↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/25

第14話 お仕事ください!!

その日の夕食のあと、私はレイにあるお願いをするために、この屋敷の書斎にいた。

そこは、レイが屋敷にいる間、執務をおこなう部屋だ。

大きな窓には、ぶ厚い濃い緑色のカーテンが掛けられ、窓を背に大きな執務用の机と、部屋の真ん中あたりには同じ濃い緑色のビロードのソファと、濃い木彫のテーブルが置かれている。そのほかには、大きな本棚が壁際に一つあるくらいで、重厚でクラシック調の落ち着いた雰囲気の部屋だ。


レイは執務用の大きな机に両肘をついて、組んだ手の上に顎をのせてこちらを見ている。


うわあ~、上司だっ。

何かを計るかのように私の顔を見ていた。胡散(うさん)臭そうに見る目で、と付け加えておこう。


そんな彼の前に私は立っている。

これって、完璧上司と部下の図ですよね。

内心つっこみつつ、ふと、この間まで働いていた派遣を思い出した。


「つまり、ミツキは働きたいのか?」

「はい」

「なぜ」

間髪入れず、なぜと言われてしまった。


「えっと、さきほども言いましたけど、タダで泊めて頂いてるのに、その上食事まで出して頂いちゃって、ほんとに申し訳ないので、せめてその分、労働でお返ししたいと思いまして。あ、でも、こんな豪華なお屋敷にご馳走なので、私の働きでは、ほんの足しにもならないかも知れませんが」

毎日ホテルのスイートルームに一流ホテルのコース料理と同じだもんね。いったいいくらくらいになるんだろう。


「あんたは客人だ。この家に居ることを何も気にする必要はないし、毎日のんびりしていてくれればいい。誰か家の者をつけてくれれば、街へ遊びに行ってくれてもいい」

彼はほとんど表情を変えず淡々と言う。

そうは言われても、ハイ、わかりました、と私もここは引き下がりたくない。


「お客様というのも心苦しくて。だって、私のせいで聖女様も来れなくなってしまったし、ただのらりくらりと二週間過ごさせて貰うのは、ほんと申し訳なさすぎて」

「あんたが気にすることじゃない。あれは俺が…」

「いえ!レイは悪くないです」


あ、……食い気味に強めで言っちゃった。

彼も少し驚いたようで、目を丸くしている。

「……あ、あの、すみません」

私は(うつむ)いて小さな声で謝った。

「なんで謝る?」

「ちょっと強めに言っちゃったので……」


レイは小さく溜息をついた。

顎をのせて組んでいた手をほどき、今度は右手で頬杖をつくと、さっきよりは少し柔らかい表情で言った。


「あんたは、いつも謝ってるんだな」

「え」

急に彼が親しげな雰囲気になったような気がして、少し驚いてしまった。

「いや、別にいい。こっちの話だ」

「?」


伏し目がちに、口元には薄っすら笑みが浮かんでいるように見える。

よくわからないけど、レイには何か思うことがあるのかな。


私が彼に言われたことを不思議に思っていると、レイは先程よりは柔らかく言った。

「ミツキはほんとに気にしなくていい。貴族の姫は、ほとんど()()して()()()してるか、()()が日課なんだ。ああ、()()()もあるな」


うわぁ、言い方……。

なんか、毒、含んでるように聞こえます。


レイは、貴族の姫君たちに嫌われていないでしょうか?

古書店のイケメン眼鏡男子と同一人物とは思えない。あの爽やかさは、いったいどこへ……。


「あの、私は貴族の姫ではないので。一般庶民ですからお気になさらず。それに、花園家の家訓は“働かざる者は食うべからず”、なので。どうか働かせてください」


私は、ペコっと勢いよく頭を下げた。それは、本当だ。

ママはいつも明るく笑いながら、そう言って子供の頃の私をお手伝いに誘っていた。


「働かざる者は食う…く?」

「食うべからず、です」

「どういう意味だ?」

「“ 食べた分は働け ”、です」


「なるほど。……俺もそう思うときがある」

「え?」

レイは口元をあげ、ニヤリと笑った。


あれ?なんか、ちょっと嬉しそう?


へえ。レイって、いたずらっ子のような、そんな顔もするんだ。

いかにも本が似合う爽やかなイケメン眼鏡男子の顔か、クールで無愛想な仏頂面の顔しか知らなかったから、意外だった。


レイファㇲって……。いったいどんな人なのか、まだよくわからないな。


「俺も、もともと子供の頃は、庶民として育ったんだ」

あ、マリアンヌさんが今朝の二人だけのお茶会で、そんなことを言ってた。

九歳まではお母さんと二人で暮らしてたって。

お父さまが町で見つけたって言ってたから、ここに来るまできっと町でお母さんと二人で暮らしてたんだね。


「だからミツキが申し訳なく思って、働きたいと言うのも分かる」

レイも、もしかしてこの家に来た頃、同じ気持ちだったの?


ここに居てもいいのかな、自分がこの場所に居てもいい理由が欲しい。

いまの私のように。

子どもの頃のレイも、そんなふうに思っていたのだろうか。


「私、掃除でも買い出しでも、何でもします。だから、仕事をください」

私は身体を半分に折り、頭を深々と下げて、お願いしますともう一度言った。

ため息をつくのが聞こえて、彼が言った。


「……わかった」


「っ!じゃあ……」


私がそう言うのと同時に顔をあげると、いつものクールな表情の彼だった。


「ちょうどルーセルからもミツキを城へと提案されていた」

「お城?」

「ああ。だから俺と一緒に毎朝、城へあがるようにしよう。城ならなんなりと仕事も()()()()()あるだろうしな」

(え……山のように?)

いま、山のあたり強調したよね、そんなに仕事あるの?

いやいや、ちょっと待って!?

別に、仕事をガツガツしたいわけではないんですけどっ……なんて、今さら言えるわけもなく。


少し前言撤回したい気持ちでいっぱいだった。

何か、間違えたかな。


「その前に条件がある」

「条件?」

な、なんだろう……


レイがスッと視線を横に外す。

「その、明日、町へ行き、自分のサイズに合うドレスを買ってくること」


思わず条件反射的に、胸元を抑えてしまった。

ええっ!?

そそ、そんなに急を要するほど、胸元()()()()()()()()ですか!?


なんとも()に落ちない交換条件と引き換えに、私は仕事をさせて貰えることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。