↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.05 ジュネイソンの廃墟編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/394

27 新たな仲間


「素晴らしい。完璧だ」


 無駄に元気を取り戻したナルシスが、満面の笑みでマリーの両手を固く握っている。


「だから、ほどほどでいいって言ったんだ」


 瓦礫に腰を掛けて治療を眺めていた俺は、その光景に呟いた。


 アルバンの報せを受けて戻ると、馬を操っていたのは疲れ切ったエドモンだった。後ろには、青白い顔をしたナルシスが負ぶさっていた。


 ジュネイソンの入口で合流するなり、マリーはその場で治療を始めた。その間にアルバンが皆を集めてくれたらしい。


 さっきまで死にそうな顔をしていたナルシスだが、それだけマリーの癒やしの魔法が絶大な効果を発揮したということだ。


 他の面々もふたりを囲むように集まり、傍では朝食の準備が始まっている。


「助かったっス。オイラの癒やしの魔法じゃ、ほとんど効果がなくて……馬も操らなくちゃいけないし、本当に大変だったっスよ」


 アルバンとモーリスが用意してくれた缶詰を頬張りながら、エドモンが泣き出しそうな顔でぼやいている。それどころか、無事にここまで来られたことの方が驚きだ。駆けつけてくれたのは有り難いが、魔獣に遭遇しなかったのは不幸中の幸いだった。


「エドモン君も、本当にありがとう」


 ナルシスは歯を見せ、爽やかな笑みを浮かべている。年下のくせに偉そうなところは相変わらずだが、どうやら誰に対してもこんな調子らしい。


「ホントっスよ。やっと毒抜きの治療を終えたのに、すぐ追いかけるって言うんスもん……オイラまで倒れるかと思ったっスよ」


 いや。それだけ食べられれば、倒れる心配は皆無だ。むしろ、俺たちが食べる分まで残されるのか。そっちの方が心配だ。


 ラグもラグで、エドモンが平らげた空き缶へ鼻を突っ込んでいる。


「どうせなら、その辺に置いてくればよかったんだ。合流しても、死にかけじゃ戦力外だ」


 ナルシスは肩まで伸びる金髪を振り乱し、険しい視線を向けてきた。


「戦力外だと? 今すぐ取り消し、速やかに謝罪したまえ。この細身剣(レイピア)が奏でる串刺しの刑で、君の胸を貫くことになるぞ」


「あぁ。怖い、怖い。俺が悪かったよ」


「ぐぬぅ……リュシアン・バティストめ」


 歯噛みして悔しがっている。自分の力量をわきまえ、かかってこないだけ立派だ。


「ところで、びゅんびゅん丸はどこだい?」


「悪い。衛兵に追われて、アンナが囮になってくれてな。今はあいつが乗ってる」


「僕の馬を又貸ししたのか!? なんて奴だ」


「仕方ねぇだろ。それしかなかったんだ」


「びゅんびゅん丸に何かあれば、許さないぞ」


 その怒声を掻き消すように、エドモンの大きなゲップが響いた。露骨に嫌悪感を示したのは女性陣だ。初対面のマリーとリーズは何も言えずにいるが、シルヴィさんは違う。


「ちょっと、エドモン。いっつも言ってるけど、もっと品行方正にできないの? 魔導師のくせに、身体も心もだらしないんだから」


「品行方正って、酒ぐせが悪くて露出狂の姐さんに、とやかく言われたくないっスね~」


 さすがに、笑いを堪えられなかった。


「エドモン。あんた、大司教様の所へしばらく弟子入りさせてもらったら? その腐った性根を叩き直してもらいなさい」


 殺意を秘めた切れ長の目に睨まれ、エドモンはその視線から逃げるように慌ててこちらを向いた。


「皆さんも大変だったみたいっスね。肝心な時に側にいられず、申し訳ないっス……それに、相手の大将まで自害するなんて驚きっスよ」


「まぁ、誰も予想しねぇ結末だよな」


 ニコラとカロルは埋葬したが、Gと首を噛み切られたMの遺体は馬車へ積んである。用心深いGが万一を見越し、廃墟のひとつに馬を残しておいてくれたのは幸いだった。お陰で、問題なく馬車を使うことができる。


 大人数で囲む賑やかな朝食。アルバン、モーリス、リーズには積もる話があるのだろう。俺たちから少し離れた場所で、三人だけで食事を摂っている。


 そうして朝食を終えると、隣にマリーを座らせた大司教が口を開いた。


「皆さんには命を助けられ、多大な恩を受けました。これも女神ラヴィーヌの思し召し」


 胸の前で両手を組み、祈りを捧げる。やがて静かに息を吐き、目を開いた。


「厚かましくも、お願いがあります。マリーを、あなたがたの旅へ加えて頂けませんか」


「は!?」


「昨晩、彼女とは話が済んでいます。これは本人も望んでいることです」


 驚きで言葉が出ない。マリーを自由にしてやれとは言ったが、俺たちに付いてくるつもりか。


「でも、寺院の勤めはどうするんだ?」


 大司教は穏やかな微笑みを返してきた。


「問題ありません。代わりの司祭もいます。今までのような奇跡の癒やしはできませんが、自分にできる最大限のことをするだけです」


 その笑みを見る限り、大司教の中でも何かが吹っ切れたのかもしれない。


「マリー。おまえはまだ若い。自らの見聞を広めるためにも、世界を見る必要がある」


 そう言った直後、大司教の表情が険しくなった。


「幸い、ここにいらっしゃる皆さんは腕が立つ。それに、やつらの仲間がいないとも限りません。正直、寺院の力だけでは、この子を守り切れるかどうか……あなた方と共に行くことが、彼女のためにもなると思っています」


 大司教の言葉に続いて、マリーが晴れやかな笑みを浮かべた。瞳には、まっすぐな決意が宿っている。


「私を……仲間に迎えていただけますか?」


 そんな綺麗な瞳を向けられると、簡単には断れない。


 だが、俺たちの冒険も命懸けだ。一方で、水竜女王との約束を考えれば、マリーが側にいてくれることは俺にとっても都合がいい。心が揺れる。


「ありがたい話だけど、俺たちは冒険者なんだ……命の保証はできねぇぞ」


 慎重に言葉を選ぶ。


「寺院に置いておくのが不安だっていうなら、他にもやりようはあるだろ。ヴァルネットに戻れば、俺が仕切る宿に空き部屋もある。寺院で雇って貰えば、仕事にも困らねぇだろうけど……」


「ナルシスさんの話によれば、魔導師の女性が抜けてしまって困っているとか」


 マリーが、こちらへ一歩近付いた。


「私で力になれることがあれば、ぜひ」


 そして、少しだけ恥ずかしそうに微笑む。


「というより私が、あの方にもう一度お会いしたいんです」


「は?」


「あの方はきっと、女神様の生まれ変わり……ラヴィーヌとセリーヌ。似ていると思いませんか? これはきっと、偶然でなく必然」


 自信満々に言い切るが、似ているのは音だけだ。あんなとぼけた女神がいたら、この世はとっくに終わっている。


「女神様は寺院で、私にこう仰ったんです。最後まで力になれなくてごめんなさい、って。凄く寂しそうな顔でした……」


 マリーは訴えるような声を上げ、純白の法衣の胸元を強く握りしめた。


「本当に救いを求めていたのは、私でなく女神様なんです」


 その瞳が、まっすぐ俺を見つめてくる。


「あの方に、もう一度会わなくてはならないの。胸の中が、どうしようもなく騒ぐんです。だから、お願いします」


 切実な顔で、深く頭を下げられた。


「わかっ……」


 返事をしかけたところで、隣に座っていたシルヴィさんが俺の腕に絡みついてきた。


「ひとつだけ条件があるわ」


 嫌な予感がした。


「リュシーは私のものだから、絶対に手を出さないこと」


 にっこりと微笑んだまま、続ける。


「もし何かあれば、その時は覚悟して頂戴ね」


 するとマリーは、柔らかな笑みを浮かべた。


「心配無用です。正直に言って、私の好みとはかけ離れていますから」


「そう。ならいいの。歓迎するわ」


 俺だけが、引きつった笑みを浮かべることになった。


 するとマリーが、今度は嬉しそうに駆け寄ってくる。


「早速ですけど、お願いがあります。女神様がお使いになられていた、冒険者用の腕輪を預かっているそうですね」


「あぁ。あるけど、それがどうした?」


 俺が座っている外套(がいとう)へ身を乗り上げ、マリーが四つん這いになって迫ってきた。


 顔が近い。綺麗に整った小顔に、妙に焦ってしまう。


「女神様が戻るまで、私に貸してください。代わりの魔導師として、皆様に従事します」


「魔導師って……治癒以外の攻撃魔法は使えねぇんだろ?」


「ギルドから派遣されてきた魔導師の方々に教わったので、少しは使えます」


 マリーは勢いよく答えた。


「エドモンさんとレオンさんにも教わって、頑張りますから」


 その勢いに気圧される。こんな美人魔導師なら大歓迎だが、問題は命の危険だ。


「でもなぁ……」


「いいんじゃない?」


 呑気な声を上げたのはシルヴィさんだ。


「どのみち登録も解約するつもりだったんでしょ? この娘(こ)に有効に使って貰えば」


 というか、いい加減に腕から離れてくれないと恥ずかしい。


「それってつまり、セリーヌだと偽って冒険者活動するってことですよね」


 冷静に考えてみる。


「よくよく考えたら、マリーも十七歳だし、登録不可能だ」


「それなら問題ありません」


 マリーは得意げに胸を張った。


「私、次の月で十八になりますから。冒険者活動も、ギルドでの手続きは皆さんにお任せします。後ろで顔を隠して、黙って見ていますから」


 少しだけ悪戯っぽく笑う。


「これだけの治癒魔法の使い手だ。そこまで言われると、何も言えねぇよ」


「やった! これで女神様を探せる」


 飛び上がって喜ぶマリー。その姿を、大司教は穏やかな眼差しで見つめていた。


「その聖者の指輪は、餞別に贈ろう。立派になって戻る日を待っている」


「ありがとうございます」


 マリーは両手を組んで、華やかな笑みを浮かべている。


 だが、それが大司教の前で見せる仮の姿だということも、俺にはよくわかっている。


 やっぱり、女って怖い。


 ふたりを眺めていると、昨日から抱えていた疑問が再び浮かび上がってきた。シルヴィさんの腕をそっと振りほどき、マリー越しに大司教へ視線を向ける。


「ジョフロワ、教えて欲しい。大司教のあんたなら知ってると思うんだ」


 この国から竜の信仰が失われた理由。彼ならきっと、有力な情報を持っているはずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。