最終話「魔法カフェ『コルボ』へようこそ!」
商店街を歩いていると、何故か壁に穴が空いた喫茶店を見つけた。「魔法カフェ コルボ」。少し気になって入ってみることにした。
「いらっしゃいませー」
出迎えてくれたのは、茶色のシンプルなカフェエプロンに身を包んだ女性店員さん。大学生くらいだろうか。よく見るとタイやワンポイントのラインなどが可愛らしさも出していてよく似合っている。
築そんなに経っているわけではなさそうだが、カーテンは焦げているし天井にも穴は空いているしで、店のあちこちはボロボロになっている。いったい何があったのだろうか。
「おいゴラァ! 唐揚げにはレモンだろうがぁ!」
「耳元でやかましい奴らじゃのう。唐揚げくらい好きに食わせろ」
奥を見るとヤクザが他の客に絡んでいた。入る店を間違えたのかもしれない。店を出るなら今のうちだが……ここまで来てやっぱやめたというのも少し忍びなくて言い出し辛い。
「カリン氏ー。今日はこの詠唱を唱えて欲しいでござる」
「ぜひ、こちらの衣装も着ていただいてですね!」
「絶対嫌よ!」
他の席では赤い髪の店員の子が、オタクの男女二人に絡まれている。てっきり反社会的勢力の溜まり場かとおもったが、なかなか懐の広い店なのかもしれない。
よーく見渡せば老若男女いろんなお客さんが思い思いに過ごしている。落ち着いて作業ができる空間……とはお世辞にも言い難いが、こういう店の存在は心温まる。
紫髪の店員さんにとりあえずオレンジジュースを注文し、おしぼりで手を拭いて一息つく。メニューをみると中々フードも充実していて、ちょっとしたレストランのようだ。待ち合わせの時間まではまだ余裕があるし、少し食べていくことにしよう。通りかかった水色の髪の店員さんを呼び止め、チーズフォンデュと唐揚げ50個入りを注文する。
待っている間、何の気なしに厨房の方を見てみる。緑髪のシェフが、手際よく注文を捌いていた。なるほど。このフードメニューの充実は、彼女の自信の表れなのかもしれない。
そんなことを考えながらぼーっと過ごしていると、店員さんが氷だけの入ったグラスを持ってきた。どういうことかと聞き返す間もなく、奥の方からはオレンジ色の泡のような球体がゆらゆら近づいてくる。球体は彼女の手元までたどり着くと、三角・四角・星など様々に姿を変えたのち、グラスの中へと吸い込まれるように収まっていった。なるほど。これが魔法カフェたる由縁か。
グラスに収まったジュースを飲んでいると、また違う店員さんがチーズフォンデュを運んできた。確かさっきオタクたちに絡まれていた子だ。彼女は皿をセッティングし終えると、固形燃料めがけて狙いを定めるかのように指を差す。すると、彼女の指先からは小さな矢のような火が放たれ、見事燃料に着火した。なるほど。やることは至ってシンプルだけれども、火が飛んでくる様は一種の爽快感とスリルを感じさせてくれる。
ぐつぐつと煮立ったチーズにブロッコリーを浸して食べていると、またまた違う店員さんが唐揚げの山を運んでくる。50個も積み上がった唐揚げの姿は中々圧巻だが、果たして食べきれるのだろうか? そんなことを考えているうちに、眼前に青紫の球が展開され視界を塞がれる。何が起こっているか分からぬうちに、飛散した液体が両目へと襲いかかってきた。これは……レモン果汁だろうか? 酸性の液体が染みて、目も開けられなくなった。しばらく席上で悶え苦しんだのち、ようやく目が開けられるまでに回復すると、そこには滴るレモン果汁ですっかりウェッティになった唐揚げの山だけが残っていた。
***
「ありがとうございましたー」
オレンジジュースの店員さんに見送られ、店を出る。苦しい……。唐揚げの物量と脂で今にも胃がはち切れそうだ……。それはさておき、とても楽しいお店だった。また近いうちに来よう。
おっと、このままでは彼女との待ち合わせに遅れそうだ。急いで向かわなくては。せっかく人気の遊園地「無事ゲーアイランド」のチケットが取れたんだ。早くしないと怒られてしまう。
***
「魔法カフェ コルボ」。そこはちょっとした非日常に触れられるカフェ。私たちはいつでも、あなた方のご来店をお待ちしております。
あ、彼が絶叫マシンでリバースして彼女に振られた件については、当店は一切の責任を負いません。あしからず。
ここまでのご愛読、誠にありがとうございました。別連載に本腰を入れるため、今回最終話を書かせていただきました。正直ダラダラ続けようと思えばいくらでも続けられるタイプの作品ではあるのですが、一つのけじめとして。
とはいえ、全く終わりにすると言うわけではありません。私自身彼女たちの日常を描くのが大好きなので、また不定期にいろいろな話を書くと思います。その時はまたふらっと覗きにきていただけると幸いです。




