後編
あれから数日たった。
とりあえず剣を使えるようになったので、休憩がてら、城外に出させてもらった。
今日はロリコン同伴で城下町の市を見て回ることになっている。
まあ、見たことのない景色は、見ていて楽しい。
「サキちゃん、どこに行こうか」
「……どこでもいいよ」
ただ、市だからなのか、たくさん人がいる。
ぶっちゃけ何も見えない。
身長が縮んでしまったので、この人混みの中だと、足元か背の高い建物くらいしか見えない。
まあ、左手をレイラにがっちりと掴まれているので、迷子になる心配はないのだろうけど……。
なんというか……つまんないなぁ。
「サキちゃん?」
「……」
「サキちゃん怒ってる?」
「……別に」
怒ってはいませんが。
「な、なんか美味しいものでも食べよっか。ね?」
美味しいもの?
「……どんな?」
「そうだねぇ、あそこのお店に行こうか」
レイラの指差す方を見ると、コロッケのようなものを売っている店があった。
「ね、サキちゃん、行ってみる?」
***
「まあ、小さいのにえらいわねぇ。これ、オマケしておくわね」
わたしがコロッケのようなもの買うと、お店の人がオマケでもう一つくれた。
私を幼児だと思ってのことだろうけれど……。なんだか騙しているようで申し訳ない気持ちになるなぁ。……まあ、この見た目じゃあ16歳ですって言っても信じてくれないだろうけど。
「ありがとうございます」
お店のおばちゃんはニコニコして、
「またいつでもおいで」
と言ってくれた。
後ろで見ていたレイラに、オマケでもらった一個を渡す。
「ありがとう、サキちゃん」
そう言ってレイラは満面の笑みで私の頭をなでた。
二人でコロッケのようなものを食べて、そろそろ帰ろうか、と話していると。
「……お前が勇者か?」
「……へ?」
声の方を振り返ると、知らない青年がいた。
「どうしたの、サキちゃん? ……どちら様でしょうか」
レイラが青年にそう問うと、
「俺か? 俺は魔王だ」
魔王……って、あの?
「信じられないか? ほら、証拠だ」
そう言って青年は、全身から何か衝撃波のようなものを出した。
彼を中心として、風が巻き起こる。
その背中から、黒いコウモリのような翼が生え、瞳は茶色っぽい色から血のような赤い色に変わった。
てか、……吹き飛ばされそうなんだけど。
レイラが手を掴んでくれて助かった。
やがて、風はおさまった。
「わかったか」
「わ、わかりました」
……よくわかんないけど、すごいのはわかった。
「……て、手下を使って悪さをしているという、あの魔王があなたですか?」
「そうだ」
「そういうの、止めてほしいのですが……」
それで止めるような魔王はいないと思いますが。
「そうか、わかった」
「……え?」
「止めてほしいというなら止めよう」
えー。そんな、あっさり……?
「ただし、条件がある」
な、なるほど。そういうのか。
「そこの勇者のガキ。俺の女になれ。そうすれば手下には止めるように言っておこう。どうだ?」
魔王は顔を赤らめて、そう告げた。
……は?
何言ってんの、この魔王。
まさか……。
「一目惚れだったんだ。お前が近くにいるんなら、世界なんか別にいらねぇって思ったんだ」
こいつもロリコンか!
「あ、あの、そういうのは」
「断るというのなら、俺はこの町で暴れまわる」
「ええっ」
そんなの……ひどい。
「さあ、二人で魔王城で暮らそう」
……いや、まてよ。
勇者の役割って、これなんじゃないの?
魔王がロリコンだから、魔王が悪いことをしないように私はロリとして……ってそれ、もうただの生贄じゃん!
あー、もうヤダ!
身長縮むし、ロリコンいるし、生贄にされるし。
帰りたい!
……そういえば、『魔王を倒したら元の世界に返す』って王様言ってたよね。
……魔王の近くにいられたら、倒し放題なんじゃないの?
倒せたら帰れるわけだし、一石二鳥なんじゃない?
元の身体に戻るかは別として。
そうと決めたら……。
「……わかりました」
「サキちゃん……?」
「私は、あなたの、になります」
魔王は満面の笑みを浮かべて、
「本当か? 本当にいいのか?」
「はい」
「サキちゃんダメ!」
レイラは真っ青だった。。
まあ、ロリコンだもんね。身近なロリがいなくなったら嫌だもんね。
「帰ったらすぐに結婚式だな」
「アハハ……」
け、結婚……。私、恋もしたことないのに、いきなり結婚……。
「サキちゃん……」
「……じゃあね、レイラ」
「行っちゃヤダ!」
レイラは泣きそうな顔で、叫んだ。
「じゃあ行くぞ」
魔王は、ひょいと私を抱き上げ、背中の翼で、飛んだ。
レイラの姿が、だんだん遠ざかっていく。
「……い……、……」
何かを言っているが、もう聞き取れないや。
「約束通り、式の前にこっちにいる魔族をみんな魔界に強制送還に行くぞ」
魔王は屈託のない笑顔でそう言った。
「はは……」
…………………………
こうして、世界は一人の少女の犠牲によって平和になったのである。
その後、魔王との圧倒的な力差に絶望しかけたりとか。
なんだかんだで二人の間に愛が芽生えただとか。
私を取り戻すためにレイラが単身で魔界に攻めてきただとか。
二人のロリコンの間に深い絆が生まれたとか。
それはまた、別のはなしである。
「私は、あくまで勇者ですので、本能的に魔王であるあなたを殺しにかかるかもしれないので、ご了承くださいね」
「お前なりの愛情表現ってわけか。いいぜ、また返り討ちにしてやる」
「魔王様! 城内で暴れないでください!」
今日もそんな声が魔王城内に響き渡る。
これからもそんな平和な日々が続いていくのだ。