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ウィリアムとクーパー靭帯・2

 アデルバートが持ってきた女性物の服に着替えたウィリアムが、布で区切られた更衣所から出て周囲を見回す。

 葉月はさっきから、様々なぶらじゃーを裏返したり見比べたりしている。


「……どうしたんですか」


 ウィリアムは出来る限り不機嫌が顔に出るように意識しながら声をかける。正直に言えば、女物の下着を売っているところにこれ以上長くいるのは居心地が悪い。葉月はこちらを見ずに、小声を返してきた。


「なんでこの世界、ブラがあるのかって思ったのよね」

「は?」


 何を言っているのかよくわからなかった。

 しかし、聞き返したのにも関わらず葉月は頷いてみせる。意味が伝わっていないことは承知のうえで話しているようだ。


「これさ、お店の人に聞いたらジリアン型って言うらしいのよね。それでやっとわかったの。

 これ、つまりジリアンさんが元の世界から持ってきた形を真似て作ってるっていうことよね」

「ああ……そういうことなんですかね」


 今まで特に気にしたこともなかったウィリアムには、それが女王の名前を冠していることすらよく知らなかった。

 だが、言われてみればそんなことを昔、当時の同僚が語っていたような気もする。形によって名前が違うのは、その女王が愛好した形だからだとか、女王の胸の形を写したものだとか言う説もあるのだ、とかなんとか。

 女の胸は着飾る姿から愛でるべきだ派の元同僚と中身があるならそれでいいじゃないか派のウィリアムでは話が合わなかったので、それ以上踏み込んで話したことはなかったのだ。

 大きさ至上主義というわけではないがあるに越したことはないし、服とか邪魔だと思ってる方のウィリアムである。

 だが、歴代の女王が異世界から召喚された女性だと考えれば、彼女らが身に付けていた衣服の形を真似たものだと考えるのが自然だろう。

 葉月がいま着ている服も、そのうち真似て作られていくことになるのだろうか。


「多分女王の召喚って、知識とか技術とかの輸入……てか強奪に近いか。その辺兼ねてるんだわ」


 少し不快そうにそう言うと、葉月は黙り込んだ。

 何が彼女の気にさわったのかウィリアムにはよくわからなかったが、とりあえず店の人間に声をかけて下着の代金を支払った。

 女性物の服に袖を通すなど、子供の頃に母親から冗談交じりに着せられて以来だ。

 だが。所詮は子供向けだった、としか言い様がない。

 女性向けの服はその多くが苦しかったりきつかったりで、ウィリアムは服のひとつひとつに大騒ぎするはめになった。

 足首までの長さのチュニックの上から幅の広いベルトを腰に巻く。女の腰は細いほどいい、なんて話していた同僚を思い出したが、いくらなんでもこれは短いんじゃないかと思う長さのものを渡されて困惑した。

 ――いやこの細さはおかしい。人間の腹がそんな細かったら、内臓はどこにはいってるんだ?

 幸いにしてウィリアムはかなり小柄な体になっていたために、もとの男の体ならふとももを巻くのに精一杯じゃないだろうかという長さのベルトでも腰を覆う事ができたのだが。

 そしてベルトの穴に紐を通して締め付ける。最初、苦しくない程度に締めようとしたら、ずり下がって腰骨にひっかかった。まず腰骨に引っかかるということから驚いたが、それは葉月に言わせると「女の体ってそういうものよ。腰の骨が男に比べて広がってるの」ということらしい。腰を華奢に見せるためにこれを無理矢理締め付ける締め方があるらしく、店の者が実演してくれた。それが最近城下町で美人として噂に上る女性の愛用していた方法だったことに気がついた時、少し意識が遠のいた。

 緩めたらすぐに収まったので、酸欠になりかけたのだろう。彼女らはこんな苦しい思いをしているのかと思うと少々絶句する。そうでなくともぶらじゃー(胸帯、と店の者は呼んでいた)が肺を皮膚の上から圧迫するというのに腹まで締めるなんて。

 ――この服を作った人間は、呼吸はどこで行うのか知っているのだろうか。肩や腹を動かさずに肺に酸素を入れてみろ。

 このうえに短いベストを羽織る。アデルバートが買ってきたのはケープだった。最新流行の柄だそうだが、すぐに落としてしまいそうで不安だったので、ウィリアムは自分の財布の紐をゆるめて袖のあるものを買い足した。

 極めつけは高い踵。多少かかとの高い靴を履いたことはあるが、これは何かの拷問だ。木靴の中で固められた足を常に爪先立ちで、なるほどしゃなりしゃなりと歩く女性が多いはずだ。そうしないと歩けない、のが理由だなんて思いもよらなかった。

 ――こんなもの、奴隷に履かせて逃亡防止に使う以外の選択肢をなんで思いついた?

 さすがに、これでは走ることもできないと主張し、小さめの革長靴があったのでそれで許してもらうことになった。

 ベルトに剣帯を付け、鞘を通した。


「……少し歩くだけで足の間に布が挟まって、巻き込んで気持ちが悪いんですが……。

 鞘に引っかかってずり上がってくるし」

「スカートってそういうものよ」


 葉月が切って捨てる。ウィリアムは慣れる他ないらしいと悟り、諦めた目で天を仰いだ。


「似合ってるからいいじゃない。可愛いわよ?」


 くすくすと笑った葉月の言葉が、励ましているのかどうなのかわからない。

 ウィリアムは肩を落とし――ベルトが腹に食い込んで苦しいのですぐに背を伸ばす。


「リタさんたちも、大変なんだなあ……」

「誰よそれ」


 呟いた言葉に、葉月が首を傾げる。

 だが、それよりもずっと食いついた人物がいた。


「あんた、リタって、城下町に住んでる娘かい?」


 さっきウィリアムのベルトをおもいっきり締めて実演してくれた、店の女性だった。

次は19日、金曜日。

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