第39話 シャット その5
魔女狩りの男の名は区界 十郎。現在25歳。彼の能力は、本来存在し得ない建物をつくり出し、そこに入り込んだ人間を閉じ込めるものだ。建物の中はリアリティがあり、それが店であれば商品もあるし客もいる。店員もいる。…しかし、なぜだか人間の顔は全員区界と同じ顔になってしまうのだ。
区界は気を失っている"ふり"をしていた。本当に気を失ってしまえば能力が解除されるのだ。せっかくおびき寄せた魔女を逃すわけにはいかないから、何が何でも能力を継続させる必要がある。正直、先程の美雨の魔術はやばいと思った。運よく当たりどころが良くて気を失わずに済んだが、少しずれていれば危うかった。
このまま倒れた体勢のまま、魔女たちが倒れるのをじっと待つことにした。休憩室のドアが開いているせいで、冷気が外に逃げてしまっているが、それでも無限に増え続ける客や店員相手に力尽きるのも時間の問題だ。――そう、本体は何もしなくていいのだ。
一方、志乃は危機的状況に立たされていた。美雨は意識を失っているし、自分の魔力もいつまで持つかわからない。無限に増え続ける敵を相手にしても意味がない。とにかくこの店から脱出することが先決だ。
「入り口のドアが開いた瞬間……。それを狙うしかない…!」
志乃は出入口を見つめながら考えを定め、敵が入ってこないうちに美雨を抱えて出入口の脇まで移動する。運よく敵は入ってこなかった。ドアの脇まで移動し終え、志乃は息を整える。あとは、ドアが開いた瞬間にすぐさま店を飛び出せばいいのだが、美雨を抱えてそれができるだろうか。…難しいだろう。―――何か、良い手は無いだろうか。
ふと、売り物の傘が目に入った。すると、志乃の頭に案が浮かんだ。
『棒状の光をドアが開いた瞬間に創って、つっかえ棒にする』
案というのは、ドアが開いたときにドアの間に光の棒を生成して、つっかえ棒のように閉まらないようにさせようというもの。そうすれば、美雨を抱えて脱出することも可能だと考えた。
そうこうしているうちにドアが開いた。
『開いた…!』
タンクトップの男が一人入ってきたが、志乃は構わず光の棒を生成した。生成はうまくいき、ドアの間に1メートルほどの光り輝く棒が現れた。志乃はすぐに美雨を抱えて脱出しようとするが
ガコン
非情にもドアはつっかえることなく、棒を消滅させて閉じてしまった。
「そんな…!」
「おい!ここ店員いねぇじゃねぇか!ってことはよぉ~~きへへ!」
志乃がショックを受けているのも束の間、タンクトップの男が下心丸出しの顔で志乃を見てきた。
「かわいこちゃんよぉーー!!」
瞬間、男が志乃に襲い掛かろうとした――が、光弾が男の腹に直撃した。
「ぎゃあああ!!」
男は悲鳴を上げて消滅していった。光弾を放った志乃は腕を戻し、ドアをじっと見つめる。
『それなら…傘を使って…!』
魔術がダメなら、実物である傘を使えば良いと考え、志乃は傘を一つ手に取ってドアの脇でじっと構える。
少しして、再びドアが開いた。志乃はすぐさま傘をドアの間に置いた。柄が丸まっているため滑る可能性が高いが、あとはうまくつっかえることを願ってじっと経過を見守った。
ガゴン!
志乃は驚愕した。なんと、ドアが勢いよく閉まり、傘を粉砕してしまったのだ。意地でも閉まろうとするドアに志乃は脱出の希望を失った。
「おい!」
声をかけられて志乃はハッとした。入ってきた客のことを忘れていたのだ。顔を向けると、金属バットを持った男が目の前に立っていた。
「なんかイライラすっからよぉ!とにかく死ねぇ!!」
男はそう叫んでバットをフルスイングした。
バチッ!!
「あぎゃ!」
フルスイングしたバットは、志乃が咄嗟に創った光の壁に弾かれる。その反動で男は後方に吹っ飛ばされた。
「いてぇぇ!!このやろーー!!」
ストレスのたまった男は、立ち上がってその場でバットを思いっきり振り、飲み物の陳列棚のガラス扉を粉々に割った。――それを見た志乃はハッとした。
「おーい!こっちだよー!」
志乃は何を思ったのか、男を挑発したのだ。挑発に乗った男は怒りを露にし、バットを構えて突進してきた。そして、志乃の目の前に来た瞬間、バットをフルスイングした。
志乃はバットの動きに全集中を向け、目の前に来た瞬間、即座にしゃがみ込んだ。
バリンッ!!
バットは志乃を空振り、そのままの勢いで出入口のガラスドアを割ったのだ。
「やった…!」
作戦成功。志乃はすぐに光弾を生成して男に向けて放つ。
「ぎゃあああ!」
男は悲鳴を上げて消滅していった。静寂に戻った店内。…しかし、出入口には待望の脱出口が開いていた。
"本体"は呑気に寝息を立てていた。すると、突然建物が消えてなくなり、更地に変わってしまったのだ。区界はびっくりして起き上がった。
「あれれ?れれ?」
区界はあたふたして周りを見る。――と、目の前に人影が現れた。区界が顔を上げると、目の前で志乃が仁王立ちしていた。
「あらー…」
区界は冷や汗を垂らし、口をあんぐりと開けて志乃を見る。対して、志乃は不敵な笑みを浮かべた。
「さぁ、どう料理しようか」
「ちょ!ちょっと待って!あれだよっ!バーデンバーデンあげるからさ!大好きなんだろ!?」
区界は震える片手を前に出して後ずさろうとする――が
ガシッ
光のロープが区界の脚に絡みついて動けなくなった。志乃はハァーとため息をつき
「一人で食べるより、美雨ちゃんと食べた方がおいしいから」
そう告げて、手を区界に向かってかざした。
ドォォン!!
「ぎゃああああ!!」
直後、爆発音と断末魔の叫びが辺りに響いたのだった。
「ん…んん…」
美雨はゆっくりと目を開けた。すると、パァ―と明るい顔をする志乃が映った。美雨はガバッと起き上がって辺りをキョロキョロと見回す。コンビニの中ではない。今いるのはただの空き地だ。
美雨は安堵の表情を浮かべた。志乃が敵を倒してくれたのだ。
「ありがとう志乃。一人で倒したのね。すごいわ」
「そんなことないよ!美雨ちゃんがいたからだよ!さっ!アイスバイキングに行こっ」
志乃は微笑みを向け、手を差し伸べた。美雨も志乃の手を借りて起き上がり、二人は仲良く歩いて行った。




