68頁目 国語の授業と両替
前回のあらすじ。
ライヒ王国に正式に入国した。
次回の投稿は明後日予定です。
目上の人に対する礼儀に関しては全てテキトーです。適当ではありません。正しくないと思います。
一応事前に調べてはいますが、間違った情報も含んでいると思います。
そこで、この国ではこれが礼儀として、創作することでツッコミを回避しようといういい加減な手段。良い加減ではありません。いい加減です。
話がまとまったところで、早速移動を開始する。まずはギンゼルさんの住んでいた家兼作業場へ行くことになった。
有罪になった時点で、家、土地、家財から作業道具まで資産と言える物は全て一旦国に差し押さえられる。そして死亡もしくは行方不明となった際に国の財産となり、服役を終えての出所となると半分が返り、今回のように試練をクリアすれば無罪ということになると、全てが返却されるのだとか。
何かバランスがおかしい気がするが、気のせいということにしておこう。
元々試練を突破して無罪を勝ち取るパターンがほぼないのだ。それで全部返ってくるというのならありがたく返してもらおう。私の物ではないけれど。
「ここが工房ですか」
「あぁ、散らかっているが、気にしないでくれ」
「大丈夫ですよ。こういう場所は慣れています」
「そうかい」
「アネモネは大丈夫?」
「大丈夫ですわ。ただ、少々退屈でしたわ」
「そうよね。私はまだ文字の読み書きが出来ないだけで、会話は成り立つから問題ないのだけれど、あなたは全てが分からないのよね?」
「問題ありませんわ。わたくしにはお母様がいますもの」
その自信はどこから来るのか疑問だが、本人が気にしていないのなら、あえて問題提起するつもりはない。
「とりあえず町の案内から始めるか?」
「いえ、まずは簡単な文字だけでも覚えたいので、何か子供でも読めそうな簡単な書物などがありましたら貸していただきたいです。そして教えて下さると助かります」
「あぁ、分かった。俺はあんたに命助けられた身だ。言う通りにするよ」
「あ、もし裏切ったりしたら……」
「しねぇ、しねぇ。んなことしたら今度こそ死んじまう。お前さんら本当に強かったからな。冒険者じゃねぇ俺でも分かるんだ。んなのに喧嘩売る真似はしねぇよ」
「分かりました。では、よろしくお願いします」
「あぁ」
多少の怯えはあるようだが、命が助かり、こうして家に戻ってきたことで安心したのか、森で会った時よりは随分と表情に生気があるように感じられる。
それからは、ギンゼルさんから本を借りて、アネモネと一緒に読む。アネモネはギンゼルさんの言葉は分からないので、私が音読する形で一緒に勉強していく。
言葉の勉強をする魔剣というのは面白いが、下手したら私よりも飲み込みが早そうなのでうかうかしていられない。母親としての威厳を保つ為にもしっかり勉強に打ち込まなければと、目の前の本の単語や文章を、教えてもらった通りに読み上げていくというのをひたすら繰り返していた。
その後は、学校の授業のようにギンゼルさんが黒板のような板に石灰筆のような石で単語を書き、それを答えることもこなした。しっかりと教えてくれるおかげか、わずか一刻程で書くことはまだまだ無理だが、数字と、ごくごく簡単な単語十数個程度なら読めるまでになった。
何故ここまで急ピッチに事を進めているかと言えば、ギルドに冒険者登録をする為である。
一応異国人用の窓口があり、そこで言語魔法に精通した職員が対応してくれるので、余程のことがなければタグを提示するだけで審査は通るが、それは私一人の場合。
今回は娘であり精霊であるアネモネを連れている。もしかしたら、未成年、それも見た目だけで言えばかなり幼い子供との同行であるので、何らかの書類審査などがあるかもしれない。それ故に、あらかじめ備えられることはしておこうということで、今こうして勉強に励んでいるのだ。
勿論、身元保証人……になるかは分からないが、一応ギンゼルさんも連れて行くので、依頼をこなしている間はギルドに預けて下さいなどにはならないように、一緒に交渉してもらうつもりだ。
「それでは、ギルドに行きましょうか」
「分かった」
「アネモネも一緒にギルドに行くわよね?」
「勿論ですわ。お母様の行くところにわたくしアリ、ですわ」
そんな言葉どこで覚えてくるのだろうか。
こうして私達はギンゼルさんの案内の元、町並みを散策しながらギルドへの道を行く。
流石王都だけあって、この活気はどこの国でも同じようだ。ただ、ふと気になったのは、お酒や煙草といった類いの製造と売買を取り締まっていることで、他の町や村では普通に見られた路上喫煙や軒下での酒飲みといった姿がない。つまり吸い殻や灰、酒瓶などが落ちているということもない。そういった匂いのしない町というのは新鮮である。
ちなみに、現在アネモネは靴を履いている。ギンゼルさんの工房を訪れて授業を受けている合間にあり合わせの革でささっと仕立て上げてくれたのだ。流石職人。また、白い無地のワンピースの上に羽織る物として、私の鉄火竜のジャケットの色に近い布製のフード付きコートもプレゼントされた。本当にありがたい。お礼を言うと、森で助けてくれたお礼だと笑われた。
「ここだ」
そう言われて立ち止まると、目の前に荘厳な雰囲気の建物があった。
どこの土地でもギルドというのは、舐められないようにする為なのか分からないが、無駄に力強い意匠の建物にしたがる傾向にある気がする。
「じゃあ行こうか」
「はいですわ」
私が最初に扉を潜って続いてアネモネ。最後にギンゼルさんが中に入る。
「えぇと、他国からの冒険者の登録受付は……っと、あれだ。あの隅っこ」
「ありがとうございます。では、ギンゼルさんお願いしますね?」
「まぁ一応話は出来るから大丈夫だと思うが、何か困ったことがあったら言ってくれ。まず俺を頼る前にギルドが対応してくれるだろうが」
「そうですね」
気合いを入れ直して受付へと向かう。中年の兎型の獣人の男性が、書類仕事をしていたところに声を掛ける。
「あの、すみません」
垂れていた耳が、私の声に反応してピンと立つ。
「いらっしゃい……ほぅ、エルフ族とは珍しいですな。どうしましたか?」
「はい。エメリナ王国から来た冒険者なのですが、こちらでの活動の為の登録をお願いします」
「分かりました。今こうしてライヒ語で話が出来ているようですが、言語魔法ですか?」
「はい。ですが、文字の読み書きは出来ません。それとタグも共通リトシ語です」
「分かりました。ではタグをこちらに……はい、ありがとうございます。来たばかりということは、まだこの国の通貨は?」
「持っておりません」
「エメリナ通貨でしたらこちらでも両替が出来ます。文字は読めないとのことですので、口頭で説明させていただきます。こちらが表になりますが数字、比率は分かりますか?」
「えぇと……」
一応数字は勉強したので読めるが、ジストやエメリナとはまた違った通貨の比率に混乱してしまう。どれくらい違うかと言えば、円をドルに替えるくらいだろう。しかし、こちらでは金貨、銀貨、銅貨だけで単位も比率も違う。下手したら江戸時代の通貨をドルに変換するくらいに面倒な作業かもしれない。
「ギンゼルさん」
「あ、あぁ」
「すみません」
「良いって。すまないが、俺も話に加わらせてくれ」
「分かりました」
それから話は進み、無事、今手持ちのジスト通貨の半分をライヒ通貨に両替する作業に移ることが出来た。
しかし言語魔法というのは思ったより万能じゃないらしい。通貨の話をしつつギルド職員さんやギンゼルさんの話を聞くに、私とは逆に文字は読めるが話が出来ない人や、使える言語の幅が狭い人などもいるらしい。これも魔法の才能と鍛錬と想像力の問題とのこと。
文字しか読めない人は、大体図書館司書などに多いらしい。確かに他国の書籍を読むのに必要だが、読みはしても話す必要がないから、そういった方面はどうしても疎かになってしまうのか。
ということは、私が急遽でっち上げたエルフ族は文字を読み書きする習慣から、言語魔法を使っても文字の読み書きは出来ないというのもあながち的外れではないらしい。良かった良かった。どうせ嘘を吐くならバレない方が良い。
「では、両替するのはこれだけで良いですね? えぇと、一〇ロカンでよろしいですか?」
「はい」
「一ロカンで一.四スタシの価値があります。それを元に計算させていただきますと、全部一四スタシですね。両替は金貨だけでよろしいですか?」
「そうですね。しかし、こちらは金の価値がかなり高いみたいですね」
「仕方ありません。自国での産出量は非常に少なく、どうしても輸入に頼ることになりますから。銀山や銅山は問題なく稼働していますが、それでも一部を輸入によって賄っている状況です」
「そんな大事な話、異国人の私に話しても良いのですか?」
「話すなとは言われていませんし、各国を巡る商人には既に知れ渡っている事実です。そもそも金銀銅を初めとした多くの鉱石はその商人が運んでくるものですからね」
「まぁ、そうですね」
現在、受付の獣人の男性は、ライヒ語が分からないアネモネに配慮してライヒ語ではなく共通リトシ語で話してくれている。おかげでアネモネも話を理解することが出来ている。ただ、数字や経済の話に付いてこられなくて頭からいくつもの「?」を飛ばしている様が容易に想像出来て、可愛い。
私も故郷では薬師の傍らでなんちゃって商人をやっていたおかげで、簡単な算数は問題なく出来るが、そもそも私は理数系に関してはサッパリだ。元々苦手だったこともあるのだろうが、こちらの世界に来て早一世紀以上。そういった知識を使う機会もなく、ただのほほんと森で生活していたのだ。使わない知識は忘れてしまうのは当然で、今ではすっかり簡単な公式すらも怪しい状態となっている。良いか悪いかはともかく、こちらの世界に馴染んだというべきか。
つまり、この国では金貨一枚が銀貨三一枚分、銀貨一枚が銅貨六五枚分ということは分かり、ジストもしくはエメリナ金貨一枚でライヒ金貨一.四枚分の価値があることは分かっても、その他の差額は覚えられないし、計算も出来ない。よって金貨だけを両替し、後の細かいお金は適当に買い物をするなどして手にしようということにした。
ちなみに、ライヒでの通貨の単位は金貨がスタシ、銀貨がリシシュ、銅貨がリオとなっている。すぐには覚えられそうにないので、しばらくはギンゼルさんに帯同してもらい、計算を手伝ってもらうつもりである。そもそも私もアネモネも文字が読めないのだ。飲食店に入ってもメニューが読めないのでは注文も出来ない。前世の日本のように写真や絵が載っていれば分かるのだが、生憎とそういったものはなく、文字だけのメニューしかない。
「では、両替は以上となりますが、このまま依頼をこなしてみますか?」
「はい。あ怪物の討伐依頼とかありますかね?」
「あると思いますよ。ただ、高ランクの依頼しか残っていないでしょうが」
「もう昼前ですものね。仕方ないです」
それから私はギンゼルさんと一緒に依頼ボードを物色する。私には分からなかったが、ギンゼルさん曰く、やはり銅ランク依頼は根こそぎなくなっているようで、銀ランク以上が五つ、金ランクが二つとなっているらしい。
現在の私はジストで金ランクだったことで、他国の活動は銀ランクで行うことが可能だ。となると、その五つの中から探す必要がある。
「全部怪物討伐ですか?」
「あぁ、残っているのは……金ランクも入れて全部討伐依頼だな」
「ちなみに、銀ランクは何ですか?」
「えぇと、荒小鬼の群れの討伐。後は全部鉄大鬼だな」
「鉄大鬼? あぁ、鉄大鬼ですか」
話には聞いたことがある。ライヒや隣国のベベリーは小鬼や鬼が多いと。ジストなどにも小鬼は出るが、鬼はほとんど見かけない。何故なら、ジストには鉄火竜や覇王竜といった超危険怪物がいるからだ。
ジストやエメリナには鉄大鬼はいないので、資料が非常に少ない。オーガと一言に言っても、ユニコーンが少なくとも二種に分けられるように、オーガも住む地域や特性でいくつか種類に分けられているらしいのだが、残念ながらそれを記した資料は見つけられなかった。
「その鉄大鬼とは、他にどんな種類がいるのですか?」
「あぁそうだな……」
そう尋ねた私は、次の彼の口から出た名前に言葉を失うのであった。
小鬼もいくつか種類があるが、鉄大鬼にも同じように様々な種類がいるらしい。
フレンシアの手記より抜粋




