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何が価値があるかは私が決める事です

 

 『炎のセレン姫』

 なんともありがたくない私の渾名。


 どうしてこんな自国から遠く離れた地でそんな渾名が出てくるの!?

 まさか、こんなところまで私の噂が広がっているとか?

 いや、それはないわよね。

 うん、ないない。

 だって、うちの隣の国とかならまだしも、こんなに離れた国で私なんかが噂になったりするは ずないものね。

 ゼノン王子はこの間うちの国に来ていたし、きっとその時に小耳に挟んだりでもしたのよ。

 きっとそうよ、そうに違いないわ。


 「そのような名前をあなたの口から聞くとは思いませんでした。我が国にいらっしゃったとき に、お耳を汚すような話でもお聞きになったのでしょうか」

 「いいえ、……『炎のセレン姫』は私の学友の間では有名でしたよ」


 学友と言う言葉に、私は記憶の糸を手繰り寄せた。


 「確かキイナ国に留学をしていたと記憶しております。その時のご友人たちですか?」

 「ええ、そうです」


 さらりと肯定したゼノン王子の言葉に、私は一瞬めまいを感じた。

 キイナ国は先ほどの話題にも出たが、大国の名前で、うちのアルゴン国とは比べるのもおこがましいほどの大きな国だ。

 その国は国土も経済力も大きく、長い歴史も持っている。

 クゥ達の国タンタル国を含めたここら辺り一帯の国はその昔、属国であったため、過去にはキイナ国王に各国の姫が嫁いだり、王太子が留学と言う名の人質でキイナ国に集められていた。

 まあ、今ではキイナ国周辺の国は独立するか完全にキイナ国に吸収されて、国の一部となっているのだけれどね。

 しかし、キイナ国が嫁や留学生を要求しなくなっても、大国であるキイナ国に嫁ごうともくろむ姫は多いし、キイナ国とお近づきになろうと自主的に留学する国も多いのよ。

 まあ、大きな国なだけあって学校もそろっているし、今までの歴史から留学生の受け入れノウハウも整っているっていうのもあるのだろうけれど。


 で、まあ、何が言いたいかと言うと、ゼノン王子の学友と言うのはきっと各国からキイナ国に 留学していた王族やら貴族やらなわけで、その方々が自国に私の噂を広げている可能性があると ……。


 うーそーでーしょっ!


 うわー、私の噂なんてどうせろくでもないものな気がする。

 くそじじいに顔が似ていて可愛くないとか、女の癖に生意気だとか。


 「私など、噂になるほどではない取るに足らないものですのに」

 「ご謙遜を……その美貌もさることながら、『アルゴン国初の女王』になるのではないかと噂されていましたよ」


 は?

 女王?


 男だったならば、王になったかもしれないと陰で囁かれていたのは知ってるけれど、女王になるって……なんだか噂に尾ひれがついて大きくなってる!

 女王って絶対なれないし、なる気もないわよ。


 心の中で盛大に突っ込みを入れている私にゼノン王子は続けて言葉をつむいだ。

 「炎のセレン姫にとって我が国は嫁ぐ価値のある国なのでしょうか?」

 彼が私からどのような言葉を導き出したいのかは分からない。

 だから、うかつに返事はできない。

 ここは、あいまいに言葉を濁した方がいいのかもしれない。


 「何が価値があるかは私が決める事です」

 けれど、私の口から出たのは思った以上に冷たい声だった。


 「私にとってこの国は……」

 美しい思い出の地。

 とても価値のある国なのよ。


 「私がこの国に嫁ぐのはそんなに不自然でしょうか?」

 私はゼノン王子を見つめた。

 彼とバチリと視線が合ったけれど、決して私はそらさない。

 「あなたは私を歓迎していないようですが、もう遅いのです。どうしても嫌なら、もっと早く 動かなければならなかった」

 一番初め、結婚を申し込まれた段階で、すでに拒否をすることは難しかったかもしれない。

 けれど、どうしても私をこの国に入れたくないのなら、そこで断らなければいけなかったのよ 。

 「それに、あなたは私の結婚相手と言う役から降りてしまった。しかももう、王位継承者でも ない」

 そんな彼にこの結婚をとやかく言われる筋合いはない。

 「あなたは自ら私をどうにかする権利を捨ててしまったのです」


 私は相変わらず視線をそらさず、とっておきのお姫様スマイルを浮かべた。

 「あなたはそこで指をくわえて事の成り行きを見ていてください」


 一瞬にして二人の間の空気が凍った。


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