72頁目 全力と本気
前回のあらすじ。
観察と戦闘準備。まだ戦わない。
次回の投稿は明後日の予定です。
そろそろストックが底を付きそうです。書いていますが、遅筆なので投稿ペースに追い付けません。近い内に三日か四日に一話という間隔になるかもしれません。ご了承下さい。
また、ゴーレムの回から後書きがほぼないに等しいですが、正式に、しばらくは後書き(手記含む)はありません。
執筆作業と並行してのネタ出しが難しい為なのですが、本来なら後書きこそ本編で、本編は後書きの手記を書く際の行動のはずなのですが……とりあえず頑張ります。
もしまた設定がまとまりましたら、後日追加で投稿済みの小説の後書きにて公開する予定です。
咄嗟に気付いたのだろう。
一拍どころか、呼吸する間もなくパチリと目を開けた目の前の鉄大鬼は、瞬間、身を捻って私の攻撃を躱した。しかし完全に外れた訳ではなく、鼻からアゴに掛けて切り裂かれ、口から飛び出ていた左側の牙も斬り飛ばしていた。
「浅い!」
「援護しますわ!」
直ぐさまアネモネが反応して、風を飛ばすが、不可視の刃ですら見切っているようで、巨体に似合わない俊敏さで跳び上がって後退した。
そして、手ぶらであった戦鐸鬼は、腰に巻いていた装備の中から鐘と武器を取り出して構え、ガンガンと叩いて音を周囲にばらまく。
「これが獲物を捕捉した時の行動ね」
辺り一面闇に包まれている為、相手の状態が分かりづらいが臨戦態勢に入ったことだけは確かだ。
バレてしまった以上は、雷魔法を封印していても仕方ない。風と雷をこの身にまとって、突撃を敢行した。
「わたくしも行きますわ!」
アネモネも、地面から二本の土で出来た剣を引き抜いて私に続く。
周囲に金属と金属が激しくぶつかる音が響き、その度に雷が撒き散らされ、火花が咲き誇り、冷たい風がその身を刺す。
「これが銀ランク怪物って冗談よね? 明らかに強いんだけど、これ金ランク案件じゃないの? それともライヒの冒険者ってそんなにも練度高いの?」
一応、複数人によるパーティでの討伐が推奨されていたが、単独でも問題ないと言われていた。それがどうだ。最初の奇襲を避け、更に今こうして二人掛かりで攻撃しても、器用に立ち回って捌いていく。
「お母様、本気で戦えばすぐに終わりますわよ?」
息も切らさずに呑気な調子で、戦う我が娘。空中に浮かんで、鬼の周りを飛び回りながら宙に浮かべた土剣を振るっていた。
「これでも、本気よ!」
「いいえ、お母様は全力ではありますが、本気ではございませんわ」
指摘されて気付いた。
手を抜いているつもりはないが、私は癖で相手の動きを観察する為に、必ず手段を残して戦っているらしい。
「よく見ているわね!」
「勿論ですわ。娘ですもの」
現に、私は魔法らしい魔法を使っていない。使っているのは付与と身体強化のみで、その他の魔法は一切呪文を口にしていない。当然、無言呪文も使っていない。
「それじゃあ、ちょっとだけ頑張るよ」
「全開じゃないのですの?」
「あぁ、うん。ちょっとね」
「残念ですわ」
この子は私にどうなって欲しいのだろう。
「縛雷!」
基本の拘束術式。専門の拘束魔法と比べると拘束力、持続力、応用力は落ちるが、雷魔法の枠組みで考えると汎用性があって、扱いやすい。
両腕両足に雷の鎖が巻き付き、地面と繋ぐ。ただの鎖ではなく雷で出来ているから耐麻痺や耐雷、筋肉がない生物でなければ筋肉が痙攣してしまい、上手く抜け出せなくなる。
当然、例外はいるもので。
「やっぱりか!」
「ムッキムキですわ!」
こうして無理矢理突破してくる場合もあるので、気が抜けない。というか、どうやって抜け出したの? 雷耐性でもあるの?
「次、雷雨!」
拘束を抜け出すことは想定内。ただ、ノータイムで破壊した訳ではなく、一時的にも動きを封じることに成功している。その間に次の魔法を発動出来る。
細かい雷の魔力の粒の乱れ打ちだ。機関銃のように絶え間なく打ち続けることで隙のない攻撃が可能。
「わたくしもやりますわ!」
そう言って、小石をいくつも精製したアネモネは、私と同じように連続して発射し始める。いずれも速度はあるものの、弾自体に強度はない為に鬼の分厚い皮膚を貫通することはなく、表面に細かい傷を付けているのに留まっている。
ダメージはないが、やはり水辺のヤブ蚊の大群の中にいるような不快さがあるのだろう。咆哮を上げて右手の鉈のような刃物を振り回して脱出しようとしている。
「逃がさない! 縛雷! アネモネ!」
「はいですわ!」
再び雷の鎖に捕まった戦鐸鬼は、先程と同じように暴れて拘束から逃れようとする。そこにすかさずアネモネの風魔法による不可視の刃が襲い掛かる。狙いは右足。
痛みによって膝を着くことになった鬼の表情は、暗くて分からない。だが、まとう雰囲気から屈辱を感じているのが何となく分かる。
そこから傷付いた足で立ち上がり、怒りによって余計に力任せに武器を振り回し始めた。
「力はあるけど軸足の踏ん張りが利いていない」
これでは満足に斬るどころか、狙い通りに当てることも難しいだろう。しかし、一〇ファルトもある巨体から繰り出される攻撃は決して油断出来るようなものではなく、直撃してしまえば良くて骨折と内蔵損傷。最悪身体が二つに分かれてしまう。
「第二解放!」
身体強化の魔法のギアを一段上げる。
本来の身体強化の魔法は、機動力や筋力だけでなく、その激しい動きにも身体が対応出来るようにそれぞれ各部位の耐久性も向上する。よって、私よりも小柄な女性でも身体機能強化魔法を使って二三〇ツィルの重さの武器を振り回しても全く問題ないが、私は神経の電気信号を雷魔法で無理矢理制御する所謂ドーピングだ。魔力によってある程度の筋力は底上げされているものの、やはり筋肉はそのままである為、魔法によって無理矢理酷使することで当然傷付く。
これを極力避けるべく、私は段階を踏んで強化出来るようにアレンジした。元々雷魔法には身体強化の魔法もないので、これ自体が私のオリジナル魔法ではあるのだが、そこに更にテイストを加えた形となる。
現在使えるのは第三解放まで。使うと間違いなく筋肉の断裂や骨折などもあるので、岩人形との戦い以外では今のところ使ったことはない。そもそも最近になってようやく段階を分けることにしたのだから当然か。
これまで使っていたのは、第二解放のみ。これを、より低燃費で怪我のないギリギリの制御に落としたのが第一解放。逆に、大怪我をしてでもとんでもない能力向上が図れるようにしたのが、第三解放となる。
雷そのものになる移動法はまだ研究中である。完成するのかは分からない。
「どっせい!」
筋繊維を傷付けながらも、第一解放よりも明らかに向上した腕力で、その豪腕から振るわれる鉈を魔剣ノトスで受け止める。しかし、体重差で弾き飛ばされてしまう。
「くっ!」
空中で一回転して、無事に着地。直ぐさま走り出してまた剣を交わらせる。
ガン! ガン! と激しく金属と金属がぶつかる音が響く。ノトスの剣身が金属なのかはあえて問わないが、こうして打ち合っても全く問題ない辺り並の金属よりも高い強度である。
「継続回復!」
そろそろ痛みが無視出来ないところまで来たので、リジェネを発動する。これで徐々にだが回復に向かうが、それでもこうして戦闘している限りいずれそれも追い付かなくなる。しかし、私一人で戦っている訳ではない。
「アネモネ!」
「はいですわ!」
そこをすかさずフォローしてくれるアネモネ。風の刃を振るって、私の隙を突いた戦鐸鬼の攻撃を押し込んだ。
私一人では厳しかったかもしれない。だが、私は一人ではない。
「ありがとう!」
「当然ですわ!」
長いこと一人で活動していたから忘れていた。一時的にパーティを組むことはあっても長続きしなかったから気付かなかった。こうして息の合った連携が出来るというのはとても楽しく、そして嬉しい。
「疾風迅雷!」
身体全体に風と雷の魔力をまとわせる。
一人では無理でも二人なら辿り着ける。
アネモネの攻撃を躱して、私に鉈を振り下ろす戦鐸鬼。それを躱さずにノトスで受け止める。
「っ!」
これだけバフを掛けてもこの重さ。そのことに歯を食いしばって耐える。しかし相手はこの一撃を受け止められたことに動揺したのか、動きに一瞬迷いが混じった。
「そこですわ!」
その隙を突いて、今度は左腕を斬り付けるアネモネ。切断までには至らなかったものの、骨が見えるまでに深い傷を負わせることに成功した。堪らず鐘を取り落とした鉄大鬼は、苦痛からその咆哮に覇気がない。
「ここで決める!」
疾風迅雷を発動している間の魔力消費は半端ない。残り時間も少ない。焦りはないが、急ぐ必要はある。
剣先に魔力を集中して、一気に地面を蹴って前に出た。それに素早く反応して鉈を振るってくるが、最早満身創痍。その筋はブレており、容易に躱すことが出来る。そして、思いっ切り跳躍した。
狙うは相手の心臓。
狙いを定めて剣を構える。
私の狙いを読み取ったのか、必死に防御態勢を取ろうとしていたが、それをアネモネが妨害した。
「行くよ……飛雷針!」
激しい落雷音と共に魔剣は胸部の防具諸共貫通した。
「やりましたわ!」
アネモネの喜ぶ声に、仕留めたことを確信した。
着地時にバランスを崩して転んでしまうが、主立った怪我はない。リジェネを止めて今度は普通の回復魔法を行使する。
「疲れたわ……」
「わたくしはまだまだ元気ですわ」
「アネモネは元気ねー」
「えっへんですわ!」
子供の体力はすごい。とはいえ、あまりはしゃぎすぎると遺跡の時みたいに、突然電源が切れたかのように眠りに入るのだから、無尽蔵という訳ではない。リミッターがないだけだ。
「親は大変ね」
「そうなんですの?」
「んー、いえ、やっぱり良いものね」
我が子が元気に笑ってくれるのであれば、このくらい問題ない。
これが母性なのかなと思いながらも、回復を確認した私は身体を起こして周囲の安全を確保すべく索敵を開始する。
「明るくなったら素材の剥ぎ取りをやろうか」
「お付き合いしますわ」
「あなたもやってみる?」
「良いのですの?」
「覚えて損はないわ」
「分かりましたわ。是非とも教えて欲しいですわ」
「それじゃあ、野営準備ね」
といっても、これといって道具を持ってきている訳ではないので、魔石灯を点灯させて装備の点検を行う程度である。
それからは親子で雑談をしたり、時折周囲の探索をしたり、アネモネが寝落ちしたので子守をしていると、次第に空が白み始めた。
今日も一日が始まる。




