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「ピアナは、馬車に轢かれて瀕死になったあと、姿を消したと聞いた。残された血の量がすごくて……死んだと思ってた。彼女は、蘇ったのか?」
死者蘇生魔法は、有名な魔法だ。
大切な人を失った人は、誰でもその人にもう一度会うことを夢見る。
そんな夢を叶える魔法があるらしい。
そんな噂程度のものだったが、誰でも知っている夢の魔法のひとつだ。
店長がピアナが死んだことを知っていたなら、目の前に彼女が現れたとき、すぐに店長はピアナがゾンビになった可能性を考えたことだろう。
その目に、すがるような涙を浮かべる店長に真実を伝えてあげたい。
けれど、それはピアナの口から伝えるべきだ。
「それは、このドアを開けてくれたら、ピアナに聞いてみましょう」
できる限りの優しい声音で告げてから、店長と場所を変わる。
ピアナが閉ざしてしまったドアを、静かにノックした。
「ピアナ。びっくりしたわね。まさか、店長が知っていただなんて、思わなかったものね」
ドアの向こうに気配はある。
けれど、声は聞こえない。
ドアの向こうで小さくなっているピアナを想像すると、胸が痛んだ。
「大丈夫よ、ピアナ。店長はここまであなたを追いかけてきたんだもの。あなたのことを嫌っている人が、必死になって走ってここまで来るわけないわ」
コンコン。
もう一度、ドアをたたく。
ピアナの背中を押すような気持ちで。
彼女の幸せを祈る気持ちで。
「もしも、万が一、店長が真実を知って逃げ出しても、私はあなたの味方よ。ずっと傍にいる。この街に居ることが辛くなったなら、ワルターさんを説得して、テディも一緒に四人で旅立ちましょう」
「ほう、それはそれで良さそうだ。グロウ家とのしがらみからも、逃れられるかもしれん」
冗談みたいにワルターさんは言うけれど、彼は旅立つことを嫌がったりはしないだろう。
傷ついても、絶対に私やワルターさんが傍にいる。
だから、大丈夫。
幸せになるための勇気を、ピアナにも持って欲しい。
「ピアナ。ドアを開けて。幸せになるために、あなたにも過去と向き合って欲しいの」
どうか、お願い。
切なる願いは、届いた。
ドアは、ゆっくりと開かれ、目尻を赤くしたピアナが現れる。
店長は、ピアナにゆっくりと近づくと、彼女をそぉっと。
繊細なガラス人形を抱くように、抱きすくめた。
「会えたことが嬉しすぎて、言えなかったよ。アコナにも叱られた。すぐに言えなくて、ごめん。久しぶり。びっくりするぐらいに、かわいいよ」
「……っ、ひぐ、あたしが、ゾンビでも?」
「これからは健康に気をつけて、この国一番の長寿にならなきゃなぁって思うだけだ」
「ユリウス……! 大好き、大好きだったの。あの晩、あたし伝えようと思ってたの! なのに、伝えられなかったの」
「俺も。ひき逃げ事故の被害者が消えた夜。伝えようって思ってたよ。初めて会ったときから、めちゃくちゃ好きだって」
抱きしめ合ったふたりは、涙を流して再会を喜んでいた。
その涙を見ていると、私まで泣けてくる。
目元を拭う私の肩を、ワルターさんはそっと抱き寄せてくれる。
彼の目元もまた赤く染まっていて、不器用な彼なりのピアナへの愛情を感じた。
ゾンビになってでも、店長に会いたいと願ったピアナの愛は、凄まじいものだと思う。
私には、とてもできない。
そう思うと、胸の奥がツンと痛む気がした。
私はワルターさんと幸せになることを誓ったのに、彼のためにゾンビになることもできない。
その罪悪感は、私を責めて仕方が無かった。




