ベッカリ・トクテーロ
くまどうわを知った町の娘は
黒くまのことを調べていくうちに出会ったジャーナリストから
1冊の古い本を託されました
30年以上は昔に手書きで書かれたこの本は
冒頭の内タイトルや目次を含め数ページが破かれていました
読むことができるページにかかれたお話をつづります…
白くま黒くまたちの住む
南の島の 港町
町のはずれに「おいしい」と評判の
パン屋がある
かつてプロイセンから移住してきたパン職人が
100年前にこの島で店をひらき
その職人の孫にあたる
3代目店主のトクテーロ氏から
パン作りを習ったパン職人が
20年前に独立して小さなパン屋がうまれた
それが
「ベッカリ・トクテーロ」
本家のトクテーロ家のパン屋は
巨大なパンメーカーに成長し
今では町のコンビニでも食べることができる
しかし、低コスト、合理化による
かつて町の小さなパン屋でつくっていた頃の
トクテーロのパンを愛してた人々は
すっかり変ってしまった風味、食感、味わいに
正直ため息をついたのだった
今では唯一のれんわけを許された店
「ベッカリ・トクテーロ」が
当時の味わいある手作りのパンを今でもつくり
伝えていた
毎日はるばる遠方から
トクテーロのパンを買いに
多くのお客さんがやってくる
小さく質素なパン工房は
大変な人気とはうらはらに
実に質素で小ぢんまりとした佇たたずまい
かつて3代目トクテーロ氏のもとで
毎日必死にパン作りを習った
パン職人”オルフェン”が店主をしており
当時の若きオルフェン同様今ではその弟子たちが
パン工房で一生懸命修行しながら働いている
その一人に
栗毛のくま”ゲオルク”がいた
くまは毎朝一生懸命パン作りに精をだした
手や身体には 無数に火傷のあともある
パン作りは 力仕事でもある
力を惜しんでは おいしいパンはできない
毎日毎日 来る日も来る日も
パン生地との格闘だ
夜が明ける前から お店用のパン作りをし、
材料がなくなるまで パンを作りつづける
人気の店だから お客さんが
とだえることなく来てくれて
その日の材料は昼過ぎには無くなってしまい
売り場のパンはあらかた無くなってしまう
くまは その後、店と工房の掃除をする
そして夕方から
自分のパン作りの修行をはじめる
もうそんな生活を5年もつづけていた
くまにも 楽しみがあった
いつも 材料がなくなって
最後のパンが売れそうになる頃に
きまって 「白いパン」を買いにくる少女がいた
毎日買いに来てくれるけれど
3日に2日は売り切れで買えず帰ってしまう少女
くまは 自分の修行用の材料をつかって
こっそりその少女にパンをプレゼントするようになった
師匠にみつかったら 叱られてしまう
「おまえは まだまだ一人前ではない
人様の口に入れてもらえるような
パンをつくれるようになるには
おまえの力量では あと10年はかかる」
半人前にも足りていないものが
偉そうにパンを買ってもらっては駄目なのだ
だから くまは 「プレゼント」していた
それでも、未熟者の分際なので
「こっそりと」 あげていた
そんな少女からある日くま宛に店に手紙が届いた
「くまさんのパン
とってもおいしいです
でもこれからは忙しくて
お店に伺えなくなりました
けれどくまさんのパン食べたいです」
と書かれていた
少女は自分のパンを食べて喜んでくれた...
それが くまにとって何より励みになった
だから 少女の手紙の住所に
作ったパンを毎週送ってあげた
それくらいは 何の負担でもなかった
少女からはお礼の手紙が届いた
くまも 簡単だが 返事を書いた
半年たった クリスマス前日
くまは珍しく風邪を引いて
店主から休むように言われ
自宅に帰って部屋のTVをつけてみた
「そういえば
TVつけるのなんて 何年ぶりかな」
くまは 自分がこれまで
来る日も来る日も
パン作りにだけ没頭していたことに
あらためて気がついた
するとTVの中に見覚えのある少女が出ていた
そうあのパンを買いにきていた少女だ
少女は売出中のアイドルだった
ここ半年で人気に火がつき大忙し
くまにも 見せた あの笑顔を
TVの向こうでも 振る舞っていた
くまは 彼女から 届いた数通の手紙を開いてみた
すると 文章の最後にきまって
「これからも頑張ります♪」
と書かれていた
くまは これまで気にも留めなかった1行だったが
TVの彼女を見て知ってようやく分かった気がした
「彼女は私を
1ファンとして見ていたんだな」
くまは彼女に特別な感情を
抱きはじめていたのだろうか
全く無いといえばウソになるだろう
しかし彼女にとってくまは
沢山いるファンの中の一人にすぎず
「熱心に毎週パンを送ってくれるファン」
だったのだろう
くまは彼女からの手紙を
大事に箱にしまった
そして明日も朝早起きだから
早めに温かい布団で眠った
・・・・・・
「それからもパンを送ってるって?
何考えてんだよ・・」
外車ポルナレフのキーをテーブルに置きながら
白くまが黒くまに言った
「"おいしい"
と言ってくれた
その気持ちが嬉しかったからだろ?
そういうやつさ」
そう言って黒くまは
居酒屋「銀ダラ」の大将に
「熱燗」をもう一本たのんだ
【CAST】
ゲオルク...茶くま。パン職人見習い。
オルフェン...3代目トクテーロの高弟。パン工房オーナー。
トクテーロ...プロイセン王国の伝説のパン職人の名跡。
エレナ...新人アイドル。
カーズ...白くま。全国的人気スタータレント。
ヤック...黒くま。森の樵きこり。




