おっさん、食糧難にあう
興味本意で悲鳴の場所に行った俺だが、そこには信じられない光景が待ち受けていた。
おびただしい死体の数。その中には異形のものや、人の死体と見てわかるものがごろごろと転がっていた。
現代社会で生きてきた俺にとってはその光景がショックすぎてその場で立ち止まってしまう。しかし、そんな事をしてる余裕もなく別の場所から悲鳴が聞こえてきた。
今ならまだ戦っている人の顔を見てないから、夢だと割りきって『無料魔法』の転移で帰る事ができる。けれどその者達を一度見てしまったら...きっと俺は逃げれないだろう。その者達の目線を感じながら一生過ごすことになるはずだ。
「ぁああぁぁあああ!!ぐっぎぃぁぃぃぁ!!」
俺は自然と足が動いた。否、動いてしまった。
あぁ。なんて俺は偽善者なのだろう。ついそう思ってしまった。
◇
現場につくとまだ戦っている人がいた。その数たったの一人。しかし人の数に対して、人型モンスターの数は優に10は越えていた。下手したら20はいる...他の人はもう既に全滅してしまったのか?
しかしそんな事を考えている暇などない。俺は「目を閉じろ!」と叫ぶ。そして『無料魔法』を使い、人と人型モンスターが対峙してるその間に向かって光の玉を撃ち込んだ。
人型モンスターは知性があるのか、俺が魔法を外したと勘違いしてゲラゲラと下品に笑っている。
この魔法はここからが本番なのに――――――
途端、辺りに眩い光が炸裂する。俺の技の一つである≪閃光玉≫だ。急に現れたその光は人型モンスター達の目を次々につぶしていった。
人型モンスター達は得たいの知れない攻撃に驚き、自分の周囲を適当に殴りはじめた。こちらが視覚出来てない敵なんて格好の的だった。
俺は『無料魔法』を使い、今度は水を生み出し、それを空中で五ミリ程度に細かく分ける。俺はこれを≪水鉄砲≫と名付けている。しかし子供がオモチャで使うような水鉄砲とは威力が全く違う。
水鉄砲は人型モンスターを達を一斉に遅い、体を貫通していく。しかし、弾は一度敵を貫通しただけで仕事は終わらない。敵を貫通した弾は曲がり、次の敵へ貫通する。無限追尾式の水鉄砲である。
30秒くらいだろうか、人型モンスター達の悲鳴は止み、ザシュザシュと水鉄砲が人型モンスターを貫く無機質な音だけが辺りに聞こえるようになった。
俺は魔法を解除して、助けた人を見に行く。
しかし助けた人は白目を向いて倒れていた。多分、推測だが閃光玉をもろにくらってしまったのだろう。まあ確かに急に「目を閉じろ!」って言われても敵か味方かも分からないし反応もできないわな。目を閉じたら殴り殺されてたかもしれないし。せめて、応援に来た!の一言くらいはいれても良かったかもしれないと反省する。
しかし初モンスターとの戦闘だったが、考えていた魔法を友好的に使えて良かった...楽しかったし!
戦闘狂ではないと思う。
とりあえず回復させて、転移で家まで運んで、起きるの待つか。
▽◇▽
俺はシスイ・クレバースターだ。モルゴン国にあるセン家に仕えている騎士部隊隊長でもあり、シスイ家の主でもある。
そんな俺にセン家の主であるセン・トリアール様から緊急な依頼を受けた。
それは、メザメール草と言う薬草を探すと言うものであった。
メザメール草とは、如何なる眠り状態からも対象の者を起こす事ができる薬を造るために必要な材料の一つである。
何故そんなものが必要なのかと聞くと、セン様の娘であるカンナ様がコクリ草を食べてしまって眠り状態から戻らないそうなのだ。セン様には大きな借りがあるために俺はその依頼を快く受けた。
しかし、そのメザメール草は市場に出回る事がまずない。何故なら薬草森の奥深くにある下層という入手困難な場所に生えているからだ。
ならば、自分で取りに行くしかない。
俺は自分の騎士団を動かし、薬草森に突入した。
上層は楽に抜けることができたが、中層のある場所で俺達の進行は止まってしまった。中層の丁度中心部辺りにオークの村が出来ていたのだ。しかしここまで来るのに二日かかっている。今ここで一度国に戻り騎士ギルドに報告をしていたら、妹様は確実に睡眠死してしまうだろう。その事から俺達は誰からでもなく、進行を余儀無くされた。
オークの村を迂回して進もうとしたが、もう既にあちらにはバレていたらしく戦闘になる。最初から国に逃げるなんて選択肢は選べなかったらしい。
こちらの人数は三十しかいないが、オークは村を作っていたのだ。きっと60は居るだろうと考えられる。
―――――最悪だ、誰がそう言ったかはわからない。
俺達は必死にオークに抵抗した。しかし、仲間も殺され、俺達は残り10人となってしまった。しかもオーク側は倒されても次々と沸いて出てくる。騎士団側に勝ち目なんてないと誰が見ても分かるような戦況だった。
俺は叫んだ。強く叫んだ。これは命令だと、強く言った。その声に頷く者は居ないが、その代わり全員が悲しい顔をしていた。そして生き残っている騎士団は隊長を一人残して全員猛ダッシュで国の方向へと逃げた。否、俺が逃がした。
俺のスキルには指揮というものがある。これは両方が仲間だと強く思っている味方同士だと発揮できるスキルで、命令をする事ができる。
勿論命令の途中で味方意識が途切れれば命令は中止となるが。
俺は対峙しているオークを切り伏せ、また叫ぶ。
「さぁ、俺が殿だ。あいつらを殺しに行く前に、まず俺を殺していけ!」
―――スキル 狂化 を使用しました―――
.........
......
...
.
狂化の効果時間が過ぎたのだろうか、俺は意識が戻ったと自覚し目を開ける。そこは森の中ではなく、下町で止めてくれる宿屋のような部屋だった。俺は体を起こすと自分の体の異変に気づく。オーク達にやられた傷が一つもないのだ。あんなに斬られたり、殴られた傷が何一つないのだ。
あれは夢だったのか...?いや、そんな筈がない。
俺はやけに上質な布団から出て、ドアを開ける。
△◇△
俺は人を部屋に運び自分の布団の中へ寝かせてあげると、またあの現場に戻った。
...お腹が空いていたのだ。
「このモンスター食べれるのかな...」
何だか人としてやってはいけないことをしているような気もするが、飢え死にするよりかはましだと自分を納得させ、モンスターの死体に近づく。血のにおいは消えておらず、逆ににおい事態は強くなっていた。
しかし朗報...かはわからないが、よく見ると人型ではなく豚型モンスターであった。オークというやつだろう。
「ファンタジーではオークは食べれる。動けるただの豚と一緒だ」
俺は何度もそう言うとオークを次々と≪アイテムボックス≫に収納していく。
アイテムボックスとは、他の空間に指定したものを入れておく事ができる魔法だ。勿論時間も止まっている。これも『無料魔法』で創ったものだ。『無料魔法』が万能過ぎる。
全ての死体をしまい終わった俺は自宅に転移で戻ろうとすると後ろから豚の呻き声が聞こえた。
振り返るとそこには40は越えてそうなオークの数...
即行で自宅に転移した。
あの数はヤバイヤバイヤバイ。俺の危険関知能力にビビっときたね。あの数はヤバイと。
とりあえず...助けたおじさんと一緒に生活するか。
気が狂ったわけではないよ。独りが寂しいだけだ。
すると、独り言で話に花を咲かせていた俺の耳にガチャリという音が聞こえた。誰かが部屋を...いや、あの助けた人が起きて部屋のドアを開けたのだろう。ドアの方へ振り向くと彼は体を硬直させていた。まだ体に異常があったのだろうか?
「誰だ!」
ああ、そう言うことか。確かに見知らない顔の人が急に出てきても困惑するもんな。
「俺は...ギーク。この森で産まれ、育った者だ。君が敵と対峙して死にそうになっていたのを助けたのだが...記憶はあるか?」
吉田の方を言うか迷ったが、ステータス上ではギークになっているのだ。それならば問題が起きないようにギークで合わせておこう。
「おお、貴方が助けてくれたのですか!私はシスイ・クレバースターと申します。助けていただき感謝します。ちなみに...私を助けてから今何日経過しているかわかりますか?」
「いや、まだ太陽も降りてない。助けてから一時間も進んでないだろう」
俺の言葉を聞いてさらに元気を取り戻すシスイ。
どうしてそのような事を聞くのか。異世界あるあるのクエストとか依頼みたいなやつなのだろうか?
「ではすみません、私は行かなくてはいけないところがありますので、ここらで失礼します」
それだけいうとシスイは玄関とは真逆の方向の部屋へと歩いていった。中に入り少しすると出てきた。
「あの、すいません、出口はどちらにあるのでしょうか...」
でしょうね。
◇
俺が玄関を開けると、彼の顔は驚きに満ちていた。
「見渡す限りの超薬草!?しかもあそこには霊草、こっちには超魔力草の群生地が!こ、ここは深層なのですか!?」
何深層って。この森ってそんな何階層にも分かれてる迷宮的なあれなの?
俺が黙っているとシスイは何かを理解したのか、「そうか、ここが深層か...」と一人で納得しといた。
そして彼は辺りをガサガサと探り始めた。
「あった!メザメール草だ!」
探しのものが見つかったらしい。シスイは草を摘み、俺の方へと走ってきた。
「本当に感謝します...これで我が主に恩を返す事ができそうです」
「それは良かったな...だが、ここが深層だというならどうやって君は国に帰るんだ?」
俺は率直な疑問をそのままぶつけてみた。するとシスイの顔はどんどんと青くなっていった。
「あの、すいません。お金なら出すので国までの護衛をお願いできますでしょうか...」
「わかった。金はそちらの善意に任せるとして、俺は国に行ったことがない。そこまでの道は任せられるか?」
「問題ないです。本当に感謝致します!」
よし、おけおけ...というか、人と話すのに緊張してめちゃくちゃ上から目線になってしまった。
すまんシスイ、会話に馴れるからそれまで辛抱してくれ。
「今から行くのか?」
「いえ、今日はもうすぐ日が落ちるので、明日の早朝に行きましょう」
「わかった。ところで...」
俺は≪アイテムボックス≫を使い、オークの頭の部分だけを見せる。
「こいつは食えるのか?」
「空間魔法!?空間魔法が使えるのですか!?」
あぁ、そっか。よくある異世界ものでもこういった無限収納系の魔法はめずらしがられてたよな。失策だった...まあここは無言で通しておこう。めんどくさいし。次からは魔法を使う際は注意しよう。
そして、こちらが口を開かないでいるとシスイは申し訳なさそうに口を開いた。
「すいません。助けていただいた身であんな質問ぶしつけでしたね...確かにそのオークは食べれますよ。味は動物の豚よりも脂がのっていてとても美味しいです」
「そうか、食えるのか。オークの調理をお願いしてもいいか?」
するとシスイはにっこりと笑った。
「任せてください。料理は得意分野ですから!」
よっしゃ!やっと肉が食える!
俺もつい笑顔になってしまった。
◇
「ここをまっすぐ進んでいけばモルゴン国に着きますね」
昨日オークを食べて英気を養った俺達は薬草森から脱出するために進行していた。まだモンスターにもあっておらず、いい調子で進むことができている。もう少しで下層を抜けることができるらしい。
「あ、中層に入りましたね。時間も丁度昼頃ですし、ここらで一度休憩をとりましょうか。これ、昨日のオーク肉で作った簡易干し肉です。どうぞ」
「ありがとう」
干し肉を受け取った俺は昨日のオーク肉の味を思い出す。確かにあれは美味しかった。脂がのっており、舌においたらトロッと溶けていく肉だった。
だが...おっさんにはキツかった。脂がのり過ぎて吐くかと思ったわ。いや美味しかったんだけどね?
俺は干し肉を一口かじる。硬いので、口の中でとろけることはなく、何度もガジガジと口の中で噛んでいく。
あぁ、俺みたいなおっさんはこっちの方が好きだわ。
俺達は干し肉を食べ終わるとまた進行を始めた。
中層の丁度真ん中辺りに着くと、そこには昨日も見たおびただしい数の死体があった。食べられたのか、何かにほじくられたような死体もあった。
「皆すまない...俺のせいで......行きましょう、ギークさん。ここはまだ危険だと思います。オークの村も近いですし。速めに抜けましょう」
俺は何も言わず小さく頷いた。
その後はオークに会うことはなかったが、色々なモンスターに出会った。ゴブリンやら、一角ウサギやら。それらと俺は戦わず、シスイが全て倒してくれた。この程度なら楽勝なので、と言っていたので任せている。
俺必要あったのかな?
上層に入った頃にはもう回りは暗くなり始めていた。
「今日はここらで休みましょう」
シスイはテントをバックから取り出し、テントを組み立てて行く。俺もそれを手伝う。
正直転移で帰ればいいのだが...魔法を迂闊に見して国の戦争に連れてかれるなんて嫌なので俺もテントに泊まるつもりだ。
テントを組み立て終わると昼頃に貰った干し肉をまた貰った。きっと旅は干し肉を食べるのが基本なのだろうな。保存もきくし。まあ旨いからいいんだけどな!
「見張りは私がやっておくので寝てていいですよ。この辺の魔物なら引けはとらないので安心してください」
シスイはそう言うが、彼の顔には疲れが見えていた。しっかりと休んでもらわなくては案内人がいなくなって困ってしまう。国にも入れるか分からないし。
「いや、ここは俺の魔法で結界を張っておくから大丈夫だ。疲れをしっかりと癒して、明日も頼むぞ」
俺の言葉にシスイは下を向きながら小さく、わかりました、と呟いた。何か不服だったのかな?まあこっちとしては休んでもらいたいしね。
俺は『無料魔法』でテントの周囲五メートルを範囲として結界を張るようにイメージする。
すると薄明かるい膜みたいなもので包み込まれた。
これ耐久面大丈夫か?...自分の魔法を信じておこう。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
俺達は何を喋ることもなく、しっかりとテントで休息をとった。
翌朝起きると、すでにシスイは起きていて、外で剣を振っていた。
剣を振っている姿を見ていると俺が起きたのに気づいたみたいでシスイは申し訳なさそうにはにかんだ。
「すいません。起こしてしまいましたか?」
「いや、大丈夫だ。自然に目が覚めただけだ...あの素振りはいつもしているのか?」
「そうですね、剣の扱いは毎日振らないと鈍ってしまいますから。剣も振られないと拗ねてしまいますし」
最後の方は、ははっと笑いながら言うシスイ。仲間の死の後でこうも笑えるとはすごいと思ってしまった。きっと前向きな人なのだろう。
「ではもう少しでモルゴン国に着きます。少し速度を上げて行きましょう」
ようやくおっさん以外の人が見れそうだ!シスイも歳は聞いてないが見た目おっさんだからな。勿論俺もおっさんなので、おっさん成分が多過ぎていたところだ。若者成分もとりたい。
モルゴン国までの道のりで特に危険なことはなく、俺達は大きな門のところまでたどり着いた。
ここで検問をしているらしいが...俺は何も持ってない。
それをシスイに伝えたところ、私の連れと言うので気にしないで良いと言ってくれた。
シスイ助けてホントに良かった。
シスイは門で並んでいる人達の最後尾にはつかず、別の入り口から入っていった。勿論そこにもそこにも人はいたが。少ないので直ぐに順番は回ってきた。
「次の人ー...ってシスイさん!?生きていたのですか!死んだと聞いていたのですが、本当に良かった!生きていたのですね!」
「
セン様もシスイさんの死でここ一日まるで死んだようにぐだられていたのできっとお喜びになられますよ!」
シスイ勝手に死んだことにされてるぞー。まあ確かに助けた時ほぼ瀕死だったしな。俺みたいなイレギュラーがなければ死んでいただろうし。
ていうか誰から聞いたんだ?あの場から逃げることに成功したやつがいたのか?
「おお、あいつら死んだことにしやがって...まあ実際に死んでたようなものだしな。俺が今ここにいるのは軌跡のようなものだ。セン様には直行で会いに行くつもりだ。目的の物もとってこれたしな」
「メザメール草も取ってこれたのですか!?本当に軌跡みたいですね...ところでそちらの方は誰ですか?随分と怪しい格好をしていますが。シスイさんが連れてきたから大丈夫だと思いますけど、変な事はしないでくださいね?」
「おいショール!その方は私を助けて――――」
俺はシスイを手で制し、気を付けますねとだけ言った。
「ギークさん、どうして止めたのですか?」
「今は速くそのセン様とやらに顔を見せに行くべきだろう。俺の事なんてどうでもいいから、速く行け」
「ギークさん...ありがとうございます!では一緒に行きましょう!」
おう。一緒に行くのか。おっさん二人が走っても絵にはならないぞ?...まあ金がないからついていくしか無いんだがな。
俺達は走って走って、大きな屋敷に着くとそこで走りを止めた。ここがセン様とやらの屋敷なのだろうか?...普通の一軒家が六個くらい繋がってそうな大きさだな。
「ここが我が主のすむ屋敷です。いつもなら門の前に門番がいるのですが...おかしいですね。今日は誰もいません、何かあったのでしょうか...」
「シスイが死んでることになっていたらしいから、シスイの葬式でもしてるんじゃないか?」
「はは、そんなこと...とりあえず中に入りましょうか」
門番もいない屋敷の中に入ると歌が流れていた。機械はないと思うので、誰かが歌っているのだろう。落ち着くようなその歌声はとても心に響いてきた。
「この歌...私の好きな歌ですね。歌っている方もきっと、この歌を作ったイレイアさんですね」
俺の心に響いていた歌が吹いてしまうほど面白い歌に変わってしまった。
絶対にシスイの葬式だろ!
「歌の聞こえる方向へ行きますか...にしても、ほんとに葬式やってそうな雰囲気ですね」
「あっはっは!」
「く、笑わないでください!にしても、ギークさんってそんな笑いかたするんですね、」
確かに話し方堅かっただろうし、こんな笑いかたするとは思ってなかっただろうな。くはは!
葬式って!
「もう先に行ってますよ...」
「まてまて、俺も行く。あはっは」
目的の部屋に着く頃には笑いは収まっていた。




