第5話 終末核
黒い魔法陣が、
王都の空を覆っていた。
巨大。
あまりにも巨大だった。
複雑な紋様が幾重にも重なり、
まるで世界そのものを刻み替えるように回転している。
「なんだよ……あれ……」
「魔法陣……?」
「いや、違う……!」
人々が恐怖に震える。
空から降る黒い霧。
崩れ落ちる建物。
裂けた空間。
その中心に立っているのは——。
セレスだった。
「がっ……ぁ……!」
全身が軋む。
胸から浮かび上がった黒い紋様が、
脈打つたびに広がっていく。
ドクン。
鼓動に合わせて、
空気が震えた。
石畳が浮かび上がる。
周囲の魔力が強制的に吸い込まれていく。
「セレス!!」
リリアが駆け寄る。
「意識を手放しちゃ駄目!!」
「……ぐ、ぅ……!」
頭の中に、
無数の声が流れ込んでくる。
『終末核、第二封印解除』
『観測番号13、再同期開始』
『器の覚醒を確認』
知らない言葉。
知らない記憶。
だが、
身体は理解していた。
“これは自分の中にあったもの”だと。
「……終末、核……?」
セレスが掠れた声を漏らす。
リリアは苦しそうに唇を噛んだ。
「あなたの中に封印されてる力」
「俺の……中?」
「この世界を壊すための“鍵”」
その瞬間。
ズン——!!
黒い腕が再び振り下ろされた。
王都中央区画が吹き飛ぶ。
炎。
悲鳴。
崩壊。
「いやぁぁぁぁ!!」
逃げ惑う人々。
騎士たちは必死に避難誘導をしている。
だが、
圧倒的に間に合わない。
「……っ」
セレスは歯を食いしばる。
助けたところで、
また死ぬかもしれない。
運命は変わらないかもしれない。
482回、
それを嫌というほど知った。
それでも。
視界の端に、
泣き叫ぶ子供が映る。
瓦礫の中。
母親を揺さぶっている。
「おかあさん……!」
セレスは目を閉じた。
——感情を持つな。
何度もそう決めた。
だが。
「……チッ」
舌打ちと同時に、
セレスは地面を蹴っていた。
「セレス!?」
黒い魔力が噴き出す。
瞬間。
ドォン!!
セレスの身体が、
常識外れの速度で加速した。
一瞬で瓦礫の前へ到達。
「下がれ」
片手を振る。
黒い魔法陣が展開され、
崩れ落ちる瓦礫を吹き飛ばした。
「す、すご……」
子供が呆然と呟く。
だが。
セレス自身も驚いていた。
「今の魔法……」
詠唱していない。
構築もしていない。
なのに発動した。
まるで——。
“世界が勝手に従った”ように。
その時。
空の裂け目の奥から、
低い笑い声が響いた。
『見つけた』
ビリビリと空間が震える。
巨大な瞳。
それが、
明確にセレスを見ていた。
『終末核』
声が響く。
『我らの王よ』
瞬間。
セレスの脳裏に、
大量の記憶が流れ込む。
黒い軍勢。
崩壊する世界。
跪く怪物たち。
そして。
世界を見下ろす、
“黒い王”。
その玉座に座っていたのは——。
セレス自身だった。
「……ッ!!」
膝をつく。
頭が割れそうに痛い。
「セレス!!」
リリアが支える。
セレスは震える声で呟いた。
「俺は……何なんだ……」
すると。
リリアは悲しそうに目を伏せた。
「あなたは昔、“向こう側”の王だった」
世界が静まる。
「……は?」
セレスの思考が止まる。
だが、
リリアは続けた。
「でもあなたは、自分で自分を殺したの」
「……意味がわからない」
「世界を終わらせないために」
リリアの青い瞳が揺れる。
「あなたは記憶を消して、“人間として”やり直した」
セレスは言葉を失った。
482回の死。
死界輪廻。
終末核。
全てが、
一つの答えへ繋がっていく。
そして——。
空の裂け目の奥で、
巨大な存在がゆっくり笑った。
『ならば取り戻そう』
黒い腕が、
再び王都へ伸びる。
『我らの王を』




