第45話 耳飾りの秘密
今夜、城には煌びやかに着飾った貴族たちが続々と集まり、華やかな雰囲気に包まれていた。
私はルーセルにエスコートされて、舞踏会の会場である大広間にいた。
彼は、鳶色のビロードの生地に、金糸で模様の施された上着を上品に着こなし、会場に入った瞬間から女性たちの熱い視線を集めていた。
なんとも隣にいるのが私だなんて、釣り合わなさすぎて、落ち着かない……
今夜の私はランドルフ家の遠い親戚で、やんごとなき家柄の姫君ってことになっている。
また、近衛騎士団の団長で警備にあたっているレイに代わって、親友のルーセルが代わってエスコートをしているっていう設定だ。
我ながら、無理がある設定だと思う。
とくにやんごとなき家柄の姫君ってところ。
本当は業務でお仕事なんだけどね……
でも、やっぱりこれはご褒美なのでは?と思う。
だって、私の手にはルーセルが選んで、取り分けてもらった可愛いプティケーキやサンドイッチ、みずみずしいフルーツなどが、可愛く色とりどりに盛り付けられたお皿があった。
「どお?美味しい?」
私の隣でにこやかに立つルーセルが訊いてくる。
「うん!可愛いうえに、とっても美味しいよ!」
パクっと食べたイチゴが甘くて、みずみずしい。
「んーっ!あま~い!しあわせ~」
思わず頬に手をやり、笑顔になる。美味しいものを食べてるときって、人って自然と幸せな顔になるよね。
「アハハ、ほんとに幸せそうな顔するよね」
「だって、本当に美味しくて幸せなんだもん」
「ミツキのそんな顔が見れて、ボクは役得だね」
なんて言って、彼はウインクをする。
「またぁ、もう。そんなことばかり言って。ルーセルは口がうまいんだから」
だから、兄のタリアンさんに“口から生まれてきたような男”って言われるんだよ?
とは、心の中で言っておく。
「あっちのほうには肉や魚もあるからね」
て、そう言ったルーセルの視線を辿ると、豪華な料理が置かれていて、シェフのような格好をした人達が取り分けてくれている。
わあ~!ホテルのビュッフェみたい!
ふと、私はさっきから、自分ばかりが食べていることに気がついた。
「あ、ごめんなさい。さっきから私ばかりいただいてるね。ルーセルは食べないの?」
「んー、そうだね。じゃあ、ボクも何かいただこうかな」
と、近くを通りがかった給仕係の男性から、シャンパンのグラスを二つ受け取る。
一つを私に渡すと、代わりに私の手にしていたデザートののったお皿を彼が持ってくれる。
わあ~、とてもスマートだ。
自分がまるでお姫様になったみたいで、私は呆けたまま彼の顔を見つめる。
「じゃあ、あらためて。キミとボクたちの出会いに乾杯しよう」
そう言って、ルーセルは極上の笑みで、私のシャンパングラスに自分のグラスをカチンと合わせた。
彼がグラスを口にする仕草が、なんとも優雅で色気があって、かっこいい……
「ああ、そうそう。昼間にレイがさ、仕事中に珍しく抜け出して、自分の屋敷の方へ凄い勢いで馬で駆けていったって聞いたけど、何か知らない?」
「っえ?」
イケメンなルーセルに呆けて見とれていたところに、いきなり質問をされて、思わず素で、ぎょっとしてしまった。
あぁ……だから、髪が乱れていたんだ。馬で駆けて戻って来たから。
忙しいのに、ピアスを渡しにわざわざ会いに来てくれたの?
だとしたら……、なんだか嬉しいな。
「しかも、日頃女性の浮いた話ひとつない、近衛騎士団長が、街のアクセサリーショップに入っていったとか、いないとか?女性たちの間で、もっぱら噂になってるみたいなんだけど、何をそんなに慌てて屋敷に戻ったのかなぁ」
ルーセルのアメジスト色の綺麗な瞳がキラキラと、興味津々にこちらを見ている。
「さ、……さあぁ?」
首を傾げてとぼけたつもりだけど、語尾が不自然にあがってしまった。
彼は諦めてくれたのか、クスッと笑って「だよね」と言った。
「そのピアス。ミツキによく似合ってるよ」
「っ!!」
全然諦めてなかった~。むしろバレてる!?
ルーセルはニコニコと笑って、楽しそうにこちらを見ている。
私は、ルーセルの勘の鋭さと、彼の情報網のすごさに息をのんだ。
「月……美月の月だね。それに、レイの瞳と同じ色だ」
……え?
…………あ。
私、いま、きっと顔真っ赤だ……
今頃、ピアスに込められた意味を知る。
ルーセルが言うように、本当にそんな意味があるの?それとも偶然?
「フフ……レイのやつ、なかなかやるね。よっぽど空色のドレスが悔しかったんだろうねぇ。可愛いなぁ~、もう」
ルーセルは楽しそうに笑っていて、ますます恥ずかしくてどうしていいのかわからなくなる。
困って彼から視線を反らして、あちらの方を見ると、あるご令嬢グループが探るようにこちらを見ていた。バチバチっと目が合ってしまう。
わわっ!違うんです!ルーセルとは何でもないですっ
私は慌てて彼に言う
「ルーセル、私はあっちでご馳走食べて来るね!一人で大丈夫だから、あなたはあちらへどうぞっ」
「え!?」
驚いて目を丸くする彼を、回れ右にしてあちらのご令嬢たちへと向ける。
「ええ!?ちょっと、ミツキ?」
私からのアイコンタクトを合図に、嬉しそうに笑顔を見せる彼女達もこちらへとやってくる。
私は、ルーセルから自分のデザートのお皿を奪い取ると、彼を彼女たちに差し出した。
まるで生贄のように。
彼女たちがこちらへ到達する前に、私はササッとその場を離れると、あっという間に彼は華やかな女性達に囲まれてしまった。
……ごめんね、ルーセル。
私はご馳走を楽しむために、会場の端に設けられた豪華な料理が並ぶテーブルへと向かった。




