第22章 白狐の山、再び
王都から北へ二日。
白狐の山の麓に、零華たち女性だけの小隊が再び到着した。
今回は規模を小さくし、零華、王女アリアナ、ルビア、エレナ、シスタークレア、そしてそれぞれの主な獣人娘たちだけが同行していた。
山道を登りながら、零華は眼鏡を押し上げ、静かに言った。
「魔王リアナはここで待っているはずです。争う気はない……と手紙にありました。まずは話しましょう」
王女アリアナはルビアの翼を軽く撫でながら、穏やかな声で頷いた。
「ええ。彼女も女性として、孤独を抱えているのかもしれませんわ。私たちで、優しく迎えましょう」
エレナはミアの狐耳を軽く触りながら、緊張を隠せない様子だった。
「話が通じればいいけど……魔王軍の獣人娘たちがどれだけ強いか、わからないからね」
シスタークレアはミルクを抱きしめ、聖書を胸に当てていた。
「神の導き……きっと、優しい心をお持ちのはずですわ……」
山頂近くの古い祠の前で、彼女は待っていた。
黒いドレスに銀の装飾を施した、気品ある女性。長い黒髪に、背中に小さな黒い翼の残滓のような飾り。瞳は深紅で、どこか寂しげな美しさを持っていた。
魔王リアナ。
彼女の周囲には、数人の獣人娘たちが静かに控えていた。すべて女性で、強そうな気配を放っている。
リアナは一行を見つけ、静かに口を開いた。
「霧島零華……そして王女アリアナ。来てくださってありがとうございます」
零華は眼鏡をクイッと直し、落ち着いた声で答えた。
「魔王リアナ殿。お手紙、拝見しました。私たちは争うつもりはありません。まずは話しましょう」
リアナの深紅の瞳がわずかに揺れた。
「私は……元はドラゴン系のモンスターでした。遥か昔、人間に傷つけられ、瀕死の状態で一人の人間の女性に介抱されました。その優しさに触れた瞬間、私は自然に獣人化し……そして魔王となったのです」
彼女の声は低く、どこか切ない響きがあった。
「以来、私は人間の女性に強い憧れを抱いています。しかし、魔王という立場上、それを口にすることは許されず……ただ孤独に、配下の獣人娘たちと共に生きてきました」
王女アリアナが一歩前に出た。
「リアナ様……あなたも、同じ道を歩んだのですね。零華の理論は、多くのモンスターを優しい獣人娘に変えました。あなたも……その一人なのですわ」
リアナの視線が零華に向いた。
「貴女の粘液が……私の進化と同じ道を開いたと聞き、興味を持ちました。争う前に……貴女の理論を、もっと詳しく聞きたいのです」
零華はノートを片手に、静かに微笑んだ。
「ええ。お話ししましょう。私たちは、モンスターを殺すのではなく、愛でて仲間にする道を選びました。女性にしか懐かない刷り込み……それが鍵です」
リアナの配下の獣人娘たちが、興味深そうに耳を傾けていた。
エレナが少し緊張を解きながら言った。
「魔王さんも……意外と穏やかね。話が通じそうでよかった」
シスタークレアはミルクを抱きしめながら、小さく頷いた。
「神の……導きですわ……皆が優しく繋がれる世界……それが理想なのですね」
リアナはゆっくりと零華に近づき、深紅の瞳でまっすぐに見つめた。
「零華……貴女の理論は、私の孤独を少しだけ和らげてくれそうです。もしよければ……王都で、もう少し詳しく話を聞かせてくれませんか?」
零華は眼鏡の奥で目を細め、静かに答えた。
「もちろんです。リアナ殿。私たちは争うのではなく、理解し合う道を選びましょう」
その夜、山頂の祠近くで簡単なキャンプを張った。
焚き火の炎が揺れる中、零華とリアナは向かい合って座っていた。
リアナの吐息が少し熱を帯び、静かに言った。
「私は……人間の女性に憧れながら、ずっと一人で強がっていました。貴女の理論を知り……初めて、心が軽くなった気がします」
零華はノートを閉じ、穏やかな声で答えた。
「リアナ……あなたも、私たちと同じ女性です。獣人娘たちと共に、甘く優しい日常を過ごすことも、きっと可能ですよ」
王女アリアナはルビアの翼に寄りかかり、静かに微笑んでいた。
エレナとシスタークレアも、獣人娘たちと寄り添いながら、穏やかな夜を過ごしていた。
零華は焚き火を見つめながら、心の中で思った。
(これが……私の理論の、次の段階……)
白狐の山の夜風が、女性たちと獣人娘たちの間を優しく通り抜けた。
魔王リアナとの出会いは、静かに、しかし確実に、新しい時代の扉を開こうとしていた。
(第22章 終わり)




