27頁目 痕跡探しと覇王竜:前編
前回のあらすじ。
魔剣ノトスによる初陣。主人公は攻撃を食らっていないのにフラフラ。
前編になります。後編は明日投稿します。
この物語を思い付いた当初の構想としては、ただぼっちでひたすら旅するだけの話だったので、戦闘もなくただ淡々と生態観察などに勤しむ話の予定でした。
それが四話で教官として新米冒険者とパーティを組むことになり、五、六話で戦闘訓練。
一〇話ではモンスターとの戦闘も行いました。
物語に波を付けようと思った結果がこれですよ。
よって、武器も戦闘を行わないのであればほぼ使わないでしょ的な感じで、とりあえず弓矢と銃が好きなので持たせ、近接戦闘にも対応出来る設定として剣を持たせただけでした。
それがまさか戦闘を行い、壊れ、魔剣を手にすることになるとは書き始めた時は思いもしなかったです。
今後も、現時点では考えになかったことも執筆の過程で思い付いたというだけで、どんどんネタを放り込んでカオスにしていくつもりですので、どうぞお付き合い下さい。
翌朝、日が昇り始めた時間帯に、私含む四人の女性冒険者が出発の準備を整えていた。
「忘れ物はないか」
「ないぞ」
「メェー、ニャギーもありません」
「大丈夫です」
「よし、それじゃあ今日は昨日とは反対の方向へ向かう。陣形は昨日と変わらないが、互いの距離を一ファルトずつ狭めるぞ。会話による情報交換を許可する」
昨日は調査対象に発見されるのを防ぐ為に極力言葉を発せず、静かに行動する必要があったが今回の目的地は巣の跡だ。とはいえ、街道をそれることには変わりはないので十分警戒は必要であるが、まだ会話が出来る分昨日よりは気楽であった。
「よし、まずは昨日の痕跡発見地点まで移動開始だ」
「「「はい」」」
街道を歩く中、話題となるのはやはり昨日の私が用いた道具と、謎の戦闘の痕跡のことであった。
「やっぱり話さないと駄目ですか?」
「駄目ってことはないが、やっぱ気になるだろ」
試作閃光弾(仮)に関しては、雑貨屋の隅で誰にも見向きもされず、ぽつんと陳列されていたのを試しに買っただけなので別に話すのは問題ないと思う。しかし魔剣ノトスは、話しても良いものか、そして話すにしてもどこまで話すべきか難しい問題である。
彼女達に悪意があり、直接私やノトスに何かをしようとするとは限らないが、伝え聞いた話をポロっとこぼしてたちまちに周りに広がる事態は防ぎたい。
インターネットもスマホもない世界であるが、人づての噂というのはそれに近い速度で一気に拡散する。人の口に戸は立てられぬのである。口止めとしたところで、どこからか必ず漏れるものなのだ。
「爆薬に関してはお店で買った物ですので、お話するのは良いですが……戦闘の方は、少々事情がありますので、出来ればあまり話したくないのです」
「それはその左腰の剣が関係しておるのか?」
「うぇっ?」
驚いて変な声が出てしまった。
ノトスを使う場面は目にしていないはずであるが、そういえばエスピルネさんはドワーフ族。鍛冶師でないと油断していたが、まさか昨日の今日で、いやおそらく昨日の時点で見破られていたのだろうか。
「何となくそう思っただけなのじゃが、その驚きようだと正解のようじゃの」
カマ掛けられていた? いや、この場合、確信していたとしても知らないフリをして切り抜けるべきだっただろう。やはり私に腹芸は向いてない。
素材に関しては、私が翡翠鳥の討伐者で死骸ごと運んできたことは広く知られているので隠すことは出来ない。そこから討伐者ということで一部の素材を剥ぎ取っていることは、あの場に居合わせた関係者なら知っているだろう。そこから漏れ聞いた情報から、何らかの武具に加工していることを想像することは難しくないはずだ。
死骸はサンプルとして研究機関で研究中な為、少なくとも今の時点では素材が出回ることはない。もしかしたら不要な部位などが出るかもしれないが、そうなると廃棄か、工房などに回されると思われる。もちろん爪一本でも貴重な研究材料なので、捨てる部分は現在のところないだろう。
つまり現状では翡翠鳥の武具を持っているだけで珍しいのだから、冒険者ならば興味が沸くのも仕方がないと言える。しかし、彼女達は大事なことを忘れていないだろうか?
「メェー……あの、今回は依頼内容が近いだけで組んだ仮のパーティです。本パーティならともかく、冒険者の事情や秘密を他の人が無理に聞き出すのは一応違反ですし、ニャギーも駄目だと思います」
そうだ。冒険者同士の事情への過干渉は御法度。マナー違反であるのだ。罰則などはなく、あくまで暗黙の了解というものなので、時折秘密を暴こうと強要してくる人も中にはいる。今回のは、そこまで過激じゃない上、ブレーキ役もいるみたいなので一安心である。
「あー悪い……金ランクの冒険者と一緒に依頼をする機会って全然ないしさ、おまけに最近噂のエルフの冒険者だってんだから、つい……な。すまんかった」
「ワシも、面白そうな剣じゃったから興奮してしまったのじゃ。フレンシア、すまなかったのう」
「いえ、ちょっと事情が事情なので、もしも話が広がると色々と面倒になりそうなので、ごめんなさい。ニャギーヤさんも止めて下さり、ありがとうございます」
「メェ! い、いえ! こちらこそご迷惑をお掛けしました」
鎌足虫放浪騒動の件の影響か、人通りが一切ない街道をひたすら歩くことしばらく、昨日の街道を横切る鎌足虫の移動痕を発見した。
「よし、昨日はこっから左に行ったけど、今度は右だな。陣形については先程も言った通りだ。黙らなくても良いが、騒ぎすぎるなよ?」
カトラさん指示の元、それぞれ位置に付いて一定の速度での行軍を開始する。
昨日の痕跡を辿った時同様に、足跡はあっちへ行ったりこっちへ行ったりと何度も蛇行したり、時折引き返した痕跡があったりしていた。
おそらく、同胞……いやこの場合、同種族だとしても捕食者か。その巣や蔓鞭植の巣などを避けていることが分かるが、私の聴覚や電流網でも捉えられない隠れた相手をどのようにして捕捉しているのか、非常に興味がある。
時々、他の小型怪物や動物などの足跡が混じることもあるが、惑わされることなく順調に進むことが出来ている。
「この辺りは結構急いでいる感じがするな。近いのか?」
「そうかもしれませんね。巣にいる所を何者かに襲われて逃走。あの街道の辺りでは歩幅が落ち着いているようでしたので、撒いたか追っ手がないと判断したのでしょう」
しかし、仮に襲われたとするならば、鎌足虫を襲った犯人……犯怪物? はどこに行ったのだろう。ここに来るまでに追っ手らしき足跡などの痕跡はなかった。空を飛ぶ怪物なら足跡はないだろうが、それならもう二回、せめて一回は接触して戦闘があったとしてもおかしくないはずなのにそのような痕跡はなく、片鎌の個体は何事もなく逃走に成功している。
巣を奪うのが目的だったとしても、同じ鎌足虫同士で巣を取り合うというのは聞いたことがない。
捕食でもない、巣を奪う為でもない。
捕食ならば逃げた手負いの標的を追うはずだ。巣を奪う為ならば巣を手にした以上は追っては来ないだろうが、そもそも同種で巣を奪い合うことはないし、他にタルタ荒野で穴を巣とする怪物は移動をしない蔓鞭植のみだ。他の地域から移動してきたということも考えられるが、その可能性は限りなく低いだろうと予想される。
ということは、戦闘が目的か。そして逃げたということは負けたのか。しかしそれでも疑問に残るのは、何と戦ったのかということになる。
昨日遭遇した三体はあっさりとノトスによって蹂躙されたが、本来の鎌足虫は強い怪物である。
陸上に姿を現している状態では、地中に潜んでいる時よりも戦闘力が幾分か落ちるのは否めない。彼らの本来の戦闘方法は、穴に隠れてジッと獲物が通るのを待ち続け、通った瞬間に目にも留まらぬ速さで飛び掛かって急所を前足の鎌で切り裂いて狩るのだ。
もう少し季節が進んだ乾季ならば、繁殖の為に巣を出る為、他の怪物とかち合って戦闘になることもあるだろうが、今の季節は暑季だ。ということは、穴に潜む鎌足虫を返り討ちにして逃走させるに至った強力な怪物がいることになる。
そんな怪物がタルタ荒野には……いる。確かにあいつなら返り討ちにすることも出来る。一応、他の候補としては鉄火竜と矛盾竜も挙げられる。
鉄火竜は防御力と攻撃力どちらも兼ね備えているので、難なく対応出来ると思われるが、元々餌となる鉱石にしか興味を示さない怪物である為にこんな所を彷徨いている理由が分からない。ということで一先ず候補から除外である。
もう一つの候補の草食怪物、矛盾竜も防御力の高さという観点で攻撃を受けても耐えられるだろうが、彼らは数頭の群れで行動している。一頭が襲われたとなれば、他の矛盾竜は反撃をする上に、しつこく追い回す為にそういった痕跡があるはずだが、それも見当たらない。
二つの候補を除外したところで、改めて最初に浮かんだ怪物に焦点を当ててみるが、今度は別の疑問が出てくる。好戦的なあいつなら逃走する獲物を放っておくだろうか。これまで二度の戦闘経験があるから分かるが、あれは勝ったからと見逃す怪物じゃない。徹底的に蹂躙するはずだ。にも関わらず、鎌足虫は前足一本を引き替えに命を繋ぎ止めている。
疑問が解消されないまま四人で固まって移動していた時、自然の風が地表付近の熱を押し出すように吹き付け、正面から私達を撫でるように通り過ぎていく。その瞬間、カトラさんの足が止まった。
「止まれ。嫌な匂いがする」
立ち止まった彼女は素早くハンドサインも併用して停止の指示を出す。
私は周囲を警戒しながら彼女に近付く。音での探知では引っかかりはないし、電流網では範囲外だ。そしてカトラさんは匂いと言った。今の風……風上に何かいるのだろうか。
「どうしますか?」
「多分大丈夫だろうが、一応慎重に近付こう。こっからはまたお喋りはなしだ」
私達は首肯して、それぞれの位置に戻って歩き出す。
足跡を辿っていくと小高い丘が見える。この先か。丘と昇っている最中に電流網に生物の反応が探知された。移動をしていないということは、やはり巣を狙った怪物? いやそんなことよりも。
「止まって下さい」
小声で呼び掛けると、耳の良い獣人は振り返ってくれた。エスピルネさんもそれを見て、同じように足を止めてこちらを見る。
私の電流網の探知範囲は半径五〇ファルトだ。つまりこの先五〇メートル以内という至近距離に、原因となったとみられる怪物がいることになる。恐らく、丘を越えたすぐそこだ。ここから目視出来ないのがもどかしいが、確認しない訳にはいかない。
ハンドサインでこの丘の先に怪物らしき反応があることを告げ、それに首を傾げるも了解の意味の返答をしたカトラさんは、他二人にも手短にサインを送って足音も極力立てないようにゆっくりと移動を開始した。
「うっ」
思わず言葉が出そうになったのは、誰だろう。全員が咄嗟に口を押さえることで、声が漏れ出ることはなかった。丘を越えたすぐそこ、およそ二〇ファルト先に巨体が地面に伏せて寝入っており、私達に気付いた様子はない。
候補としては最初に浮かんだものの、諸々の考察で疑問視していた怪物。ダイノレクス。通称覇王竜。名前からも想像出来るが、ティラノサウルスに近い姿形をしており、まさに恐竜である。
しかし、恐竜のティラノサウルスの頭胴長は大きくても六~七メートル、全長一三メートル程度なのに対して、ダイノレクスは大型怪物。成体になると頭胴長は一五ファルト、尻尾を含めると最大三〇ファルト弱にも昇る。
哺乳類系や爬虫類系の怪物は尻尾を除いた頭胴長でサイズ分けされているので、この場合は準大型種に分類される。その他にも昆虫ならば尻尾がないので全長、鳥類系なら尾羽の付け根までの体長で計測される。目にしたことはないが、魚類系は一応頭の先から尾の付け根までの体長でサイズ分けされるらしい。あのティラノサウルスが準中型怪物扱いとは恐ろしい。
分類としては準大型種であるが、全体の大きさや体重は大型種である鉄火竜を超える為、サイズ分けがあまり意味を成さなかったりする。
色は全体的に茶褐色から焦げ茶色に近いが、好戦的な為か生傷が多く、身体のあちこちに大小様々な傷跡があり、それが模様のように見える。
羽などの飛ぶ手段がなく移動手段が歩行のみであることから、飛竜種と並べて地竜種と呼ばれることがあるが、学術的には獣脚種とされている。もしくは竜種であることから国や地域などによっては竜脚種と明記されることもあると聞く。
他の竜脚種に属している怪物としては、矛盾竜などが挙げられる。
怒りなどで興奮状態になると体温が急上昇する上、生息地域がタルタ荒野などの日差しを遮る物のない乾燥地帯で、体表の色も熱を吸収しやすいことから暑季の頃は熱中症になりやすく、未熟な幼体の頃はそれで命を落とすことが多い。一方寒季にはわざと興奮状態になることで体温を調整しているとされ、寒眠をせずに年中行動している。
体内に熱が籠もり過ぎると命に関わる為、特に暑季などでは体温調節として口から熱を放出するということになっているのだが、どういう訳か出てくるのただの熱風とかではなく炎である。鉄火竜に近い仕組みとかになっているのだろうか。
至近距離での覇王竜の睡眠姿に、恐怖か驚愕か、いずれにせよ微動だにしない銅ランクの二人に注意を払いつつ、観察を続ける。
あれは……
左側首元に最近出来たとされる切り傷があった。出血は既に止まっているようだが、その乾いた血も酸化が進んでいるとはいえ真新しく。またその切り傷と鎌足虫の鎌の大きさがおおよそ一致する。
これで納得がいった。
鎌足虫は確かに奇襲を成功させた。しかし相手が百戦錬磨の暴君だったことで返り討ちに遭い、片鎌となった。しかし最初の奇襲によって深手を負った覇王竜も追うことは適わず、ここで身体を休めていたということか。しかしこの短い期間にあれほどの傷が癒えるとは、恐ろしい生命力である。
ここは、相手に気付かれる前に撤退するのが最良であると判断する。
冷静さを保っているカトラさんにアイコンタクトを送り、ハンドサインで撤退を提案すると、向こうも同じことを考えていたのか、すぐに頷いてニャギーヤさんとエスピルネさんにも指示を出した。
怯えながらも頷いた二人は、足音を立てないようそっとその場を離れようとした。その時、恐怖によって身体が固まっていたのだろう。ニャギーヤさんが足をもつれさせて転倒してしまった。
「あっ」
咄嗟のことでフォローが出来ず、更に彼女の転倒に気を取られて誰か、もしくは全員が驚きの声を発してしまった。
振り返ると、転倒の音か私達の声のどちらに反応したのか分からないが、覇王竜は聞き逃すことをせず目を開け、周囲を見渡している。
咄嗟の判断で姿勢を低くしたことが功を奏したのか、運が良いことに丁度私達のいる場所は稜線の影になっており、相手にこちらの位置が気付かれた様子はない。だが距離も近いので、このままこの場所に留まっていてはいずれ見つかってしまうだろう。
お互いに目配せしゆっくりと後退しようと決めたその時、背後で不穏な音が耳に届いた。
位置的に、相手からはこちらの存在は確認出来ない。そのはずだ。しかしそれでも既に私達には逃げ道がないということに、今更ながら思い知らされることとなった。
【名前】
ケリュース
【種族】
鎧虫種
【別名】
鎌足虫
【生息地】
タルタ荒野など
【大きさ】
全長一〇ファルト程の中型種
雌雄で全長に大きな違いはないが、メスの方が若干大きい
メスはオスよりも腹部が膨らんでいる
【生態・特徴】
暑季から乾季の終わりまで活動する
住む地域や環境によって身体の色が違う
昆虫のカマキリに似た怪物だが、前足が鋭い鎌になっており、ある程度の防御力程度なら切り裂いてしまう
乾季は産卵期に入る為に巣から出て異性を求めて移動をするが、暑季の頃は巣から出ることはほとんどなく、穴に隠れてひたすら獲物が近くを通るのを待ち伏せしている
主な餌は草食動物や小型怪物であるが、仮に大型怪物や同族が相手だったとしても関係なく、巣の近くを通ったら襲いかかる
巣から飛び出してくる速度はとても速く、急所を狙って一撃で仕留め、巣に引きずり込んで食べる
巣の中にいる時は、周囲の砂や土を自身に被せて穴を埋める為、見つけることは困難である
戦う場合は、囮などを使って巣からおびき出すのが良い。巣から出ても強いことには変わりないが、見えない場所からいきなり飛び掛かられるよりは対処出来る分だけ若干戦いやすいはずである
両前足の鎌による攻撃は脅威であるが、資金が潤沢な冒険者ならば、鉄火竜やライトメタルの防具を用いることで攻撃を防ぐことが出来る。もちろん、飛び出して来たところに反応して武器や盾を構えることが出来るなら、それが一番良い対処法である。出来るのであれば
乾季に入ると異性を求めて巣から出て移動を始めるが、特にメスは卵を産む為に栄養を蓄える必要があり、移動中も獲物が通り掛かれば飛び掛かるなど凶暴性が増す
乾季では、街道にも出没する為、討伐依頼が出されることがそこそこある
【素材】
両前足の鎌は武器にもなるが、鎌を扱う冒険者は少ないので需要がない。一応、腕の良い鍛冶師ならばそりを加工して片刃の剣に仕上げることも出来るが、引き延ばされた分、切れ味や耐久度は落ちる
メスの卵巣は上級魔法薬の素材として用いることが出来るが、入手難易度の高さから、他の素材で代用されることが多い
雌雄関係なく体液は、低級魔法薬の素材になる
外骨格は、そこそこ丈夫である上、軽く、加工もしやすいことから、機動力を重視する戦闘方法の冒険者の一部に人気である




