28頁目 痕跡探しと覇王竜:後編
前回のあらすじ。
鎌足虫の痕跡を遡って移動したら覇王竜と邂逅した。
後編になります。次回は明後日投稿予定です。
モンスターの大きさは、当初は頭頂から尾端で考えていました。
しかし実際の動物の大きさを表すのに頭胴長という尻尾を含めない長さで測ることを知り、途中からそれに切り替えました。
その結果、身体のサイズだけが残り、そこに尻尾の長さを足すこととなったことで、とんでもなく大きな生物が出来上がったという訳です。
ですので、初期のモンスターのサイズ基準で作っていたら覇王竜の大きさはティラノサウルスよりも若干一回り大きいかもしれない程度に収まる予定でした。
では、何故直さなかったのかと言えば、もう直すのが面倒になったからです。
ただし、長さの基準がメートルと同じだが単位がファルトと全然違いますので、独自の長さの基準を作って三話を修正して人物の身長の数字をいじれば解決する……はず。
この変更候補もただの思い付きですので、修正しない可能性が高いですが、絶対にしないとも限りませんのでご覚悟下さい。
鎌足虫の移動の痕跡を逆に辿って、あの個体がどのような理由で片鎌となって荒野を彷徨っていたのかを調べていた私達は、巣の跡地と思われる場所で眠っている覇王竜の姿を認めてしまった。
撤退を決めるも、仲間のミスで起こしてしまった。しかし幸いにもこちらが風上である。匂いによってこちらの存在が知られることはない。そこで私は思考が止まってしまった。
そう、匂いによる追跡はダイノレクスにとっては十八番だ。そして私達の位置を思い出す。
私達はあの覇王竜との戦闘で傷付いて逃走した鎌足虫の痕跡を辿ってきた。
好戦的な怪物だ。体力が回復したことで、次に取る行動が自身を傷付けた存在の排除との考えに至るのは不思議ではない。そして、その逃げた敵を追う為に地面に残された痕跡の匂いを辿って追い掛けるだろう。
そこまで考えたところで、私の耳に嫌な音が聞こえる。
四人揃って振り返ってなだらかな丘の上を見上げると、ただでさえも大きい身体なのに対して高低差の関係で余計に巨大に見える影がこちらを見下ろしていた。
時間にすると一瞬の出来事だったかもしれないが、この次の動きへと移るまでのこの間が、すごく長く感じてしまう。
果たして、先に行動したのは覇王竜の方であった。
とてつもない咆哮を上げ、周囲の空気がビリビリと振動する。そして聴覚に優れているエルフ族の私や獣人族の二人はもちろんだが、至近距離だったことで普通の聴力であるはずのドワーフ族のエスピルネさんもその声量に思わず耳を塞いで立ちすくんでしまう。
見つかってしまった以上は逃げることは不可能だ。相手はとてつもなくしつこい。しかも傷を癒やす為にあの場所からあまり動いていないことが予想される。つまりアレは空腹状態だ。となれば、ますます見逃してもらえるはずがない。
「戦闘に移ります! カトラさんは二人を安全な場所まで……」
「いや、この場合、下手に分散するのは得策じゃねぇ。ここは街道じゃねぇんだ。どこから虫や草が襲ってくるか分からん以上、おんれ一人では対処が追い付かない。ここで、全員でやるぞ!」
「分かりました。援護をお願いします。放雷・散!」
覇王竜が踏み込んだタイミングを見て、出鼻をくじくように目の前で雷魔法を炸裂させる。怯んだ隙に、私とカトラさんが飛び出す。
「ここは場所が悪いですが仕方ないです。私は左から!」
「んじゃ、おんれは右だな! ニャギー! 弓矢で援護してくれ! スピルはニャギーの支援だ。魔法は使うなよ。おんれ達が巻き込まれる!」
「メェー!」
「分かったのじゃ!」
相手は丘の上で、こちらは丘の下だ。なだらかな坂とはいえ、この高低差は無視出来ない。しかし仕切り直しは出来ないのでやるしかない。
私は魔剣ノトスを抜いて素早く斬り掛かる。
切れ味の良さは昨日の戦闘で実証済み。現に今もしっかりと傷付けることは出来ているが、致命傷とまではいかず、せいぜいが軽傷レベルである。硬いというより、上手い具合に身体を捻って直撃や急所を避けている感じだ。
「うぉおりゃあああ!」
カトラさんのハンマーによる打撃も、頭部に当たったにも関わらず、ほとんど効いていないように見える。
戦闘狂なだけあって、戦い方が上手い。本能で微妙に打点をズラされる。
過去に二度行った戦闘も、このようになかなか有効打が与えられない状況に陥った。もちろん単独ではなくパーティでの討伐だ。
鉄火竜のように防御極振りの鈍重な怪物ならスピードで翻弄すれば良いが、覇王竜の場合は防御そこそこ、動きもその巨体の割には素早いというだけで決して速い訳ではないのだが、本能というか直感に従った動きと非常に高い攻撃力と体力の前に、並の戦力では適わない。
時折、後方から飛んでくる矢と、左右からの攻撃に翻弄されているのに加え、最近出来た傷も完治には至っていないのか、動きの精彩に欠けているように感じる。
それでも、どちらが優勢とも取れない微妙な状態である。
「雷散弾!」
手のひらに生成した雷を散弾銃のように発射し、そこを起点に更に懐へ飛び込んで切り上げる。
「これも駄目か!」
「どりゃあああああああ!」
ノトスが自慢の切れ味を見せようと張り切っているのが分かる。しかし空振りではないが、微妙に思うように斬れていないことに不満があるようで、時折右腕にまとう風が乱れる。
敵が私に気を取られた隙に、反対からカトラさんが空中に躍り出てハンマーを一気に振り下ろす。しかしそれも見切っていたかのように躱すと、そのまま彼女は地面へと落ち、地面に亀裂が入り土煙が舞い上がる。
「落ち着いて。大丈夫」
剣にも自分自身にも言い聞かせるに呟きながら、次々と雷魔法を放つ。疑似身体強化を行えば、おそらく相手の反応速度すらも超えた攻撃を行えるだろうが、身体だけでなくノトスにもバフが乗るようで、それで昨日は力が制御出来ずに暴発してしまった。
移動による負傷は回復すれば問題ないが、平衡感覚などの一時的消失はこの緊迫感のある環境では隙にしかならず、不用意に用いることは出来ない。
使う時は一撃で仕留められる時。今は我慢の時だ。魔力も体力もまだまだ十分にある。集中力だって切らしていない。しかしそれはあくまで私だけの話だ。他の三人。特に銅ランクの二人は長期戦には慣れていないだろうし、何より覇王竜が相手だ。恐怖と緊張で疲労の蓄積具合は想像も出来ない。
「何とか足を止めさせれば、一撃でいけるんだけど……」
以前二度戦った時は、いずれも私の他にも一人が金ランク、他に銀ランクの冒険者四人の総勢六人で対処した為まさに袋叩きであった。あの時は前衛が充実していたことで私は弓矢と魔法による支援が行えていたが、今回は人数的にも練度的にも私が後ろに下がる訳にはいかない。
「そっちじゃねぇ! こっち向きやがれ!」
遠くからチクチクと飛んでくる矢。威力はさほどないが鬱陶しいと感じているのか、標的をニャギーヤさんに定めようと口を開く。そして炎が吐かれようとしたその瞬間、カトラさんが割って入りアゴを思いっ切り打ち上げたことで、射線が上へとそらされた。
周囲の気温が跳ね上がったことからしても、相当高温な炎であることが推察出来る。遠距離攻撃があることを忘れてはならない。後ろにいるからと安全ではないのだ。しかし、一時的にだが後方の安全が脅かされる事態を防ぐことには成功した。
あの炎は連続して撃てない。興奮状態によって急上昇した体温を調節する為に、その熱を放出するのだが、逆に言えば体温を上げなければ炎が撃てないということになる。そして今、その熱を放出してしまったことで、一時的にだが文字通りクールタイムに突入した。つまり次の行動まで猶予が出来た。
「雷紐!」
足を払おうと雷の紐を鞭のように振るも、鉄火竜のように転倒とまではいかず、わずかにバランスを崩すことに成功した程度だ。しかし、そこにすかさずカトラさんがフォローに入ってくれているおかげで、無駄にならずに済んだ。問題は、その一撃も有効打にならなかったことだ。
動きながらも考える。
頭蓋骨は硬いので有効部位にならない。そうなると心臓を狙うのが手っ取り早いが、これだけ俊敏に動く怪物だ。律儀にのんびりと狙わせてくれるはずもなく、また鎌足虫の奇襲で負った傷もこの二、三日でここまで回復出来る生命力もある。
このパーティでは火力でゴリ押しは不可能だ。そうなると、何らかの手段で拘束するなどして、動きを止める必要がある。
「試すか。陣形成!」
ジャケットの裏から残り少ない投げナイフを全て地面に投げ、雷魔法によって走らせる。
「おおっ! 何だそれ!」
「魔法陣を描いて詠唱破棄による拘束魔法を放ちます! それまでは足止めを! 合図したら離れて下さい!」
「分かった!」
手慣れた動作でさほど時間を掛けることなく陣が刻まれていく。この拘束魔法は強力だが魔法陣の真上にいないと効果が十分に見込めない。カトラさんだけでなく私も片手間に援護を加えつつ、ものすごい速さでナイフが地面を駆け抜けさせていく。
「今!」
「よっと!」
「縛雷!」
魔法の発動に気付いた覇王竜が、咄嗟に身を捻ることで、全ての鎖を巻くことは出来なかったが、それでも七割近い雷による鎖で縛ることに成功した。捕まえることが出来たとはいえ、油断は出来ない早急に仕留めなければとノトスに意識を向けようとした。その時、あり得ない状況を目にすることになる。
「嘘っ!」
「マジか!」
「「ええええええっ!」」
後ろからも驚きの声が聞こえるが、私も思いっ切り叫びたい気分だ。翡翠鳥ですら抜け出せなかったあの拘束を、力尽くで突破したのだ。
拘束魔法は失敗。あの魔法が私の中で一番拘束力のあるものだったので、私には他に手段はない。一応もう一度陣を描いて発動することは出来るが、楔となる投げナイフを失っている以上、拘束力は落ちる。
「他に手段は……」
拘束魔法が効かないからと諦める訳にはいかない。身体が動く限り、魔力が尽きない限り手はある。私一人ではない。仮とはいえパーティを組んでいるのだ。練度に不安はあるが、それでも一人よりは手札が多いことに変わりはない。
手に持つ武器では手段がないので、魔法に視点を移し熟考する。もちろん、その間も攻撃の手を緩めることなく、相手を翻弄していく。
私が使えるのは雷魔法と回復魔法。後、ノトスの限定的な風魔法。
攻撃には良いけど、相手の動きを封じるには手札がない。というか縛雷が優秀だったからアレばかりに頼っていた。幅広く雷魔法の応用を身に付けていたつもりだったが、まだ覚えなければならないことが増えた。とりあえず、反省は後にして思考の隅にどける。
次にカトラさんは、身体強化と振動魔法。身体強化の練度の高さは見ていて分かる。セプンよりも洗練されているが今回は相手が悪い。その能力が十分に発揮出来ていない。振動魔法は苦手だと言っていたが、どの程度の威力かは分からない。
ニャギーヤさんは水魔法。エスピルネさんは土魔法。二人もカトラさんの振動魔法同様威力は不明だが、いずれもあの暴君を止めるには難しいだろう……
「いや」
確かに一人一人の魔法ではどうにも出来ない。だからといって手がない訳ではない。そして、思い付いた。
「エスピルネさん!」
「なんじゃ!」
「土魔法で敵周辺、出来るだけ広い範囲の地盤を不安定にして下さい!」
「どういうことじゃ!」
「この硬い地面を耕して下さい! 出来るだけ地下深くまで!」
「よく分からんが分かったのじゃ!」
そう言って、集中する為か目を閉じて呪文詠唱に入る。それを横目に、今度は視線をニャギーヤさんに向ける。
「ニャギーヤさんは、耕された地面の下、出来るだけ深くまで水を流し込んで下さい!」
「メェ! み、水を流すんですね! 分かりました」
彼女も弓矢による支援を止め、短い呪文、短文詠唱を唱え始める。
流石に二人とも平行呪文を身に付けてはいないか。かつてと言う程期間は空いていないが、教え子であったコールラは優秀だった。あのレベルとまでは行かないまでも、せめてエメルト程度のレベルは欲しいと感じてしまう。
いけない。あの子達とこの子達を比べるなんて……それに、今はない物ねだりをしている場合でもない。
間もなくして、ニャギーヤさんが詠唱を完了させるタイミングに合わせて、エスピルネさんの詠唱が間に合った。
「いくぞ、土粒砂!」
「メェー、水源!」
魔法は発動するも見た目にはあまり変化はなく、また覇王竜も元気に暴れ回っている。これでは、まだ水を含んだ地面であるので、これだけでは意味がない。しかしここに一押し出来る存在がある。
「カトラさん! 振動魔法を!」
「何か分からんが、いくぞぉ! 衝撃波!」
まさかの無詠唱。苦手と言っていたのはどういうことなのか。
地面へと打ち下ろされたハンマーを起点に発動した魔法は、地面を揺らし、小規模ながら地震を発生させる。私とカトラさんはすぐに距離を取り、次の行動に入れるように構える。
突然の揺れに驚いたのか、遠くで鳥が飛び立つ姿が目に入った。
覇王竜も戸惑いを見せ、一歩踏み出したところで足が地面に飲み込まれた。それによってバランスを崩した巨体は、尻餅を付くように倒れ込んでしまう。どうにかしようと必死でもがくもますます深みへとはまっていく様に、先程まで手こずっていた強敵の姿はない。
「何っ!」
本日何度目かのカトラさんの驚きの声を無視し、今度は相手の真上、空中に雷魔法で魔法陣を描いていく。
「縛雷!」
拘束力は先程のものよりは落ちるものの、下半身のほとんどが埋まった状態では抵抗が難しいのか、難なく鎖に巻かれていく。
「お待たせ」
続く「ノトス」という言葉は口に出さずに飲み込むが、それを理解しているのか、ようやく出番かとやる気を出したノトスが風を出し、私の周囲を駆け巡る。
「おい、それ」
「メェ? 風……魔法?」
「魔法が三つ……じゃと?」
仕方がないとはいえ、後で口止めするのが面倒だと思いつつ、自身に疑似身体強化の魔法を掛け、それに合わせてノトスを中心に雷をまとっていく。
狙いは心臓。尻尾含めて下半身が埋まった状態のおかげで上体が上向きになった。そのおかげで先程までの前傾姿勢よりは位置確認しやすく狙いやすい。
巨体の為、標的が若干高い場所になってしまうが問題ない。
ノトスを構える。
この最速の一突きで、終わらせる。
「疾風迅雷……飛雷針!」
地を蹴った私は、勢い良く飛び込み剣を突き出した。
たった四人。しかも銅ランク二人を含めた四人で覇王竜と戦うハメになるとは……
フレンシアの手記より抜粋




