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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.05 ジュネイソンの廃墟編

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30 ヴァルネットへの帰還


「なんか、随分久しぶりな気がするなぁ」


 馬車に揺られながら、明かり取りから見えるヴァルネットの街を眺める。ようやく帰ってきたという感慨に浸っていると、興奮したラグが頭上を飛び回り始めた。


「三週間ぶりくらいよね。リュシーにとっては長い休みになるんだから、ゆっくり羽根を伸ばしなさい」


 隣に座るシルヴィさんが、穏やかに微笑む。


「はい。休めってことなんでしょうね」


「冒険者活動は休んでも、あっちは休ませてあげないから。みんなは当分帰って来ないし、リュシーのお世話は上から下まで任せて」


 なぜか、太ももを撫でられている。


「いや、自分のことは自分でできますから」


「なによ〜。照れなくてもいいじゃない。しつこい聞き取りも終わったんだし、この前の夜みたいに、めちゃくちゃにしてよぉ」


「シルヴィさん。衛兵も乗ってますから」


 見張り役として、ふたりの衛兵が同乗している。そのうちのひとりから、険しい視線を向けられ続けていた。余程の堅物か、それとも妬みか。


「それにしても、よく戻って来られたわねぇ」


 シルヴィさんが、窓の外へ目を向けながら呟く。


「大司教には感謝しかありません」


 あの後、俺たちはグラセールの街へ戻り、衛兵の詰め所へ移送された。そこで待っていたのは、執拗なまでの聞き取り調査だ。


「Gたちの遺体も失ったし、証拠らしい証拠はなかったものね」


「俺たちの証言だけじゃ、説得力もありませんでしたからね。それでも数日で解放されたのは、大司教が無実を訴えてくれたお陰ですよ」


 被害に遭った本人である彼が、俺たちのために懸命な口添えをしてくれた。


 本来、魔導師や聖職者を冒涜する行為は厳罰に値する。失われつつある魔法の力を行使できる彼らは、この国では上流階級に準ずる存在として優遇されているからだ。


「下手をすれば、王都の地下牢行きだったかもしれないわよね」


「霊峰の寺院で暴れた件まで、双方の誤解から生じた自衛行為だって擁護してくれたそうです」


「全部、罪を告白したからじゃないかしら」


 シルヴィさんが、どこか遠い目をする。


「最後に見せたあの顔が、本当のジョフロワだったのかもしれませんね」


 すべての罪を告白した彼は、晴れやかな表情をしていた。霊峰にある箱庭も、少しは浄化されていくはずだ。


「でも、結局リュシーだけが処罰されちゃったわね」


「気にしてませんよ。六十日間、加護の腕輪を没収。一切の冒険者活動は禁止。その間はヴァルネットの寺院で奉仕活動をして、街から一歩も出ちゃいけない。その程度ですから」


「結構、厳しいじゃない」


「牢に入れられるよりずっとマシですよ」


 本来なら、霊峰の寺院で奉仕を行うのが筋だろう。しかし、騒動を起こした魔導師たちと再び顔を合わせれば、新たな問題を生みかねない。その点については、向こうも同じ考えだったらしい。


「で、腕輪はどうなったの?」


「王都アヴィレンヌの冒険者ギルド本部に送られました。活動停止が解かれたら、王都で引き取りの手続きをしろって」


「じゃあ、次に腕輪を取り戻すのは王都ね」


「そうなります」


 大司教とは、聞き取り調査を終えた後に別れの挨拶を交わした。彼は最後までマリーのことを気に掛けていたが、きっとあれが本当の顔だったのだろう。


「マリー、元気にやってるのかしら」


「レオンたちが一緒ですから、大丈夫ですよ」


 マリーの笑顔を思い出し、わずかに口元が緩む。


 昨日の朝、俺とシルヴィさんはグラセールを発った。三日を費やし、ようやくヴァルネットに戻ってきたところだ。


 馬車はそのまま街中を進み、衛兵の詰め所で停止した。すると、出迎えに現れたのはシモンさんだった。


「衛兵長のお出迎えとは、恐れ入ります」


 頭を下げると、頭上で鼻を鳴らす音が聞こえた。


「無用な災難に巻き込まれるとはな。これだから、冒険者などロクなことにならんのだ」


 渋い顔で唸り、空を見上げながら顎を擦っている。


「まさか、心配してくれてたんですか」


「貴様の心配などするか」


 真っ赤になった熊さんを見て、思わず笑ってしまった。


「ありがとうございます。でも、冒険者だって悪くありませんよ。災難に遭ってこそわかることもある。ひとつひとつが、きっと糧になるんです」


 冒険者という職業は、本当に面白い。ひとつの街に留まるなんて、今の俺にはできそうにない。


「とにかく、なんだ……無事に済んで幸いだったな。この街から犯罪者が出たとあっては、私の面目も丸潰れだ。冒険者活動も停止されたのだから、当分は大人しくしていることだな」


「そうさせてもらいますよ」


 衛兵たちに別れを告げ、シルヴィさんと共に天使の揺り籠亭を目指して歩き出す。


「不器用そうだけど、いい男だったわね」


「シモンさんに興味が湧いてきました?」


「お断りよ。お堅い仕事の男って、真面目で退屈そうだし。今はやっぱり、リュシーね」


「いや、いや、いや……」


「安心して。別に恋人にしてなんて言うつもりもないから。あぁ、お酒飲みた〜い」


 昼過ぎの街路で叫ぶ酒乱がひとり。それを聞き付けたわけでもないだろうが、駆け寄ってくるふたつの人影があった。


「がう、がうっ」


 ラグがその姿を見付け、声を上げる。


「リュシアン・バティスト。戻ったのか」


「リュシアンさ〜ん、心配したんですよ」


 ナルシスの姿に顔をしかめつつ、シャルロットの愛情突進(ラブ・チャージ)を受け流した。


「どわたたっ!」


 転びそうになったシャルロットを、隣にいたシルヴィさんがしっかり受け止める。


「ひえぇぇ……シルヴィさん、すみません。私はなんと畏れ多いことを」


 お下げを振り乱し、シャルロットが慌てふためいた。


「ちょっと、リュシアンさん。どうして私の愛を受け止めてくれないんですかっ!?」


「すまん。シャルロットからの愛は満杯で、これ以上は受け止めきれそうにない。その勢いは、ギルドの衝立(ついたて)にぶつけてくれ」


「そんな。ひどい……」


 シャルロットが半泣きになった途端、背中を強く叩かれた。


「リュシアン・バティスト。彼女に対して、その態度は失礼だろう。どれほど君のことを心配していたと思っているんだ」


 ナルシスが険しい顔で睨んでくる。


「僕がこの街へ戻るなり、君の様子を慌てて聞きに来たんだぞ。君たちが衛兵の詰め所へ移送されることは知っていたから、ここでこうして待っていたというのに」


「悪かったよ。ほんの冗談だろ」


「女心がわかってないのよ、リュシーは」


 今度はシルヴィさんに腕をつねられた。


「だから痛いって。なんなんですか……」


 みんなの気持ちは嬉しい。その本心がわからないほど馬鹿じゃない。


 でも俺は、セリーヌを追うと決めている。


「ふたりにも心配かけたな。ありがとう」


「ふえぇ……リュシアンさ〜ん……」


 シャルロットの小柄な体を抱き留めてやると、ナルシスから深い溜め息が聞こえた。


「リュシアン・バティスト。君は冒険者活動停止だったな……君の処分が解けるまで、僕はひとり旅に出るつもりだ」


「そうか。しっかりやれよ」


「軽いな、君は!?」


「なんだよ。おまえが寂しそうな顔するんじゃねぇよ。気持ち悪い」


 一体、どうして欲しいんだ。


「今回の戦いで、自分の無力さを痛感したよ。君の好敵手として相応しいよう、強くなって戻って来る。期待していてくれたまえ」


「そうか。頑張れよ」


「だから、軽いんじゃないのかい!?」


「他にどう言えっていうんだよ。行かないで、とか言って欲しいのか?」


 もう、こいつ面倒くさい。


「俺も負けないように頑張るぜ、だとか、言いようがあるだろう」


「俺モ、負ケナイヨウニ、頑張ルゼ」


 抑揚を込めず、棒読みで返してやった。


「もういい……絶対、君に吠え面をかかせてやるからな。覚悟していろ」


 怒りに全身を震わせたナルシスは、全力疾走で人混みの中へ消えていった。


 相変わらず鬱陶しいけれど、からかいがいのある奴でもある。


「あれで良かったの?」


 シルヴィさんが苦笑を浮かべる。


「焚き付けた方が、燃え上がる奴ですから」


 どこまで強くなれるのか。少しくらいはましになって戻ってくるだろうか。


「っていうか、シャルロット。おまえもいい加減に離れろ。ギルドの仕事があるんだろ」


「もう、今日の仕事は放棄します。せっかくリュシアンさんが帰ってきたんですから」


「責任を放棄するような奴は最低だと思うぞ」


 すると、俺の胸へ顔を埋めていたシャルロットは、即座に顔を上げた。


「仕事に戻ります。明日は休暇なので、揺り籠亭へ遊びに行ってもいいですか?」


「まぁ、好きにしろ」


 目を輝かせて走り去るシャルロットを見送る。その後、シルヴィさんと揺り籠亭の前へ戻ってくると、商店街の奥から歩いてきた助祭のブリジットと出会った。右手に提げた編み籠の中には、色とりどりの花が見える。


「まぁ。お戻りになられたのですね。心配しましたわ。大司教様は攫われ……犯人はリュシアンさんだと……呪いは大丈夫ですか」


「はい。もうすっかり。すべて無事に片付きました。ご心配をおかけしました」


「安心しましたわ……万が一、体調に問題があれば……遠慮なく寺院を頼ってくださいね」


 エクボが魅力的な、柔らかな笑みだった。


「ありがとうございます。しばらくは寺院で奉仕活動になるので、よろしくお願いします」


「こちらこそ……楽しみにしていますわ」


 花の残り香を漂わせながら、ブリジットはしとやかな仕草で去ってゆく。最後に会ったのが彼女で良かった。お陰で、穏やかな気持ちになれた。


「結局、みんないなくなっちゃったわね」


「え? 宿にフェリクスさんがいますよね」


「他のお抱えパーティを見に行ってるわ。二ヶ月後、王都アヴィレンヌで国王の生誕祭があるでしょ。それまでには戻るって」


「ってことは、それまでの間……」


「ええ。宿の二階は私たちの貸し切り。たっぷり愛を深めましょうね」


 全身から血の気が引いていく。みんなが戻るまで、正気を保っていられる自信がない。


 俺の明日は、どこにあるのだろうか。

QUEST.05 ジュネイソンの廃墟編 <完>


<DATA>


< リュシアン=バティスト >

□年齢:24

□冒険者ランク:A

□称号:碧色の閃光

[装備]

スリング・ショット

冒険者の服


挿絵(By みてみん)




< ナルシス=アブラーム >

□年齢:20

□冒険者ランク:C

□称号:涼風の貴公子

[装備]

細身剣

華麗な服


挿絵(By みてみん)




< シルヴィ=メロー >

□年齢:25

□冒険者ランク:S

□称号:紅の戦姫

[装備]

斧槍・深血薔薇

深紅のビキニアーマー


挿絵(By みてみん)




< レオン=アルカン >

□年齢:24

□冒険者ランク:A

□称号:二物の神者

[装備]

ソードブレイカー

軽量鎧


挿絵(By みてみん)




< アンナ=ルーベル >

□年齢:22

□冒険者ランク:A

□称号:神眼の狩人

[装備]

双剣

クロスボウ・夢幻翼

軽量鎧


挿絵(By みてみん)




< エドモン=ジャカール >

□年齢:23

□冒険者ランク:S

□称号:真理の探求者

[装備]

魔導杖

朱の法衣


< フェリクス=ラグランジュ >

□年齢:38

□冒険者ランク:L

□称号:断罪の剣聖

[装備]

聖剣ミトロジー

軽量鎧


< マリー=アルシェ >

□年齢:17

□冒険者ランク:D(仮)

□称号:アンターニュの聖女(仮)

[装備]

聖者の指輪

白の法衣

タリスマン


< アルバン=カスタニエ >

□年齢:21

□冒険者ランク:C

□称号:なし

[装備]

長剣

軽量鎧


< モーリス=ベナール >

□年齢:21

□冒険者ランク:C

□称号:なし

[装備]

長剣

軽量鎧


< リーズ=ブランシュ >

□年齢:21

□冒険者ランク:C

□称号:なし

[装備]

なし



ラフスケッチ画:やぎめぐみ様

twitter:@hien_drawing

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