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第37話 アレク様と呼ばせていただきます?

目を覚ますと、私は城の一室のベッドにいた。


……わたし


確か、アンジェリカ王女を部屋に運んで、アレクシス様の具合を聞いたとこまで思い出せるけれど、

……あれ?そのさきどうしたんだっけ?


「ミツキ!気がついたかっ!?」


枕元のほうからレイの声がして、そちらに目を向けると、ベッドのすぐ横の椅子に腰掛けたレイが身を乗り出し、こちらを覗き込んでいた。


「……レ、イ?」

「大丈夫か?」


レイのほうが、疲れた顔をしてるよ?


そう言いたかったけど、うまく声が出せなかった。


「馴れない力を使い過ぎて、アレクの部屋で倒れたんだ」

「そう……、なんだ」


「ミツキ!目が覚めたのかい?」

レイの後ろから、ルーセルが顔を覗かせる。


「……ルー、セル?」

「キミは無茶しすぎだよ。部屋にいるようにって言ったのに」

「あ……、ごめん、なさい」

「でも、アンジェリカ王女を助けてくれて、本当にありがとう。キミに感謝するよ」

「いえ」

彼は、いつものチャラけた様子ではなく、本当に私のこと心配してくれていたことが伝わってくる。


私が気を失ってから、丸一日眠っていたらしい。

アレクシス様の怪我も出血が多かったものの、思うほど酷くはないこと、アンジェリカ王女は、あの夜の出来事を覚えていないことなど聞いた。


「そっか。王女様はやっぱり操られていて、記憶が無いんだね。……良かった」

私はホッとして言った。


「良かった?」

レイが不思議そうに訊く。


「王女様と以前お庭でお会いしたとき、ミレイユのこと信頼してそうだったから。なのに裏切られて、あんな酷いこと言われたなんて。そんなのかわいそうだし、知らないほうがいいと思うから」

ガゼボで、歴史の授業をサボりたいと子供らしくお願いするアンジェリカ姫と、困ったように優しく笑うミレイユの二人のやり取りが思い浮かぶ。

幼い姫に向ける眼差しは、とても優しい目だったのに。


「ミツキが助けてくれたことも覚えてないの、残念じゃない?王女に恩を売るチャンスなのに」

ルーセルがそんなことを言った。


あはは……、ルーセルらしいなぁ~

如何(いか)にも彼らしくて苦笑する。


「そんなの別にいいよ。ドラゴンとか、あんな恐いこと覚えてない方がいいから。それに、アレクシス様に怪我させちゃったことも、王女様が一番辛いことだと思うから」


操られてたとは言え、自分を助けに来てくれた兄に、次期王様になる人に刃を向けて怪我をさせただなんて、引け目を感じてしまうだろう。


レイがため息混じりに言った。

「あんたって、さぁ……」

「ん?」

「ほんと、他人のことばっか心配して、自分のことは全然なのな」

「え?」

「あんたは優しすぎるんだよ。もう少し自分のことも大切にしろよ」

「レイ……」


そんなこと人から言われたの、初めてだ……


「レイも人のこと言えないだろ。お前もなっ」

「痛っ」

バシッとルーセルに背中を叩かれて、レイが顔をしかめた。


「ミツキよりマシだ」

「いいや、どっこいどっこいだな」

「最近はそんなことない」

「まだまだ子供だよ」


そんなことない、いいやそんなことある、などと言い合う二人が面白くて、兄と弟がじゃれてるみたいで可愛い。思わず私もつられて笑ってしまった。


そのあと、私はレイに付き添われて執務室へ行き、もう仕事をしているアレクシス様に会った。


「失礼します」

私が部屋の中へ入ると、正面の執務机でアレクシス様は書類の山に埋もれていた。


「具合はどうだ」

「大丈夫です。たくさん寝たのでスッキリです」

私がニッコリ笑って答えると、いつもの調子で嫌味でも言われるかと思ったけど、

「そうか」

と、さらりと一言返ってきただけだった。

なんだか意外だったので、少し驚いて、彼をぼんやりと見つめてしまった。


アレクシス様は静かにペンを置くと、椅子から立ち上がり、私の方へとゆったりと歩いてきた。

たっぷりとした白いシャツの下の、左腕に包帯が分厚く巻かれているのが見て分かる。

痛々しい……。


「ミツキ。俺が駆けつけるのが遅くなり、すまなかった。お前を危険な目に合わせて申し訳ない」

そう言って、アレクシス様が頭を下げた。

私は慌てて言う。

「そんな、顔をあげてください!アレクシス様は私を助けてくださいました!」


アレクシス様は、静かで優しい瞳(め)で私をまっすぐに見ていた。

穏やかな晴れた空色の瞳だ……。


「俺はお前のこと、少々誤解していたようだ。ただのお(・)節(・)介(・)な(・)ヤ(・)ツ(・)かと思っていた」


うっ……


「生まれてきた意味がないなんて、そんなことはない。アンジェリカにも幸せになる権利はある」


あ、その言葉……。

私がミレイユに言ったこと?


「お前には信念があって、ちゃんと内に芯が通っていたんだな。きっとお前を育てた者は、良い両親だったのだろう」


……え。いきなり、そんなこと言われたら……


アレクシス様は空色の瞳(め)を細めて、とても優しくうっすらと笑みを浮かべた。


「アンジェリカを助けてくれて本当に感謝する。ありがとう」

「アレクシス様……」


どうしたんですか……いきなり別人です。


彼の透き通るような空色の瞳が綺麗で。


そんな優しい言葉言われたら、泣いてしまいそうになる……


「それから、俺のことはアレクと呼べ」

「は?」

「お前にはそう呼ぶことを特(・)別(・)に(・)許可してやろう。光栄に思え」


「……………………」


「ほら、呼んでみろ」

「ア……」

「アレクだ」

「え、えっと……ア、レク、様?」


「ハハハ、嬉しいだろう!特(・)別(・)だからな!」


あなたの方が嬉しそうですが……


泣きそうになった涙は、一気に萎んでいった。

私の後ろでレイが舌打ちしたように聞こえたのだけど、気のせいかな?


「明日はレイが“ヒスイの森”へ調査へ行く。身体が大丈夫そうなら、ミツキも同行しろ」


「ヒスイの森?」


初めて聞きく場所だ。

「レイが一緒だから、大丈夫だろう?」

アレクシス様がちらりとレイの方を見る。


「ああ」

レイは低い声で短い返事をした。


そして、私たちは明日、“ヒスイの森”へ行くことになった。


帰りの馬車の中でレイが教えてくれた。

近頃、この国に存在する森や山、湖など自然界がざわついているらしい。

その原因を探ったり、また大きく異変がないか、レイ達は自然界の調査を行っているらしい。


「明日俺たちが行く、“ヒスイの森”はランドルフ家の管轄(かんかつ)でもある。古い森だから精霊も多く、癒いやしの力を持つ森だ。とくに緑の精霊はランドルフ家を加護するものでもあるし、守護する関係でもある。俺といれば、妖精が見えるあんたでも危険なことはない」

「へえ、そうなんですね」


少しレイは言葉をきって、言う。

「アレクなりの気遣いだろ……あんたに早く元気になれって」

「え?」


レイは頬杖をついて、馬車の窓の向こうを向いてしまった。

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