31頁目 帰り道と受付嬢:後編
前回のあらすじ。
ブラック労働は駄目です。人間がやると身体を壊します。エルフだから出来ます。
後編です。次回は明後日投稿予定です。
本編の執筆はWordで行っています。
今回の話ですが文字数にすると約三六〇〇文字。記念すべき一話が一三〇〇〇文字。三倍以上の開きが……
ちなみに文字サイズは10ptという以外、行間などは一切いじっていないです。
その設定でのWordでのページ数にすると、今回が五ページ。一話が一四ページ。とんでもない差です。
会話で改行するので、行数を稼ぐことでページ数を増やすという手段を執らなければ、もっと短くなっていたと思います。
ですので、一話を読んで今回読まれた方はその文章量の差に愕然とすると思われます。
今後も手軽に読めるようにするべく、執筆済みの物は修正しつつ分割の可否を検討していきますので、長い文章が読みたいという方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。
それに、毎回長い話を書いていたら投稿頻度に対して執筆速度が追い付かない事態になりますので、苦肉の策でもあります。
というか前書きだけで、毎回これだけ書いていたら意味ないですね。
ということで、本編へどうぞ↓
「えぇと、これは私に責任があるのでしょうか……?」
鎌足虫の調査から翌日の覇王竜の討伐と、依頼に関係ない出来事を経験してランテ村経由で帰ってきた私達は、まずはギルドへ報告と報酬の受け取りを行うべく訪れていた。するとどうだろう。報告を受けたミリシャさんが頭を抱えてしまった。当たり前だ。鎌足虫の季節外れの行動の調査とその後の討伐に向かわせたはずが、誰が覇王竜と戦って来ると予想出来よう。私も出来ない。
「私が……私が、フレンシアさんと組ませたばかりに、カトラさん達に多大なる迷惑を……」
そっちかい。
確かにトラブルメーカーであることは自覚している。先程もそれで反省したところだ。治るかどうかは私個人の努力ではどうにもならない部分もあるので、割り切るしかないと思う。
「いや、おんれ達は気にしてない。無事に帰って来れたしな」
「メェー、そうです。フレンシアさんのおかげで、ニャギー達は貴重な体験が出来ました」
「まぁ多少怖かったり危なかったりしたがの」
エスピルネさんフォローをして下さい。
「しかし、たった四人、しかも銅ランク二人含めての四人で覇王竜と戦うだなんて、何を考えているんですか?」
「まさか鎌足虫の移動の原因が覇王竜だなんて知らなかったんです。それに、原因の調査も一応依頼に含まれていましたよね?」
「そうですけど、そうなんですけど……」
これは完全に八つ当たりではないのだろうか。
恨みがましい目でこちらを睨み付けてくるが、無事に帰ってきたのだから良いと思うのだが。
「はぁ、本当にフレンシアさんは……」
私そこまで彼女に負担を強いているのだろうか。
「えぇと、ごめんなさい」
「次に生かせない謝罪は謝罪とは言わないんですよ?」
「うっ返す言葉もありません」
「返して下さいよ! 今、ここで、今後そんな無理、無茶な行動を慎むと誓って下さいよ!」
「いや、ほとんど外的要因でしたし、私個人ではどう頑張っても無理かと」
「何で旅に出たんですか!」
「そこからですか」
「あー、話、長くなりそうか?」
二人で言い合っていたところで、カトラさんが助け船を出してくれた。まだ報告と依頼達成の確認の途中であったことを思い出したミリシャさんは「こほん」と咳払いをして、話を戻す。
「失礼しました。では、カトラさん達は調査依頼でしたので、報酬はこちらになります」
「お、ありがとよ」
「で、フレンシアさんは……」
「まぁ、依頼失敗ですね」
「そうですね」
そこで再び溜め息を吐く彼女に、どうしようという意味を込めた視線をカトラさん達に送るも、一斉に目をそらされた。
「まぁ巣に入ってしまったのを無理矢理討伐するのも危険ですし、そもそも無闇に生態系を壊すことに繋がる殺傷するのはいけませんので仕方ないとします。討伐対象に至ってはですが」
「げっ」
「フレンシアさん?」
空気が止まった。
いや、別に彼女の表情を見るに、私の反応を疑問に思っただけでキョトンとした表情をしているだけだ。
まさか一日に二度も説教を食らう訳にはいかないと、早めにカトラさん達に助けを求めようと思った矢先、後ろの三人がすっと離れていく気配がした。
振り返って引き留めようとするも、何かを確信した様子で「フレンシアさん?」と呼ばれたことで後ろを見ることは叶わず、大人しく説教を受けるハメになってしまった。
笑顔なのに怒りマークが見えるのですが、どんな特技ですか? そういえば、昔笑顔は相手を威嚇する為のものと聞いたことがある。うん、この使い方はすごく正しいことが実体験で分かった。分かったから、そろそろ解放して下さい。
それから説教は四半刻程、前世時間で約三〇分続いたのであった。
「あはははは、災難だったな」
「そう思うなら助けて下さいよ」
「いや、無理だろ。それにお前にも原因あるし」
「まぁそうですけど……」
その後、無事に説教から解放された私は、カトラさん達と合流してギルド内のカフェスペースでまったり寛いでいた。だが、いつまでもここにいる訳にはいかない。本日の稼ぎを何とか捻出しなければ、金ランクなのに極貧生活に陥ってしまう。
立ち上がった私に、カトラさんが声を掛けてくる。
「行くのか?」
「はい。夜の依頼がないか探してきます」
「手伝おうか?」
「いえ、大丈夫ですよ。というかお二人の為にお祝いでも開いてあげたらどうですか?」
「お前は参加しないのか?」
「私は朝食べちゃいましたので、もう入りません。食べても吐くだけですし、ただそこにいるだけというのも何ですので、皆さんで楽しんで下さい」
「分かった。今回は色々とありがとうな」
「これからは、ちゃんとランクに見合った依頼を受けて下さいね」
「うっ、わ、分かってる」
「ニャギーヤさんもエスピルネさんも頑張って下さいね」
「メェー、ありがとうございました!」
「本当に色々と助かったのじゃ」
三人に別れを告げた後、私は依頼ボードへ足を向ける。
もうすぐ日が沈むということもあり、ボードの前には人はほとんどおらず、また依頼票の枚数もそんなになかった。
「これとこれと、あ、これも夜間依頼か」
夜の依頼は危険も多い上、何かあっても夜間は門が閉じられる関係で救援を呼ぶことも出来ない。その為に報酬は割り増しになっているが、それでも受ける冒険者が少ないのは、お金は欲しいがそれよりも命が惜しいということだ。命あっての物種と前世でも言われていたし、無駄に散らす無謀な人がいないのは良いことだと思う。私は無謀な人ではないと思う。エルフだし。
「お、これとこれ東部の依頼だ。採取依頼と討伐依頼。場所も近いし、同時受注しようかな。えぇと、討伐の方は街道近くに狼鳥竜の群れが住み着いているから何とかしてくれ……これ、昼間でも良いのでは? あ、これさっき張り出されたばかりの依頼か。なるほど。それで、採取の方は……リュヌフィラムの蜜の採取……あぁそういうこと」
二つの依頼の場所が近い理由。それは狼鳥竜の目当ても、リュヌフィラムの蜜にあるということだ。夜に開花して蜜を出す植物という点ではリュシオリスと同じだが、自生地が異なっている。
リュシオリスはキダチの森のようなキレイな水が流れる温暖な森に自生するのに対し、リュヌフィラムは開けた土地に生える常緑多肉植物。いわゆるサボテンである。しかし、タルタ荒野のように年中乾燥している土地は生育に向かないのか、ほとんど見かけない。
夜間開花して香りの強いサボテン。しかも花びらは白いとなると、前世の地球に似た植物がある。ゲッカビジンである。
この二つは似ているようで、大きく違う点がある。それは、ゲッカビジンは着生植物であるということだ。大木の樹皮に根をまとわりつかせて、樹皮の表面に付着した水分や腐植質を栄養として成長する。
一方で、リュヌフィラムは土に直接根を張って、地中から水分や栄養を取り込む。
ジスト王国はタルタ荒野を除いて、多くの地域では暖季の終わりから暑季の始めに掛けて雨季が来る。それによって多くの雨を降らすが、その他の季節はあまり雨が降らず、一ヶ月雨や雪がないのも当たり前である。
こういった気象事情から、リュヌフィラムは雨季に降る水分を地下から吸い上げて蓄えるのである。そして、暑季の夜間に花を咲かせて蜜の香りを放ち、コウモリや小動物を引き寄せて花粉を運んでもらうのだ。
しかし、狼鳥竜がそのリュヌフィラムの蜜の味を覚えてしまったのか、街道付近に居座るようになってしまったことで、今回依頼となったらしい。
「確かにリュヌフィラムはリュヌフィラムで、リュシオリスとはまた違った甘さがあって美味しいのよね」
甘みや香りが強いのは圧倒的にリュシオリスであるが、美味しさではリュヌフィラムも負けていない。これは好みの問題であろう。
「よし」
ギルドの閉館時間も迫っているので、急いで受注する必要がある。
依頼ボードから二枚の依頼票を剥がして受付へと持っていこうとして、チラリとミリシャさんを見る。
また説教とかされたら嫌だから、別の人の所へ持って行こうかな。
そう思って進もうとしたが「フレンシアさん」と声を掛けられた為、足を止めてしまう。その声の主へ視線を向けると、とても良い笑顔でミリシャさんが手招きをしていた。
「今度はどんな無茶をするんですか?」
笑顔のはずなのに笑顔じゃない。すごく怖いです。
私は、肩を落として手招きを続けるミリシャさんの元へ向かうのであった。
【名前】
リュヌフィラム
【分類】
サボテン科リュヌフィラム属
【気候・地域】
開けた土地に生える常緑多肉植物
ある一定期間の雨季などによるまとまった水量が必要な為、降水量が少ない年中乾燥している地域での生育は難しい模様
【季節】
開花時期は暑季の夜間
暑季に交配して、種を乾季に蒔いて寒季の間は休眠。それからは暖季から暑季に少し成長して乾季と寒季で成長を止めるを繰り返す為、成長が遅い
【特徴】
雨季に降った雨などの水分を茎内に蓄える為、一定量の水分が必要
夜間に開花し蜜の香りを放つことで、コウモリや小動物を引き寄せて花粉を運んでもらう
高さは五〇ナンファルト前後程度だが、中には二ファルトを超える物もある。その理由は大体成長して無事交配に成功すると、次世代の種の栄養の為に自身が枯れる特性があるのだが、交配が成功しない限り成長を続けるのだ
香りや甘みが強い為、お菓子の材料などに用いられることが多い。また魔法薬などの薬品の材料として使われることもある
ハチミツなどの他の蜜が入手しづらい地域では重要な糖分である。しかし使用の際はしっかり水で薄めないと、体質によっては拒絶反応が起こり酔っ払ってしまうので注意。二倍以上に希釈すればまず拒絶反応は起こらないとされるが、その原因は不明である。人を酔わせる成分が水に溶けて無効となるからという説もある
花の色は青白い。夜間開花する為、月明かりで反射して遠くからでも認識されるようにと思われる