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第30話 二人に恋は難しい……、かも知れない?

今朝は寝不足で、スッキリしない最悪の朝を迎えた。


昨晩は色々とモヤモヤして、寝て忘れようとベッドに飛び込んだけれど、なかなか寝付けなくて、結局朝になって目が覚めても、ずんっと体は重たいし頭はぼんやりで、ひどい寝不足状態だった。


あぁ……朝日が、目に刺さる(泣)


向こうの世界なら栄養ドリンク飲んでシャキッとさせたいところだけど、こちらの世界にはあいにく無いので、ドリンクパワーの助けは諦めた。

そのままぼんやたりしたまま、今はレイの向かい側に座って、通勤電車ならぬ通勤馬車に揺られている。


彼はいつも、朝の馬車で一緒になると、寝ていることが多い。

私達の世界でも通勤電車の風景って、スマホを見てるか寝てる人も多いから、そういうところは私達とあまり変わらないのかも知れない。


レイはよっぽど朝が苦手なのか、今朝も食堂には姿を見せなかった。

マリアンヌさんも早起きをして、私と一緒に朝食を取ってくれたのだけど、今朝も現れないレイの体調を心配していた。

今朝だけでなく、今まで一度も朝食でレイと一緒になったことがない。

たぶん彼は体調が悪いというよりは、単に朝が弱いだけに見える。


先日、朝食に現れなかったときにレイに聞いたら、起きてから目覚めに部屋で紅茶を飲んで、城に行ってから簡単なパンを食べているって話していた。


騎士っていうと身体が資本って感じなのに、朝ごはんをしっかり食べないで肝心なときに力が出るのだろうか。

それに早朝の鍛錬(たんれん)もありそうだけど。


騎士なのに朝が弱いレイって……


ちょっと可愛い。


斜め向かいに座るレイは長い脚を組んで、今朝も馬車の壁にもたれて腕を組み、目を閉じている。

ほんと、カッコイイ……この狭い同じ空間に存在しているということが信じられない。


朝日を受ける横顔に、つい見とれてしまう。

滑(なめ)らかなラインにきめ細かな肌。

銀の髪がキラキラしてて。

長い睫毛がスッとのびた目元に色っぽい。

ほんとに綺麗だなぁ~


……眼福(がんぷく)です。


このまま寝ている彼をずっと眺めていたいけど、ちょっと悪いことしているようで何となくイケナイ気がしてきたので、馬車の外へと視線を反らした。


朝早い街並みには、まだ行き交う人の姿は少なかった。

昨夜、降った雨で濡れた石畳みや家の屋根や窓が、朝日を受けてキラキラしている。


こんなにカッコイイ人が、今、この狭い空間で私と一緒にいるなんて夢みたい。

同じ家にいて、一緒に通勤して、同じ職場で。


あれ……もしかして、寝食ともにしてる!?……私たち!!


今頃、そんなことに気がついて、脳内で大慌てする。


あっ、でも、これって夢みたいなもの、よね……

この世界は、もともと私たちの世界の人間が、想像した物語から生まれて出来た世界で、そこに間違いで私が偶然来てしまったのだから。

二週間ほどで私は元の世界へ帰ってしまうし、いつか覚めてしまう夢と同じ……


二週間っていう、期間限定の夢。

夢から覚めたら、彼とはもう二度と会えなくなる……


……寂しいな。


あれ?なんでだろう……。

会えなくなること、いま、すごく寂しく思ってる?


私は、ちょっと自分に動揺して、馬車の窓の縁(へり)に頬杖をつく。


いやいや、そんなことはナイナイ!

きっと海外旅行みたいなものよね!

旅先で、二度と来れないかも?て思うから、期間限定なところがあって、旅してる間はめいっぱい楽しみたいし味わいたいって思う。

旅の終わりが近づくと、なんとなく寂しく思っちゃうアレと、似てる感じ、よね?


たぶん……きっと、そう。


もとの世界に帰ったって、無職っていう現実が待ってる。そして待ってくれてる家族はいない。

きっと心のどこかで、帰ってもなぁ……ていう気持ちがあるのかもしれない。

正直、帰れなくてもいいかなって、思ってるのかな、私……。


……でも、私はここに居ても居場所はない。

大好きなスマホゲームも推しもいない。

あ、推しに顔だけそっくりで、性格は騎士様と似ても似つかない、王子様がいるけど……

アレクシス様と仲良くなるのは、ハードル高そう。

それなら、まだレイとのほうが、少しは仲良くなれたかな。

一日、街へデートっぽい?お出掛けもできたし。


でも、縮まったと思った距離も、昨日の帰りの馬車で、また微妙になっちゃった。


はあ……へこんじゃうなぁ~ 


けれど凹んだところで、そもそも彼のようなイケメンな騎士様と、地味な私とでは釣り合わない。

もっと綺麗で可愛いお姫様とか、そう、マリアンヌさんのような……


ふと彼女の姿が自然と脳裏に浮かぶ。

マリアンヌさん……かぁ~

大人の女性らしく落ち着いていて、所作も優雅で綺麗なのに可愛くて。

性格は明るくて、優しいし、笑顔が素敵だ。

得意とする能力魔法も、花が舞ったり踊ったりさせることっていうのも、たまらなく可愛い。


あぁぁ~。完璧じゃないっ!


きっと、守ってあげたくなるような存在って、ああいう女性のことなんだろうな。


レイはマリィて、昨夜も親しげに呼んでいた。

私の入れない、二人だけの雰囲気がそこにはあって。


マリアンヌさんはレイのこと、大切な弟って言ってたけど。

出会った頃は九歳だったレイも、今は大人の男だ。

マリアンヌさんのような女性とずっと一緒にいたら、それは好きにならない理由がない。


血の繋がっていない男の子が引き取られていった先で、面倒を見てくれたお姉さんに初恋をして、イケメンに成長して溺愛するって、よくある話よね。

私もそんなシチュエーション、大好きで読んでた。


私も異世界に来て、イケメン四人と出会って、驚くくらいイケメンのハーレム状態だけど、シチュエーションはゲームかネット小説のようなのに、現実はそううまくはいかないね。

溜息もつい出ちゃうな。


……あ、また私!

レイとマリアンヌさんのこと、考えてるじゃない。イケナイ、イケナイ!!

私、レイのこと、好きになったりなんかしてないよねっ!?

好きになっちゃったりしたら、自分がすごい辛いだけだもん。

だって、私たちは結ばれることが無いから。


私は思考を押し出すように、大きく息を吐き出した。

ついでに、ぶんぶんと頭を振る。

考えるのはよそう!!


吹っ切るように吐息を吐き出し、私は馬車の中に視線を戻した。


何気に見たレイと、バッチリ目が合った。


えっ……

起きてる!?

きっと、いま私は、口を開けたまま間抜けな顔をしてると思う。

どど、どうしよ!彼が、じぃーってこっち見てる!!


「え…ええっと、起きてたんだ?」

「ため息ついてた……」

彼はいつにも増して無表情で、頬杖をついたまま気だるげに私を見ていた。


「悩み事?」

ハイ、あなたの事です。


「よかったら訊くけど?」

では……、


なんて言えるわけないからっ!!


「あ、ダイジョウブ、ハハ…ハハハ」

すごい不自然だったかも。


「……そうか」

彼は納得したのか、やっぱりその表情からは何もわからなかったけど、短くそう答えた。


そのあと、気まずい雰囲気と思っていたのは、私だけかもしれないけど、会話もないまま馬車は城に着いた。


馬車から降りるとき、扉の横に立ったレイは手を差し出してくれることはなく、相変わらずそれに少し寂しさを感じながら私は地面に降りた。


そこへ偶然ルーセルが通りかかった。

「おはよう、二人とも」

彼は朝も変わらず元気で、笑顔が美しい。


ルーセルは私たちの傍にやって来て、「どうぞ」と私をエスコートするように隣を歩き、レイが私たちの半歩あとに続いて、玄関へ三人で向かった。


「おや?レイがぼんやりなのはいつもの事だけど、ミツキも寝不足なのかな?」

鋭いですねっ!


「うん…あまり眠れなかったので」

「それは良くないね。寝不足はお肌の敵だよ~」

「ハハ……ですね」


彼、ふふふ…なんて笑ってる。

昨日、闇の精霊とかって黒豹をけしかけた人と同じ人とは思えない……


玄関ポーチの階段を上ろうとしたとき、スッとルーセルが手を差し出してくれた。

「足元、雨で濡れているから気をつけて」

「あ、…ありがとう」

私は彼の気遣いが嬉しくて、自然と微笑んでいた。

彼の差し出した綺麗な手に、自分の手を重ねる。


「え……」

後ろからレイの小さな声が聞こえて、ルーセルが肩越しに振り返り訊く。

「ん?何、レイ、どうかしたかな?」

私も振り向いて彼を見る。何かに驚いたのだろうか。


「いや、別に、何も」

と、レイは短く答えただけだった。


ルーセルって美人で宰相だから、女性のような細い手のイメージだったけど、その手は大きくて男の人の手だった。

確かに背も高いし、華奢だけど肩幅も広いもんね。


そう言えば、私、この人の胸で大泣きしたんだっけ。

庭で大泣きした夜のことを思い出して、ちょっと恥ずかしくなってしまった。


前を歩く二人のすぐ後ろで、レイが複雑な顔をしていた。

彼女が初めて自分の屋敷へ来た夜、馬車から降りる彼女に手を差しのべた時の事を思い出していた。

自分が差し出した手を取ってくれなかったのは、他人に触られるのが嫌なのか、それとも自分の事が嫌なのかと思っていた。

でも、彼女はルーセルの手は躊躇(ためら)うことなく取った。あの夜も、彼女はルーセルの腕の中で泣いていた。

別に、他人に触られるのが嫌なわけではないんだ。


そういうことか……。

自分に問題がある、という答えになった。


この日の近衛騎士団の訓練が、団長の機嫌がすこぶる悪くいつにも増して厳しかったらしい。


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