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スーパーのレジ打ちとお客さま  作者: 美々少年
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男性客編  7話 刹那

昨日、Kスーパーの売り場で彼女とすれ違ったとき、僕の存在感がないかのごとく、彼女は早足でスーッと通り過ぎていってしまった。



重度の人見知りの僕でも近所の知り合いと外ですれ違うときは、自分から挨拶ぐらいはできる。



しかしスーパーの店員さんとお客という距離感が壁をつくり、自発的な挨拶は、道端で通りすがりの見知らぬ人に声をかけるほどの勇気を要し、店員さんに常連ぶった馴れ馴れしいお客だと思われそうで躊躇してしまう。



だけどもし昨日、彼女の方から「いらっしゃいませ」と挨拶してもらえたら僕も軽く会釈はできたかもしれないのだが、それは自分勝手すぎるかな。



日曜日のお昼に彼女にレジを担当してもらったときの優しく穏やかな表情が頭に焼きついて離れていない。



あの日に見せてくれた表情は接客用の作り笑顔ではなかった。


感受性が強く繊細な僕は、そういうところに過敏なのだ。


あんな忙しい時間帯なら無表情、もしくは仏頂面になってもおかしくないはずなのに。



日曜日と昨日の態度の格差はなんだったのか?



だけど冷静に考えてみれば彼女は僕のことなど無関心で、Kスーパーのお客の数百人の中のひとりにすぎないだろうし、顔すら覚えられていない可能性が高いのだから、当たり前のことなんだろうけどね。



とりあえず彼女の姿を見たい、数秒間だけでもいいから近くにいきたいので今日もKスーパーに買い物に行こう。



Kスーパーの駐輪場にバイクを停めたのが夕方の5時27分。



いつものように財布から千円札一枚と小銭を取り出し片手に握りしめ、最短ルートでお弁当売り場に行き唐揚げ弁当を手に取り、飲料売り場にて500mlのお茶を手に取りレジのコーナーに向った。



今日のKスーパーの店内は、やけに空いているがスーパーの混雑する時間帯や曜日に法則はあるのだろうか?


今までほとんどスーパーを利用したことがない僕には難問である。



全部で7つ設置されているレジの中で稼動していない場所もあり、角から2番目のレジで彼女ひとりで接客をしている姿が瞬時に発見できた。



飲料売り場から真っ直ぐの通路からの近いルートなので違和感なく彼女のレジに入り、お弁当とお茶を静かに置いたが、彼女は今接客中のお客さんにおつりを手渡しているところで、順番待ちをしている僕のことに気づいてない様子である。



青いエプロン姿でお仕事をしている姿、そして彼女の斜め後ろ姿と白くしなやかな手に、ついつい目が釘づけになる。



なんて美しいのだろう。




お客さんを見送ったあと、こちらを振り返った彼女は



一瞬ハッと驚いた表情を見せた。



すぐさま彼女は僕の真正面に身体ごと全体を向けて上目遣いで僕と目を合わせながら軽く会釈をし



「いらっしゃいませ」



彼女は驚いた表情から優しく穏やかな表情に変わり、瞳は黒目がちでキラキラと輝いていたような気がする。



目の前にあるレジの機械が邪魔をして彼女の顔の半分が隠れてしまっているが、約50センチの至近距離での対面に心地よさを覚える。



「お会計606円でございます」


と目を合わせてくれた。



Kスーパーの彼女と出会う前は、どのお店の店員さんと目を合わすことさえ拒んでいたのに、彼女は特別で目が合うことに幸せを感じてしまうのである。



彼女の口から代金を言われる前に青いドットで表示された合計金額を見ていたので、すでにお金を置くトレーに千円札一枚と一円玉6枚を置いてある。


僕は金額を言われてからお金をモタモタと出す行為が大嫌いなのだ。



「400円のお返しです」



いつもお弁当をひとつだけ買うので、きっと僕は独り者だと思われてるだろうが、僕は結婚指輪をしてないことをアピールしようと、意図的に左手を差し伸べた。



すると僕の手の場所が悪かったのか?百円玉一枚が手のひらから滑って下に落ちてしまった。



「申し訳ありません」


と、彼女は悪くないのに謝罪のことばをいただけた。



「僕が悪いんです、大丈夫ですからね」


と、言いながら落ちた百円玉を自ら拾った。



気になる女性の近くにいると心が穏やかになり、表情も緩んでしまう、俗に言うデレデレとした表情だ。



気持ち悪い男だと思われたかも知れないが、これだけは無意識なので理性でコントロールできないのだ。




「ありがとうございました。またのお越しをお待ちいたしております。」



どのお店にもあるマニュアルの接客用語で聞き飽きているが、今日の彼女の口調には感情がこもっていた。



軽く会釈して商品を袋詰めしてお店を後にした。



今日の彼女の応対は、昨日通路ですれ違ったときのモヤモヤを打ち消してくれるほど心地よかった。



それにしても、ほんの数分間の彼女とのやりとりなのに、なぜこんなにも嬉しいのか?



これが人(女性)を好きになるという感情なのか?


長年忘れかけていた感情。


つづく。


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