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「眼鏡の変人研究者がモンスターを獣人娘に変えて愛でます ~弱らせて粘液で契約~」  作者: 新米オッさん兵士


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第1章 追放と、最初の粘液

王宮魔物対策研究機関・第3実験棟。

白い壁に囲まれた部屋は、いつものように薬品と魔力の匂いが充満していた。

「霧島零華! お前はもう、この機関に必要ない!」

上司である老研究員の怒声が響いた。

零華は厚い眼鏡をクイッと押し上げ、静かに白衣の袖を直した。黒髪はいつものように適当に後ろでまとめ、ポケットには様々な試験管と小瓶がぎっしり詰まっている。

「必要ない、ですか。ふふ、面白い表現ですね」

「ふざけるな! お前は機関の目的を完全に逸脱した! 我々はモンスターを効率よく討伐するための研究をしているんだぞ! それを……モンスターを『獣人化』などという、危険で冒涜的な実験に使うとは!」

零華はテーブルの上に並んだデータシートを優しく撫でた。

そこには、彼女が半年かけて集めた記録がびっしり書かれている。

『モンスター弱体化後、特殊粘液(試作第17号)塗布 → 形態変化確認。

 変化体はすべて女性型人型(獣人)。言語獲得。知能上昇。

 愛情表現(頭部撫で、名前呼びかけ)により忠誠度急上昇』

「データはすべてここにあります。弱らせるだけで殺すより、ずっと効率が良いんですよ。獣人化した子たちは言葉を話し、こちらの指示を理解し、共生可能です。長期的に見れば人類の生存率は——」

「黙れ!」

上司が机を叩いた。

「そんな危険思想を王宮に持ち込むつもりか! モンスターを人間化するなど、教会からも軍からも許されん! お前は本日をもって追放だ。研究資料も機材も、すべて没収する!」

零華は小さくため息をついた。

眼鏡の奥で、瞳がわずかに細められる。

「……そうですか。わかりました」

彼女は白衣のポケットから、一番大事な小瓶だけをそっと取り出した。試作第17号の特殊粘液——彼女が最も完成度が高いと確信しているものだ。

「では、失礼します。私の研究は、ここからが本番ですから」

零華は静かに実験棟を後にした。

王都の外れにある小さな宿で一夜を過ごし、翌朝にはすでに王都を離れていた。

手元にあるのは、追放時に隠し持った特殊粘液の小瓶3本と、簡易の魔力測定器だけ。金もほとんどない。

それでも、零華の表情は明るかった。

「やっと……自由に研究できるわ」

三日後。

王都から北東へ離れた、深い森の奥。

零華は木の根元に腰を下ろし、目の前の小さなモンスターを観察していた。

青みがかった半透明の体をした、スライム型のモンスター。サイズは大型犬ほど。攻撃性は低いが、粘液を飛ばして獲物を捕らえる習性がある。

「ふふ、君もなかなか可愛いわね。でも今日は、君を私の最初の被験体にさせてもらうわ」

零華は立ち上がり、杖代わりの短い魔導棒を構えた。

「さあ、始めましょうか。効率よく弱らせる練習よ」

戦闘は短かった。

零華は討伐研究時代に培った知識を活かし、スライムの動きを的確に読み、魔力弾で体を少しずつ削っていく。致命傷は与えず、ただ「弱らせる」ことに徹した。

スライムの動きが明らかに鈍くなった頃、零華はポケットから小瓶を取り出した。

「試作第17号……どうか上手く行ってね」

彼女は弱ったスライムに近づき、慎重に粘液をかけ始めた。

瞬間——

スライムの体が淡いピンク色の光に包まれた。

「うわ……綺麗……」

零華の眼鏡が光を反射してキラキラと輝く。

光の中で、スライムの体がどんどん形を変えていく。

半透明の体が柔らかい肌に変わり、細い手足が生え、長い髪が流れ落ちる。頭にはふわふわとした青い触角のような耳が二つ。尻尾はまだスライムらしいプルプルしたものが一本残っている。

やがて、光が収まった。

そこにいたのは、16歳くらいに見える少女だった。

青みがかった長い髪、大きな瞳、柔らかそうな体に薄い布のようなものがまとわりついている。頭の触角耳がピクピクと動いている。

少女はゆっくりと目を開け、零華を見上げた。

「……ここ、どこ……?」

声が出た。

零華は思わず息を飲んだ。

成功した。

彼女は慌てて眼鏡を押し上げ、興奮を抑えながら近づいた。

「大丈夫? 痛くない? 私は霧島零華。君に名前を付けてあげるわ……そうだな、プルルでどうかしら?」

少女——プルルは、首を傾げた。

「プルル……? 私、プルル……?」

「そうよ。かわいい名前でしょ?」

零華はそっと手を伸ばし、プルルの頭を優しく撫でた。

指先が柔らかい髪と、ぷにぷにした触角耳に触れる。

プルルがびくっと体を震わせた。

「ん……零華様……? あ、頭……気持ちいい……」

声が甘く掠れる。

零華の頰が、わずかに赤くなった。

「こ、これは……データ収集よ。契約を安定させるための愛情表現。耳も少し触ってみるわね……」

彼女はもう片方の手で、プルルの触角耳を優しく指で挟んでみた。

プルルが小さく声を上げた。

「はう……零華様、そこ……変な感じ……でも、嫌じゃない……もっと……?」

プルルが自然と零華の胸に寄りかかってくる。

柔らかい体が密着し、甘い、ほのかにフルーツのような匂いがした。

零華は眼鏡の奥で目を細め、必死に冷静を装った。

「ふふ……反応がとても良いわ。忠誠度も上がりやすいみたいね。これは……予想以上に有望なデータ……」

内心では、胸の鼓動が少し速くなっていることに気づいていた。

プルルは零華の白衣をぎゅっと掴み、顔を埋めるようにして囁いた。

「零華様……私、零華様のそばにいたい……ずっと……」

「ええ、そうね。これから一緒に研究しましょう。私の理論を、証明するために」

零華はプルルの背中を優しく撫でながら、小さく微笑んだ。

その時、森の奥から複数の足音と金属の音が聞こえてきた。

「ここら辺に魔物の反応があったはずだ! 見つけたら即刻討伐しろ!」

冒険者パーティー——おそらく王都から派遣された討伐隊だろう。

零華は眼鏡をクイッと直し、プルルに微笑みかけた。

「プルル、ちょっと試験をしてみない?」

「試験……?」

「ええ。人間の討伐隊を、倒さずに追い返す方法。私の理論を実証する、最初の『ざまぁ』実験よ」

プルルは目を輝かせて頷いた。

「零華様のためなら……がんばる!」

零華は静かに立ち上がり、白衣の裾を翻した。

「さあ、行きましょうか。私の可愛い被験体……じゃなくて、パートナー」

眼鏡の奥で、研究者の瞳が楽しげに光った。

追放されて三日目。

霧島零華の、獣人娘との研究生活が始まった。

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