第6章 エレナの再来と、三人目の仲間
森の奥にある小さなキャンプは、すっかり賑やかになっていた。
零華は大きな木の幹に背を預け、ノートに熱心にペンを走らせている。厚い眼鏡のレンズが木漏れ日を反射してキラキラ光っていた。
プルルは零華の膝の上に座り、青い触角耳をプルプルさせながら零華の白衣の袖をぎゅっと掴んでいる。
シルヴァは零華の右側に寄り添い、銀色の狼尻尾を零華の腰に軽く巻きつけて離さない。
「零華様……今日も耳、撫でてくれる?」
「零華様、私の尻尾も……ちゃんと触ってくださいね」
零華は苦笑しながら、右手でプルルの触角耳を、左手でシルヴァの狼耳を同時に優しく撫でた。
「ふふ、二人とも甘えん坊ね。これは『零華専用獣人枠』の観察記録に追加よ。そろそろ三人目が欲しくなってきたわ……研究の効率も上がるし」
その時、森の入り口の方から元気な声が響いた。
「零華さーん! 約束通り、また来たわよ!」
赤いポニーテールのエレナが、軽やかな足取りで現れた。今日は一人で来ている。後ろには荷物が少し多く、まるで長期滞在を予感させる装備だった。
プルルが零華の胸に顔を埋めながら、小声で言った。
「零華様……あの赤いお姉さん、また来てる……耳、触られたいの?」
シルヴァも耳をピクッと立てて警戒しつつ、尻尾を零華の腰に強く巻きつけた。
「零華様の許可がないと……近づかせません」
零華は眼鏡をクイッと押し上げ、穏やかに微笑んだ。
「大丈夫よ、エレナさん。今日はゆっくり話しましょう。あなたのような女性冒険者が興味を持ってくれるのは、とても嬉しいわ」
エレナはキャンプに近づくと、すぐにプルルとシルヴァを見て目を輝かせた。
「わあ……やっぱり可愛い……! 前回触った耳、まだ忘れられないのよね……」
零華は立ち上がり、エレナに軽く手を差し出した。
「実を言うと、私の周りには『それぞれの人間に3人の獣人娘が懐く』という傾向が出てきているの。プルルとシルヴァはもう私の枠に入っているから……そろそろ三人目を探しているところよ」
エレナの目が一瞬で輝いた。
「えっ……それって、私にも……3人、懐いてくれる可能性があるってこと?」
「理論上はね。女性同士なら、相性が良ければ自然と懐いてくれるはずよ。試してみる?」
エレナは頰を赤くしながら、何度も頷いた。
「やる! 絶対やる! 私、冒険者なのに……こんな可愛い子たちに懐かれたら、もう仕事にならないかも……」
零華は笑いながら、森の少し奥を指差した。
「ちょうど良いタイミングよ。昨日、近くで弱ったモンスターの気配を感じたの。一緒に探してみましょうか」
四人で森を少し進むと、木陰に隠れるようにして中型の狐型モンスターがいた。体は疲れ果て、動きが鈍くなっている。
零華はいつものように魔導棒で丁寧に弱らせ、特殊粘液を慎重にかけた。
淡いピンク色の光が爆発し、狐の体が徐々に変化していく。
現れたのは、明るいオレンジ色の髪をした狐獣人娘だった。頭に大きな狐耳、腰にふわふわの狐尻尾が二本。年齢は見た目17歳くらいで、いたずらっぽい笑顔が印象的。
狐娘は目をぱちくりさせて、周りを見回した。
「ここ……どこ? あ……女性の匂いがいっぱい……」
零華が優しく手を差し伸べた。
「私は霧島零華。君の名前は……キツネ……じゃなくて、ミアでどうかしら?」
ミアは零華の手を取ると、すぐに頰をすり寄せてきた。
「零華様……? いい匂い……安心する……」
しかし、すぐにエレナの存在に気づき、狐耳をピクピクさせた。
「その赤いお姉さん……零華様に似てる……でも、まだちょっと怖いかも……」
エレナは興奮を抑えきれず、膝をついてミアの目線に合わせた。
「ねえ、ミアちゃん……耳、触ってもいい?」
ミアは零華の顔をチラッと見てから、恐る恐る頷いた。
エレナの指がミアの狐耳に触れた瞬間、ミアが小さく声を上げた。
「はうっ……! 優しい……零華様みたい……」
エレナの顔が一瞬で溶けた。
「きゃあ……この耳、ふわふわで……尻尾も二本! 可愛すぎる……!」
ミアの二本の尻尾が嬉しそうに左右に振り、エレナの腕に軽く絡みつく。
零華はノートを広げ、嬉しそうに記録を取った。
「ほら、エレナさん。ミアはあなたにかなり好印象みたいね。これでエレナさんの『懐き枠』に一人目が入ったわ。残り二人、頑張りましょう」
プルルが零華の腕に抱きつきながら、楽しそうに言った。
「エレナお姉さん、ミアちゃんにメロメロだよ……プルルも、ちょっと妬けちゃう……」
シルヴァが低く笑いながら、零華の肩に頭を預けた。
「零華様……私たちは零華様専用三人枠を目指すんですね。楽しみです」
エレナはミアの耳を撫でながら、完全に夢中になっていた。
「零華さん……これ、ヤバいわ。私、もうこの子たちから離れたくない……冒険者辞めて、ここに住んでもいい?」
零華は眼鏡の奥で目を細め、コミカルに肩をすくめた。
「まだ一人目よ、エレナさん。残り二人懐いたら、本格的に『エレナ専用パーティー』を組んでもいいわ。ただし、私の研究に協力してくれるという条件でね」
その日の夕方、キャンプに戻った五人は焚き火を囲んで座っていた。
プルルとシルヴァは零華の両側にぴったり寄り添い、ミアはエレナの膝の上に座って狐耳を撫でてもらっている。
零華はノートに新しい一行を書き加えた。
『人間一人につき獣人娘3人という傾向が確認されつつある。
女性同士の相性次第で懐きやすさが劇的に変化。
エレナの場合:ミアの懐き度すでに65%。残り二人でエレナ専用枠完成の見込み』
エレナがミアの頭を撫でながら、照れ笑いを浮かべた。
「零華さん……私、完全に落ちたわ。この子たち、可愛すぎて……研究の手伝い、頑張るから!」
ミアがエレナの胸に顔を埋めながら、甘えた声で言った。
「エレナお姉さん……優しい……でも、零華様の次に好きかも……」
プルルとシルヴァが同時に零華に抱きついてきた。
「零華様は私たちのものだよ!」
「零華様専用……三人目指します」
零華は眼鏡をクイッと直し、幸せそうに微笑んだ。
「ふふ、みんな可愛いわね。これから女性の仲間が増えれば……それぞれ3人ずつ獣人娘が懐く集団になるかも。とても興味深い展開よ」
夜の森に、女性たちの笑い声と甘い声が響いていた。
零華を中心とした、ちょっとコミカルで優しい研究生活は、ますます賑やかになっていきそうだった。
(第6章 終わり)




