モブ子はモブ子でした。
ポイント大入御礼
私は十人並みの人となりで生きてきました。
そして、社会人二年目においてわかったことがある。
就職してから出会いなんてものはない、と。
学校には沢山の人がいて、異性も沢山いて、知り合いのツテも沢山あった。
その人たちと沢山交流する機会もあったのに、特別可愛くもない私が恋愛と言うものを積極的に行わなかった結果、こうなってしまったのだ。
運命の出会いなんて、落ちていない。
必死に探して、見落とさないで大切にしたものだけが見つけることができるのだ。
恋に対しては人並みに憧れはあったのに、気がついたらこんなところまで来てしまっていた。
どうしていいのかわからずに呆然としていた時に出会ったのが乙女ゲームだった。
最初は恋愛のわからない私のリハビリのように思っていたが、そのストーリーにどんどんのめり込んだ。
イケメンたちが優しくしてくれるし、恥ずかしい言葉もボタン一つで伝えることができた。
今日も甘ったるいボイスに耳を傾ける。
それでも埋められない胸に夜更けの風が吹いた気がした。
私はキリの良いところでセーブすると、ベッドに寝転んだ。
また明日が始まる。
それは誰も私に好きとは言わない現実世界だ。
どうか夢の中だけでもと、私はゲームを思い出しながら眠った。
前世を思い出したのは、国立学園入学予定の顔合わせのお茶会の時だった。
国立学園とは貴族の御子息、ご令嬢、そして成績優秀の選ばれた平民が通う学園である。
以前にも恙無く学園生活が送れる様に何度か顔合わせがあったが、子爵であるタチアナは伯爵家よりも上の方々が出席するようなお茶会には今回初めて出席する。
それなのに、今まで顔さえ見たことの無いような高貴な方々の顔と名前が頭の中で次々と一致して、何かとダブっていく。
知っている…?…私…この世界…知っている!
ハッとして周りを見渡した。
あんなに大好きで、何回も何周もしたゲーム。
寝る前にも囁いてくれた甘い言葉…それはもう私には囁いてもらえない。
私は…モブだから。
地味な顔にコンプレックスは抱いていたが、家族みんなに愛されていたからそこまでは思っていなかった。
しかし、前世の自分と重なり合って負の感情が湧き上がっていく。
私はゲームの中でも恋愛できない…誰にも好きになってもらえない…
「タチアナ!ちょうど良かった!紹介しよう。リカルド・イーガン、イーガン伯爵の嫡男だ。」
私を現実に呼び戻す様に、父親が一人の男の子を目の前に連れてきた。
「リカルド・イーガンです。今後ともよろしくお願いいたします。」
そう言ってリカルド様から差し出された手に私は手を重ねる。
「…タチアナです…こちらこそよろしくお願いいたします…」
身分の低いタチアナに対しても丁寧に女性として接してくれるリカルドに、タチアナは一目で恋に落ちていた。
私と同じく地味な風貌だけれども、落ち着いていて大人っぽくて人当たりの良さそうな彼が周りよりも魅力的に輝いて見える。
みるみる顔に熱が帯びていく。
私…リカルド様が好き…
前世でキャーキャー騒いでいたイケメンの甘い囁きよりも、リカルド様が私に笑いかけてくれる方がいい。
それだけで胸が張り裂けそうなくらいドキドキと脈打つ。
リカルド様との婚約が決まったのはそのすぐ後のことだ。
元々婚約の話は出ていたが、両親も決まるとは思っていなかったみたいだ。
事実、玉の輿である。
いいのかしら…本当にいいのかしら…
私は思わぬ幸福に、中々受け入れられずにいた。
「…私は貴女がいい。」
婚約が決まってから会ったその日にリカルド様に思わず「本当にいいのですか」とたずねてしまった。
それをリカルド様は微笑みながらそう答えてくださった。
「…私もリカルド様いいです。…リカルド様じゃないと嫌です。」
そうだ。そうだった。
こんな好きな人を見つけて、尚且つ受け入れてもらえる。
こんな奇跡があるなら、私に授けてもらえるなら、大切にしないといけない。
タチアナは目尻に涙を浮かべながら、嬉しそうに笑った。
こんなにポイント沢山いただいるのにランキングのってないやんとプンプンしてましたが、異世界転生は別ランだと後から気づきました。
そして、思わぬランキング上位に驚きました!
沢山のブックマーク、評価していただき、ありがとうございます。