30頁目 帰り道と受付嬢:前編
前回のあらすじ。
魔剣の存在が知られてしまった。
前編です。後編は明日投稿予定です。
フレンシアは何故ここまでクレイジーな女の子になってしまったのか。作者でもサッパリ分かりません。
拠点のランテ村に戻ってきた私達は、村長へ調査結果の報告を行い、その後、村で待機していた馬車に乗り込んで帰路へと付いていた。
車内では、カトラさん達三人の内、ニャギーヤさんとエスピルネさんの二人は銅ランク昇格記念での依頼であったこと、そしてそれを無事達成させることが出来たなどのことから嬉しそうに時折表情を緩ませている。
私の奇行が目立ったことで、一時は微妙な空気になったものの、カトラさんのフォローと村への依頼内容の確認、達成による喜びなども合わさり一部を除いて非常に良い空気が包んでいた。
その一部とはもちろん私のことだ。
依頼失敗に加えて変人であることを知らしめてしまった。前者は仕方がないこととして片付けられるが、後者は完全に私自身の失敗である。
しかし、この長い人類の歴史に於いて、怪物の研究はある程度進んではいるものの、生態調査などの細かいところまでは行き届いておらず、以前の鉄火竜や今回の覇王竜のように炎を吐くことは知られていても、どういった仕組みで炎が出るのかまでは解明されていない部分がまだまだあった。
そういった、まだ知られていないことを知る機会に巡り会えたのだ。興奮し思わずやり過ぎてしまったとしても、それこそ致し方ないことなのだと自己弁護する。
さて、後者の方は私の気持ちなどの問題である為、反省して次に生かすべきことは生かせば良いのだが、前者の方は物理的な問題が発生する。
「はぁ」
出来るだけ考えないようにしていたが、このことが頭を過ぎったことで、思わず溜め息が出てしまう。
それを隣に座るカトラさんが耳聡く反応する。
「どうした? 辛気くさいぞ?」
「あ、いえ、討伐依頼失敗しましたので、お金が……一応、貯金はあるので、しばらく生活する分には良いのですが、この剣などの装備の支払いでお金使っちゃいましたので、どうにか稼いでおきたかったのです」
装備の新調、それも性能が良いどころか、その中の一つは魔剣である。にも関わらず、全て込みでたったの三ロカンで済んでいるので、結構懐に余裕はあると思いきや、フィアの店での無報酬アルバイト二週間によって減った生活費。
加えてまだ商品を購入していない。割引価格で提供してもらえるとはいえ、元が高いので、値段もそこそこする。魔法薬作成修行の為には入手しない訳にはいかない。更に付け加えるなら、ある程度の目処が立ったら隣国のエメリナ王国へ旅立つ予定だったのだが、その旅費も考慮すると、とてもじゃないが色々と足りない。
出来るだけ今の財布の中身だけで活動したい。貯金に手を出すには早過ぎる。
依頼受注の際は、どうせ達成出来るしノトスの試し切りも兼ねてそこそこの依頼をと思って選んだら、まさかの失敗だったことによる無報酬。まさかそういった形で失敗するとは思いもしなかった為、王都に戻ったらすぐに近場の依頼を受注してすぐに出立しなければと決意する。
夜間の依頼は数も少ないが人気もないはずだから、すんなりと受けられるだろう。
「よし、頑張ります」
「何かごめんな? おんれ達が受注しなかったら達成出来た訳だし、何か奢るぞ?」
「いえ、大丈夫です。皆さんまだ色々と入り用でしょう? 特にお二人は銅に上がったばかり。私も経験していますが、銅ランク時代は極貧生活ですからね。少しでも彼女達の足しにしてあげて下さい」
「そうか。すまないな」
「はい、お気遣いいただきありがとうございます」
銅ランクに上がって正式な冒険者として認められたとしても、ランク制限によって比較的安全な依頼しか受けられない。もちろん、そういった依頼は一定数ある。しかし、わざわざ依頼に出すまでもなく当事者が自力で解決する場合もあることから、なかなか見合った依頼が出されないのが現状である。
特にタルタ荒野の住民は村の外へ一歩でも出たらどころか、村の中にいても怪物に襲われる危険がある為にある程度の自衛が出来る。余程のことじゃないと依頼として上がらないのだ。
銅ランクの冒険者の数が冒険者全体で見ても大多数であることも、銅ランクは極貧生活に陥りやすいことの要因だったりする。限られた依頼を取り合って、それで達成しても銅ランクで出来る依頼ということで報酬はお察し。
それを解消すべくギルドは、銀以上のランクの冒険者と組むことで、条件付きだがランク制限を取っ払って依頼を受注出来るようにした。それによって、依頼受注の増加と、ある程度の報酬の安定化を図ろうとしているのだ。
まぁ今回の依頼、覇王竜が絡んでいたので、その討伐ともなると銅ランク二人を面倒見ることを考えると、最低でも金ランク四人と銀ランク六人以上は硬い任務だっただろうと予想される。だから、よくこの人数と練度で出来たものだと感心したのだ。
ちなみに、新米冒険者は経験を積む意味も込めて、ギルドから常設で簡単な依頼がいくつか出されており、それは新米冒険者のみで受注することが出来る。それ以外の依頼は、たとえ新米冒険者のレベルに合わせた依頼であったとしても、監督役の冒険者の同行が必須となっている。
コールラ達にはそういった経験を一切積ませずに、とりあえず卒業させることを目指していたが、あの分なら大丈夫だろうと思われる。後は採取依頼で、いかに状態の良い素材を見つけて適切な手段で入手するかだが、こちらは座学だけでは限界がある。実際に何度も繰り返して覚えるしかない。ゲームのように採取出来るポイントやこれが採取出来る素材だと示されている訳ではないのだ。
そこのところの教育はギルドに丸投げしているので、彼ら彼女らが成長しなかったらギルドのせいである。
「あの、フレンシアさん……」
「ニャギーヤさん? どうかされましたか?」
カトラさんと話していたところに、急に声を掛けられた。
「メェー、フレンシアさん、すごく強かったんですけど、どうやってそこまで強くなったんですか?」
「む、それはワシも気になるのぅ」
「どうやってと言われましても……ただ我武者羅に突っ走ったとしか言いようがありませんね。一〇年前までの私は特に目的や目標があった訳じゃなく、とにかく冒険者がやりたいとしか考えていなくて……強くなりたいとか稼ぎたいとかは少しあったかもしれないですが、あまりそういうこと考える間もなく次から次へと依頼受注していましたから……」
エルフの身体だから出来るブラック労働染みたことを、ほぼ一〇年間休みなく行っていた。おかげで私の知らないところで名声が広まり、二つ名が付いて、ランクもジスト王国所属冒険者でも数人しかいない紫水晶までデビューして最速で上り詰めたという……別に有名人になりたかった訳じゃなかった為、最後の紫水晶は純粋に嬉しかったが、その他は蛇足だと思う。あ、この世界、ヘビでも足ある種あるから蛇足という言葉はない。それと、カナヘビはヘビではない。
「つまり、過重労働をしていたということか?」
「そうですね。近場でそう時間も掛からない依頼でしたら、多い時は一日に四個の依頼を受注してこなしていました」
「よっ、四つもですかっ!」
「それはちょっと働き過ぎじゃのぅ……」
「よくぶっ倒れなかったな……」
「もちろん、怪我もしましたし、装備も買い換えたり整備したりとありましたので、毎日毎日冒険者業に勤しんでいた訳ではないですが、とにかく時間があればギルドに行っていましたね。エルフの身体はこういった激務に向いているので、三日三晩休みなく動き続けることが出来ます」
「いや、身体が大丈夫でも精神がもたねぇよ」
「同感じゃ」
ニャギーヤさんも二人に同調するように激しく頷いていた。
「まぁ昔の話です。あまり掘り返したくないのですが、先達として後進を教え導くのも務めですから多少の恥は飲み込みましょう。つまり今の話を教訓として、自分のペースで焦らずに。これが無茶をしてきた私から贈れる言葉ですかね」
「いや、今も十分無茶をしていると思うぞ」
「え?」
「え?」
「……」
うーん、そうかもしれない。
過去の自分と比べると随分と緩くなったと思っていたが、一度戦闘に入れば腕を壊しては治し、腕が千切れては治し、全力の魔力をぶつけてぶっ倒れ、翌日も懲りずにぶっ倒れ……むしろ悪化している気がする。
「い、以後、気を付けます」
「おいこら、こっち見て言え、説得力ねぇぞ」
思わず顔を背けてしまった。
「ま、前向きに検討します」
「「「はぁ~」」」
三人に盛大な溜め息を吐かれた。
うん、分かる。私もパーティメンバーに同じような受け答えされたらそういう反応する自信がある。ただ、これまでは個人で対処しなければならない場面が多かったので、必然、生き残る為には多少の無茶をしなければならない訳で、腕や脚が千切れてもくっつけば問題ないし、というかこれからも一人旅は続くのだから、こういった荒事は出来れば関わりたくないが、全て避けることは難しいだろう。
旅に出て半年も経っていないのにこのトラブルの数である。となると、これから先、何年、何十年の旅になるか分からないが、そういった数々の面倒事に巻き込まれることは必至だと思われる。
「私が溜め息吐きたいくらいです」
一〇年前はそうでもなかったと思うのだが、どうやら巻き込まれ体質というかトラブル体質というか、面倒事を引き寄せる何かが身をまとっているのかもしれない。教会に行けば御祓いとかしてもらえるのだろうか。異教徒だから難しいか。
「今度はワシから。今までで難しかった依頼とかはあるかの?」
「難しかった……ですか。うーん、確かにその頃から個人で行動することが多かったですが、即席でパーティを組んで依頼に当たることも多かったので、それ程困難と言える状況に陥った記憶はないですね」
こんな話を続けながら馬車に揺られることしばらく、王都に到着する頃にはすっかり車内は行きと同様の熱気に包まれ、カトラさんとニャギーヤさんはダウンし、私とエスピルネさんは幌を空けたり団扇代わりに布で仰いだりして風を送っていた。
ダウンした二人を介抱しつつも、依頼を達成出来たことと無事に生きて帰って来られたことから嬉しさが込み上げ、再び笑い合うなどはしゃいでいた。私ももちろんその中の一人で、はしゃぐとまではいかないまでも、盛り上がった二人が再び暑さで座り込む様子を見て思わず笑ってしまった。
「賑やかなのは良いがな。お嬢さん方、そろそろ到着だよ」
行きと全く同じ台詞の御者のおじさんに、私達は一瞬目を丸くするもすぐに笑いが込み上げる。ただ、笑っては失礼だと堪えるのに必死であった。
そうしている内に日が傾いてきた頃に王都の西門へと到着し、検問を受けて無事に都内へ入ることが出来た。
馬車を降りた私達は御者にお礼と料金を支払い、馬車乗り場を後にし、四人揃ってギルドへ向かうのだった。
【名前】
ダイノレクス
【種族】
獣脚種(竜脚種)
【別名】
覇王竜
【生息地】
タルタ荒野など
【大きさ】
頭胴長一五ファルト前後の準大型種
尻尾の長さを含めると三〇ファルト弱にも昇る
【生態・特徴】
凶暴な肉食怪物
特に決まった縄張りを持っている訳ではない為、同種と遭遇したとしても縄張り争いなどに発展することもない
色は茶褐色から焦げ茶色に近い
嗅覚が非常に優れている為、例え獲物を逃したとしてもその嗅覚によって得られる追跡能力でどこまでもしつこく追い掛けることが出来る
小飛竜のように肉弾戦が主であることから、身体中に傷跡がありそれが模様のように見える
図体の大きさとそれに比例した重量持つ為、俊敏さなどは、あくまでその巨体にしては速い程度で数々の速さを売りにする怪物と比べると遅い。しかし数々の戦いの経験と元々備わっている本能から繰り出される動きは、攻撃を紙一重で躱し、カウンターを仕掛けてくるなど変幻自在な戦い方をする
体力、生命力に優れ、仮に深手を負ったとしても死に至らなければ、数日の休息を経て復活出来る
成体は雌雄問わずその驚異的な戦闘力と、その地域の生態系の頂点に属していることから『覇王竜』や『暴君』などのあだ名が付けられている
一方で幼体は身体が弱く、生存率が低い
怒りなどで興奮状態になると体温が急上昇する上、生息地が荒野や砂漠といった日差しを遮る物のない地域であること、そして体表の色も熱を吸収しやすいことから、暑季の頃は熱中症になりやすく、未熟な幼体の頃はそれで命を落とすことが多い
寒季にはわざと興奮状態になることで体温を調整しているとされ、寒眠をせずに年中行動している
このことから、ダイノレクスの産卵期は暑季の終わりから乾季の始め頃で、三ヶ月程経った寒季に孵化するよう調節することで、暑季での熱中症が原因の死亡数を減らす目的があるとされている
しかし、産まれたばかりの幼体が、餌も少なく体温調節も不得手な状態で寒季を乗り切ることは厳しく、暑季程ではないにしろ死亡率はそこそこ高い
成体であっても、体内に熱が籠もり過ぎると命に関わる為、体温調節として口から炎を吐くことがある。熱だけの放出ではなく、何故炎となるかだが、熱の放出に合わせて、気管などから油分を含んだ体液が分泌され、それが気化した状態のところに引火して口から出ることが、最近の研究で判明した
この油分を含んだ体液を、熱の放出に合わせて分泌する理由については、余分な脂肪を分解し、体外へ排出する目的があるとされる。実際に首回りは弱点になり得ることから活動に支障ない範囲で脂肪をまとうことで防御力を高め、本能による動きも合わさって、鎌足虫の不意打ちによる切り裂きも致命傷に至らずに済む。ここから脅威の生命力で復活するのだから恐ろしい
また、体外への熱の放出は炎のみではないとも研究で明らかにされ、体表に刻まれた数々の傷跡が、微々たるものだが熱の放出の助けになっていることが判明した。これによって、成体の熱中症での死亡率の低さがある程度解明された形となる
戦闘時に炎を吐くが、これはあくまで体温調節であり、一度熱を放出したことで一時的に体温が下がるので、次に炎を吐くまで多少時間が掛かることから連続して放つことは出来ない
【素材】
牙や爪、鱗に骨は武具に用いられる
特に頭蓋骨はとても硬く頑丈な為、防具として重宝される
気管支周りから分泌される揮発性の高い油分を含んだ体液は、発火しやすいので取扱注意だが、何らかの燃料などとして活用法があるかもしれない。が、少なくとも魔法薬の素材にはならない
その他の部位については、活用法が見出されていない。肉は食べられないこともないが硬く臭い為に好まれていない。そもそも討伐数が少ないので流通量もほとんどないので、口にする機会はないと思われる




