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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.03 ムスティア大森林・洞窟編

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17 夜会の裏で、運命は動く


「えへへ。驚いた? 本当はみんなで来るはずだったんだけどね。シル(ねえ)とレン君が腕試しだって、勝手に護衛依頼を受けちゃってさ。昨日はアンナとレン君で、その下見に行ってたの」


「なるほどな」


 店内には十席ほどのテーブルが並び、思い思いに酒や料理を楽しんでいる。


 中央の席では、シルヴィさんが肘を突きながら豪快にエールをあおり、弾けるような笑い声で場を支配していた。


 その一方、端の席では、レオンが壁に背を預けたまま誰とも目を合わせず、黙々と食事を続けている。


「なんなんだ。この、まとまりのなさ……」


「レン君はいつもあんな感じだよ。あんまりみんなと関わろうとしないんだ」


「孤高気取りってやつか?」


「さぁね。でも、せっかく再会できたんだし、一緒に楽しもうよ」


「ちょっと待ってくれ」


 差し出された手を軽く制し、レオンの席に向かった。


 気付いていないはずがない。それでも顔を上げようとしない態度に、苛立ちが込み上げる。


「今日は助かった。向こうで一緒に飲み直さないか」


「遠慮する。酒は飲まないんだ」


 ぶっきらぼうに言い放たれた。


「俺は、あんたたちと馴れ合うつもりはない」


「は?」


 思わず声が漏れる。

 レオンは静かに立ち上がり、鋭い視線を真正面からぶつけてきた。


「どうして、あそこで盗賊に情けをかけた」


「それは……」


「俺なら、迷わず殺してた」


 淡々とした口調だったが、その断定は重い。


「情けは弱さだ。その弱さはいずれ命を奪う。自分だけならまだいい。あんたは、この街ごと報復の危険に晒したんだ」


「わかってる」


 言い返せない。それは、自分でも理解していた。

 レオンは小さく鼻を鳴らす。


「今回は従ったけど、次も同じとは思わないでくれ」


 すれ違いざま、低い声が落ちる。


「剣の腕だけじゃ生き残れない。心も鍛えろ。俺は全部失った……もう、取り戻せない」


 吐き出すように言い残し、足音が遠ざかっていく。


「レン君、どこ行くの?」


「外だ。剣を振る。腕が鈍る」


 アンナに短く答えると、レオンはそのまま夜の通りへ消えた。


「あんまり気にしないで。ああ見えて、不器用なだけだから」


 アンナが苦笑しながら背中を押してくる。


「今は、楽しまなきゃ」


 視線の先で、シルヴィさんが意味ありげな笑みを浮かべていた。


「そうそう。明日か明後日には、フェリさんも来ると思うよ」


「フェリクスさんが? 一体、何が始まるんだ」


「大事な話、って言ってた」


「俺も絡んでるんだろ……」


 嫌な予感しかしない。


 四人掛けのテーブルに移動すると、逃げ道のない配置でシルヴィさんの正面に座らされた。


「リュシー。遅かったじゃない。あの()と甘い時間でも過ごしてた?」


「違います。後始末ですよ」


「待ちきれなくて始めちゃったわ。この店、当たりね」


 隣には脱ぎ捨てられた防具がある。

 下着同然の格好で酒を飲む姿にも、もう驚かなくなってきた自分が怖い。


 そこへ、イザベルさんが大型ジョッキを豪快に置く。


「今日は貸し切りだよ! 景気がいいねぇ!」


 疲れを流し込むように、エールを口へ運ぶ。

 苦みと香りが喉を抜け、じわりと熱が広がった。


 ランクール産の大麦と奥地の清流で作られるこのエールは、遠方から訪ねてくる客も多い名物酒だ。樽ごと買っていく商人も珍しくない。


「それで、シルヴィさん。しばらくこの街に滞在するって?」


「シル(ねえ)。もう話しちゃったの? 内緒にしとこうって言ったじゃん」


 アンナは頬を膨らませ、果実酒の入ったグラスを傾ける。


「ごめんごめん。甘い物で許して」


「わ〜い」


「単純だな……」


「旦那、お久しぶりっス」


 割り込んできたのはエドモンだった。

 右手にジョッキ、左手に骨付き肉という、実に騒がしい姿だ。


「とりあえず座れ。圧がすごいんだよ」


 隣のテーブルから椅子を引き寄せ、半ば強引に座らせる。


「碧色の閃光、この街での評判は上々っスね。また一緒に冒険したいっスよ」


「一年の約束、そろそろだろ。それで集まったのか?」


「まぁまぁ、今日は飲むしかないっスよ」


 適当に流す辺り、やはり怪しい。


「そうよ、リュシー。再会の夜なんだから。今夜は寝かさないわよ」


「勘弁してください……色んな意味で怖い」


「うわぁ……シル姉が今夜も暴走しそう。でも、リュー(にい)がいるからいっか」


「おい、アンナ。何もよくねぇだろうが」


 酒が進み、笑い声が広がっていく。

 そんな中、不意にシルヴィさんの視線が静かに刺さった。


「ねえ、リュシー。この街に腰を据えるって話、どう思う?」


「まだ整理がついてません」


「でしょうね」


 微笑みを浮かべたまま、シルヴィさんは核心へ踏み込む。


「でも、あなたはもう戻れない所まで来てる」


 言葉が出ない。


「守るものができた人の目をしてる」


 その一言が、妙に重かった。


※ ※ ※


「飲み過ぎた……」


 夜風を求めて外へ出る。

 ベンチに腰を下ろし、星空を見上げた。


 満天の星。いつもと変わらないはずの夜景が、今日だけは遠く感じる。


「あいつら、大丈夫かな……」


 クレマンさんとイザベルさんは、もう休んでいるだろう。

 レオンは戻って来ないし、アンナとエドモンは間違いなく潰される。


「野宿にも慣れた連中だからな。床で眠れるだけでも充分か」


 セリーヌが目を覚ましたら、終末の担い手のことを伝えよう。

 あいつは死んだ。これで、ランクールが襲われることもない。


 星空に意識を向けていたら、首に柔らかなものが絡み付いてきた。


「ぐっ……」


 息が詰まり、慌てて腕を掴む。


「へぇ。星を見るなんて、情緒的な趣味があったのね」


 耳元で、くすりと笑う声がした。

 腕を引き剥がした瞬間、後頭部に押し付けられていた柔らかな感触が残った。


「シルヴィさん。外に出るなら服を着てください」


「いいじゃない。誰もいないし」


 吐息混じりの声が耳をくすぐる。


「全部、脱いじゃおうかしら?」


「自重してください。それと、後頭部に当たってる物をどけてください」


「なぁに? コレのこと?」


「揺するな。理性が崩壊するっての」


 立ち上がると、シルヴィさんは悪戯っぽく笑った。

 セリーヌにも匹敵するその胸は、やはり色々と危険すぎる。


「久しぶりに顔を見たら……うずいてきちゃった」


 入れ替わるようにベンチに座り、唇へ指を当てながら前屈みになる。

 無言のまま見つめてくる姿は、完全に男を殺しにきていた。


「相変わらずですね」


「リュシーが変わったのよ」


 急に、真剣な目になる。


「昔は、私だけを見てた」


 胸の奥がざわついた。


「あんなに激しく愛し合ったのに……」


「昔の話です」


「あの()の影響?」


 柔らかな笑みの奥に、探るような色が混じる。


「性格はまだわからないけど、顔も胸も、リュシー好みよね」


「外見だけで判断してるみたいじゃないですか」


 言い返しながら、記憶は自然と過去へ向かっていた。


 五人で過ごした日々。騒がしくて、面倒で、それでも充実していた時間。


「元気そうで安心したわ。この街、いいところね」


「はい。第二の故郷です」


「フェリクスが来たら忙しくなるわよ。こんな風に星を見上げる暇も、なくなるかもしれない」


「何をするつもりなんですか?」


「始まるのよ」


 静かな声だった。


「時代に大きなうねりを引き起こすような、革命が……」


「革命?」


「そう。ここからは私たちが時代を創る。壊して、塗り替えてでも」


 まっすぐ向けられた視線に、思わず息を呑む。


「あなたには、その一翼を担う存在になってもらうわ」


「時代を、創る?」


 脳裏に蘇るのは、あの日に聞いた竜の言葉だった。


『これは運命の悪戯か? あるいは、時代が汝を選んだか?』


 まるで見えない力が、俺の運命を揺り動かそうとしているかのようだ。

 (あらが)うことなど許されず、翻弄されるしかないのだろうか。


※ ※ ※


 一抹の不安を残したまま、新しい朝がやってきた。


 昨晩は結局、二階の空き部屋で雑魚寝になった。

 だが、妙な圧迫感と温もりに包まれ、目を覚ます。


「んがっ」


 視界いっぱいに広がる柔らかさ。

 シルヴィさんの胸に抱き寄せられ、谷間に顔を埋めていた。


「最悪だ……」


 いや、感触だけなら最高だが、色々とまずい。


「んんっ……はぁんっ……」


 顔を動かすと、艶めいた声を出された。

 被害者は俺のはずなのに、なぜか焦っているのも俺だ。


 脱出の最中、不意に右手の紋章が視界へ入る。

 薄いアザのようだった紋章は黒く濁り、右腕も浅黒く変色していた。


「冗談だろ……」


 嫌な予感が、確信へ変わる。

 問題は、まだ終わっていなかった。

QUEST.03 ムスティア大森林・洞窟編 <完>



<DATA>


< リュシアン=バティスト >

□年齢:24

□冒険者ランク:A

□称号:碧色の閃光

[装備]

竜骨魔剣

スリング・ショット

冒険者の服


挿絵(By みてみん)




< セリーヌ=オービニエ >

□年齢:23

□冒険者ランク:D

□称号:泥酔美女(仮)

[装備]

蒼の法衣

神竜衣プロテヴェリ


挿絵(By みてみん)




< ナルシス=アブラーム >

□年齢:20

□冒険者ランク:C

□称号:涼風の貴公子

[装備]

細身剣

華麗な服


挿絵(By みてみん)




< シルヴィ=メロー >

□年齢:25

□冒険者ランク:S

□称号:紅の戦姫

[装備]

斧槍・深血薔薇

深紅のビキニアーマー


挿絵(By みてみん)




< レオン=アルカン >

□年齢:24

□冒険者ランク:A

□称号:二物の神者

[装備]

ソードブレイカー

軽量鎧


挿絵(By みてみん)




< アンナ=ルーベル >

□年齢:22

□冒険者ランク:A

□称号:神眼の狩人

[装備]

双剣

魔導弓

軽量鎧


挿絵(By みてみん)




< エドモン=ジャカール >

□年齢:23

□冒険者ランク:S

□称号:真理の探求者

[装備]

魔導杖

朱の法衣



ラフスケッチ画:やぎめぐみ様

twitter:@hien_drawing

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― 新着の感想 ―
[一言] イラスト追加とのこと、改めて拝見しました。 ひえんさんのライトなタッチや色遣いが、スタイリッシュで素敵ですね。本編を拝読する際に、私の頭の中でも活躍してくれそうです。 GALLERYでの…
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