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第1話 腐女子のためいき

こちらの作品は『カクヨム』『アルファポリス』にも掲載しています。すでにシリーズ作品第一章のこちらは完話(全57話)していますので、加筆修正を行いながら、いくつかまとめて掲載していきたいと思います。

あぁーーー。


誰か、これは夢だと言ってはくれないでしょうか。

もしくは、数時間前に戻るとか、リセットとか、出来ないのでしょうか……


この世界を救うための聖女様の召喚を、私が邪魔したあげく、なんの力もない、()()()()()()()()な私が、どう間違ったのか、代わりにこの世界に来てしまった!


…………なんて。


申し訳ないのと、恥ずかしいのと、もう情けなさすぎて……


出来ることなら、いっそここから消えてしまいたい。


私は泣きたい気持ちでいっぱいになりながら、ものすごいイケメンと二人、ゴトゴトと馬車に揺られていた。


馬車の四角い窓の向こうには、金色(こんじき)の小麦畑が傾きかけた陽の光に照らされて、キラキラと輝いて広がっている。穏やかに波打つ金の海のような景色は、とても綺麗で、眩しくて、切なくなるくらいに綺麗だった。


私の斜め向かいに座る彼の端正な横顔を、こっそり盗み見る。

考え事をするように窓の外を眺める彼の横顔を、金色の光が縁取(ふちど)る。

彫刻のように整った彼の横顔と、金色の小麦畑のコントラストがあまりにも綺麗だった。

さらさらの銀髪が、金の絹糸みたい。映画のワンシーンのように、この情景が私のココロの中に深く刻まれる。

窓の外に向けられたコバルトブルーの瞳には、陽の光と金色の小麦畑が映し出されている。けれど、憂いを帯びたその瞳は、いったい何を見て、何を考えているのだろう。


―異世界転移。


小説や漫画ではよくある話で、異世界・転生ものって私も好きでよく読んでいる。

けれど、あくまでも作られた物語の中の世界。頭の中で空想は出来ても、現実に自分がゆける世界ではない。


そう、思ってた。


だからこそ、イケメンの騎士と出会って馬車で二人。

なぁんて、最高に嬉しいシチュエーションのはずなのにっ!!


先程から馬車の中に漂う重たい空気。

絶対、私がここに来ちゃいけないやつだったよね。

そりゃあ、この世界の存続が掛かってるんだものね。ほんと、ごめんなさい。


……はあぁぁ。

なんで私が来ちゃったんだろう……。


目の前のイケメンとの出会いはもう少し前、昨日の通勤帰りまで遡る。


◇◇◇


ゴトンゴトン、ゴトンゴトン、規則正しい電車音の中


はぁ~

私は心の中で、こっそりと盛大な溜息をついた。


……やってしまった。


花園美月(はなぞのみつき)。二十歳。本日もって派遣社員の雇用期間終了のため、明日より実質無職となる。ただいま通い慣れた通勤電車にて帰宅中。


スマホ片手に立っていた私は、乗車口の扉にもたれて、溜息交じりにコツンとガラス窓に頭を傾かたむける。手にしているお餞別(せんべつ)でいただいた菓子折りが入った有名菓子店の紙袋が、ガサリと音を立てた。

一年と三か月、通勤で見慣れたコンクリートの多い街は、傾いたオレンジの光を背に浴びて、昼間は雑多な色に見えるそれらも色を失くし通り過ぎていく。

曖昧(あいまい)……ふと、そんな言葉が浮かんだ。


しばらくは、この景色ともお別れになるのかな。

もしかして、……もう通うことはないのかも知れない。

けれど、私がさっき溜息ついたのは、派遣期間が切れたからとか、しばらく無職になるからとか、そんな理由じゃない。


スマホ画面を周りから隠すように、控えめに、もう一度画面を見る。


ああぁぁぁ~!


()()()()()っ!!


画面には、浴衣姿の推しキャラが微笑んでいて。

金髪碧眼。容姿端麗。職業は騎士。

顔が良すぎて、死ぬ程まぶしいっ!!!


そう、私はゲーム好き、アニメ好き、漫画好き、ネットで小説を創作もするし、空想も好き、そしてちょっぴり腐女子。人見知りで、人に見られるのは苦手だから、当たり障りない普通の人を演じて過ごしている隠れオタク。

こうして一人で、ひっそりと推しを毎日推している。


頬が緩んで、ニヤけてしまいそうになるのを必死でこらえる。

平常心を装い、スマホの画面を再び胸に押しつけ、遠い目になる。

窓の外を過ぎてくコンクリートの塊かたまりに目を向けているのは、カモフラージュ。


ふ、ふ、ふ、ふ、ふ……っ


本当は心の中で、私は両手を上げて小躍りをしている。

いや、狂喜乱舞のほうが、きっと正しい。


尊死(とうとし)

この言葉を考えた人は、ほんとに素晴らしいと思う。ピッタリの言葉だ。


明日から実質無職の私は、ソーシャルゲームに課金してる場合ではない。

それは理解ってる。

だからそう思って、来月に控えた推しのバースデーイベントのため、今月は無課金で細々とやろう!


そう心に決めていた。


決めていたのに……。


ここにきて“七夕イベント”って、ないわぁ~(泣)


私の最推しも、今回のイベントの攻略対象に選ばれた。それは、それですごく有難いことで、喜ばしいし、めでたいし、嬉しい。


嬉しいのだけど。


イベントキャラに選ばれるとメインストーリーには無い、新しいイベント用のスチルもストーリーも用意される。そして参加して、めでたくランキングに入れば、イベント限定の描き下ろしカードが貰えるっていう特典もある。


あ、ランキングというのは、ゲーム内 のミニゲームでプレイヤー同士でバトルしたり、ゲームのストーリーを読み進めて貰えるハートの数をコツコツと集める。そして、集めたハートの数を他のプレイヤー達(このゲーム内では姫と呼ばれる)と競って、より多く集めた順でランキングが決まる。


またそのランキングというのが、私の最推しが、キャラ人気1位でないという、すごく微妙な事情もあって、少し頑張れば届いてしまいそうな100位以内だから、私みたいな時給計算の派遣でも、少し課金すればランキングインも可能な範囲となってくる。


つまり、時間とタイミングを緻密(ちみつ)に計算し、コツコツまめにハートを集め、それでも足らない分は課金という貢ぎ物をして、推しの尊い絵姿をお迎えするのだ。

まあ限定カードと言っても、携帯の中でしか存在しないデータなんだけど。


明日から無職となる身分の私が、そんなお金にも空腹の足しにもならない架空のもの(データ)に、課金している場合ではないのは、わかってる。


わかってはいるんだけど……


いつもは純白の軍服姿で、金髪碧眼の騎士様が、日本の祭りを味わっている!

藍染の浴衣姿だなんて~!!

ましてや、剣の代わりに()()()()持ってるのって、反則すぎる!


尊すぎて、もはや神でしょう!!

それは、もうポチるしかないっ!!!


……不可抗力です。


再び両掌の中をチラリと覗くと、スマホ画面の中で麗しい金髪騎士様が、藍染の浴衣から白い鎖骨をのぞかせながら、イカ焼き片手に満面の笑みを見せていた。

彼が、幸せそうで何より。


私は、あなたをお迎えできて、幸せです。


……ほんと、うまいです、運営さん。よくわかっていらっしゃいます。


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