第38話 シャット その4
魔女狩りの男は、蝶の発した鱗粉を吸って体の自由を奪われた。これで状況は一変したと言っていいだろう。今まで有利に動いていた魔女狩りの男が初めてしまったという顔をする。それに対し、美雨は右手を一旦上げると、腕を曲げて勢いよく横に振った。
「うぎゃっ!」
瞬間、男の右手も同じ動きをし、自分の顔を横から殴りつけたのだ。男は殴った勢いで椅子から転げ落ち、床にガンと頭を打つ。
「あたたた…」
男は痛そうに頭を抱え、ゆっくりと起き上がる。――と、今度は体がだんだんと後方に倒れかかり、そのまま後ろに倒れ込んでしまった。倒れる時に美雨を見ると、彼女も倒れかかった姿勢で、志乃に後ろから支えられていた。
ドンッ
男は後ろの棚に後頭部をぶつけ、気を失ってしまった。
「すごい…!あっという間に倒しちゃった…」
志乃は呆気に取られた。形勢逆転からものの一分かそこらで倒してしまったのだ。呆気ないかもしれないが、人の動きを操る魔術がいかに強力かと言ったところだろう。ただ、欠点と言えば、相手を倒そうとした場合、自分も同じ動きをしなければならないので、一人だとやりづらいことが挙げられる。先程のように相手を倒れさせようとした場合、自分も倒れなければならない。その時、もう一人いれば、自分はその人に支えて貰えばよく、相手は支えるものが無いので重力に従ってそのまま倒れる。
「志乃がいたおかげよ。さ、店から出ましょ」
美雨はそう言って、休憩室を出ようとドアを開けた。
瞬間、目の前に男のコピーである店員が立っていたのだ。
「まだ、終わってないぜ~~~」
店員は美雨と志乃を見て不気味ににやけた。そして、美雨の腹を勢いよく殴りつけたのだ。
「がはっ…!」
激痛が美雨を襲い、彼女は苦しみの表情を浮かべた。
「美雨ちゃん!」
後ろから志乃が焦りを見せながら声をかけ、よろける美雨の体を支える。美雨は激痛に苦しみつつも、顔を上げて店員を睨み付ける。
「本体が倒れたのに……なぜ…?」
店員はハハハと笑う。
「そりゃ、気を失っても尚、能力を解除していないからだ。あんたら魔女みたいにやわじゃねぇんだよ俺達は。魔女狩りの覚悟……甘く見て貰っちゃあ困るってもんだぜ~~」
店員の大きな体が美雨たちに威圧感を放つ。そしてさらに…、蝶で縛っていたはずのタンクトップの男とスーツの男も復活していた。
「いらっしゃ~~いませぇぇ~~」
もう一人の店員が間延びした口調で声をかけるのが聞こえた。すると、カウンターの後ろにこれまたタンクトップの男がぞろぞろと現れたのだ。
「ぎゃはははっ!タンクトップ祭りかよっ!」
大勢現れた同族を見て、元からいたタンクトップの男が大笑いする。美雨と志乃は歯を食いしばった。……数の暴力。敵は総勢10人以上にもなっていた。
「何よ…。本体よりやる気あるじゃない…」
美雨が皮肉交じりにそう言うと、目の前の店員がガバッと顔を近づけた。
「そんじゃ、いたぶりタイム開始だぁ」
「美雨ちゃん!!下がってて!!」
すると、志乃が美雨を後方に下げ、自分が前に出た。そして掌をかざす。掌の先にみるみる光が凝縮されていく。
「一気に片づける!」
次の瞬間、志乃の掌から勢いよく光線が放たれた。
「ぐわああああ!!」
光線は目の前の店員と後方の男らを貫いた。貫かれた男たちは次々と煙のように消えていく。目の前の店員がいなくなると、志乃はすかさずカウンターの前まで出て、再び光線を放った。そして手の向きを変えていき、辺りを一掃した。陳列棚や壁などは破壊されずに光を吸収したが、男たちは次々と消滅していった。
「はぁ…はぁ……やった…!」
光線の威力は絶大だが、その分、魔力の消耗も激しい。魔力の消耗は体力の消耗に直結するから、むやみに強力な魔術を扱うことはできない。
ガラガラ……
しかし、非情にもまたもや入り口のドアが開いて、タンクトップやらTシャツやらを着た男、さらには紋付き袴にサングラスをかけた男も交えてぞろぞろと入ってきた。顔はもちろん全員同じだ。
「ありゃりゃあ~~!店員がいないじゃんかあ~~!」
「よく見ろよ!かわいこちゃんがいるぜぇ~。あれが店員だろぉ~?」
男同士でがやがやと話をしている。そして、志乃を見つけると近づいてきた。志乃は手をかざしてけん制をかける。
「これ以上入ってこないで!」
志乃が叫ぶと、袴姿の男が青筋を浮かべ
「あぁ?おい、タバコ全部よこせ。こっちはニコチン切れて最高にイライラしてんだよ!!」
袴の男が怒鳴りだし、カウンターに置いてあるレジを勢いよく蹴り飛ばした。
ガッシャーーン!!
志乃は慄いて思わず目を瞑った。その瞬間、勢いよく胸ぐらを掴み上げられてしまった。掴み上げた袴の男はギロッと恐ろしい形相で睨み付ける。
「はよタバコよこさんかい…」
そして、袴の男は掴み上げたまま、勢いよく後方に投げ飛ばした。
ドガッ…!!
志乃は陳列棚に激突して、そのまま床に体を打ち付けた。
「いっ…!」
志乃は激痛に顔を歪める。足からは出血しており、手で足を押さえつける。
「美雨…ちゃん…」
志乃は体を震えさせながらも起き上がり、美雨の方を見る―――と、休憩室の方から美雨が投げ飛ばされてきた。
ドサッ!
「美雨ちゃん!!」
美雨は傷だらけになっていた。いつの間にか後ろから攻撃されていたというのか。
「誰ですか?一体誰なんですか!?関係者以外立ち入り禁止なんですよっ!?」
店員の姿をした男がカウンターに片足を乗せて、ヒステリックな様子で怒鳴り込んできた。片手にはナイフを持っている。そして、店員は手を握りしめてバンバンとカウンターを殴り出した。
「ぐわぁぁーーもう!!むかつくぅぅ!!私の店をこんなにしやがってぇぇぇ!!」
店員は怒鳴りながらカウンターを殴り続け、その隣のタバコの陳列棚のところでは、袴の男がタバコをふかしている。他の男たちは雑誌を立ち読みしたり、商品のパンを食べたりしていた。
「やってらんねぇんだよコンビニなんかぁぁ!!」
店員がまたもや叫びだし、カウンターの上に乗っかり、ナイフで天井を突き刺しまくった。
「おいそこの女ぁ!!酒持ってこんかい!!」
今度はタバコをふかしていた袴の男が叫んできた。志乃は混沌とした状況に嫌気がさし、無言で立ち上がると、掌をかざして光線を放ちまくった。
「ぎゃああぁぁぁ!!」
騒いでいた男たちは一掃され、再び静寂が訪れた。しかし、志乃はガクッと床にへたり込んだ。
このままではいたちごっこだ。そして、間違いなくこちらの方が先にやられてしまう。




