼。透き通った白い肌に、まだあどけない表情。そして、一二〇ナンファ程度の身長。八歳か九歳くらいだろうか。うん、正直に言おう。可愛い。
しかし、こんな子がこんな所で一人だなんて、一体何があったのか。怪物もいるし、盗賊の出現報告も偶に聞く。集落から一歩出るとそこは危険な無法地帯だ。
とりあえずここに一人残していく訳にもいかないので、王都へ向かいつつ途中の村で聞き込みをしようと思う。
歩き疲れたらおんぶ……は荷物があって無理なので、だっこすることにして、今は手を繋いで一緒に歩くことにする。
「お姉ちゃん、あっちに行くんだけど、リンちゃんも一緒に行く?」
「うん! 一緒に行く-!」
元気があってよろしい。
それから手を繋いだまま歩くこと少し経ったが、街道に戻ってからもリンちゃんは疲れを見せるどころか道端にある様々な物に興味を示し、あっちに引っ張られ、こっちに引っ張られと私の方が連れ回される状態であった。
しかし、こうして振り回されながらも、私はいくつかの疑問を浮かべる。
そもそも私があの林を訪れた時には、誰もいないことは確認していた。では後から来たのだとしても、耳の良いエルフの血を引く私が人の動く音を聞き逃すはずもないしその前に気配で察することが出来る。
この子が特別気配を消す術に優れているならともかく、声を掛けられてから以降もずっと、気配を消すどころか私はここにいると自己主張激しい状態であるのでその可能性も却下。
電流網にも反応はなかったと思う。
私を中心とした半径五〇ファルトと決して狭くない範囲を索敵出来る雷魔法がある。あくまで生物が常に発している微弱な電気信号を拾う程度のものなので、何か生き物がいるということは分かっても、詳細な情報は得られない中途半端な索敵魔法である。ただ、音なく接近する相手や死角からの攻撃などに対処出来ることから、非常に重宝している。
覗き対策というより奇襲対策である。水浴びをするのだから、念入りに索敵をしながら水に浸かっていたが何も捉えることなく、話し掛けられた時……いや、その一瞬前に何か引っかかったような気がする。気配も同じだ。誤差だと思って切り捨てていたが、もしかしたらそこに、この解決の糸口があるのだろうか。
それと、本人が怯えた様子を見せないことも不思議だ。これは図太い神経をしているのか、何が起こっているのか分からないのか……少なくとも、人攫いに遭ったとか、怪物などの野生生物に襲われたということではなさそうなので安心した。
そして最後に、普段生活をしていれば普通に目にするであろう物にも、目をキラキラさせて突撃していく様から、まるで大事に育てられてきた箱入り娘が、初めての外出でウキウキを隠せない姿を想像させる。
一体この子は何者だろう。
どこから、どうやって、何をしにと疑問は尽きないが、一番考える点はここ、何者かということだ。
まさか暗殺者集団の一員とか、こんななりをしていて忍者とか……この世界、忍者いるのかな? そもそも仮にいたとして、あの人忍者だと悟られるような間抜けには会いたくない……いや、もし本物の忍者ならやはり多少間抜けでも会ってみたい気がする。
そんな感じで思考を巡らせながら進むこと少し、村が見えてきたので、ここでお昼休憩も兼ねて聞き込みだ。
「すみません。この子、迷子みたいなんですけど、親や身内の人を知りませんか?」
「ん? いや……ウチの村では見たことない顔だな」
「そうですか。ありがとうございます」
まず話し掛けたのは、この村に住んでいるっぽい大工のおじさんだ。しかし、結果は空振り。幸先悪いスタートなのだが、私の手を引くこの子は状況を理解していないのか、のほほんとした表情で、虫が飛ぶのを目で追っていた。
次に目に付いたのは、主婦っぽいおばさんだ。
「すみません。この子の両親を見かけませんでした? 迷子みたいなんですけど」
「おや、可愛らしい迷子だね。でも、それっぽい人は見てないね。良い服着てるから、良いとこの商人の娘さんとかかねぇ? 商隊に関してだったら、そこの食堂で聞いてみると良いよ」
「ありがとうございます。ほら、リンちゃんも行こうか」
「うん♪」
おばさんに教えてもらった食堂に入り、一先ず目的の一つであるお昼休憩ということで、リンちゃんにご飯をご馳走することにする。
「リンちゃん、何か食べたい物とかある?」
「ん~? ん~……あ、カツ丼!」
「カツ丼?」
「うん!」
リンちゃんの発言に驚き、思わず「え、何、この世界カツ丼あるの?」と言ってしまいそうになるのを我慢出来た私は偉いと思う。
常々思っていたがこの世界、文明の発展が前世の地球よりも非常に遅れているはずなのだが、食べ物などの一部の物事については肩を並べることが出来るのではないかと思われることがいくつもある。
「う、うーん、あるかなぁ……あ、すみません、カツ丼ありますか?」
「おう、あるぞ」
「あ、あるんだ……じゃあそれ一つお願いします」
この身なりからの珍しいチョイスに、一瞬店主は戸惑った様子だったが、すぐに「おうよ!」と答えて作り始めた。
カウンター席に座り、料理が目の前で作られていくのを椅子の上で飛び跳ねそうな程にキラキラとした目で見つめ、感情に合わせてかウサギの耳もピョコピョコと動き、少し腰が浮いている彼女を微笑ましく眺めながら、私は一トルマ支払って水をもらってちびちびと飲む。
「へいお待ち!」
「あ、この子に」
「はいよ! エルフの嬢ちゃんは良いのかい?」
「私はさっき食べましたので」
「そうかい。気が向いたら注文してくれい!」
「ありがとうございます」
子供の身体には、どんぶりという物は少々大きいようで、食べるのに苦労している様子だが、それでも楽しそうに口周りをべた付かせながらスプーンを握って、一生懸命に口へと運んでいく。
彼女が食事に夢中な間に、丁度手の空いた店主のおじさんにも聞き込みをする。
「すみません。この子、迷子みたいで両親を探しているのですが、心当たりとかないですか? 例えば、どこかの商隊の中にこのくらいの子がいたとか」
「いや、今日はいくつか王都から来た隊があったが、それらしいのはいなかったな」
「そうですか。あなたの親はどこへ行ってしまったのだろうね……」
「王都に行けば、何か分かるんじゃねぇのか? 身なりも良いみたいだし、商人でも大旦那とかの身分なら王都に拠点構えてるだろ。それがどっかの商隊に紛れ込んで迷ったとか」
「元より王都へ向かう予定でしたが、なるほど、その線もあり得そうですね。ありがとうございます」
「いや、いいよ。ただの想像だ。力になれなくてすまないな」
本当に申し訳なさそうに謝罪してくる店主に、私も恐縮してしまう。
「いえ、そんな気にしないで下さい。これも何かの縁だと思って、ちゃんと親の元まで送り届けますよ」
「おう頼んだぜ」
店主と会話を弾ませていると、右の袖をくいくいと引かれたので振り向くと、カツ丼を半分程残したリンちゃんが気まずそうに視線を泳がせる。
「どうしたの?」
「えーとね……その……」
「お腹いっぱい?」
「うん……」
「すみません、ちょっとこの子には多かったみたいです」
「いや、いいよ。量考えずに作っちまったこちらの落ち度だ」
「ありがとうございます。お金こちらに置いておきますね?」
「おう、毎度あり! じゃあ気を付けてな!」
「はい。ほら、リンちゃんもバイバイ」
「おじさんバイバイ!」
「おう!」
この村で、この子の素性を知ることが出来れば良いと思って聞き込みを行ったが、やはりと言うべきか収穫はなかった。これは当初の目的通り、王都へ続く道を二人並んで歩くことになるようだ。
それもまた楽しいのだが、まだ成人したてでこんな大きな子供の世話をすることになるとは。前世も独身だっただろうから子育ての経験はないが、他に相談出来る相手もいないことだし何とかやっていくしかない。
「それじゃあ、行こうか」
「うん! お姉ちゃんと一緒!」
手を繋いで歩くことしばらく。王都から来る商隊や冒険者とすれ違ったり、また逆に王都へ向かう列に追い越されたりと、王都へ近付いているからか、段々と人通りが多くなってきている気がする。
子供の歩くペースに合わせているので、普段よりもゆっくりとした速さだが、その分、周りの様子をじっくりと眺めることが出来ている。その道中でもリンちゃんの興味は尽きないのか、ちょくちょく足を止めては小動物に見入ったり、商隊の列の迫力に驚いたりと終始楽しそうだ。
「リンちゃん、もう少しで王都だよ」
「大っきい町!」
「町っていうより、もう都市だね」
「とし?」
「うん、大っきい町でいいよ」
はて、このくらいの歳の人間族や獣人族の子供なら、学校に通うなどして都市や王都などは理解していると思ったのだが違うのだろうか。辺境の村などなら、学校がないから子供の頃から家の手伝いをするなどして、働いているのが一般的だから、教養が身に付いていないのも不思議ではないのだが、リンちゃんの服装や身なりを見ると、とてもそんな辺境出身には見えない。
「ますます不思議な子ね」
「ん~?」
「何でもないよ。ほら、あそこの城門で、立ち入り検査が行われるんだ。何せこの国中から色んな物がここに運ばれてくるからね。変な物が混じっていないか、兵士さん達が調べてるんだよ」
「変な物って?」
「うーん、どう言ったら良いのかな……まぁ武器とか危ない物かな。私は冒険者だから武器を持っていても問題ないけどね」
「ふーん」
あらら、少し難しかったかな。そうこう話している内に、私達の順番が来たようだ。目の前に兵士が立ち、その横で目録に目を通しながら何やら記入する兵士もいる。
わっ普通に紙だ。
ここでは、一般兵士でも木札や木簡は使わないようだ。一〇年前は、そこまで紙は普及していなかったイメージがあったが、一〇年もあれば技術革新があるか。と、ジェネレーションギャップというか浦島太郎現象を感じていると、私達を調べていた一人の兵士がリンちゃんを見て何やら慌てだした。
「も、もしかして……セイリン様!」
いや、予感みたいなものはあった。何か、ものすごく面倒くさいことに首を突っ込んでしまったかなと。でも、ただ迷子の情報を得るだけだと思って油断していた。城門周りで兵士がバタバタを移動している様子を見た私は、思わず天を仰ぎたくなってしまった。
兵士が何度もリンちゃんの顔と書類とを目を行き来させながら、出来るだけ高圧的にならないように気合いを入れ、大声にならないよう注意を払いながら彼女に話し掛ける。
「もう一度お伺いします。あなたはセイリン様でよろしいですね?」
「うん♪」
「やはりそうだ! おい、貴様! この子を一体どうやって攫った!」
さて、何と言えば良いのだろうか。とりあえず正直に話してみることにする。聞き入れてもらえるかは……彼等次第だ。
「一応自己弁護しておきますが、私は人攫いではなく、たまたま迷子だったこの子の親を探しに王都へと連れて来ただけですよ」
「親……まさか脅迫か!」
あー……うん、なるほどね……これはもう無理っぽい。誤解は解けそうにないので、とりあえず兵士に従ってお縄に付くことにする。死刑は嫌なのでそうなったら無理矢理でも脱獄させてもらうが、せめて裁判は行って欲しいと思う。情状酌量の余地はあると思うんだよ。うん。
「え? お姉ちゃん?」
「ごめんね。何か私悪いことしちゃったみたいだから、ちょっと離ればなれになるね」
「え、い、嫌!」
「いけません! セイリン様! コイツは危険な存在です! あなた様を誑かして女王様を脅迫だなんて大それたことを!」
うん、薄々感じていたけど、やっぱり国のトップが出て来たかー……というか、一〇年前は高齢の男性が王だったはずだけど、いつの間に女性が君臨していたのか。やはり私にとっての一〇年とはとても短いものだが、人間や獣人達にとってみると、世代交代が行われてもおかしくない時間の流れみたいだ。
現時点で一番良くない展開のはずなのだが、あまりにも話がぶっ飛んでいるので逆に落ち着いてしまい、余計なことを考えてしまう。
涙ながらに突き放されるリンちゃん……セイリンちゃん? 様? の姿に、何もしてあげることが出来ず、悔しい思いはあるがこれで一先ず彼女の安全は保証された。私の目的の一つは達成されたことになるが、私自身が困ったことになった。
「はぁ」
自分自身は悪くないと言えるが証拠などない。毅然とした態度を貫きたいが、あまりにも不利な立場に、思わず溜め息が出てしまう。しかし、ここで無理に脱走を図れば国中のお尋ね者。二度と故郷へ帰ることは適わないだろう。終身刑や死刑にならなければ、エルフの寿命だ。数十年程度の獄中生活など問題ない。数十年で済めば良いが……
兵士数人に縄で縛られて王都の中を歩くこと少し、連れてこられた先は、王城であった。そしてその前にそびえる立派な城門が、来る者を拒むかのように佇んでいる。
一人の兵士が、城門の横の扉から中へ入る。そこが詰め所になっているのだろうか。
「隊長! セイリン様を無事発見、保護しました! しかし、どうやら人攫いに遭っていたようで、ただ今、南門よりその犯人を捕まえた為、連れて来ました!」
「うむ、ご苦労。しかし、早朝に起きた失踪事件が今日中に解決するとは。不幸中の幸いだな」
「はっ! して、犯人の方は?」
「地下牢へ連れて行け。いや、そのふてぶてしい奴の顔を拝んでおくか」
エルフ族は耳が良いので、そんな物騒な会話も普通に耳に入ってくる。地下牢に縛って拷問とかかなー……痛いの嫌だし、そもそもそういう役割って女騎士って相場で決まっているんじゃないのかな……いや、エルフの需要もあるのかな。うん、どちらにせよ嫌だ。くっころ!
いや死なないけど。死にたくないし。
そんなことを考えていると、詰め所から、先程入っていった兵士の後ろに威厳も人望も実力もありそうだが、どこか不憫というか、不運というか何かそんなマイナスなイメージが付きまとう立派な髭を蓄えた中年の男性兵士が出て来た。
うん?
「メトヌタ?」
「俺の名前を知っているか。だが人攫いの分際で気安く俺の名前を呼ぶ……な……」
「とりあえず、話聞いてもらって良い?」
「え、い、いや、その、って、え? フ、フレン、シア……さん? えぇと、何で? というか人攫い?」
「まさか、あなたが王都を守る兵隊の隊長とはね」
「あー、いや、その……」
「おい、貴様! さっきから隊長に向かって失礼だぞ! 言葉に気を付けろ!」
「いや良い。えぇと、この人はな。一〇年前まで王都で冒険者として活躍していて、俺の先輩であったフレンシアさんだ」
「は?」
その言葉を聞いて、先程から厳しい口調の兵士はポカンとしてしまった。その兵士だけでなく、私を捕まえている兵士、武装解除した私の荷物を持っている兵士、私が反抗したらすぐに斬ることが出来るように鞘に手を掛けていた兵士、そして私達の様子を見に来た兵士達全員が言葉を失っているようだ。
「もしかして、隊長の話で度々出て来た……あの『迅雷』の……?」
「あぁ、そうだ」
一〇年経ってもその小っ恥ずかしい二つ名は、まだ生きていたようだ。そして、まさか一五年前に新米卒業して無事に冒険者デビューしたばかりの、当時二〇歳の若造であったメトヌタがこんなにも立派になっているとは思いもしなかった。
メトヌタ・タリアス。私が冒険者デビューして一年後、活動の拠点を王都に移してからも、日々数多くの依頼をこなすことを頑張っていた頃に出会った青年だ。
私が王都に移ってから四年後、新米冒険者を卒業して本格的に冒険者となった彼と出会い、度々彼のパーティと組んで依頼をこなすことがあった。
私は基本的にソロで活動していたが、効率や人数制限の問題から、時々他のパーティと一時的に組んで共に行動をすることがあった。
メトヌタのパーティもその中の一つで、数ヶ月一緒に依頼をこなしていた。その頃に出来た縁がこうしてまた繋がるとは、人生とは面白い物である。
あの頃のメトヌタはパーティのリーダーを務めていた。しかし、実力も人望もあるのにも関わらず、不運な目に遭いやすいという点でいまいち本来の実力を発揮出来ない節があった。しかし、それを相殺出来る程の指揮能力の高さがあったおかげで、そこそこ実力のあるパーティとして名を上げていた。
その能力が買われたのか分からないが、今こうして王都の兵隊の隊長を務めるに至っているというのは、これまでの不運を打ち消す程の幸運だと思う。
そんなしみじみと思っていたところで、周りは途端に慌ただしくなり、メトヌタの指示で拘束と解かれたり、装備や道具を返してもらったり、冤罪の謝罪を受けたりとした。たまには役に立つな。二つ名。
「フレンシアさん、申し訳ありませんでした」
「いや、良いよ。誤解を解こうとしなかった私も悪い。無実を証明する証拠もないのだから仕方ない」
「それでも……」
「いや、それよりもあなたが隊長で助かったよ。礼を言うわ」
「いえ、そんな!」
「それとついでに聞いても良いかな?」
「は、何を?」
「何でリンちゃん……セイリン様? は、あんな所にいたのかな?」
「あんな所とは?」
「ここから南西の村、そこから更に南南西かな。街道から外れた雑木林にいたよ」
「まさかそんな! それでは、他に人攫いが!」
その彼の疑問を、やんわりと否定する。
「多分違うと思う。彼女の服や髪などに乱れた所はなかったし、何よりも彼女自身が怯えていなかった。というよりも、何が何だかよく分かっていない様子だった」
「はぁ」
「もしかしてあの子、魔法使った?」
「魔法? いえ、そのはずはないのですが」
「どういうこと?」
「それは……」
メトヌタは周りを見渡し、咳払いをする。それに何が言いたいのか気付いたのか、周りにいた兵士は一斉に持ち場へと走って戻っていき、今城門の前にいるのは私と彼だけになった。
「セイリン様は、魔法を使えないのです」
「……どういうこと?」
「それが、女王様のも旦那様のも、どちらの魔法も受け継がれなかったのですよ」
「魔法は遺伝で引き継がれる物でしょ? それが引き継がれなかった?」
「そのようです」
魔法が使えないとはあり得るのだろうか。あくまで私の知る限りでは、そのようなことはなかったはずだ。そう考え込んでいる間にも彼の話は続く。
「顔付きこそは母親である女王様そっくりですが、眼の色は旦那様の色を受け継ぎ、とても透き通った碧色でして。髪の色がどちらにも似ていないのは不思議ですが……しかし、魔法が使えない子が産まれてしまうとは、お労しい……」
「ねぇ、セイリン様にもう一度会うことは出来ない?」
話の途中で顔を上げ、質問を投げ掛ける。それを聞いたメトヌタは、立派なアゴ髭を撫でながら「うーむ」と唸った。
「不可能ではないと思います。しかし、それよりもまず女王様に謁見なさった方が賢明かと」
「むしろそんな気軽に女王様に会えるの?」
「いえ、普段は無理です。しかし『迅雷』様が戻られたと聞けば、お会いになると思います」
「知らない所で、一体どうなってるのよ。私の二つ名は……」
「ははは、今でも有名ですよ。何せ、数々の難しい依頼を一人でこなしてきたのですから。それが一〇年前にパタリと姿を消した。伝説になるのも不思議ではありません」
「黒歴史よ……」
「は?」
「何でもないわ。それよりも土産話をしたくて会合を求めている訳じゃないの。何故セイリン様があの場所にいたのか、仮説を立ててからお会いしたいわね」
その言葉に驚いたのか。彼は詰め寄って来た。
「何か原因を知っているのですか!」
「近い」
「あ、失礼」
「構わないわ。それよりも、原因は分からないし、仮説と言っても証拠も何もない妄想のような物よ。でも、あり得ないことじゃない。それを確認したい」
「一体何を……」
「彼女、セイリン様は……」
ここで言葉を句切って、深呼吸をする。これはあくまで仮説という名の妄想。でも他に原因は考えられない。少なくとも現時点では。判断材料が少な過ぎるのだ。しかし、これまでの彼女の行動とメトヌタの発言から、ある程度のシナリオは描ける。
「魔法を使える」
「しかし、ご両親のどちらの魔法も」
そう、魔法は原則として両親のどちらかもしくは両方から、遺伝として受け継がれるのが一般的である。しかし、彼女はその受け継いだはずの魔法が使えない。しかし、それでも何らかの魔法が使える場合それは……
「それは恐らく、彼女の遠い先祖に、そのような魔法を使える人がいた。その可能性があるわ。メトヌタ、至急調べて欲しいことがあるの」
「系図を辿るのですね。分かりました。すぐに部下をやります」
「お願い」
そこからはメトヌタの指示を受けた兵士達が、バタバタと城内を駆け回ることとなった。
【名前】
リュシオリス
【分類】
ユリ科リュシオリス属
【気候・地域】
キレイな水が流れる温暖な森全般
【季節】
暖季から雨季に掛けて開花
【特徴】
夜にのみ開花し、下向きの白いユリの形の花を咲かせる
高さは一ファルト前後
開花すると蜜を出すが、魔法薬の素材としても良質で、採取地の水質と採取後の保存状態によっては中級の中位並の素材となり、値段も上がる
強い香りが特徴だが、夜活動しない昆虫の代わりに匂いによって野生動物を呼び込み、蜜を舐めさせることで身体に花粉を付着させ、運搬させる為である
クマやイノシシなどの動物の平均体高に合わせた高さに成長する為、リュシオリスの高さが高い程、大型な野生動物がいることになるが、その場合はその地域には怪物しか存在しないことになる
強い香りではあるが不快な物ではなく、その味も甘みが強いことから、お菓子などに使われることが多いが、入れすぎるとリュシオリスの蜜の香りと味で占領されてしまうので注意
甘みが強い理由は、全部の蜜を舐められないようにし、より多くの動物に接触してもらうことで、広範囲に花粉を届けることが出来ることから
花を摘んでしまったり茎を傷付けたりしてしまうと、たちまち萎んでしまい、蜜の香りも刺激臭が混じった物へと変質してしまうので、蜜が必要な際は、花弁から垂れる蜜を直接採取するのが良い
採取の際は、清潔で密閉出来る瓶などに入れると良い
蜜は光の加減で赤みの掛かった黄金色に輝く
温暖な森の水がある所に自生し、夜にのみ採取可能であるという特徴から、リュシオリスの香りがする所は夜猛鳥カヤラナンスの縄張りでもあることが多い。採取に夢中になり過ぎると、音もなく接近してきた夜猛鳥に襲われてしまうので注意が必要である
水質が良い土地で自生する為、リュシオリスの近くには水があるという目印にもなる




