虚偽と偽装の港町
どうして、こんなことになったんだろう? ギレーアの言うとおり、ものすごくめんどくさい事になっちゃった。私の周りには、紙上の折手というのを名乗る人たちが数人、話を聞く限り新聞記者みたいな人たちらしい。時々カメラのフラッシュが光ってる。大丈夫かな、私の顔ひきつってない?
「では、貴方は詳しいことも知らず、引き抜いてしまったという事ですね?」
「はい、そうなんですよ」
私に色々質問してきたりしてるのは、今いる紙上の折手の中でも中心人物なのかな? メガネをかけた厳しそうな女性。名前は、深守<みかみ>ってなのってた。なんとなく当たり障りの無いこと言って誤魔化すしかないんだよね、ギレーアが言うには紙上の折手に嘘言うと後々大変なことになるらしいし、そんなことする意味もないしね。
「では、最後の質問をさせてください。この剣を引き抜いたものは伝説の勇者である、という伝承があるとの事ですが、そもそも勇者とはなんでしょうか?」
「えぇ、そんな事言われても」
物語の主人公が勇者って、よくある設定だけど、何かって言われると、何も解らないね? 英雄とか、騎士とか、そういうのだったら何となく解るんだけど、勇者ってなんなの? というか、この剣を引っこ抜いたら勇者なんて、そんな設定始めて知ったよ?
「では、貴方は何をするつもりでしょうか?」
「うーん。勇者だったら、魔王を倒すとか?」
ありがちな設定を言ったつもりだったんだけど、時間が止まったみたいに雰囲気が変わった。えっ、もしかして魔王居たりするの? こんな世界観だからどうせ居ないでしょって思って言ったんだけど。もしかして、これ、本当に魔王倒しに行かないとダメになったやつ?
「ありがとうございました。では、私達は撤収させて頂きます」
深守さんと、その他の紙上の折手達は、さっさと機材を片付けて、帰っていったよ。なんか忙しそうだね。それと入れ替わるみたいに、ギレーアと、後二人が私の所に来た。
「スフィア、宿は町長が用意してくれるらしいぞ」
「宿の方は安心したまえ、ワシがちゃんと部屋を用意しておくとも」
ギレーアと一緒に居る2人の内の1人、ハゲ……じゃなくて頭部が心もとないおじさんが、この港町の町長さんみたい。名前は、斥卦<せっか>って言ってた。もう1人居るのは誰なんだろう? 羽根つきの帽子をかぶった、若い男の人。楽器みたいなの持ってるから、吟遊詩人ってやつなのかな?
「ふふっ、しかし勇者さんも運がありませんでしたね? まさか剣を引き抜いた現場に紙上の折手が居たなんて。あ、私は吟遊詩人の幾岐<きぎ>です。よろしくお願いします」
あ、ちゃんと吟遊詩人なんだね。それは良いんだけど、そうなんだよね、剣を引き抜いた時、何処から見られてたのか解らないけど、どんどん集まってきた紙上の折手に、色々質問されてどうすれば良いのか解らない状態になってた所を、町長さんが来て、場をまとめてくれたんだよね。
「だが、最後の質問は厄介な事になるかも知れないな」
「えっ、なんで? ギレーアの言う通り変な事は言ってないと思うよ? 多分」
町長さんが場を落ち着かせてるとき、ギレーアにこっそり注意を受けてたんだよね。事実だけを重要視する組織だから、変な事を言わない方がいいって。それに、紙上の折手のトップは、知恵の天使フェイクライフっていうんだけど、私と同じで誕生したばかりなんだって。だから、どんな天使なのかも解らないから余計に気を付けた方が良いって言ってた。
「この大陸を治めてる国の名前は<フリーアーシア>そのトップに居るのが魔王だ」
「……えっ、それ、私ヤバくない?」
私この国の王様に喧嘩売った事にならない? というか普通に魔王居るんだ。魔王なんて言うくらいなんだから、ものすごく強くて、ヤバイ人だったりしない? 世界征服企んでるとかそういうの。
「ふふっ、正義の天使が治めていた<法権連邦>も属国になってしまいましたし、愛の天使の組織<愛の協会>も潰されてしまいましたからね。この国に」
「<法権連邦>に関しては詳しい事は知らんが<愛の協会>に関しては自業自得だろう。あれはもはや、テロ組織と化していたのだから」
「まぁ、そんな事もありまして、天使がこの国に対して何か思っていても、不思議ではありませんね?」
それ、もしかしたら、天使と魔王の争いに巻き込まれるって事? というか! 天使の組織がテロ組織になってたってどう言うこと!? ギレーアもやけに警戒してたみたいだし、天使ってヤバイやつだったりするの!?
「あぁ、それとな? 少しばかり言いにくいんだが……」
町長さんが辺りをキョロキョロ見渡しながら、何か言いたげにしてる。もう紙上の折手はみんな片付け終えて撤収してるから、私達以外には居ないよ。もう日も落ちてきて、かなり暗くなってきたし。
「ふふっ、実は、その剣は別に聖剣では無いですし、勇者の伝説なんて、この町には無いんですよ」
「うむ、そう言うことなんだ」
「え、えぇー!?」
「だから言っただろ。眉唾物だって。そもそも、悪魔である俺が何も感じてない時点で疑いを持て」