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よろしくお願いします
肌を重ね心が満たされる甘い幸せなまどろみのなかで、ルシアは目を覚ました。夫の腕の中は暖かい。素肌が触れ合う心地良さに胸に顔を擦り寄せてみた。
逞しい腕がルシアを抱き寄せた。
「おはよう、可愛い僕のルシア」
「おはよう、目が覚めてたの?」
「うん、君が胸に頬を擦り寄せてくるのが可愛くて目が覚めた」
「ごめんなさい。起こすつもりじゃなかったの」
「こういうのも良いね。もう少しこのままでいようか」
まだ夜明けには早い。私はもう一度目を閉じた。
♢♢♢
私がウィルヘルム様と出会ったのは5才の時だった。
領地が隣同士だった父親の訪問に連れて行かれたのが最初だった。
その頃家には3才と1才の妹がいて育児で手が回らなかった母親が無理やり父親に私を押し付けた。
父親は気まぐれに可愛がってくれる人だったので多分その時は機嫌が良かったのだろう。そのお陰で私はウィルヘルム様と出会えた。
その頃我が侯爵家は貧乏だった。隣のバーモント公爵家に顔を繋いでおこうとしていたらしい。
相手には何の旨味もないものだったので形式的だったが、幼い貴族令嬢の私の為にと次男のウィルヘルム様が遊び相手になってくれた。
3才上のウィルヘルム様は金髪碧眼の整った顔立ちの大層キラキラした男の子だったが、思わずしり込みしそうになった私に手を差し伸べてくれる優しい人だった。
一緒にお菓子を食べたりお庭を案内してくれる内に私はすっかり懐いた。
♢♢♢
妹たちを可愛がるのに両親は私には関心がなかった。出かける時も私だけお留守番。新しい洋服も妹たちの物だけ。一応声をかけてくれるが上辺だけ。
一緒に食事をしても会話には入れない。
恥ずかしくない程度の教育は受けさせて貰えた。
私が不細工だからとか祖父母に似ているからとかの明確な理由はない。
大きな紫色の瞳に銀色の髪。父親に似たお母様が産んだ実子だ。
幼心を納得させるものは何もなかった。
何故なのか聞きたくても怖くて聞けない。
「お前はいらない子だ」と言われたら終わりだと思った。
大人しくて聞き分けのよい子でいれば可愛がってもらえるのだろうと思いそうした。
進んで勉強もした。1人で出来る計算が得意だった。退屈しないように本を読むのが好きになった。
刺繍が上手になっても褒めてくれるのは使用人だけだ。
何年経っても関心は向けられなかった。あれから父親の気まぐれもない。
妹たちからも「お姉様」と呼ばれることもなかった。呼ばれるとすれば
「ルシアさん」だ。
一体どんな教育をしたらそうなるのかと思ったがもはやどうでも良くなった。
排除はされない。でも家族かと言われればそうではない。
それがどうしようもなく寂しくて孤独だった。
凍てついた心は「寂しい、寂しい」と叫んでいたが言葉には出来なかった。
そんな私に手を差し伸べてくれたのがウィルヘルム様だった。
彼は公爵令息なので両親も使用人達は反対はしない。
私を庭や野原に連れ出してくれ、可愛い花束や美味しい焼き菓子やキャンディをくれた。「誰にも内緒だよ」と言って。
私だけの秘密が増えるたび心がほっこりした。氷りかけていた心が溶かされるようだった。
公爵家の図書館で勉強を教えて貰った。側に誰かの温もりがあるのが嬉しい。
私はウィルヘルム様を好きになった。でも執着すると引かれると思い態度には出さないようにした。
もう家族はいらない。彼さえいればいいと思くらいに好きになっていた。
そんなある日、連れて行ってもらった街が見下ろせる白い協会でウィルさまに突然プロポーズをされた。彼が17才私が学院に行く前の14才の夏だった。
「ルシア、君が好きだ。結婚しよう」
跪いた彼は絵本の王子様みたいだった。
胸が一杯になった。私を好きだと言ってくれる人がここにいた。
胸が詰まり涙がせり上がってきたが泣くのは違うと思った。
嬉しさでじわじわと真っ赤になり「よろしくお願いします」と言うのが精一杯だった。
公爵家からの申し出を受けないわけはない。邪魔者が消えるのだ。
話はとんとん拍子に進んだ。
婚約は纏まり私はウィルヘルム公爵令息様の婚約者になった。
住む場所も花嫁修行の為に公爵家に移された。漸く息が楽に出来る。
永遠に動かないと思った時間が進み始めた。
結婚したら公爵家の持っている爵位の子爵家を賜ることになった。
学院にはミアという公爵家の侍女が一緒に来てくれることになった。
ミアは口撃でも物理でも戦えた。
終われば公爵家に帰り淑女としてのマナーやダンス、外国語を教えられた。
侯爵家でも教育は受けていたが足りなかった。忙しいがウィル様に会えるのだ。ご褒美をぶら下げられたら頑張るしかない。
寂しいと感じることが無くなった。
「これで漸く可哀想で可愛いルシアに近づく虫が防げる」
とウィルヘルムが言うのを聞いていたのは何ともいえない顔をした側近のブランだけだった。
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